僕のヒーローヒストリア   作:透亜九郎

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そんなこんなで、9話目です。
覚えてるかな?


Re:No.009 それは薄氷の上にあったもの

 

「思うに、お前にもあると思うんだよ。才能(異能)

「……はぁ。そうなんですか」

「危険のボーダーが狂ってるあたりなんか特に、だ」

 

 一息入れてペットボトルのコーラを飲む転弧。

 声色はいつもより明るいが、纏う空気は気怠げだった。

 

「それはそうと、なんでトガはアジトにいるのでしょう?イズクくんの家から帰ってる途中だったはずなのですが」

 

 転弧と机を挟んで向こう。被身子は目の前に置かれたペットボトルのカフェオレを指で弄りながら問う。

 自分は確かに出久の部屋から自宅へと帰ろうとしていた。そこで意識が途切れたところまでは覚えている。そして次に目を覚ましたときはアジトのソファだった。

 状況が飲み込めずにいたところで転弧がコンビニ袋を携えてやってきたのだ。

 スマホを見れば、時間は日を跨いで午前二時。草木も眠る丑三つ時だった。

 

「そんな睨むなよ。こちとら説教確定コースなんだ、それで勘弁してくれ」

 

 両手を挙げて降参ポーズをとる転弧。

 

 ……そんな目付きをしていたのか私は。

 

 ペタペタと顔を触る被身子に、呆れたように転弧は言う。

 

「自覚なしかよ。今にも俺を殺さんばかりのヤベー眼だったぞ」

「それは……夜道で攫われたんですから仕方なくないです?」

「ストーカー紛いと不法侵入現行犯が言えることかよ」

 

 痛いところを突かれた様に顔を顰める被身子に、転弧はしてやったりといった風だ。

 

 

「そんなトガに、未成年の女の子を夜道で誘拐した志村被告さんは何のご用ですか?」

「刺々しいなぁオイ。まぁ落ち着けよ。これはお前と緑谷のためでもあるんだぜ」

「トガとイズクくんの……。どういうことです?」

 

 被身子は、話がまるで見えないと先を急かす様に問い掛ける。

 

「どうなるんだろう、だっけか。お前が言ったことだ」

「……はい。イズクくんへの心配と好きが、こう暴走して、でもあんなの初めてで。自分の知らない自分がいるんじゃないかって」

「ここにはあと二人仲間が居てな、その片方が異能の発現を感知できる力を持ってる。そいつから連絡があったんだよ。危ういヤツいるってな。ウチじゃお前だけが異能持ちじゃない(ノーマルだ)から追ってたってワケ」

「攫うことなかったじゃないですか」

「気付いてなかったのか?お前、やらかす寸前だったんだぜ」

「……は」

 

 転弧に告げられたそれは、被身子の思考を止めるには十分な衝撃を有していた。

 

 やらかす寸前だった?私が?何を?……違う。

 分かってる。知っている。あの熱さを昂りを衝動を、私は覚えてる。

 

「トガは。異能を発現して、あまつさえ暴走させるところだった……ってことですか」

「なんだ。理解が早いな」

「なんとなく。あの時のトガは()()()()()()()みたいに、トガがトガじゃないみたいな感じがあったんです。身体と心がグワァって熱くなって、イズクくんのところに行きたくなって……」

「そんで不法侵入したと」

 

 転弧の余計な一言を飲み込んで、被身子は頷く。

 

「で?」

「で……とは?」

「お前は。渡我被身子はどうしたいんだ」

 

 どうしたいか。そんなの決まっている。イズクくんの隣に居たい。彼を独りにしない。

 

「ちなみに俺は()()()を勧めないぜ」

 

 被身子が答える前に転弧が言った。

 見透かす様な眼が被身子を突き刺す。

 

「そ、れはどうして」

「分かってんだろ?()()()()()だ。お前にとっても、緑谷にとってもな」

 

 互いが互いを想う余りの悲劇が起こるぞ。転弧の眼はそう語っていた。

 

「足手まといだって言うなら——私にその資格があるんだったら異能を」

「ふざけてんのか?」

 

 被身子の言葉を、明確な怒りの籠もった言葉が遮った。

 先程までの気怠さが消え、本気の怒気が転弧から放たれる。それに当てられて被身子の呼吸は一瞬止まった。

 

「俺たちが好き好んで()()なったと思ってんのか?なんでわざわざこうして徒党組んだと思ってる」

「それは……」

「俺が今回お前を一人連れてきたか教えてやるよ。もう俺らに関わらねぇように言うためだ。八百万には猛反対されたがね。他の連中、緑谷にも了承は貰ってる」

「イズクくんも……?!」

「当たり前だろ。お前、もし緑谷と立場逆だったとして()()()にいて欲しいと本気で思うか?」

 

 被身子は、転弧の言葉に何も返すことができず遂に黙り込んでしまう。

 転弧から既に怒りは感じられず、ただ憐れむような視線があるだけだった。

 

「想い人からの思いを踏み躙ってまで普通を捨てたいか?緑谷が望んでるのはお前の平穏じゃないのか?」

 

 畳み掛けるように言葉は続けられる。

 そのひとつひとつが被身子の心に突き刺さる。

 

「いつかお前は吠えたな。緑谷を守ると、独りにしないと。でも現実はどうだ。異能に覚醒すればあいつを守れると?その力があいつの心を傷付けないと?この非日常の中でお前が死んだらアイツは独りだぞ。お前が望むのはそんな未来か?()()()()()で緑谷を独りにするつもりか?」

「あ、あぁ……っ……!」

「隣に立ちたいと思うのも、守りたいと思うのも自由だよ。だがね、その先に待ち受ける未来を果たして緑谷は望むかな」

 

 

 

「お説教、長引きますわよ」

「そいつぁ怖いな。……カフェオレ、飲むか?」

 

 被身子の去ったアジトの一角。物陰から出てきた百が呆れたように転弧に声を掛けた。

 戯けて返した転弧は、手を付けられなかった机の上のペットボトルを百に放る。受け取った百は嘆息した。

 

「もう少し言い方はありませんでしたの。ついこの間も言いましたが貴方は少々悪し様に言い過ぎです。泣いていましたわよ、ヒーちゃんさん」

「あのぐらい言わねーとアイツは引かねぇだろうよ。異能覚醒寸前のところまで行ったんだ。かなり強情だよ」

「それで私たちの預かり知らぬところで暴走したらどうするつもりなんですの。それこそ本末転倒ではありませんか」

「そうならないようにキツく言って心折ったんだろうがよ。その辺しっかり考えてんだぜ俺だって」

 

 得意気に言う転弧に、百は大きなため息をひとつついて踵を返しながら言う。

 

「緑谷さんからも相当言われること、覚悟しておくのがいいでしょうね」

 

 あと私は紅茶派ですわ。去り際にそう言って、百は暗がりに消えていった。

 

「ラクじゃねぇな、リーダーってのは」

 

『当たり前だ。リーダーとは責任を負うものだ。楽な筈がないだろう』

 

 アジトに独りとなった転弧の呟きに、返事があった。

 その声は、机の上に裏向きで置かれた転弧のスマホから発せられていた。どうやらずっと通話状態で置かれていたらしく、相手は話を聞いていたらしい。

 

『それにしてもらしくないじゃないか。無闇に感情を爆発させるなど。あれでは彼女がいたたまれなくなるのも当然だ』

「そうは言うがよ、センセー。あれは仕方なくないか?」

『分からんでもないが大人気がなさすぎる。相手はまだ子どもだ。感情に任せて威圧するのはいただけない』

 

 転弧から先生(センセー)と呼ばれた通話相手の男性は、そう苦言を呈する。声質と話しぶりからして、転弧よりも年上のようだ。

 

「説教なら間に合ってるぜ。まだ緑谷からのも残ってんだ勘弁してくれ」

『ふむ。その緑谷出久、だったか。一度私も会ってみなければな。聞く限りだと彼も随分と齢に似合わない精神をしているようだ』

「そりゃそうだろ」

 

 先生の疑問に即答する転弧。スピーカーからは、ほう?と疑問の声が聞こえた。それに答えるように転弧は言葉を続ける。

 

「あいつは俺の同類だからな。噛み合ってねぇんだ」

『……要領を得ないな。君にしては随分と持って回った言い方をする』

「俺からしても殆ど要領得てないからな。確信はあれど、確証は持ててないんだよ。それにあまりに荒唐無稽だ。センセーに伝えるにはまだあまりにも情報が足りないし、なにより——陳腐だからな」

 

 二人の間に沈黙がおりる。先生はこれ以上の情報を求める沈黙を。転弧はこれ以上話す事はないという沈黙をそれぞれ保った。

 その帳を破ったのは先生だった。

 

『わかった、詳しくは聞かん。会った時に自分の目で見定めさせてもらおう』

「是非そうしてくれ」

 

 それから少々の情報交換を経て、通話を終了するといったところで先生が言う。

 

『君に、いや。さっきの話を加味すると君たち、か。ひとつ助言だ。()()()()()()()()。先程の渡我被身子に対するそれは零点だ。覚えておけ——元気とユーモアのない社会に未来などない。では、また連絡しよう』

 

 そう言って、通話は切れた。

 スマホに映る通話終了画面を眺めながら、転弧は口元をひくりとさせて呟いた。

 

「……実は全部知ってたりしねぇだろうな?あいつ」

 

* *

 

 被身子ちゃんが学校を休んだ。

 

 今朝起きると、彼女からたった一言『ごめんなさい』とメッセージが届いていた。

 こちらから返信を入れたけれど、メッセージに既読は付かない。

 一応電話も掛けたけれど、出る気配はない。

 授業と授業の間にもメッセージは送ったが結果は同じだった。

 

 これまで体調を壊して学校を休んだことはあれど、連絡が取れなくなるのは

初めてのことだ。

 

(やっぱり、傷付けちゃったよね)

 

 昨日グループトークに報告をしている最中に志村さんから個人でメッセージが送られてきた。

 

『渡我をこの世界から引き離したい。少し手荒になるが許せ』

 

 いきなりの連絡に面食らったが、出来ることなら被身子ちゃんには平和な日常を生きてもらいたい。それが身勝手な僕のエゴであることは分かっている。

 あの日僕に、守りたい、隣に立ちたいと言ってくれた彼女。その言葉だけで、背中だけで僕は救われた。これ以上彼女を危険に晒すわけにはいけない。

 かっちゃんからの忠告があった。謎の女の影があった。なればこそここが最終ラインだろう。僕が言ってもきっと被身子ちゃんは聞き入れてくれない。どころか尚のこと離れなくなってしまうだろう。そう言う意味では、志村さんからの提案は渡りに船だった。

 “手荒に”とあったのだけが気掛かりだが、彼の事だ。彼女を仲間と認めた上での厳しさと優しさなのだろう。

 だから『分かりました。よろしくお願いします』と返事をした。

 

「その結果がこれ、かぁ」

 

 思わず独りごちる。どうあれ許可を出したのは僕だ。僕の判断が彼女を傷付けた。

 守る為に傷付ける。時に必要となることは知っている。知っていた。

 

 これじゃあ、AFOから皆を守る為に雄英を飛び出した昔日の自分と変わらない。まるで進歩していない。

 結局僕は、僕のエゴで大切な人を傷付ける。

 今回は自分で理解しているからこそ、より一層罪の意識に苛まれる。しかし現状これ以上の手が思い浮かばないのもまた事実。

 本当なら志村さんに一言言いたいところだけど、今の僕にはその権利などあるはずもない。

 

「おい、もう昼休みだぞ緑谷」

「えっ、ああ。ホントだ……」

 

 隣の席の級友に声を掛けられて気付く。

 いつの間にか午前の授業は終わり、昼休みを迎えたようだ。教室の時計を見れば、針は十二時を指していた。

 普段なら被身子ちゃんが、昼休みになるなり僕のクラスの扉を開けて入ってくるが今日その姿はない。

 

 寂しさとやるせななさが混ざった複雑な感情をなんとか飲み込んで、声を掛けてくれた隣人と机をくっ付けて一緒に昼食を摂り始める。

 

「今日お前の嫁さん休みなんだってな。どうした心配でぼーっとしちまったか?」

「あー、うん。そうみたい。普段賑やかな子だから余計に」

「嫁さん呼びを否定しないなんて相当参ってるな。ほれ、唐揚げやるから元気出せ」

「ありがとう」

 

 思えば。人生二度目の中学生活は僕にとって恵まれたものだった。

 一度目は無個性ということと、かっちゃんたちのグループの影響で半ば孤立している状態だったから。

 何気ない彼の優しさが、今の僕にはひどく沁みた。

 

 

 ——願わくばこんな平穏の中に、せめて彼女は在ってほしい。

 

 

 そう強く思った。僕のエゴ。

 

 そう、思った——はず、なのに——

 

「どうして……ッ!」

 

 彼女のいるべき平穏はあっさりと無惨な瓦礫と成り果てた。

 いつだって壊れるのは一瞬だ。悪意はいつだって唐突に平和を奪い去る。

 ……それでも。()()()()()

 

「答えろッ!爆豪勝己ィッ!!」

 

 ——どうしてそれ(悪意)が、君なんだ。

 

「俺らの学び舎じゃねぇか。ツレねぇこというなよなぁ、デクぅ!」

 

 意識の外に隠していた最悪の未来が、今 目の前にあった。

 




稽古に仕事と立て込みまくって、さらに狩猟解禁ときたので書く時間が中々……という言い訳はさておきお待たせしました待っていてくれましたか?ありがとうございます!(強行突破)

相変わらず後先考えない思いつき執筆なので整合性が段々怪しくなってくる頃ですが耐えて見せます。

ねむねむで書いてるところもあるので、誤字脱字誤用あれば優しく教えてくださいよろしくお願いします。

そしてお気に入り登録と感想評価も感謝感謝です!
では10話で、また。
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