僕のヒーローヒストリア   作:透亜九郎

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少々短いですが、10話目です。
よろしくお願いします。


Re:No.010 思い出と弱さと

いつも通りの日常。

 

 昼休みの喧騒が叫喚へと変わったのは僅か三十秒足らずの出来事だった。

 窓が壁ごと突き破られ、破片と瓦礫が飛散する。

 この時点で窓際にいた生徒は共に肉片となって飛散した。

 事態を飲み込めない他の生徒。破壊の後の静寂。

 

 ある生徒はその時点で精神(ココロ)が壊れた。

 ある生徒は身体についた同級生の赤に溺れた。

 ある生徒は茫然自失と立ち尽くした。

 

 瓦礫の砂埃の中にゆらりと巨大な影が見えた。教室の天井に屈めた背中を擦りながら姿を現す。

 それは異形だった。けれど、人間であると一目でわかった。口には枷。つぎはぎの巨体に纏わり接続されている機械。右腕には赤熱した殺意(ブレード)。左腕には画面越しに、あるいは架空の物語でしか見たことのない殺意(銃身)

 あまりにも現実から遠いそれに、未だ精神(ココロ)()()()()()()()()()生徒たちは魅せられた。ほんの数秒の無意識。それは余りにも致命的だった。

 その左が僅かに揺れた時に伏せろと誰か(出久)が叫んだ。しかしもう手遅れだった。

 嵐が教室を薙いだ。赤い飛沫とカケラが瓦礫と舞う。

 轟音が止んだ時に遺されたのは平和の残骸と級友だったモノの破片。

 

 襲撃から三十秒。

 ——生存者一名。

 

「いいだろ、コレ」

 

 静寂の中、得意気に響いたのは馴染みある声。

 ……今一番聞きたくなかった声。

 

「か……っちゃん」

「まァてめェならヨユーだわなあの程度」

 

 異形の人間の陰から現れたのは全身が艶のない黒色のアーマーで武装された勝己だった。

 目元だけが露出してギラギラと、陰鬱とした鈍色の輝きを放っている。

 

「こいつは”械人能無”。趣味は悪ィが性能は保証するぜ」

 

 楽しそうに、しかし他人事のような白々しさを多分に含ませて高らかに勝己は言う。

 口元を覆う二枚のプレートがギチギチと音を立てて、その昂りを表している。

 

「ウチのジジイ曰く。”普通の人間”が”異能者”を殺すための兵器なんだとよ。実際こいつはヘドロだかの異能者を殺してる」

 

 ついでに警察なんかもぶっ殺してな、となんでもないように勝己は続ける。それは出久にとっての最後の引き金だった。

 

「んで、次はこれまたついでながら大量殺戮の実験てわけだ。なんのついでかは教えねーがな——っとォ!いきなりかよらしくねぇなぁ?!デクぅ!」

「その口を閉じろ、その身体でその顔でその声でこれ以上喋るな」

 

 既に 初心不可忘(オンユアマーク)を発動させた出久が紫炎を纏って勝己に殴りかかった。それを流した勝己は嘲るも、出久は激怒の滲んだ声でそれを絶った。

 纏う紫炎はその感情に呼応するように禍々しく猛っている。

 

 地面を蹴った出久が次に狙ったのは能無と呼ばれた異形だった。目の前に着地した出久は蹴りを左腕の銃身に向けて繰り出す。怒りながらも、まず出久が取った行動は銃撃の無力化、即ち広範囲被害の抑制だった。

 しかしその蹴りは鈍い鉄音を響かせて、あっさりと左腕の銃身に受け止められた。

 一撃で破壊するつもりだった出久に一瞬の隙が生まれる。

 身を晒した出久に右腕の赤熱した凶器が迫り、次の瞬間には出久のいる空間を振り抜けた。

 

(危なかった……!)

 

 頭上を掠めた死を感じながらも出久はそれを躱していた。

 脳裏に死がよぎった瞬間、咄嗟に行ったのは掌からの紫炎噴射。それはまさしく爆豪勝己の戦闘機動に他ならなかった。しかしその事実こそが今の出久を苦しめる。

 佇みこちらを見る眼の主が、自分の知る世界の彼ではないと分かっているが心がその邪魔をする。

 思考が脳を走りながらも身体は戦闘を行う。屈んだその目の前には重心の掛かった左足。そうなれば行うことはひとつ、刈り取ること。

 しかし先の一合で生半可な一撃ではいけないことを知った。どうする。

 

(なら!こうすれば——!)

 

 答えはすぐに出した。

 BOM!と爆ぜた踵から、蹴りを()()()()

 その衝撃で巨体は体勢を崩される。

 習得したばかりの爆破技術を用いて無理やり体勢を空中へ持っていき能無の背後、上をとる。身体が衝撃に悲鳴を上げるがここは戦場。痛みを呑み込み、下方向に拳を構える。

 

「バースト•スマッシュ——ッ!」

 

 肘先を爆破して、紫炎を纏わせた拳を撃つ。

 背中にクリーンヒットしたそれは、能無の巨体を床に叩き付けた。

 出久は着地と同時に後ろに跳んで距離を取る。

 追撃をするにはこちらのダメージがあまりに大きい。何より、()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 能無は既に巨体をゆらりと起こし始めているが、こちらに攻撃をする素振りは見せていない。

 警戒しながら出久は行動を起こす。

 

「どうして……ッ!」

 

 頭は努めて冷静に。しかし燃え盛る感情を絞り出す。

 

「答えろッ!爆豪勝己ィッ!!」

 

 なぜ、君がそこにいると。彼に叫ぶ。

 これは賭けだ。今は時間を稼ぐための行動を、情報を収集するための行動を取るべきだ。

 倶楽部の皆に連絡をとるだけの隙も猶予もない。

 ならば、異常に気付いた生徒達が避難するだけの時間を。

 先程から教室の外は恐怖の声と足音が鳴り響いている。

 どうか逃げてくれと願うだけの自分が酷く憎い。

 

 出久必死の行動に、勝己は愉しそうに嗤った。

 それは全て分かった上での愉悦だった。

 ならばもっと絶望を与えよう。そんな意思が滲む嘲りじみたセリフを勝己は吐いた。

 

「俺らの学び舎じゃねぇか。ツレねぇこというなよなぁ、デクぅ!」

 

 思考が止まる。今彼はなんと言った。

 

「は——」

 

 勝己は、”俺ら”の学舎と言った。

 当然ながらこの世界で出久と勝己は同じ学校に通うことはない。すなわちその言葉が示す答えとは——。

 

「僕の、”僕”が知ってる”君”なのか……?!」

「俺以外に俺はいねェよクソデク」

 

 気付けば目の前に勝己がいて。

 

「ガっ……!」

「ハハっ、夢じゃねーだろオイ!」

 

 出久は殴り飛ばされていた。

 痛みが、衝撃がこれが現実だと無情に突きつける。

 

 手甲をギチギチと鳴かせて勝己は嗤う。

 

 やめろ。幼馴染の、仲間の、大切な友達の顔をしてそんなことしないでくれ。違うと信じたい。しかし出久の心は彼が本物の勝己であると叫んでいる。

 

「ちったぁやる気出せよ。それともアレか?」

 

——ガキ共殺せばやる気出すかよ。

 

「なっ」

「じゃ、仕方ねぇよなぁ!能無ぅ!!」

「GiiiAhhhhhhhッ!!」

 

 出久の迷いは最悪の事態に繋がった。

 勝己の声で吼えた能無は右腕の刃をさらに赤熱させて、左腕も今すぐ暴威を撃ち出さんと機械音を鳴らす。

 

「んじゃあ、まぁ。死んどけや!」

「クソっ!」

 

 能無は出久に向かって真っ直ぐ跳躍し、ブレードを振るう。

 躱した先に積まれた机などが混ざった瓦礫は溶けるように灼き切れた。

 隙を晒せば待つのは死であるのは明白。なるべく大きな動作を避けて細かく反撃を入れていく。幸い勝己は手を出してくる素振りは見せず観戦に徹している為、一対一に専念出来る。しかし能無の耐久性はかなり高く、いつかのテストでオールマイトと戦った事を思い出す。

 

(あの時もかっちゃんが……ダメだ、集中しろ。でなきゃもっとたくさんの人が死ぬ!)

 

 思い出の中で悪態をつく勝己の姿を掻き消すように四肢を振るう。

 打撃はまともに受けられたものではないので無理矢理流す。射撃は咄嗟に銃口に衝撃を与えて逸らすなど、一方的に防戦を強いられている。

 この絶望感は雄英に入学して間もない頃に起きたUSJ襲撃に似ている。今の自分は差し詰め相澤先生の立場だろうか。あの時先生は必死に生徒たちを逃すために戦った。その気持ちが今は理解できる。脳無の圧倒的な暴力に身を晒して、勝ち目の薄い戦いに挑んだ彼はまさしくヒーローだった。

 

 しかし、今この世界にヒーローは居ない。ここで倒れれば多くの生徒が殺されて、また別の場所で同じことが繰り返される。あるいは倶楽部の仲間が戦うかもしれないが、この瞬間にそれは望めない。

 どれだけ時間を稼いでも、あの時のように オールマイト(ヒーロー)はやってこない。

 戦えるのは自分だけ。ここで負ければ——そんな思いが出久にプレッシャーとなって襲いかかる。

 心は身体に引き寄せられる。時を遡り若返った出久の精神は確かに大人のものであったが、中学生相応の弱さをも持ち合わせていた。元より自信が弱い出久にとっては自覚のない弱点であったといえる。その弱点が、自分だけでなく多くの他人の命を賭けた戦場で露呈した。

 

 ——出久の心は、折れようとしていた。

 

 誰か。誰か助けて。

 

 ——戦いながら心が叫ぶ。

 

 僕は、強くなんてない。何も守れない。

 

 ——被身子のこと。勝己のこと。目の前で殺されていったクラスメイトのこと。別の世界で独り生き続けること。

 

 結局僕は仲間を、被身子ちゃんを信じきれなかった。頼らなかった。

 

 積もった後悔と不安がまさに出久を圧し潰そうとしたとき、遂にその言葉が口から零れ落ちた。

 

「——たすけて」

 

 膝から落ちた出久に赤熱の死が迫る。

 

 こちらの世界へ来てから二度目の走馬灯。

 あのときは、被身子がその身を挺して守ってくれた。立ち上がらせてくれた。

 そんな彼女を僕は突き放して、悲しませた。

 

 最期に遺ったのは「ごめん」の一言を彼女に伝えられないまま逝く後悔だ。

 だからせめてその間際に、彼女に届けと心の中で言った。

 

(ごめんね。被身子ちゃん)

 

 ゆっくりと流れる時間の中で、最期の瞬間を待つ。

 

 ——しかしいつまでもその時は訪れない。

 痛みを感じることなく、自分が死んだことさえ分からずに殺されたのか。

 そう思った出久はゆっくりと瞼を開けて、目の前に映ったのは。

 

 能無の刃を受け止める、赤い影。

 

 それは鮮やかな血を思わせる真紅の鎧を身に纏った——騎士だった。

 




スケジュールがぎちぎち過ぎて悲鳴を上げている魚津です。
10話というある意味で最初の節目でありながら、短くなってしまいました。

モチベーションはある。けれど時間と想像力と文章力構成力諸々がパッションに追いつかない!

ので、まだ書けると言い張るために短くてもいいじゃないかと投稿しました。


お気に入り登録、評価感想ありがとうございます。
励みです。
まだ止まりません。

それではまた次のお話で……
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