僕のヒーローヒストリア   作:透亜九郎

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迷子になりながらも走るぞウチは。

11話です。


Re:No.011 躊躇い傷のお姫様

 

「こんな私でもお姫様に憧れるんです」

「やっぱり王子様は緑谷さんで?」

「きゃー!照れるよモモちゃん!」

 

* *

 

 何より悲しかったのはイズクくんが私に相談してくれなかったことだった。

 

 薄々わかっていた。私はあの場所にいるべきじゃない存在だって。

 私はただの無力な人間。異能なんて特別を持っていないただの女子中学生。イズクくんについて行って、その場の流れでみんなの輪の中に入ったつもりになっていた哀れな小娘にすぎない。

 モモちゃんをはじめとして、UA倶楽部の皆は私と仲良くしてくれた。志村さんは……今思えば最初から私をあっちの世界から離そうとしていたんだろうけど。それでも邪険に扱ってくることはなかった。

 

 短い付き合いながらも二人で遊んだりと親友と呼べる仲になったモモちゃん。

 

 眉間に皺を寄せながらも褒めたら満更でもなさそうに、色々な技術を教えてくれたスピナーさん。

 

 おっかなびっくりだけど、飼っているウサギちゃんを見せてくれたり、色んな生き物のお話をしてくれるコウダくん。

 

 

 大人の男性として線を引きながらも、様々な気遣いをしてくれる優しいトビタさん。

 

 少し疎ましい……とは違うのかな?気不味そうな目を向けてくるけれど、はしゃぐ私を眺めていた志村さん。今なら彼の不器用な優しさが表に出ていたのだと分かる。

 

 イズクくん。緑谷、出久くん。私の恩人にして最高のヒーロー。彼に借りたアメコミではヒーローとは孤独なものとして描かれていることが多かった。そして有名らしいセリフ。

 

”With great power comes great responsibility.”(大いなる力には大いなる責任が伴う)

 

 未だ私に話してはくれないけれど。きっと彼もまた()()を背負っているのだろう。それも、とびきり大きな責任を。

 彼の隣に立ちたいと思い始めた頃から薄々感じていたけれど、その大きさを感じ取ったのはここ数日だったりする。

 キッカケは瑠彦警察署テロ事件のニュースを一緒にテレビで観た後の彼の様子だった。

 私が何気なく言った言葉。

 

「テロ、怖いですねぇ」

 

 それに対してイズクくんから返ってきたのは、

 

「……うん」

 

 たったそれだけ。私の声にただ反応しただけのおざなりな返事。私はすこしムッとして拗ねた素振りを見せようと彼の顔を覗き込んで、止まった。

 画面を観るその眼は酷く真剣で、なんといおうか。

 “戦う人の眼”とでも表せばいいだろうか。

 鋭く、画面に映った景色の更に奥を覗くような眼差しに思わず息を飲んだのを覚えている。その時に思い出したのは、スピナーさんと戦っていたときの彼の顔と姿。

 テロといってもある程度近くで起きた事とはいえ、それは自分たちに関係のない他人事だ。危機感が薄いと言われれば確かにそうだけれど、実際世間の反応と同じ感覚だと思う。だというのに彼はまるで身近に、それも直接の関係者のような感情とテロリストに立ち向かわんとする気勢を静かに発しているのだ。異能がその身にあるとはいえ少々過ぎた反応ではないかと正直なところ思った。彼だって普通の男子中学生なのだ。

 そこでふと、気が付いた。

 

 ——異能を手にしたからって、あんなに戦えるものなの?

 

 彼が普段から鍛錬と称して身体を鍛えてるのは知っている。私も度々一緒にトレーニングをしていたから。

 その中には武術なんかも入っていて、流行りのボクササイズです!だなんていってはしゃいだこともあった。

 でも記憶にある限り、彼が誰かと喧嘩しただとかは聞いたことも見たこともない。そもそも彼に暴力を振るうイメージなんてなかった。

 

 あの夜。イズクくんに異能が芽生えた日。

 ヘドロの異能持ちが現れて、そのチカラを発動したときにそれを見た彼はもちろん驚いていた。だけどその驚きは、なんというか。過去に似た出来事に遭ったような、既知を感じさせる驚きだったと今なら思い出せる。その後の行動も、間髪入れずに私を抱えて逃走を開始。

 異能が発現したのを確認すると、それに戸惑うことなく受け容れてさも当然のように扱ってみせた。

 そしてスピナーさんとの戦い。

 異能を使えていないのに正面から渡り合ったイズクくん。

 あの時は頭が真っ白になって、飛び出して二人の間に割り込んだあげくにイズクくんを守る宣言をかましたんだっけ。

 でも結局彼はそれが必要ないぐらいに強くて、スピナーさんをあっさり倒してしまった。

 

 現在のテロに対する彼の姿勢。

 中学生どころか、大人……なんなら警察みたいな本職よりも()()()()()に慣れたような言動に行動。

 

 そしてUA倶楽部から距離を置かせることに同意する、感情を挟まない合理性。その全てが今まで見てきた彼の像を壊していく。

 

「私。イズクくんのこと、なぁんにも知らなかったんだなぁ」

 

 悔恨の言葉は見慣れた天井に吸い込まれる。

 今日は学校を休んでしまった。イズクくんにどんな顔をして会えばいいか分からなかったから。

 彼から心配のメッセージと謝罪のメッセージがスマホに届いていたが既読は付けていない。今の私にはそれに返せる言葉がない。

 

「いつから、なんでしょう」

 

 彼はいつ”大いなる責任”を背負ったのだろう。出逢ったあの日から既に?だとすれば“大いなる力”も彼はあの時点で持っていたのだろうか。

 

「ダメだ……。なんにも」

 

 私は彼を信じている。そこには今をもっても一片の曇りもない真実だ。だけど信じた彼が私の作り出した幻想だとしたら?理想を押し付けて、彼にそうあるべしと押し付けてしまっていたとしたら?

 不安が波のように押し寄せて、様々な感情が瓦礫のように積もる。

 何が“守る”だ。何が“隣に立つ”だ。

 彼の背負うものの影にすら気付けなかったのに。

 

「イズクくんに、会いたい」

 

 今の私にその資格はきっとない。

 志村さんは言った。私は異能発現手前であったと。

 ふと思う。あのまま異能が出ていたとしたらどんな力になるのだろう。

 倶楽部で聞いたことがある。異能ってどういう風に能力が決まるんですか、と。すると志村さんが事も無げに答えた。

 

「そいつの根源と精神——強い想いとでも言おうか。それらが合わさって発現する。たとえばシューイチなんかは根源に爬虫類と縁があった上身体との相性が良かったんだろうな。そこに純粋な強さへの渇望が反映された結果が“人蜥蜴”ってわけさ」

「なるほど……?」

「根源ばかりは変えられねぇが、想いは別だ。だからひと口に異能発現って言ってもその時の状況なんかで能力が決まっちまうこれまた不思議なチカラなのさ」

「つまり想いの強さがチカラの強さに影響するんです?」

「そういうことになりますわね。まぁ、逆に感情より理性で能力が決まるパターンもあるみたいですわ。というか私がそれでして。たいしたチカラじゃない分制御が容易というメリットがありますわね」

「なんだか本当にマンガみたいな話ですー」

 

 そんな会話が思い出された。

 そういう意味では昨日の夜の私がもしも異能に覚醒していたら大変なことになっていたんじゃないかと背筋が寒くなる。あのドロドロとした感情がチカラになるなんてきっと目も当てられない結果になるだろう。

 だから志村さんが誘拐紛い……というか実際誘拐なんだけど、そうしてまで私が人の道から外れるのを止めてくれたのだろう。モモちゃんが口癖のように志村さんに言う、やり方を考えるべき、は結局のところ彼の不器用さなのだろう。

 

「ハァ……」

 

 考える。イズクくんのこと。自分のこと。異能のこと。

 目の前に両手首を掲げて、無数についた躊躇い傷を見る。

 

 かつて血の赤に執着した私はイズクくんと会った後も、その衝動が度々抑えられなくなって自分を傷付けた。その頃には両親の心は私から離れていて、心配を掛けることもなかったから。でもイズクくんはやっぱり違った。傷を増やすたびに泣きそうな顔で私の手を握ってくれた。

 そんなある日彼は言った。

 

「血が見たいなら、僕が見せてあげる。だからヒミコちゃんは自分を傷付けないで」

 

 そう言って、筆箱からハサミを取り出して彼はまず指を切った。傷口から綺麗な赤が滲み出して見惚れてしまった。

 次に手首。腕とどんどん切っていく彼。見惚れる私。

 けれど突然ハッとなって彼の指を咥えた。咄嗟になんでことをしてしまったんだと今では恥ずかしい思い出だけれど、当時は消毒しなきゃという意識に突き動かされてとった行動だった。そして私は最大の失敗を叫ぶ。

 

「なんでこんな危ないことしたんですか!」

 

多分あれが最初で最後のイズクくんへの激昂だった。

イズクくんは痛みに耐えながら、なんでもないように言った。

 

「だってヒミコちゃんは血が見たいんでしょ?だったら手伝うよ。このぐらい」

 

へらりと笑った彼に私の頭は沸騰して、あんなに好きな赤が視界を隔てるフィルターのようになった。

 

「それで傷付くイズクくんをみて嬉しいわけないじゃないですか!もしかしたら死んじゃうかもなんですよ?!大好きなイズクくんにトガはそんなことして欲しくなんてないです!」

 

 その場の感情に任せて捲し立てた私。

 それを受けた彼は表情を笑顔から険しいものに変えて叫んだ。

 

「それは僕からしても一緒だよ!大切なキミが!ヒミコちゃんが傷付いていく姿なんてみたくない!だったら僕が代わりに傷付いて君の心を満たしたいと思うのは当然だろ?!」

 

 初めて聞くイズクくんの怒鳴り声。

 それは私の心にじわりと温かさを伴って染み込んだ。

 あの時も私は彼のことを全くわかってなかったのだ。

 結局わんわんと泣いて、血を見る為に自傷するのを我慢するトレーニングをして克服した。何せ、我慢の限界を感じたら彼が自ら血を流すと本気の目で宣言したのだ。今だから言えることだけど、中々彼もイカれていたと思う。同時にそれだけ私を大切に思ってくれていると認識した瞬間でもあった。

 

 あれから時は経つけれど、何か戒めたいときは自分のかつての愚かさと向き合う為に手首の傷を見る。この傷は私の愚かさと彼の優しさの証だから。

 

 時計を見れば学校では四限目の半ば。

 今から行けば昼休みには到着できるだろう。

 

「うん。あわせる顔ないけど、謝ろう」

 

 なにより私はイズクくんに会いたい。

 ただそれだけだった。

 

 制服を着て、学校へ行く準備をしていると押し入れからドサリと一冊の絵本が落ちてきた。

 

 昔好きだった、お姫様と王子様が結ばれる本。

 魔女に呪いを掛けられたお姫様を助ける為に王子様が魔女が変身した化け物と戦って遂に呪いが解けるというお話だったはず。

 イズクくんを王子様役にして、私がお姫様役。イズクくんのお母さんに魔女役をやってもらってよく遊んでいた。

 役じゃなくても彼は私にとって王子様だ。

 

——だけど私は?

 

 芽生えた疑問に向き合おうとしたときに設定したアラームが鳴った。

 

「お昼休みに間に合わなくなります!」

 

 こうして私は何も解決しないまま、学校へ駆け出すのだった。

 

 




ノリと勢いで書く。
プロットのない物語。
二次創作とはいえストーリーラインはオリジナル。
こんなに難しいものだとは露知らず。

今話もお読みいただきありがとうございます。

感想、評価お待ちしております是非に。
あれです。読者様方にこの物語がどう受け止められているのか怖い、創作初心者あるあるの病に罹っておるのです。

誤字脱字誤用の指摘も募集しております。


それではまた12話で。
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