僕のヒーローヒストリア   作:透亜九郎

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貧困な引き出しから生まれた戦闘シーン、発進します。

15話、よろしくお願いします。


Re:No.015 死線、越えて

 鈍色の熱が音を伴って幾重にも宙に波をうつ。

 かたや赤熱する鋼の殺意。かたや紫炎纏う少年の拳。

 真正面からぶつかり合う二つの純粋な力は拮抗していた。

 ラッシュの応酬が繰り広げられる。

 

「らぁぁぁぁぁッ!」

「Grrrrrrrrrrraaaaaッ!!」

 

 一撃一撃がまるで爆撃のような破砕音を起こす。息をも吐かせぬ攻撃の応酬。攻撃は最大の防御と言わんばかりに、互いが互いの必殺の一撃を相殺し合う。

 一人と一体が放つ熱が周囲を広がり空気を揺らめかせ、衝撃波と共に熱波が辺りを灼く。

 

 速さ、火力は共に互角。しかしダメージレースは依然として出久が不利。このまま消耗戦となれば敗北は必至である。今必要なのは、互いに欠けている決定打。

 出久の今持っているカードはどれも徒手空拳をベースにしたクロスレンジ。となれば選択肢は自ずと限られる。回数こそ必要になるが隙を縫った傷口狙い、あるいは相手の攻撃ごと捻じ伏せる渾身の一撃。前者は結局持久戦。後者は今の体力では分の悪い賭け、しかも消耗と隙が大きくなるリスクがあまりに大きい。

 故に出久は頭を回す。己の経験記憶を浚うように検索をかける。なにか、なにか手を。有効な手段を。

 腕を横から弾く?間髪入れずに次が来る。

 足を刈りとる?刈る前に上から来る。

 目眩し?更に暴れて余計に手がつけられなくなる。

 どうするどうするどうする。

 せめて一瞬でも能無の動きを止められたならば。

 

(こんなときに五代目の黒鞭があれば——!)

 

 かつて自分にあったOFAで、最初に発現した歴代継承者の個性。A組の皆に教えを乞い、一番多用したチカラ。その力があればと強く思ったそのとき。

 

『だったら創ろう。僕らはまだスタートラインだ。何にだってなれる』

 

 どこからともなく声がした。

 そして理解した。頭ではなく精神(ココロ)で解る。

 打つ手がない?決定打がない?あったものがない?

 

——だったら()()()()()()()()!!

 

 心を燃やせ。繋がりを思い出せ。更に、更に先へ

 今持っているのは誰かから借りたものじゃない。自分から生まれた、僕の異能(チカラ)なのだから!

 

 「創装(アセンブル)——」

 

 その言葉と共に、紫炎が渦巻き出久の両手に集まり輝きそのカタチを変えていく

カタチに成っていく。現れたのは蜘蛛のような鋼があしらわれたグローブ。各所に空いた穴から炎が吹き出している。

 吹き出した紫炎がうねり捩れて数多に分かたれ、それぞれが蛇のようにゆらゆらと鎌首をもたげる。

 新たなカタチを得たチカラ。その名は——

 

「——壱式(Ver.1)契蜘蛛(ちぎりぐも)

 

 紫炎で編まれた無数の縄が、それぞれ意思を持つかのように能無へ飛び掛かる。炎鞭(えんべん)は能無の四肢に絡みつき、皮膚を焼いた。

 想定外の手札に暴れて抵抗する能無だがそれが仇となる。暴れたことによる重心のブレ、その機微を見逃す出久ではなかった。

 出久が右手首を返して手前に引くと、引っこ抜かれたように能無の右足が浮いた。踊る炎鞭が首元へ巻き付き、そのまま地面目掛けて引き倒す。倒れた勢いと衝撃を利用して能無は跳ね起きるが、その眼前には既に出久の拳が迫っていた。

 

「バーストッスマッシュ!!」

「Ga、ahッ?!」

 

 紫炎によって推進力を増した拳が能無の顔面へと叩き込まれ、能無は苦悶の声を溢す。

 そうして仰け反った頭を未だ首に巻き付いている炎鞭によって無理やり引き戻し、その反動で能無の頭上へと移動した出久は、戻ってきた能無の頭目掛けて拳を振り下ろし殴りつけた。堪らないといったように身を捩った能無の胴体に炎鞭が絡み付く。

 

「爆ぜろ!」

 

Booooooom!!

 

 出久の言葉に反応して、一層輝いた炎鞭が一斉に爆発を起こす。

 しかしその身の殆どを機械へと置き換え、埒外の兵器と化した能無は未だ倒れず。燻る爆煙の中から、一層熱量を増したように燃え盛る右腕を振り翳して突貫してくる。

 

「GuOhhhhhhhhhhh!!!」

「まだッ——、いい加減にしろよッ……!!」

「GuuuRrrrrrrrrraaaahhhhhッッ!!!」

 

 振り下ろされる赤。

 しかしそれが出久のもとまで到達することはなかった。出久自身が躱したわけではない。確かに能無の右腕は振り下ろされていた——肘から先が無い状態で。程なくして能無の後方に赤熱した刃が地面を蒸発させて落下した。

 能無の右腕、殺意の具現を断ったのは紅の一閃。紅蓮の剣を顕現させた被身子だった。

 

「イズクくん!今です!!」

「君ってやつはぁ!!!」

 

 既に能無は、鉄屑の凶器と化した鋭い銃身を出久に向けて突き刺そうと行動している。

 対して出久は、果たして何に対しての怒りかグローブから大量の炎鞭を噴火のように噴き出させてまるで蜘蛛の巣のように形作った紫炎を能無へ向けて射出。銃身の槍は出久に届くことなく能無は網に絡め取られる。網にかかった能無に、更に炎鞭を無数に放ち幾重にも重ねて絡み付かせる。そして能無は、紫炎で編まれた球の中に閉じ込められた。

 

「これで、トドメだ。“万縄爆抱球(ばんじょうばくほうきゅう)”。——爆ぜろッ!!!」

 

 BomBomBom——Boooooooom!!!!

 

「Gyaaaaahhhhhhhhhhhhhhhhhh……!!!」

 

 さながら花火の様に火球が爆ぜた。爆ぜて爆ぜて、最後には大爆発を起こした。その爆音は能無の絶叫を掻き消して、後には残った紫炎が鮮やかな火の粉となって降り注ぐのみ。

 煙の晴れ、現れた巨大な影が動く気配はなく、身体の至るところに装備されていた装甲は全て破壊されていた。

 ゆらり、と巨体が傾き倒れかけた——が一歩踏み出し踏み止まる。

 

「Ooooooooooooooaaaahhhhhhhhッ!!!!!!」

 

 咆哮。絶叫。はたして能無をそこまでして立たせるものは何なのか。それを知るものはもはや無く。

 息の根を止めるしか手は無いのかと、出久は最後の力を振り絞って紫炎を纏う。

 しかし瞬間、がくりと能無の膝は落ち、ドスンと土煙を立てて地に伏した。気を抜かずに相対したまま炎は消さない。まだ立つかもしれない。背を向けた瞬間、異能を解いた瞬間に飛び掛かってくるかもしれない。そのような気迫を能無は——否、彼は持っていた。

 そしてそのまま永遠にも感じる数分が経ち、ピクリとも動かない能無を確認して遂に戦いに勝利した事を認識する。

 最後の叫びは断末魔だったのだろうか。

 

(いや、彼は最後まで僕に勝つつもりだった……)

 

 そう思うのは手にした辛勝からくる感傷だろうか。

 心に掛かった靄を払うかのように背を向けて、出久は被身子のもとへと向かうのだった。

 

* *

 

「はっ。やっぱりそうこなくちゃな()()()()

 

 ニヤリと笑って転弧は呟く。倒壊の目立つ校舎の屋上に彼は居た。戦いの結末を見下ろして満足げな風に笑みを深める。

 百には負傷者の手当てに回るように言って任せた上で、別行動とした。十分程前まで、テロリストの仲間と思われる異能持ちの能力により学校に近付けず手を拱いていたが、ふとその力が消えたためようやく来ることができた。戦う出久と被身子を確認した上で加勢しようとした百を止め、生徒の救護を任せたのは英断だったと転弧は自賛する。でなければ出久の真価、その一端を目にすることは叶わなかった。また小言を貰うことになるのは気が重いが、対価と思えば軽いものだ。

 

「それにしても、ありゃとんでもねぇな。脳無が可愛くみえてくるぜ。しかも異能無しで改造だけときた。全くどんなイカレが関わってんだか。この世界も大概終わってんなぁおい」

 

 誰に言うでもなく話す転弧。

 その眼は遠目に倒れ伏した能無と出久たちを映していたが、それを通してどこか別の何かを見ているような、見えない何かを見ているような、超然とした視線だった。

 

「柄じゃねぇんだがな。どうにも毒気を抜かれちまって仕方がねぇや。なぁヒーロー、どうしてくれるよ。ちゃんちゃらおかしいだろ、なぁ先生?地獄で見てるかよ。この俺が先輩風吹かせてヒーローの世話焼くだなんて全くヤキが回ったっつーか、皮肉、悪趣味にも程がある。まぁ、スピナーにトガの愛すべき仲間(バカ)共とまたバカやれんのは楽しいかもしれねぇがな。多少あっちよりイカれてんじゃねぇかと思うことはないでもないが……」

 

 自嘲するような、けれど心底愉快そうに喋り続ける。

 見下ろすグラウンドでは、近寄ってきた出久に全力で抱きついて全身全霊の愛情表現をする被身子の姿。スマホを開き、トークアプリを起動すれば༒SpinneR ༒名義のアカウントから、秀一、弾柔郎、甲司の三人が写った写真と共に『任務完了』とメッセージが届いていた。

 

「なぁんでこうなっちまったかね。拗らせの方向性変わっただけじゃねぇか。あいつらもあいつらでいちゃつきやがって。まだ敵が隠れてたらどうすんだっての」

 

 転弧はぶつくさと文句を垂れるが、その顔は弛んでいる。

 それを自覚したのか、大きなため息をついて、右手で顔を覆い空を仰ぐ。空は雲ひとつない晴天で、青く澄み渡っている。それがどこか退屈に感じられて、結局自分の根底は変わらないのだとしみじみ思う。

 

「しゃーねぇ、あのバカ二人んところ行くかね。どうせロクでもねぇことになんだ。助けてやらねぇとな、リーダーとして」

 

 独りごちて、転弧はグラウンドの二人のもとへ向かうのだった。

 

 

* *

 

 

「イダダダダダダダダダ!!被身子ちゃ、すて、ステイステイ……!死ぬ、もう死ぬから、ぐえっ……」

「イズクくんイズクくんイズクくんイズクくんイズクくんイズクくんイズクくんイズクくんイズクくんイズクくんイズクくんイズクくんイズクくんイズクくんイズクくんイズクくん——!!」

 

 出久は命の危機に瀕していた。と、いうか殆ど死にかけていた。他ならぬ、守りたい人である渡我被身子その人の手によってだ。

 辛くも能無を下し、被身子のもとへ歩み寄った出久を迎えたのは、獲物に飛び掛かる猛獣が如き全力の突進だった。既に集中力と体力を使い果たした出久に反応及び回避は叶わず、真正面からハグという名の強襲が直撃し、押し倒されるような形で倒れ込んだ。

 感無量といった風に全身を出久に密着させて抱きしめて頬擦りをする被身子。満身創痍の出久にとってその愛情表現は文字通り殺人的威力を発揮していた。

 

「ぐ、ぐえっ……——」

 

 サンキュー出久。フォーエバー出久。

 君の戦い、君の勝利はきっと忘れない。安らかに眠れ。R.I.P.。僕のヒーローヒストリア、完。

 

「——って殺すなぁぁぁ!!!このバカ被身子ぉ!!!」

「あ痛ぁ?!」

 

 死の間際、火事場の馬鹿力だろうか。被身子のハグを振り払い、彼女の頭に強烈なゲンコツを落とす。

 

「加減しろこのバカ!おバカ!!こちとら重傷者だぞ?!死ぬわ!なんなら能無に蹴り飛ばされたときより死を間近に感じたわ!川の向こうでサーが鬼相手に一発芸してたわ、面白かったです!!」

「うぇぇぇ、だってだってぇ……。イズクくん死んじゃったかと思って不安で、でもでもやっぱり私のヒーローでかっこよくてぇ……。なんかなんだか色々ぐちゃぐちゃになって感極まったといいますか、それはそれとして誰ですかぁ……」

 

 怒鳴り散らかす出久に、マンガのようなたんこぶを生やした被身子が頭を抑えて弁明する。その被身子の様に、出久の脳裏でサー•ナイトアイが「ナイスユーモアだトガヒミコ」とサムズアップした。それに毒気を抜かれたのか、出久は一息ついて被身子の頭を優しく撫でる。

 

「わかったよ。うん。心配させてごめんね。でもこうして、勝って帰ってきたよ。ただいま被身子ちゃん」

「ホントに、本当に心配したんですからね……。おかえりなさいイズクくん。それはそれとして私、イズクくんにゲンコツされてキズモノにされてので責任を要求します」

「うん、どうしてそうなった??え、悪いの僕なの?死にかけたのに??」

「細かいことはいいからほら!責任!」

「細かいかなぁ?!というか責任ってどうすればいいのさ」

 

 問われた被身子は、顔に満面の笑みを浮かべて告げた。

 

「熱烈なチューを要求します!!」

「バカがよぉ!!」

 

 被身子の突飛な発言に、某幼馴染のような言葉遣いになる出久。そんな彼に両手を広げて、さぁ!来てください、と催促する被身子。

 どうにかこの場を切り抜けようと頭を回す出久の目に映るのは、期待に満ちた被身子の姿。——傷だらけになった、ボロボロの被身子の姿。

 

「——被身子ちゃん」

「はい!」

 

——チュ

 

 ほんの一瞬。唇が触れるだけのキス。

 出久から行う、初めてのキス。

 

「え、あ、あれっ」

 

 反応が遅れた被身子が改めて出久を見れば、そこには顔を真っ赤にして腕で口を隠してそっぽを向く彼の姿。

 

「き、今日は、これで、許して……」

「あ、あぁ……あざとい?!イズクくんあざとい!ズルい!そういうとこ!そういうとこです!そういうとこが私を狂わせるんです!!でもかぁいい!あまりにもかぁいいが上限突破してるので許しちゃいますチョロいなぁ!私!!」

 

 弱々しく言った出久に、興奮して捲し立てる被身子。しかし彼女の顔もりんごの如く真っ赤だった。

 

——ピキリ。

 

 異音がした。

 聞こえたのは倒した能無の方向。

 

「ッ?!被身子ちゃん!伏せて!!」

 

 叫ぶ出久。次の瞬間。

 

BOOOOOOOOOOOOM!!!!

 

 能無の身体が大爆発を起こした。

 出久は咄嗟に被身子を庇うように覆い被さった。

 能無から離れていたとはいえ距離にして十数メートル。

 衝撃波に、能無が纏っていた防具や武器の破片が凶器となって飛来するのは必至。

 

 しかし、爆発音こそしたものの、それらが二人に襲いかかることはなかった。

 不思議に思った出久が、顔を上げてそちらを見るとそこには、黒い塵を辺りに漂わせた転弧が立っていた。

 

「し、志村さん」

「いちゃつくのもいいがもうちょい警戒ってもんをしろよな。俺居なかったらどうなってたことやら」

 

 呆れたように皮肉を口にする転弧。

 

「すいません……。倒してからしばらく様子をみてからのことだったので完全に油断してました……」

「そうです!イズクくんは悪くないです!」

「ああいうのを作っちまうイカレた手合いはな、とことん悪趣味なことを仕出かすもんだ。覚えとけ」

「っ!」

 

 出久の脳裏にフラッシュバックしたのは、雄英を飛び出して独りでダツゴクを倒していた頃のこと。レディ•ナガンの始末に、その後の小屋での出来事。AFOのドス黒い悪意。この世界にもそのようなことをする人間が存在することが分かってしまい、出久は愕然とする。

 

「ただ、まぁ、なんだ。そのだな」

 

 そんな出久に対して、なにやら口をモゴモゴとさせて何かを言おうとする転弧。

 出久と被身子は不思議なものを見るように転弧を見る。向けられた四つの目にいたたまれなくなったのか、転弧は、あー!クソ!、と開き直るように叫んで二人に向き直った。

 

「あれこれ言ったがよ。……頑張ったじゃねぇか」

 

 ぶっきらぼうに言って顔を背けた転弧に、二人は示し合わせたように顔を合わせて破顔した。そして転弧に向かって、元気に叫ぶ。

 

「「はい!!」」

 

 ここに、械人能無”Joule”との戦いは幕を下ろした。

 

 

* *

 

 

「あーあ。全くやられてんじゃねぇよクソが。使えねぇ」

「そう言うなよニトロ。目標は達した。彼は充分な働きをしたよ。それにそっちの方が君にとって喜ばしいことなんじゃないかい」

「ケッ」

 

 走る自動車の中。後部座席で悪態をつくニトロを、運転手の壮年の男性が宥める。心底面白くないといった風なニトロをバックミラー越しに見て男は苦笑する。

 

「彼、緑谷出久と話は出来たんだろう?君にとってそれだけで十分過ぎる収穫じゃないのかい」

「……チッ」

 

 問い掛けに舌打ちを返すニトロ。

 男の表情は、反抗期の子どもをみる親のそれだった。

 それが面白くないのか、ニトロはぶっきらぼうに言う。

 

「結局はデクはデクだったわ。クソが。オッサンの方こそ首尾よくやったんだろうなぁ?」

「当然。とはいえ場所が場所だ。大変なのはこの後の処理だよ」

「ハッ、ザマぁ」

「これは手厳しい。ま、微力を尽くすさ」

 

 そう言ってカーステレオの電源を入れる男。

 流れ出したのはジュゼッペ•ヴェルディのレクイエム、怒りの日。打ち鳴らされるティンパニに合わせてハンドルを握る手の指がリズムを刻む。耳に残るコーラスが車内を呑み込んだ。

 

「ケッ、食えねぇオッサンだぜ。なぁ?塚内警部どの?」

 

 塚内と呼ばれた男の目には、暗い暗い色が浮かんでいた。

 




教訓:ノリと勢いで書くのは後々大変(今更)
あと、そろそろ方向性が定まってきた、ような?気がするので何かしらオリジナリティあるタグを付けたいけれど何も思いつきません。合掌。


皆様の感想、評価、ここすき等等お待ちしております。何卒、何卒ぉ……。
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