僕のヒーローヒストリア   作:透亜九郎

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はい、いろいろ紆余曲折ありまして半端なまま投稿したりしましたが、改めて17話です。よろしくお願いします。


Re:No.017 閉じた部屋、開かれた屋上、三人娘

そこは密室だった。

 

 窓もなく、白い壁に囲われた小さな、圧迫感のある部屋。その中央に三尺四方の机と、それを挟んで置かれた二脚のパイプ椅子だけが電灯に薄く照らされていた。

 片方に座るのは、神経質そうに眉を顰める女性。公安委員会長だった。薄明かりのせいかその顔は心なしか青褪めて見える。

 その対面には、椅子をぎぃぎぃと鳴らして座る軽薄そうな若い男性。会長とは対照的に、非常にリラックスした様子だ。

 二人の間には長く沈黙が支配していた。時折、会長が口を開こうとするも、躊躇い、もごつかせるだけだった。

 

「で、会長さんはついに決心したと。そういう解釈でいいんですかね」

 

 埒があかないとばかりに沈黙を破ったのは男だった。

 軽薄そうな見た目そのままの軽い調子で、けれどどこか圧力を感じさせる声。それを聞いた会長の肩が僅かに跳ねる。その口から振り絞られたのは、え、えぇ……という濁った返事だけだった。

 

「なにをそんなに緊張してるか、俺にはわかんないですケドね。もっと気軽に決めちゃっていいんじゃないですか。どうせいつかやらなきゃいけないことだ。俺たちはその為に作られた組織でしょう?」

 

 調子を変えずに男は言う。まるで責められているかの様に会長は目を俯かせて言葉を絞り出す。

 

「……そうは言うけれど、これは社会秩序に関わることなのよ。そんなリスク、とてもじゃないけれど簡単に決められないわ。それに外交問題にだって——」

「どうせアメリカさんはとっくにやってますよ。他の国だってそうです。なんなら軍に組み込まれてたって驚きゃしない。というかしてるでしょ、確実に。だから会長さんは俺に、俺たちにただ一言くれればいいんです。()()ってね。隠蔽工作ばっかじゃ、いい加減ウチの連中が可哀想だ」

「…………」

 

 考え込んで再び黙る会長。

 その様子を黙って見つめる男の目は、軽薄な態度に反して怜悧な冷たさを宿している。

 会長にとって何時間にも何日にも思える葛藤。男にとっては退屈で無駄な数十秒。両者で乖離した時間は会長の苦しげな声で終わりを迎えた。

 

「わかり……ました……」

「腹、決まったんですね」

「えぇ……。公安委員会会長の権限において、公安委員会直轄特務機関“公益局”へ。確認された異能者(イレギュラー)の捜索及びその身柄の確保、困難な場合は排除を命令します」

 

 そう告げられた男は、ニィと口端を吊り上げて笑う。

 

「はい、確かに拝命しました。我々公益局一同、全霊を以て臨ませて頂きます」

 

 男は席を立ち、大仰に礼をする。

 

「よろしくお願いしますよ。公益局実働部隊HAWKS、鷹見隊長」

 

 男——鷹見はひらひらと手を振り背を向けて、そのまま部屋から退出した。

 扉が閉まるのを確認して、会長は緊張の糸が切れたのか机に突っ伏した。

 

 自分の選択が果たして正しいものだったのか。知るものは、どこにも居ない。

 

 

* *

 

 

 「空、青いなぁ」

 

 仰いで呟く。

 訓練の成果を試そうと街中を、なるべく人が居ない場所を選んでパルクールを駆使して駆け回った。私はどうやらそうして駆け回るのが好きならしく、時間を忘れて朝からピョンピョンしていたらいつの間にか太陽が高いところにいたので、休憩を兼ねて、降り立った適当なビルの屋上に大の字で横になって空を見上げていた。ハシタナイとイズクくんに見られればお小言のひとつも貰うのだろうけど、だれも見てないし、この解放感が心地良くて心の中でごめんなさいを言う。頬を撫でる風が、汗ばんだ肌を乾かしていく。

 風邪、引いちゃうかな。そうすればイズクくんに看病してもらえる?なんて現金なことも考えたりなんかして。

 

「なにしとるん、こんなとこで」

「ふえっ」

「ブフッ!ふえっ、ってそんな可愛い反応する娘ほんまにおるんや」

「え、だれ、だれです?こんなおおよそ人が来る場所じゃないのに女の子の声がします!」

 

 妄想を膨らませていると、私に声をかける誰かが居た。居た、というより居る?かな。女の子の声が聞こえるだけでまだその姿を私は見られていない。

 きょろきょろと見回すと、ばぁ!という声と共に目の前に逆さの女の子の顔が現れました。

 

「わぁ?!」

 

 ついびっくりして尻餅をついてしまいます。

 そのまま見上げてみればそこには、空中に逆さに浮かぶ女の子。

 

(異能者……!)

 

 特に敵意なんかは感じていないけれど、用心に越したことはない。いつでも戦えるように自分の中にある()()()()に指を掛けておく。

 そんな私を見て、宙の女の子はまんまるの目を更に丸くして驚いたような、意外そうな顔をした。

 

「おどろかんの?人が逆さに、浮いてんのよ」

「……そんなこともあるでしょう、世界は広いので」

「ふぅん。そっかぁ、アナタも同じなんやね?」

「な、んのことですか……」

 

 つい、返答に詰まってしまった。これでは答え合わせも同義だというのに。やってしまったという私の様子がおかしいのか、浮いたままの女の子はケラケラと笑う。

 

「大丈夫よそない警戒せんでも。別になんかするわけでもなし」

「じゃあなんで声掛けたんですか」

「んー。なんとなく?あとほら。こんなビルの屋上に女の子だなんて気にならん?そういうことだよ、うん」

「……言われてみれば」

「で、話しかけてみたらうちら同類みたいやん。オトモダチ、なりたいな思て」

 

 あっけらかんと言って、宙をゆらゆら浮かぶ彼女。私から見てその表情にウソはない。ニコニコと屈託なく笑っている。

 しかし、彼女は明確に異能者だ。どう接していいものか判断に困る。イズクくんだったらどうするんだろうか。つい、今ここにいない最愛の彼を頼りたくなる。

 

「ね、アナタ、恋してるでしょ」

「はぇっ?!な、なんですか急に!」

「今、好きな人思い浮かべてる顔してたもん。わかるよ。迷ったときに大切で信頼できる人頼りたくなるもんね。うちもそうやから」

「そ、んな顔に出てましたか……えへ。アナタも恋してるんです?」

「うん。うちのはちょーっと特殊なんやろけど、それでもおるよ好きな人」

「……かぁいい」

 

 ぽつり、と思わず口から出た言葉。

 本心から可愛いと感じた時に口にする言葉。

 私は、この宙に浮く異能者の——頬を朱に染める少女を心から可愛いと思ったのだ。

 

「お友達」

「ん?」

「お友達になりましょう、トガたち」

「ええの?うちから言っといてなんやけど、相当怪しいよ?うち」

「それはお互い様です!トガだって似たようなものですし、何よりアナタかぁいいです!だから、お友達、なりましょう」

 

 そう言って手を差し出す私。

 彼女はまんまるな目を、更に丸くして面食らったようにパチクリとさせる。そして少し考えるような、悩むような素振りをみせてから、ふよふよとこちらに近づいてくる。

 そしておずおずと彼女も手を出して言った。その手を私はきゅっと握る。柔らかくて可愛い手だった。

 

「えと、トガちゃん……でええんかな?」

「はい!トガです!アナタのお名前も教えてください!」

「……チャコ。チャコって呼んでトガちゃん」

「チャコちゃん、よろしくお願いしますね!」

「うん。うん!よろしくね」

 

 ——ピコン

 

 聞こえたのはスマホの通知音。私のポケットの中からだ。

取り出してメッセージアプリを開けばそこにはイズクくんから送られてきたメッセージ。

 

IZUKU>母さんがお昼どうする?だって

トガ>食べます!

 

「トガはごはんを食べにおウチへ帰ります。チャコちゃんはどうします?」

「ええよ。うちも友達んとこいってご飯食べるわ」

「わかりました!それでは、またね!チャコちゃん!」

「またなぁ、トガちゃん」

 

 互いに手を振り合って別れの挨拶。

 私はビルから飛び降りるような形で街を駆ける。

 今日はいい日だ。なんたって友達ができた。それもかぁいい子。また会えるかな?連絡先……はちょっとハードル高いかななんて及び腰になって聞けなかったけど、今度会ったときに聞けばいいよね。——当然このときの私はあの未来をしっているはずもなく。楽観的にイズクくんのお家にお邪魔して、インコさんのお料理に舌鼓を打つのでした。

 

 そーめん、スルスル食べられて最高ですねぇ。

 

 

 

* *

 

 

 

 麗日お茶子は天涯孤独の身だ。

 

 幼稚園の頃、両親の職場に遊びに行った日。目の前で事故が起きた。建設現場の地盤が突然に陥没したのだ。現場で指揮を執っていた父は瓦礫と共に地面の下に。そんな父の元へ水分を届けに行くと駆けた母は目の前で重機の下敷きになった。運良く(悪く)お茶子はほんの僅か、数メートル離れたところに居て無傷で生還した。——もっとも、無傷だったのは肉体(カラダ)だけだった。目の前で起こった現実(事故)をその幼い精神(ココロ)は受け入れることを拒んだのか、お茶子は言葉と感情——笑顔を失った。

 彼女を引き取った父方の祖父母は小学校に上がる前に自動車事故に遭って亡くなった。その時もお茶子は無傷だった。母方の祖母は、不吉だと反対する祖父を押し切ってお茶子を引き取ったが祖母もまたその数ヶ月後にお茶子の目の前で心臓発作を起こして死亡。これに恐怖した祖父は他の親族にお茶子を預けようと手を尽くすも、誰もが彼女を気味悪がって引き取ろうとしない。妻に先立たれ、自分に遺されたのは不吉な孫。その心労に耐えられなかったのか、ある朝彼は首を吊った状態でお茶子に発見された。他の親族も次は我が身と彼女を遠ざけたが、()()その親族たちも不慮の事故で死亡ないし意識不明の状態になった。

 麗日お茶子の周囲にあった近しい生命は軽々と消えていった。そして彼女は遂に天涯孤独になって、孤児院に引き取られた。

 

 お茶子は孤児院で生活するにつれ、徐々に表情と言葉を取り戻していった。

 最初は常に隅に居て、誰をも寄せ付けなかった。食事ひとつをさせるのにも一苦労の問題児。

 しかし、彼女に一人の同じ歳で癖毛が特徴の少女が根気強く(しつこく)絡みにいった。初めは同様に拒んだお茶子だったが少女のしつこさに段々と絆されたのか辿々しくも話す様になり、小学校高学年になる頃には笑顔を浮かべるまでになっていた。

 その頃、孤児院にまた別の少女がやってきた。綺麗な髪と目をした少女。彼女もまた、かつてのお茶子と同様に周囲から距離を置いて生活していた。そんな少女を見て、癖毛の少女はにやりと笑った。お茶子は嫌な予感がしながらも癖毛の少女について行く事にした。——結論、二人は三人になって三者三様に笑う様になった。

 そして中学生になった頃、孤児院院長に三人は外での三人暮らしを望んだ。もちろん最初は難色を示した院長だったが、孤児院随一のコミュニケーション能力を持つ癖毛の少女に、元問題児の二人がそれぞれかつて思いもしなかった顔をして嘆願してきたのだ。彼女たちの社会性を成長させる場を与えるのが自分の役目だと院長は、日々嘆願に来る彼女たちに遂に折れた。彼にとって決め手となったのは、それぞれ家族を失った彼女たちに“家族の絆”を見たからだ。

 そうして彼女たち三人は晴れて三人生活を始めることとなる。

 

 それから数年が経ったある日。お茶子は孤児院以来、初めて出来た友達に思いを馳せていた。

 

「なんだか楽しそうだね?麗日」

 

 広いリビングに置かれたソファの上で寝転ぶお茶子に、濡れた癖毛をタオルで乾かしながら声を掛けたのは芦戸三奈だった。

 

「ん?んー、そぉ見える?」

「うん。いつか話してた運命の人……デクくん?だっけ。その人の事話してるときみたいな表情(かお)してる。さては進展あったか?恋バナかぁー?」

「ちゃうよー!もう、デクくんことでからかわんといてぇ!」

 

 茶化すように話す三奈に、キャッキャと返すお茶子。その声に釣られるように、ガラリとリビングの扉が開いてまた一人、葉隠透が顔を出した。エメラルドのような美しい色の髪を無精に伸ばし、その目元までを隠している。

 

「なになに、恋バナ?混ぜてー」

「あ、透ちゃんまで?!」

「おー、葉隠おはよー」

「おは!さぁさぁ話してみよー」

 

 三人寄らば姦しい。その表現がぴったりな空気感でやいのやいのと騒ぐ。

 今回の標的であるお茶子は、“デクくん”というワードに弱いらしくそこを突かれるのが最近よくある流れだ。ニコニコとソファに居たお茶子を今回もその“デクくん”関連だと見た三奈はいつもの様に揶揄い、透がそれに乗っかるというこれまたいつもの流れ。しかしどうやらお茶子の方は違う様で。

 

「もー。ちゃうって!トモダチ!新しくお友達が出来たんよ。気も合いそうな」

「なんだとー?私たちという友がありながら新しく作ったのかー?」

「お茶子ちゃん、浮気?!私たちを捨てるの?!きゃー」

「なんでそうなるん?!しかも透ちゃん、浮気てなんやの浮気て」

「その友達とやらは男?女?それとも……」

「三奈ちゃん?目が怖いよ?女の子、女の子だから。それともーって私の行動範囲にオネエサマおったことないからね?」

 

 質問という名の揶揄いが連射され、それを捌いていくお茶子には少し疲れが見え始めていた。こうなると二人も落ち着いて別の話題に移るのが常。今回、その役目を担ったのは透だった。

 

 「お茶子ちゃんが興味持つって、もしかしてその子()()()()()()?」

 

 その言葉は、一気に空気の温度を下げた。表面上は先程の和気藹々とした様子だが、確かな緊張感がそこに張り詰めた。

 透の問いに、お茶子は少し黙ってから丸い目を少し細めて答える。

 

「うん、多分そうだよ。トガちゃん、使()()()()私みても全然驚いた素振りなかったもん。声掛けられた時は少しびっくりしてたけど、あくまでそれだけ。それにビルの上よ?そんなところに一人で寝転んでる女の子が普通(ノーマル)なわけないやん」

「ふぅん。麗日から声掛けたんだ。それはそれは」

「なるほどねー?その子、()()()なれるかなー」

 

 二人はそれぞれが楽しそうに、けれどどこか剣呑な雰囲気を漂わせてお茶子の言に反応する。

 その様子を見たお茶子は猫が悪戯を企むような表情(かお)をして笑う。

 

「——大丈夫よ。あの子、きっと私と一緒だから。大好きな人を想う顔、かわいかったなぁ」

「お、そのトガちゃん?だっけ。その子も麗日と同じ恋する乙女ってことね。そりゃ親近感湧くわ」

「青春だねー、アオハル眩しいよー」

「あんた目ぇ隠れてるじゃん」

「ホントだ!アハハっ」

 

 いつの間にかリビングに漂っていた緊張感は霧散して、また元通りの姦し桃色空間が広がる。三奈と透はキャッキャと楽しそうだ。これが孤児院の頃から仲良しな三人娘の日常風景である。

 

 そんな日常の中でお茶子は窓の外、ベランダから見える青空を眺めて一人呟く。

 

「ふふ、トガちゃん。トガ……ヒミコ、ちゃん?あぁ、よく分かんないけど、あなたも()()なの?ふふっ。仲良くしてくれるといいなぁ」

 

——お茶子の中に、()()色褪せた記憶(感情)がひとつ。

 




半分くらい書いたところで投稿しちゃいましたね、テヘ
やっちまいました。

ので、あと2000文字ぐらい増えます多分きっとメイビィ

追記:4/18 17話完成させました3000文字くらい追加で……
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