つまり粗い。しかも時間が掛かる。そして執筆は仕事の合間……。
はい、言い訳終わり!
バレンタインのチョコ代わりに捧げる第四話です!
一番最初に無くなるのは、いつも赤のクレヨンでした。
何を描くにも赤色を散りばめて、それを見るたびママとパパは、本当に赤色が好きなんだねと頭を撫でてくれました。
ある日、幼稚園で鬼ごっこをして遊んでいる時。
お友達がひとり転んでしまいました。運悪く花壇のタイルに頭を掠めたみたいで、彼女の額からは真っ赤な血が溢れてきました。
そう、赤色。それはとても、とてもキレイな赤でした。
それからの私はきっと無意識だったと思います。
怪我をしてなくその子に近付いて、流れる血を手で掬います。キラキラと輝くその鮮やかな赤に私は夢中になってしまいました。
そしてどうしてでしょう。ぺろりと、その血を舐めたのです。
頭が痺れるような、ぽわぽわとして幸せな気持ちになりました。
もっと舐めたい。
そう思った私は、未だ泣くお友達の怪我に顔を近付けて直接舐めようとして——そこで駆けつけた先生に引き離されました。
もちろん怒られました。だけど私にそれが届くことはなく、頭の中はさっきの幸せでいっぱいになっていました。
それからというもの、誰かが怪我をすると吸い寄せられるようにその子の元へ行き、傷を舐めるようになりました。
……皆が私を避けるようになりました。
遊ぼうと言っても、ヒミコちゃん嫌いと言われて逃げられます。
先生も、私を気持ち悪いものを見る目で見るようになりました。
そして最後には、ママとパパも私を避けるようになりました。
絵を見せても、褒めてくれることもなくなりました。
家にいると二人が辛そうな顔をするので、幼稚園がお休みの日はお外に遊びに行きます。でも皆が私を避けるので、いつも公園で独り遊ぶのでした。
小学校に入学してからも、私は独りでした。
幼稚園から一緒の子たちから私の話が広がっていました。
ある日、クラスで飼っていたウサギが殺されました。
そして誰かが言いました。
「きっとトガがやったんだ!血を飲むために殺したんだ!」
私は何もしていませんし、何も知りませんでした。
何より、誰かを動物を傷付けることは悪いことです。
何度もそう言いましたが、誰も信じてくれません。
後日、犯人は近所の変質者だということが分かりました。
けれど、噂というのは怖いもので。学校内、少なくとも学年中で、私がウサギを殺したことになっていました。先生に相談もして、集会も開かれましたが、噂は収まるどころか私はいじめられるようになりました。
だけど私は耐えました。
人を傷付けることは、悪いことだから。
だから私は独りで泣くことにしました。
これ以上、幼心に両親に迷惑を掛けたくなかったのです。
泣く場所は決まって、昔から通っている公園の片隅。
そこで私はしゃがみ込んで静かに泣くのでした。
そんな日々を送っていたある日。
いつものように公園の片隅で一人で泣いていると、私に声を掛けてくる子がいました。
「どうしたの?」
その声に振り向くと、そこにいたのはモジャモジャな頭をした男の子が居ました。彼は、私の顔を見て目を丸くしましたが、すぐにそれは心配の目に変わりました。
「ケガしたの?だいじょうぶ?」
俯く私に、彼は目の前にしゃがみ込んで私の頭を撫でます。
「ねぇ、おしえてくれる?きみになにがあったのか」
優しい声でした。その声に、ボロボロだった私はぽつりぽつりと水滴が落ちるように今までのことを話しました。
彼は、聞きながら頷いて、笑ってくれて、怒ってくれました。
それだけでなんだか、私の心に温かな何かが灯るのを感じました。
そして話し終えると、彼は私に向き直って言います。
「いっぱい。いっぱいガマンしてがんばってきたんだね。きみはすごいよ」
そう言って彼はまた私の頭を撫でて褒めてくれました。褒めてくれたのです。久しくされてないその行為に、私は思わず声を上げて泣いてしまいました。そんな私を彼はゆっくりと撫で続けてくれます。まるで、私を許してくれるみたいに。私に、ここに居ていいよと言ってくれているみたいに。
ようやく私は泣き止んで、それを確認した彼はすくっと立ち上がって言いました。その顔は、キラキラとした笑顔で。
「もう、だいじょうぶ!ボクが、きた!!」
そう言って力強く差し出された手。その手を取ると彼はギュッと握り締めてくれました。
それが嬉しくて、また泣いてしまったのです。
すると彼が慌ててあたふたし始めてしまって顔を白黒させました。それが面白くって、私は泣きながら笑ってしまいました。
これが、私の
今の私を形作る、イズクくんとの出逢いでした。
* *
「おいおい。シューイチのやつガチじゃねぇか」
黒モサさん……志村さんといいましたか。
彼は中庭で闘うイズクくんとスピナーさんを観て楽しそうにしています。中庭が見える位置に近くのベンチを置いて、いつの間にやらポップコーンとコーラを片手に試合観戦といった様子です。
「あれ、ホンモノの剣ですよね?!危ないです!イズクくんが怪我しちゃいます!!笑ってないで止めてください!」
志村さんの肩を揺らして懇願する。
スピナーさんのお誘いに乗ったイズクくんを、もちろん私は止めました。危ないですよ、って。やめましょう、って。
だけど彼は、ポンと私の頭に手を置いて言ったんです。
『これはきっと、避けて通れない道だから』
イズクくんはずるいです。そんな顔して撫でられたら、トガはもう何も言えなくなるのに。
遠いところを見据える彼を止められない私が悔しい。
だからせめて、この集まりのリーダーらしい志村さんにお願いをしたのですが。
「あぁ、無理だよありゃ。ああなった男はな、男でも止めらんねぇんだ。見てみろよ彼女ちゃん。あいつらの目をよ」
「言われなくてもイズクくんの目なら見てます。だから止めたいんじゃないですか!」
今の彼の目は、遠くを見つめるものから、更に遠くへ行ってしまう目になっている。遠くが見えすぎて目の前のスピナーさんを見ていない。だから、危ないんだ。
「本当にヤバそうならこっちで止めるさ。頼れる仲間はしっかりと頼らなきゃな」
志村さんの後ろに控える人、別の窓から闘いを眺める人、興味なさげに隅の方に佇む人。そもそもどこかへ出掛けた人。異能持ちとかいう人たちの集まりは自由なものでした。
この調子では、ここの人たちは頼れそうにない。
不安と焦りを感じながら、再び目線を中庭に向けると、イズクくんとスピナーさんの距離が離れて闘いが止まっていた。よかった、終わった。そう思った私は、この後自分の短絡さを思い知ることになる。
ぞわりと、不意に鳥肌がたった。
「……あー、マジか。気に入りすぎだろ」
「え?」
志村さんの呟きに再び中庭へ目を向ける。
すると、そこには目を疑う光景がありました。
「な、なんですかアレ……スピナーさんが……」
スピナーさんの身体は見上げるほど大きくなって緑になって、まるでイズクくんから借りて読んだマンガに出てきたリザードマンみたいな姿に変わってしまいました。
変貌を遂げた彼が上げた咆哮は、窓ガラスにピシリとヒビを入れて私の体を震わせます。
「あれがスピナーの異能だよ。アイツは
「異能……」
志村さんが度々口にする異能。
昨日の夜私たちは、おそらくヘドロになる異能を持った人に襲われたのだろう。あのときはあまりに急な出来事に理解が追いついていなかったのと、イズクくんが隣にいてくれたおかげで特に怖いだとかは感じなかった。アドレナリン、でしたっけ。多分それがドバーっと出ていたのもあるでしょうが。
だけど今。私の周りには知らない人、それも中庭で暴れるスピナーさんのように異能を持った人たちに囲まれていて。イズクくんは隣じゃなくて、内外を隔ててその上でスピナーさんと相対している。
(怖い……。怖いよ)
私たちの生きる世界。日常の隣にある非日常の存在。
その超常に対する恐れ。
そして……
「イズクくんッ!!」
徐々にスピナーさんの攻撃が当たるようになって、傷だらけになるイズクくん。
血を流し、ボロボロになる彼の姿を見て身体が
「止めてください志村さん!あのままじゃイズクくんが死んじゃいます!」
「そりゃ難しい話だ。あそこまで異能を解放するシューイチも珍しくてね。ああなったアイツを止めることはできねぇんだわ」
わざとらしく肩をすくめる志村さん。
他の皆さんも動く気配がありません。
どうしよう。このままじゃ本当にイズクくんが死んじゃう。そう思ったときでした。
イズクくんにスピナーさんの大きな拳が当たったのは。
「イズクくんッ!!!」
殴られたイズクくんは吹き飛ばされ、建物の壁に叩きつけられて地面に落ち、動きません。
その光景は、私に絶望を与えました。
——イズクくんが、死んだ。
その現実に視界が真っ赤に染まって、頭の中がめちゃくちゃになるのを、切り離されたように冷静な私自身が私を見つめます。
ゆらり、とまるでお化けのように私の身体は外へと向かおうとしています。
「おい、お前が行っても死体が増えるだけだぜ彼女ちゃん」
志村さんは忠告しますが、私の身体は聞く耳を持たないらしく、物言わなくなったイズクくんを見つめながら歩を進めます。
他人事の様に私自身を見つめる私も喪失感から無理矢理に自分の身体を止めようとは思えませんでした。
——イズクくんの指が、ピクリと動くのを見るまでは。
身体と心が再びひとつになった私は瞬間、視界の端に写った”武器”を持って駆け出しました。
「愛されてんなぁ、緑谷。あの色男め」
被身子が去った窓際で、転弧が一人ごちる。
それが聞こえたのか、後ろに控えていたひとりが話しかける。黒髪をポニーテールにした少女だ。
「貴方だって内心穏やかじゃないでしょうに」
「シューイチがあそこまで気に入るなんてマジで意外だったんだ。その上、緑谷は異能を発動できないときた。穏やかじゃねぇよ」
「聞いた話だと昨日覚醒したばかりなのでしょう?まだ異能の発動さえまともにできるかも怪しい段階でしょうに。だというのにこんなことをして……。どうするつもりなのですか?本当に死んでしまうかもしれませんよ」
咎めるように彼女は言う。プリプリといった音が飛ぶような怒り具合だ。
「説教はよしてくれよ。それは後でシューイチにくれてやれ。それに、いよいよとなったらお前らがいるだろう」
「それは……そうですが。一体何が貴方を惹きつけるのです彼は。確かに身体能力は高いようでありますが、
「輝き、だよ」
「輝き、ですか」
少女は、転弧の答えに鸚鵡返しする。
彼女にとってその言葉は抽象的に過ぎた。
「あー、まぁ要するにだ。お前たちを仲間にしたのと同じ理由だよ」
「……そういうの、ズルいですわ」
「おっ。これは俺にも色男の才能があるってことか」
「んもう!揶揄わないでくださいまし!」
プリプリと怒る少女にけらけらと笑う転弧。
少女は背を向けてどこかへと行ってしまった。
大方、出久が助かる手筈を整えにいったのだろう。
すぐにそう思い当たる程度には、転弧の仲間に対する信頼は厚いものだった。
適材適所。自分の出る幕まで待つ姿勢を作り、転弧は中庭へ視線を戻した。
「さぁ。見せてくれよ緑谷出久。お前の、その輝きを」
* *
拳が迫る。
僕の死の具現化がそこにある。
時間は酷くゆっくりと進み、加速した思考は過去を想起させる。久しぶりに見る走馬燈。そして最後に見る走馬燈だろう。
今までは、先生たちにプロヒーローという先達。そしてA組をはじめとしてB組の同期たちに先輩方、士傑など他校のヒーローの
そしてピンチのとき、走馬燈が走っても
だけど”今”は……。
(皆が、居ない)
元々弱い自分だ。根っこの部分は変わっていないことは自覚している。それでも、皆に誇れるように。あの戦いで死柄木弔から贈られた「がんばれ」に報いられるように。オールマイトに託された”次”を繋げられるように強くなれたと思っていた。
(それがこのザマか……。皆が、仲間が居ない僕はこんなにも弱かったんだ)
何がいつかに備えるだ。何が守るだ。僕はその舞台にすら立てていないじゃないか。後悔に心が呑み込まれる。
気付けば目と鼻の先にまで死は迫っていた。
恐怖はない。あるのはただ後悔だけ。その中でも特にひとつの後悔。
(あぁ、麗日さんとまた……。せっかく伝えられたのになぁ)
それはもう10年前の記憶。
忘れてしまった思い出もたくさんある。
しかし、今でも褪せずに残るもの。
(ごめん、麗日さん。さようなら——)
かつて唯一自覚した、皆 特別とは別の特別。
そんな彼女に謝罪と別れを思って僕の人生は終わりを迎える
「やめろォ!!」
——ことはなかった。
スピナーの右拳が僅かに内側へブレて、僕の頬を掠めて壁に刺さる。それを理解するや否やスピナーは後ろへ跳んで距離を取った。
そして僕の前に誰かが立ち塞がる。そこには、
「私が、相手だ……!」
ヒミコちゃんが居た。
手には消火器。スピナーの拳がブレたのはそれで殴りつけた?いや、そんなことよりも。
「ひ、みこ……ちゃ、ダメ……逃げ……」
まともに出せない声でヒミコちゃんに伝える。
今のスピナーは恐らく一種の暴走状態だ。そんな彼の前に立てばたとえヒミコちゃんであっても殺されてしまう。この瞬間に彼女が立っていられるのは一重に運だ。スピナーの思考が野生のそれに侵され警戒心が高くなっているが故の幸運に過ぎない。
僕の声を聞いて、彼女は僕に向き直り傍に消火器を置く。
そしてしゃがみ込んで、僕の頬にその温かな手を添えて目と目をしっかりと合わせて、泣きそうな、けれど慈愛に満ちた顔で言う。
「今まで、トガはイズクくんに守ってもらってばかりでした。それが嬉しくて、でも悔しかったんです。イズクくんはいつも、とっても大人でどこか遠いところを見ていました。そして淋しそうでした」
ゆっくりと紡がれる言葉。
そのひとつひとつが丁寧に、確かに僕に沁み込んでくる。
「イズクくんはきっと、トガを通して何かを見てる」
不意の言葉に、どきりとした。
そんなつもりはなかった。だけど、違うとすぐに否定できなかったのは単純に声が出ないからとかそういうのではなくて。きっと図星だったのだろう。
僕は自分勝手に罪を贖おうとした。
あのトガヒミコとは違う、こちらで出逢った渡我被身子。
かつて救えたかもしれなかった。何よりも、麗日さんの心にずっと遺った罪そのもの。
僕は救いたかったのだ。麗日さんの心を。
僕は救われたかったのだ。かつて救えなかった罪から。
その為に、この世界の渡我被身子を……。
「でもそれでよかったんです」
無音の懺悔を遮るように彼女は言った。
「どうあれイズクくんはたくさんのものをくれた。くれ続けました。でもトガは何も返せていません。隣に居てくれた優しいイズクくん。だけどその隣にトガは立ててない。それが悔しかったんです」
彼女は言って僕の頬をひと撫でした後、ゆっくりと立ち上がって再び消火器を手に取り背を向ける。
「もう、嫌なんです。先を走るイズクくんを独りにするのは。守ってもらってばかりいるのは」
両の足で地面を踏んで、警戒するスピナーに相対する。
その背中はとても大きく見えて。
「だから今度はトガが……、
消火器を振り上げて、迷いを断ち切るように振り下ろす。
「もう大丈夫。
そう宣言した彼女の姿には——
かつての
今話もお読みいただきありがとうございました!
なんとかバレンタイン中に投稿できました……。
前書きであんなこと言いましたが、あわよくば週一は投稿したいなーなんてことも思ってたりします。はい、善処です。
例によって推敲なんて崇高なことしてない(できてない)ので誤字脱字誤用等ありましたら優しく教えて頂けると幸いです。
また、お気に入り登録してくださった皆様。
誠にありがとうございます。
ご期待に応えられるよう更新し続けていけたらなと思います。
いつになるか分かりませんがまた次回お会いしましょう。