僕のヒーローヒストリア   作:透亜九郎

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仕事中でバンダイの新作プラモを何も予約できなかったので第6話です。
オープンフェイスを予約できなかったのが一番辛い。

そんな悲しみを背負って書きました。


Re:No.006 ようこそ、UA倶楽部へ!

 

 薄暗い。

 アクアリウムに囲まれた部屋。

 

 水槽には異形の水生生物が跋扈している。

 嫌悪と神秘を混ぜて作った異端の海がそこにはあった。

 

 部屋の中心にはルーレットの遊戯台が鎮座していて、その周りを囲むようにソファが並べられている。

 室内端にはバーカウンターというにはお粗末な、申し訳程度のカウンター席。

 

 その空間で、痩せ細った幽鬼のような男がひとり。琥珀色の液体をチビチビと飲んでいた。

 

 男は窪んで伺えない目元をさらに伏せて、その表情はまるでわからない。

 

「なにか、嬉しいことでもあった?」

 

 バーカウンターから声がする。

 しかしそこには誰もいない。何も無い。

 

「——はい。ようやく私の人生の成果を、その口火を切ることが出来る」

 

 幽鬼は喉奥をクツクツと鳴らして答える。

 その声は地獄から響くようなドス黒い音だった。

 

「それは”あの子”のおかげ?」

「ええ。彼はいい子に育ってくれた。ウチのガラクタをあてがった程度では障害にもならないほどに」

 

 男は嗤う。怒りと絶望が綯い交ぜになった黒。

 

「うれしいならその様に笑うべきだよ」

「この私はそれをとうに忘れて、いえ元から無かったのかもしれませんね」

 

 幽鬼は自嘲し自らを嘲笑う。

 姿の無い声の主は、悲しげに嘆息した。

 

「君には、苦労をかけるね」

「とんでも。これは私が成すと決めたことです。私の業だ。あなたにだってあげるものか」

 

 嗤いを消した幽鬼は静かに、怒りを込めて言う。

 

「これは清算です。全て、全て、全て——だから。全て、作り直そう」

 

 

 

* *

 

 

「で、結局なんですけど」

 

 ピザにチキン、スナック菓子にジュースが並べられた机が、廃病院の待合室に鎮座する。各々が思い思いにそれを食べて談笑し始めてから三十分程が経った頃。

 

 出久は唐突に声を上げた。

 

 やけに通った声に、その場全員が喋るのをやめて出久の方を見たのを確認して彼は口火を切る。

 

「結局、この集まりって何する集まりなんです?」

 

 空気が、時間が一秒凍る。

 

「なにって、そりゃあ」

「ですわね……」

 

 意味深な空気を作る転弧と百に、ごくりと唾を飲む出久——と被身子。

 溜めに溜めたそれを言い放ったのは果たしてスピナーだった。

 

「平和の礎だ」

 

 自信満々のそのしたり顔に、転弧と百。そして出久と被身子までが白い目を向けた。

 

「もう一度言う。平和のいし——」

「オーケー、シューイチちょい黙ろう」

 

 転弧がスピナーを止める。

 百はといえば眉間に指を当てて、やれやれといった様子。

 

「スピナーくんの言ってること、あながち間違ってないんだけどねぇ」

 

 声の方に出久が向くと、そこにはクリーム色の薄手のカーディガンをシャツの上から着た清潔感のある男が居た。

 その隣には身を小さくして座る少年。

 

 

「おっと!自己紹介がまだだったね。私は飛田、飛田弾柔郎。となりのこの子は口田甲司くん。よろしくね」

「…………!(汗)」

 

「ジェントルに口田くん?!?!」

 

「うん?」

「……?(汗)」

 

「あっ、いえ。ナンデモ……」

 

 思わず叫んだ出久。二人の容姿は自分の知る二人とまるで違っていた。

 ジェントルはジェントルしていないし、甲司はそもそも異形型という括りすら無い世界だから知っている姿であろうはずもない。

 

 見た目のインパクトがある二人だからこそのリアクションだったのだろう。

 

 そんな出久は、多少の怪訝な顔をしつつも追及しない二人は人間として()()()()()なぁと、先の闘いを思い出してしまう。さすがに、いきなり決闘を挑んだ上でお互い意識を失うような闘いをする人は他にいないようで安心もした。

 

 

 ジェントル、もとい弾柔郎はひとつ咳払いをして話を進める。

 

「スピナーくんの言ったことは、まぁ、大袈裟な表現ではあるけどね。異能持ちが行った犯罪行為を、同じ異能持ちが抑制するという活動をしているのさ」

 

 あくまで一側面に過ぎないけどね、と付け足して弾柔郎が一旦言葉を止める。どうやら質問はないかという間を作ってくれたようなので、出久はありがたく問うことにした。

 

「ようするにヴィジランテ——自警団のような感じでしょうか」

「随分と格好いい言い方が飛び出たが、そうだね。言ってしまえば自警団さ。ただし、さっき言ったようにそれはあくまで一側面。この集まりの根幹は、互助関係を作ることにあるのさ」

「異能持ち、世間からズレた人同士でのコミュニティを作ることで、互いの存在を肯定することが目的と?」

 

 出久の答えに弾柔郎だけでなく、被身子以外の面々も目を見開いた。

 その空気で口を開いたのは百だった。

 

「そうです。私たちはいわば()()()()()()ですわ。だからこうして集まって概念的な居場所を作ったのです。……といっても主導しているのは志村さんですが」

「おい、この流れで俺に振るなよ」

「恥ずかしがることありませんわ。立派な活動かと」

 

 転弧は右手で顔を隠して俯く。

 おそらく百が言うように照れているのだろう。

 

 しかし出久の目にはかつての死柄木弔の姿が重なって見えて、心に陰がさすのを感じる。

 

「……大丈夫です」

 

 小さく聞こえたのは被身子の声。

 袖を引いて出久に囁かれた言葉。

 

()が居ますから」

 

 それを聞いて、出久の心に掛かった雲が薄くなる。

 かわりに暖かな陽が差したような心地がした。

 

(敵わなくなったなぁ……)

 

 心の中で苦笑いを零して、被身子には目線で頷いて応えた。それを見た彼女はにっこりと笑って、出久は思わずぎくりとした。

 

 そんな内心を隠すように、出久は口を開く。

 

「この集まりは、異能持ちの互助かつ犯罪抑制を目的として設立されたと。……それにしては随分な歓迎を受けましたが」

「その件については悪かったよ。二割ぐらいは俺の責任だ。お前の異能を開花させたかった、というか見てみたかった俺のエゴさ。八割はシューイチの自己管理能力な」

「む……。志村の言い方に異論はあるが……。俺の未熟さが招いた事だ。改めて二人に謝罪を。申し訳ない」

 

 スピナーは出久と被身子に深く頭を下げた。

 それをみてけらけらと笑う転弧の頭を百がわし摑み無理矢理下げる。

 

「百ちゃん、強いです!」

「……っソウダネ」

 

 はしゃぐ被身子に、思わず笑いそうになるのを堪えた出久。この集まりの力関係は随分とはっきりしているようだ。弾柔郎と甲司も困ったように笑い、スピナーは苦い顔をしていることからもそれが伺える。

 

(八百万さんはどこでも八百万さんなんだなぁ)

 

 出久は過去へ思いを馳せながらも、”今”に対して感慨を抱く。掛かっていた靄は既にない。今この瞬間を生きると決めた、その決意は揺らがない。

 

「そういえば気になってたんですけど」

 

 徐に被身子が口を開く。

 

「この集まりってなんか名前あるんですか?」

 

 純粋な疑問。たしかに出久も気になっていたところだ。彼らは”集まり”としかここを表していない。というよりも意図して濁しているような雰囲気さえある。

 

 そんな疑問を投げかけられた彼らはというと。

 

「「「「「…………」」」」」

 

 全員が全員、苦い顔をして顔を背けた。空気は微妙な重さ、というよりぬるさを感じさせる。

 

「……もしかして、ないんですか?」

 

 出久が問う。それ対して百が微妙な顔をしながら答える。

 

「ないわけではないのですが……その、方向性の違いがといいますか……。定まっていないのですわ」

「それっていくつか呼び方があるって事?モモちゃん」

「ヒーちゃんさんの仰る通り、各々が好きな呼び方をしているもので……」

 

 被身子が百に確認をすると、苦々しい肯定が返ってきた。

 出久がそれに対して更に問う。

 

「ちなみにどんな名前が?」

 

 それに転弧がついに口を開いた。

 

「……異能連合、正義執行戦線、異能互助の会、アブノーマルティーパーティー、なかよし集会」

 

 羅列された、バラバラの名前。どれが誰のものかすぐに分かる個性に溢れたネーミングだ。

 

「そろそろ決めなきゃなと思ってるんたが、いかんせん我の強いというかアクの強い面々でね。この有り様だ」

 

 肩をすくめる転弧。そこで彼は何か思いついたように目を見開いた。

 

「そうだ、緑谷。お前が決めてみろ」

「え、僕が?!なんで?!」

「お前らはここの新入り、つまり新しい風ってやつだ。ついでにシューイチが掛けた迷惑料に俺らの集まりの命名権をやろう」

「いやいやいや。僕そもそも加入するなんて言ってないですし、異能持ちじゃない被身子ちゃんを巻き込まないでください!」

 

 急な提案という名の押し付けに出久は抗議する。

 

「巻き込むなっつってももう既に異能を知って、お前の近くにいる時点で巻き込まれてるも同然じゃねぇか。だったら一緒にこっち入っちまった方がお前にとっても渡我を守りやすいんじゃねぇの?」

「それは——……」

「いいじゃないですかイズクくん!入りましょう!トガはどうあれイズクくんの傍にいるんですから」

「……被身子ちゃん、それはずるいよ……」

「ふふふー。オンナノコはズルくて賢いものなのです」

 

 むふー、と胸を張る被身子に間も無く折れてしまう出久。

 それを見た百は目を輝かせて、口元に手を当ててあらあらとホクホク顔だ。

 

「あー、もう。わかった、わかりました入りますよ!!」

 

「尻に敷かれてるねぇ」

「やはり女は強いのか……」

「やったぁ……!(汗)」

「はは、ウケる」

 

 半ばヤケになったように叫んだ出久に、男性陣は思い思いの感想を述べた。

 それをキッと睨み付ける出久と、百へ駆け寄り二人でキャッキャと喜ぶ被身子が対照的だ。

 

「それで?名前でしたっけ、集まりの。決めろって言われても僕にネーミングのセンスなんてありませんよ」

「あー、いいよいいよ。俺らじゃ言い合いになってラチあかなかったからそれ押し付けたいだけだもんよ」

「さっき詫びとしてとか言ってたくせに……」

 

 ジト目で転弧を睨め付けながらも、出久は頭を回す。

 

 異能連合、正義執行戦線、異能互助の会、アブノーマルティーパーティー、なかよし集会。

 

 先程挙げられた案を思い出して、どうにかいいものをと思考する。

 

(というか連合ってネーミング好きだなこっちでも)

 

 黙して考える出久に、一同の期待の目はその熱を増していく。出久としてはプレッシャーだ。

 

(ヒーロー、異能、連合、互助、集会、紅茶——はどうでもいいか。この要素を使って僕が決めるとしたら、僕なら……あ)

 

 なにかを思いついた様子の出久に、転弧が目ざとく気付き、ニマニマと笑みを浮かべて問う。

 

「何か思い浮かんだ顔だな?緑谷」

「ええ、まぁ」

「よし。聞かせてくれよ。お前の考えたこの集まりの名前をよ」

「あまり緑谷さんをイジめない」

「あでっ」

 

 転弧は茶化しながら回答を促す。百はそれに対して頭をはたくことで戒める。

 

「では僭越ながら。僕の考えたのは、Unusual Alignment Club(普通じゃない人達の互助団体)。略してUA倶楽部です」

 

 発表し、訪れる無音。

 それを受けてやっぱりダメかと思ったそのとき、

 

「UA……英雄を逆さにしてんのか」

「なるほど、表立っては動けぬヒーローの様を想起させるカッコいい表現だ。感服した」

「……クラブってかわいいな(笑み)」

「倶楽部、なかなかオシャレだねぇ」

「私達の案がまとまったようないい名前だと思いますわ!」

「イズクくん!ないすねーみんぐです!」

 

 出久が発表した名前は口々に賞賛を受ける。その波に呑まれたのか、出久の顔は思わず赤くなってしまう。

 

「おぉし、決まったな。というかリーダー?たる俺が決めた。今この瞬間から俺たちは”UA倶楽部”だ」

 

 そう宣言する転弧に沸くメンバーたち。

 オロオロとする出久には被身子が飛び付いている。

 

 転弧は立ち上がって出久と被身子に向き直り、姿勢を改めて……といっても若干猫背で陰気さは残るが……二人に告げる。

 

「じゃあ、改めて緑谷出久に渡我被身子。お前たち二人を歓迎しよう。ようこそ——UA倶楽部へ」

 

 こうして二人は、正式にUA倶楽部のメンバーとして迎えられたのだった。

 

 

* *

 

 

「で、ついに俺の出番ってか?オッサンよォ」

 

 薄暗いアクアリウムの扉の前に立つのは頭からつま先までを漆黒の装甲で覆う何者かが、幽鬼の男に問いかける。

 

「そうだとも。キミの力を世に知らしめるときが来た」

「ケッ、そいつはなんとも感動的だな。さんざボロっカスに扱ってきたんだ。このイライラを発散できるんならなんでもいい」

 

 黒の男……フィルターが掛かってくぐもってはいるが少年のような声に幽鬼は苦笑いを溢す。

 

「面白くもねェのに笑いやがって気持ち悪りぃな相変わらずよォ。んで?俺ひとりでやりゃいいのか」

「辛辣だなキミは。いやね調()()が終わったのが一機いるから連れて行くといい。他は……まぁチンピラを用意してあるよ。多少弄ってはいるが」

「こいつはお守りを押し付ける気だなテメェ、俺の出番こねぇじゃんかよ」

 

 悪態をつく黒を幽鬼は宥めてから話す。

 

「これはね、大切な緒戦なんだよ。初手から切り札を切る必要なんて更々ないしそれは悪手だ。キミがもし手を出さなきゃならなくなったなら一分だけあげよう。それ以上続くなら即座に撤退だ。いいね?」

「ッチ。わぁーったよ。やりゃいいんだろやりゃ。戻ったら奢れよな」

「とびきりのアレを用意しておくさ」

 

 バタンと扉を乱暴に閉めて、黒の男は部屋を去った。

 

「……後悔はしないかい?」

 

 カウンターの方から姿ない女性の声。

 

「ええ。それが私の選択した正義ですから」

 

 

 ここに、狂った歯車がその歯を鳴らして歪に回転を加速させる——




書いてる途中に設定生やしてるせいでそろそろ齟齬が発生し出すんじゃないかな?な第6話如何でしたでしょうか。
なんだか私みたいに怪しいヤツが生えてきましたね?(X参照)

ライブ感といえば耳触りいいんですけどねぇ。
どうなることやら。

そんなこんなでまた次回お会いできたらと。
感想評価等、お待ちしております。
頂けると筆者が勝手にハードル上げて苦しむ様を見ることができます。
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