過去の魔女   作:蕾-RAI-

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風の魔女:かけがえのないもの

 3人はあまり人気ない場所に降り立つ。

 当たりを見渡してみると、完全に街は破壊されていた。

「もう、人は居なさそうだね…」

「いいやどこかに隠れている人が居るはずだよ。」

 瀬界の発言に2人はうなずく。一度、この街に住む春香に連絡してみることとなり、芽生が電話をする。

「ダメだ…取らない」

 これからどうするか、3人が考え始めたときだった。

 強風が吹くと、3人の身体に切り傷がいくつもできて血が流れる。

「なに…?」

 三人は前を見る、そこには背の高い薄い黄色の髪色をした見覚えのある人物が立っていた。

「まさか…」

「春ちゃん?」

 芽生が彼女の名前をつぶやくと、目の前の人物は振り返る。

 目元には目隠しのようなものがつけられているが特殊なもので、黒くメカメカしいもので赤い横線が怪しく光っていた。

「久しぶりだね3人とも。」

 春香が喋りだすが、声色は冷たい。

「あとごめん。」

 そう呟いて、春香は腰を少し落とす。

「春ちゃんなにしようとしてっーー!」

 芽生が話をしている途中、突風が吹く。

 瀬界と共に2人は反射で目を閉じる、花の目の前に春香が一瞬で現れると急いで花形の盾を作り出す。完成間近のところに春香の左拳が直撃するとそのまま勢いよく街に向けて弾き飛ばされていった。

「春、ちゃん…?」

「……。」

 その光景を見ていた芽生は少し困惑した目で見つめ、瀬界は静かに見つめている。

 春香は振り返ってそんな二人を見る。目元が隠れているため、どんな目をしているのかは全くわからない。

「なんで、こんなことを?」

 瀬界が口を開き、質問する。

「…。」

 だが春香は黙ったまま二人を見つめる。

「ッ!!?」

 再び突風が吹き、今度は芽生の目の前に近づく。

 その時には、芽生のストッパーは外れた。同時に魔女の力が開放される。

「芽生ちゃん!春ちゃん!」

 芽生の足元から黒い液体が流れ始めると数十秒で黒い結界を作り出した。芽生は春香を中に閉じ込めたのだ。

 

 突然の事で少し驚くが、春香は目の前の芽生に向けて腕を振り上げる。

「なっ…」

 だが芽生は1歩後ろに下がり、黒い液体の壁に姿を消す。

 春香は一度動くことをやめる。相手がどんな行動をするか、様子を見る。

「…ッ!!」

 春香の後ろから、青く目を光らせて銀色に光る1本のナイフを握り、力強く振り上げた芽生が現れる。

「やっぱり後ろだよね…」

 そう春香はつぶやくと、風が吹いたかのような素早い動きで芽生の右腕が握るナイフを叩き落す。

「芽生、ごめんだけど私はあなた達の敵にならないと行けない。だから許して。」

「なに言ってッ!」

 目の前に立っていたはずの春香がまた消えて1秒、腹部を強く殴られ体勢を崩されると地面に押さえつけられる。

「くッ…どう、して…!」

「あいつらから取り戻したいんだ。」

「とり、かえす…?」

 気が少し緩み、黒い液体は溶け出はじめて芽生の身体に吸収されていく。

「芽生ちゃん!!」

 反対側から瀬界が向かってくる。

「…やっぱり無理。」

 目隠し越しから流れる涙を見た芽生は一瞬動きが止まった。腕を上げて駆け寄ろうと――

「春ちゃ――」

 まるで邪魔をするかのように突然、突風が吹くと芽生と瀬界は街の方に勢いよく吹き飛ばされて行った。

 春香は目隠しを外して、涙を服で拭う。

「……ごめん、3人共。」

 春香は悲しそうに小さく呟いて、3人を飛ばした街の方とは反対の方向を向いて何処かへ歩いて行った。

 

 春香に吹き飛ばされた花は、空中で気絶したまま街の方へ猛スピードで落ちていく。

 地面に叩きつけるまであと3秒、花の意識が突然目覚めて魔女の力を使用する。背中に大きな花を作り出すと、それが彼女を包み込むとゆっくり枯れ始めると地面につく頃には完全に消えて花が現れる。

「…なに、いまの…」

 花自身は困惑していた。吹き飛ばされたあとの記憶が全く無いからだ、普通一瞬であんなことをするのは不可能だった。まず、花はまだ魔女の力を完璧に扱えていない。

「そんなことよりも、春ちゃんだ…デュラタン!」

 花から名前を呼ばれると、地面からデュラタンが現れるとそのまま空中で留まる。

「なんでしょうか主様。」

「あの春ちゃんは、魔女に覚醒してたの?」

 春香から感じるものは少し人間らしくないモノを感じ取れた。それは芽生や瀬界からも似たものを感じ取っている。

「彼女は、半分のみ覚醒しています。ですがそれでも中途半端な力です、それに風の魔女の側近が見当たりませんでした。」

「居なかったらなにかだめなの?」

「側近は魔女の近くに居ないと行けない掟です。力を発動させたとき、余分なエネルギーが出ないようにするため必要なのです。」

「そうなんだ…ひとまず春ちゃんをどうにかしないと…」

 その時だった、花のもとに突風が吹き出した。

「あれは…。」

 目の前から春香に飛ばされた2人がこちらに来ていた、花は力を発動させて先程のように巨大な花を作り出して受け止める。

 けれど上手くできたのはここまで、クッションに着地したかのように二人はバウンドして地面に着地する。

「芽生ちゃん、瀬界ちゃん!!」

 花は二人のもとへ向かう、芽生は下を向いて少し複雑な表情をしていた。

「どうしたの…?」

「春ちゃんに、なにかあったみたい。」

「あの中で話してたの?だったらなにがあったのか教えて。」

 芽生は一度深呼吸をして、話を始めた。

「少し戦闘に入ったとき、春ちゃんが『あいつらから取り戻したいんだ』って。春ちゃんの言うあいつらは、多分空人のことだと思う。」

「一体なにを……」

 3人は春香の家族についても、何も知らない。だから、春香がなにを取り返したいのかという答えはわかるはずがない。

 

 春香は風の街にある塔の最上階に到着し、しばらく目隠しをつけながらゆっくり歩く。

「会えて殺したかぁ?魔女共を。」

 目の前には首にマフラーのようなものをつけた青年の姿をした空人が椅子に座って居た。

 春香は彼を見ながら答える。

「…少し無理だった。」

「へぇ、逃げられたか?それとも、逃したか?」

 空人は春香を睨みつける。春香自身は少し焦り気味に話す。

「す、少し…力が使いこなせなかっただけ…次は必ずやるから!累だけは…!!」

 春香が取り戻そうとしているのは、妹の累るいだった。

 空人は少し呆れた表情をしながら

「次はないからな?楽しみにしてるぜぇ?」

「…っ…」

 春香は右手を強く握り締めながら下を向く。

 大切な友達をこの手で殺めるなどできない、でもそうしないと大切な妹が殺されてしまう。だから友達を殺す。でも、春香自身はまだ迷いがあった。 

 春香は振り返り、また長い階段を降りていった。

「行ったか。魔女には魔女でいいだろ、オレたちじゃ相手にならないしな。」

 そう言って隣で眠る累を見た。

 魔女は予想外の力を持つ、ただの人間でも、その上の空人でも届かない力を魔女が持っている。だから今は空人は魔女に勝利することはできていない。今は。

 

 3人は移動して、誰かの家だった場所に居た。

 完全に半壊、元は結構広いものだったのだろう。だが今は半分以上壊れている。

「この街の塔はどこに建てられているの?アモネス。」

 瀬界は自身の頭にいる側近のアモネスに聞いてみる。

「大体の場所はわかるけど、ちゃんとした場所はその魔女の側近しか知らないワ。」

「そうなんだ…」

 風の街の塔は、風の魔女の側近しかわからない。

「塔に行けたら、少しはなにかわかると思ったんだけれど…」

「春ちゃんのこと?」

「うん。もしかしたら前任の魔女からなにか言われていたりしないかと思って…」

「ソンなこと、するわけがないよ」

「確かに、そうだよね…え?」

 瀬界は後ろを振り返った。同時に花たち二人も前を見た。

 だが誰も居ない。それでも今聞こえたのはデュラタンやアゲラム、アモネスでもない別の人物の声だった。

「ここだよ、したー!」

「し、した…?」

 3人は視点を下げる、そこには約30センチの猿のような生き物がいた。

「お久しぶりですね。」

「おぅ、元気だったかい?」

 猿はデュラタンと知り合いなのか普通に会話している。

「この小さい猿が、この街の側近よ。」

 アゲラムの発言で3人は驚いた声を上げる。

「うそ…じゃあ!」

 花は四つん這いになると、小さな猿に向けて一つ質問する。

「春ちゃんがどうしてわたし達の敵になったか教えて?」

「…ソレはできないかな、口止めされてるし」

「そう、なんだ…」

 口止めするほど、教えられない事情が春香にはある。それは自分たちの敵にならないといけない。

「教えられないけど、おいらの手助けをして欲しいんだよ。」

「なにかあったんですか?」

 花が小さな猿に聞く、彼は少し悩んだ表情をして

「少し、塔に邪魔者がいてねぇ…困ってるんだよぅ」

 3人は塔に行けば春香と会えると思い、すぐに着いていくことを決めた。

 

 3人と3匹、1本は崩壊した街から再び森の中に入っていく。森に入ると、紅葉の落ち葉が辺り一面に敷かれている。その上を小さな猿を先頭に、魔女とその側近2匹が列になって歩いていた。

 しばらく歩くと、森を抜けて立ち止まる。少し離れた場所には古びた塔が建っていた。

「ここが、風の街の塔…」

 瀬界は少しワクワクしたような目で塔を見ているが、他の2人は逆で気を引き締めていた。

 瀬界は塔に気が行き、気づいていないが目の前から誰かが来ることを感じていた。

 それはこの街に来た時に感じた時と同じ。

「春ちゃん…」

 花が呟くと、塔の方から1人の女性がこちらに歩いてきた。結ばれた髪が風でなびく。

「来てたんだ、みんな。」

 春香には機械のような目隠しが着けられている。

「春ちゃんは、なんでわたし達の敵になったの?なにかあったなら教えてよ…」

 花は春香に向けて質問する。本人はすこし額に手を触れさせて少し悩むが――

「ごめん、無理。」

 そう言って、春香は目の前から消える。同時に風が吹くと花は右腕を上げてから手を開いた。

 目の前には花の形をした大きな盾が出現するとドンッと強く殴られた音が鳴る。春香の右拳が盾に直撃していた。

「なっ…!?」

 盾の外側にある花びらを模した6つが伸び、春香を捕まえる。

「芽生ちゃんッ!」

 そう名前を呼びながら後ろに下がる、すると春香の影からドロっと芽生が現れる。そして芽生は空間を作り出す。

「またか…」

 芽生が作り出した暗闇の空間。春香の目の前には青い瞳が現れ、壁から左手にナイフを握る芽生が現れる。

「教えてよ、アタシは春ちゃんを殺したくないよ…」

「…ッ」

 芽生はそっと右手を伸ばして、春香の頬を優しく撫でながら自愛に満ちた声で語りかける。春香は少し涙目になると

「わたしだって…私だって本当はこんなことしたくないよ!!」

 本当の声を、強く、魂に叩きつけるように言い放つと同時に今までよりも強い、台風のような風が吹いたことで春香を掴んだ盾は破壊され、空間も破壊されると芽生は吹き飛ばされて地面に倒れる。

「でも…妹を取り返すにはこれしか方法がなくて…!大切な友達をっ…殺せだなんて、できるわけがないよッ!!」

 本音を吐いて、地面を強く殴りつける。

 そこに瀬界が歩み寄り、そっと抱きしめる。

「その言葉が聞けただけで安心した。はるちゃんはここで待ってて、あとはボクたちがやるから…!」

「おね、がい…」

 瀬界は立ち上がり、倒れた芽生のもとにいる花と顔を合わせると花は芽生を支えながら立ち上がって一つお願いする。

「春ちゃんをお願い。」

「気をつけて、2人共…」

 芽生は春香の元に、瀬界は花の隣に歩いていく。花たち二人は塔に向かっていった。

 

 塔の中に入った二人は、螺旋階段を上がっていく。

 数分後、最上階に到着する。目の前の椅子には人ではあるが、ただの人じゃないなにかが座っている。その隣にはベットのようなものに誰がが眠っている。

「やっぱ使えないなぁ。風の魔女は、自分の家族がどうなってもいいてかぁ?」

 少し爽やかな男性の声が室内に響き渡ると、彼はゆっくり立ち上がった。短髪の髪に、座って見えなかったが腰には白い羽根があり空人であることがわかる。

 人差し指を天井に向けると、爪の先に光輪が現れるとそれを隣の人に向かって放つがギリギリのところで花が盾を作りだしたことで防ぐことができた。

「チッ…しかたねーか。相手してやるよ。」

「はや――!」

 瞬く間に一瞬で近づかれ、二人は首を掴まれて壁に押さえつけられる。

「ぅっ…」「ぁ…」

「お前ら二人はオレの速さについてこれねぇよ。」

「でゅ、ら…たんっ!」

 ゆっくり自身の側近の名を呼ぶと、空人の後ろから大きく口を開けたデュラタンが現れるが一瞬で移動されてしまった。

 だが首から手が離れたことで二人は咳込みながら息を整える。

「すぅー…」

 花は一度大きく息を吸い込み、力を集中させる。同時にデュラタンの体がうっすら光り始める。

「糸」

 両目を赤く光らせ、発動させた。右腕を勢いよく空人に向けて振ると糸が伸びて行く。

「だから無駄だっての」

 すぐに回避されてしまい、糸は壁を少し抉ると空人が逃げた場所に伸びていく。

「なッ!!」

 またすぐに移動して回避するも、糸は壁にぶつかるとすぐに追いかけてそのスピードは上がっていく。

完全に逃げ場を無くし、とうとう両腕両足が糸で絡まり、離さないように縛り付ける。

「あーぁ、つまんね。」

 だが光輪を4つ作り出すとそれを放ち、自分を縛る糸を切り刻んだ。

 それを操作し、二人に襲いかかる。

「…」

 だが花は硬い糸を出すと、光輪を包み込む。そして目から赤い血が流れる。

「花ちゃん、あの子をお願いね…!」

「せ、かいちゃん…?」

 瀬界は走りだすと空人とともに壁を壊して地面に落下していった。

 花はゆっくり立ち上がって、ふらふらとベットに眠る誰かを見に行くと灰色の髪をした少女がすやすや寝息をたてて眠っていた。この子が春香の妹の累だ。

「よい…しょっ」

 花は累を抱き上げると急いで螺旋階段を降りて行った。

 

 壁を壊して同時に落下している瀬界は力を発動させる。

 異世界の魔女の力は魔女自身の想像した世界を一時的に具現化する。だが、この力を発動させるには集中することが必要なため、動き回る彼が無抵抗になる瞬間を待っていた。

 世界が変わり、暗い城に二人は着地する。

「なんだ、ここは…ッ!?」

 突然世界が変わったことに困惑する空人に重い鎖が巻き付けられる。そして目の前には勇者が持っているような剣を持つ瀬界が居た。

 瀬界は剣を空人の首近くに持ってくる。

「なぜ春ちゃんの妹を拐った?」

「教えるわけねぇよ、ばぁーか…」

 舐め腐った表情とバカにした言い方で瀬界を煽る。瀬界の手が震え、そのまま剣を振り下ろすと器用に空人は鎖だけを切った。

「しまった…!」

「あんがとよ」

 瀬界に向けて拳を放ったとき、世界が変わり溶岩が空人を焼く。

「アァッツ!!」

 体が溶けるような暑さで攻撃を中断する。創った瀬界には効果はなく、そのまま一気に近づくと飛び上がって左脚で顔を蹴りつけ、続けざまに右足で胸を蹴ると体勢を一番低くして足を引っ掛けて体勢を崩させる。

「テメッ!!」

 空人は光輪を作るとそれを放つ、が熱さで解けてしまう。

「はー…ハッ!」

 瀬界は地面に拳を叩きつけると、空人の背中から盛り上がり空中に浮く。

 両手を広げると溶岩は瀬界の元に集まると一つの球に変わり、それを投げる。

「ぐっ…がぁぁぁ!!」

 空人の身体が焼かれながら壁に叩きつけられると世界が元に戻る。

 地面に勢いよく叩きつけられ、瀬界は綺麗に着地する。

「はぁ…」

 瀬界の視界がぐらつくがすぐに治ると、ゆっくり塔の壁に手を付きながら春香たちの元に向かっていった。

 

 視界が少しふらつく中、花が塔の階段をゆっくり降りていると抱きかかえた累が目が覚めた。

「ここは…?」

「塔、だよ…大丈夫、すぐにお姉ちゃんに会えるからね…」

 花は累の背中を優しく撫でる。

 そんな中で花は自分の姉の桜を思い出す。自分のこともあるはずなのに花のことを優先し、たまに喧嘩してもすぐ仲直り。休日にはよく買い物に行ったりしていた。

(だけどもう、居ない…でもこの子だけは…)

 あの日、平和が壊れた日に母も姉も失った。春香という家族がいるのなら絶対に平和に過ごして生きてほしいと願い、少し抱いている手に力が入った。

 螺旋階段を降りたが足を踏み外し、花は体勢を変えて自分が背中から倒れて累を守る。

「いたた…」

「大丈夫…?」

 累が心配し、花に駆け寄る。

「大丈夫、ほら…お姉ちゃんのところに行って?待ってるよ」

 累は頷き、外に出て姉の春香のもとに走り出した。

 けれど、その判断は完全なミスだった。

「お姉ちゃん!!」

 塔の入り口から元気にこちらに走ってくる自分の妹を見つけると、春香は急いで立ち上がって走り出す。

「累っ!!」

 花も瀬界も、芽生も安堵した表情で見つめる。

 だが、瀬界の隣りから風が吹くと累の目の前に何者かが通り過ぎていった。

「……!?」

 一瞬のことで瀬界が困惑する。

 一方、累が春香に触れようとしたときだった。右手に切り傷ができるとそこから体中に斬られた後ができるとそのままバラバラに地面に落下した。

 春香の累を抱きしめようとした腕は空振り、服や頬に血液が付着する。

「…ぇ?」

 なにが起こったのかわからず、春香も花も芽生も目を大きく開く。

「る…い…?」

 春香の目が下を向く、その視界に映るのはもとは累だった切り刻まれた臓器、指、目と血液だった。

 そんな中、一人の男の高笑いが4人の耳に入る。それはまるで不愉快に感じる。

「良いざまだ!!ハッハッハッ!!」

 怒りで震えるながら、ゆっくりと声の主の方を向く。腰から生えた白い羽根、そいつの両手に握られた鋭い鎌。

「…このゴミが――」

 春香の怒りに満ちた低い声が誰にも届かない大きさで呟くと突風が吹いて空人の元に向かって頭を掴み、そのまま大きな木に顔を強く叩きつける。

「お前も同じようにしてやる…!!」

 叩きつけられたことで額から血が流れ出すが、腕を動かし木を切り刻むと体をねじり足で春香の腰を蹴りつけると掴んだ手が離れると、一瞬で消える。

「どこだ…」

「ここだ」

 後ろを振り返ると、右腕を振り上げた空人の姿が目に映る。風の力で高速で動き回避する。

「ハハッ…!」

「っ…」

 高速で動く二人は、ぶつかり合う。

 どんどん森の方に向かい、時々木が切り落とされる。そのスピードはゆっくり速くなっていき、春香は追いつけなくなる。

「どうした?もう限界か!」

(速すぎる……)

 等々、春香の両手が切られてしまい血と共に宙を舞う。累の血に、春香の血がつく。両手からは血が吹き出す。

「終わりだァ!!」

「うっ…」

 腹部を勢いよく蹴られ、花たちのいる方に吹き飛ばされて地面に転がる。

「春ちゃん…!」

 3人が春香の元に駆け寄ると瀬界は彼女の両手が無くなっていることに気づく。

「切られ、ちゃった…」

 苦しい顔で、無理矢理笑顔を作って安心させようとする春香の足元に両手が投げ捨てられた。

 3人は後ろを振り返り、空人を睨みつける。彼は愉快に笑ってこちらを見ている。

「次は足を切って動けなくしてやるよ。」

「…すぐ治すから待ってね。」

「その間、アタシがやる。」

 芽生が立ち上がり、空人の元に向かっていく。

「お前が相手か?」

「そう、…ぶっ飛ばしてやる。」

 目を大きく開けて、倒す相手を逃さないと青い瞳が睨みつける。

 芽生の靴の足裏からドロドロと黒い液体が地面に広がり始め、動きが少し止まると一瞬で空人の足元にまで広がった。

 空人は下を向き、自分の足を軽く動かす。ドロっとした液体が足の裏にひっつき少し伸びる。

「この程度でも追いつけるわけねえよ…あ?」

 前を向くと、そこには芽生の姿はない。

「一体どこだ…」「ここ。」

 視界の端から光るナイフ、それに映る目を大きく開いて驚いている自分の顔。

 だが一瞬で回避される。

「なんだ…あいつ…」

 芽生を見つめていると、左頬が少し違和感を感じて触る。

「血…」

 自分の手に付着したのは自分の血液。

「なーんだ、当たってるじゃん。」「…は?」

 腕を伸ばせば届く距離に立っている芽生に驚く空人、彼女はニコッと可愛らしい笑顔を向けると空人の足元がなにかに掴まれる。

 黒い液体から伸びる複数の腕は彼の足を強く、強く握りしめて離さない。

「なんだ…これ…」

 困惑する空人に芽生はそっとナイフを首元に持っていく。

「死ねよ。」

 可愛らしい笑顔とは真逆に、目に光がなくまるでゴミを見るような目で見つめて言い放つと空人の首を切ろうとした。

 だが、突然芽生は顔から倒れ、黒い液体は芽生の身体の中に集まっていく。

「なん、だ…」

 空人が前を向くと、目の前の木の前に誰かが立っているが姿がわからない。そいつは後ろを向いてどこかに去っていった。

 なにがなんだかわからず立っている空人に風が吹く、そして顔を殴られて地面に転がる。

「累と…芽生の仇だ。」

「なんで、斬りおとしたはずだ…」

 芽生が空人と戦っている間に花の力を使い、離れた手を元に戻しており春香は再び勝負を挑む。

「はっ…いいぜ、こいよ…本気でなァ!!」

 二人は同時に前に動き、拳と拳がぶつかり合う。

 春香は片足を上げて顔を攻撃するが、回避され地についているもう片方の足をつかって飛び、その足で腹部を蹴りつけ地面に倒れる。

 空人は後ろに少しさがると、鎌を手にとり斬撃を放つ。その斬撃を風の力で弾き、どこかに飛ばしていきながら春香は近づいていく。

 だが斬撃の攻撃は強くなっていき、弾き返すにも時間がかかる。

 そして攻撃を受けてしまい、目隠しが壊れてしまった。

「ッ……」

 目隠しには風の力を使った高速移動でのストッパーのような役割なため、この状態で力を使えば危険だ。

「じゃあな、なにも守れない魔女!」

 空人は最大出力の斬撃を放つ。後ろには花たちがいて動くことができない春香は立つだけ。

「風丸!!」

 そう誰かを呼ぶと、小さな竜巻が春香の元に向かいそのまま巻き込んだ。

 その後、斬撃が直撃する。

「春ちゃん!!」

 花が彼女の名前を呼ぶ、その瞬間火花が散った。

「なんだ、その力…」

「風の魔女、完全覚醒!」

 春香の肩に乗っているのは風の魔女の側近、先程呼んだ風丸という名前はその側近のことだった。そして彼は春香に風の魔女のもう半分の力である〈火の力〉を渡した。

「行くよ…!」

 春香は体勢を低くすると火花を散らしながら一気に近づく。空人はそれに追いつけず目を大きく開く。

 ニヤリと勝利を確信した口をして空人の腹部に何度も殴りつける。何度も何度も、死んだ妹の分まで。

「がっ…」

 完全に弱り、そのまま一発蹴りを入れると大爆発が起こる。空人の身体は真っ黒になり、崩れ落ちていった。

 

 春香は目を閉じて顔を上げる。

「終わったよ、累…」

 そう優しく呟いた後、バタッと力が抜けて地面に倒れた。

 そんな春香のもとに3人が駆け寄る。

「大丈夫?」

「…少し、疲れたかも…寝る…」

 数十分、春香は眠りについた。

 目が覚めたあと、累の身体を土の中に埋め手を合わせ別れの言葉を言う。

 

 残る街は、幸ゆきのいる〈氷の街〉だけ。4人はその街に向かっていった。

 

それを見つめる一人。顔を仮面で覆っている。

「あれがキミが狩る魔女だよ。」

その後ろから雲のような髪色をした男がやってくる。

仮面の人間は返事などせず、ただ黙って魔女達を見つめていた。

 

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