【R18個性】も『クソナード』に掛かれば【強個性】 作:『代行さん』
◇◆◇◆◇
爆豪勝己
「おい、デク」
緑谷出久
「ど、どうしたの?かっちゃん?」
爆豪勝己
「雄英を受けるな、なぁ?デク?」
深緑色の癖毛の少年、本名を"緑谷出久"というー"デク"というのは彼を今恫喝している"かっちゃん"と呼ばれている少年"爆豪勝己"から蔑称としてつけられた名前、あだ名である。
現在恫喝と共に緑谷出久の肩から煙が上がっている。これは爆豪勝己の待つ特殊な能力【個性】による作用であった。爆豪勝己は【爆破】という汗腺から
発火性のある汗を分泌し、緑谷出久の制服を焦がしている最中であるー何故この様な仕打ちを受けているのか
◆◇◆◇◆
数刻前
担任の先生
「今から進路相談の紙を配るぞ」
やや老けの見られる男性がそう言って『進路相談』の紙を取り出した。『進路相談』と書かれ、長方形の図が3個並んでいるお馴染みの用紙である。
しかしそれらは配られることなくー
担任の先生
「とは言っても皆んな『ヒーロー科』志望だろうけど」
担任の先生の言葉と共に放り出された。そんな言葉に合わせる様に教室が各々の【個性】で賑わった。騒音、歓声、環境音と様々。
担任の先生
「分かった、分かった落ち着け」
担任の先生は宥めながらも満面の笑みをこぼしていた。ヒーロー科とは文字通り"ヒーローを育成する学科"である。【個性】が世界各地で確認された頃、それによる犯罪が発生するまでに長くは掛からなかったー能力は悪戯にそれまでの常識、社会性を崩壊へと導いた。
そんな中【個性】を持ってしてこの『個性犯罪』の沈静化に乗り出したのが『秩序を取り持つもの』ヒーローなのである。コミックさながら皆の目を引き注目の的になる役割ー夢、架空の存在などではなく現実に存在しーそれは今や『将来なりたい職業』において堂々の一位、トップを独走している職業。
爆豪勝己
「クソくだらねぇ」
教室が【個性】で賑わいを見せる中、金髪尖った髪、鋭い目つきの爆豪勝己が一蹴した。クラスのトップ的な少年の呟きに一瞬の沈黙が訪れるも再び再燃した。笑いながら口々に「敵わない」と言った様子を口にすることで。
担任の先生
「爆豪も確か雄英を受けるんだったな」
爆豪勝己
「あぁ」
爆豪勝己は担任の言葉に短く肯定を述べることで周囲は彼に対して、尊敬と畏怖を込めた視線を向けた。爆豪勝己に向けられる視線の数々は彼にとって心地の良いものに他ならなかった。気分を良くした爆豪勝己は勢いを増すと徐に立ち上がり、机と椅子を足場に誰よりも高い位置で宣言した。
爆豪勝己
「俺はこのクソ平凡な学校から唯一の雄英進学者になり、ヒーローランキングを独走!最高納税者になってやるぜぇ!!」
そう高々に宣言した爆豪勝己は一般生徒の発言により体を"こわばらせる"ことになる。
一般生徒
「あれ?先生、"も"ってことは?」
担任の先生
「あぁ、このクラスからもひとり、雄英を受けることになってる」
周囲は『どよめき、ざわめき』誰だー誰だと見回す。しかし、爆豪勝己だけはそんな中、頭を伏せ蹲り"他とは違う"行動を見せている生徒を見逃すことはなかった。その生徒こそが現在詰められている緑谷出久だった
◆◇◆◇◆
緑谷出久
「で、でも今年から個性による選抜は廃止になって実質無個性でも受験は可能に…」
爆豪勝己
「まだ気づかねぇのか?」
緑谷出久はその顔に苦悶に歪んだ笑顔を浮かべながら早口に説明をした。そんな説明も虚しく無視されると爆豪勝己にもっていたノートを取り上げられるーその表紙には『将来のためのヒーロー研究vol.22』と書かれていた。
緑谷出久
「か、返してよ!」
爆豪勝己
「まぁ、待てデク」
緑谷出久
「返…」
緑谷出久は取り上げられたノートを返す様に頼むも目の前で起きた小さな爆発によってノートが見るも無残な形になるのを"まじまじ"と見せつけられた。ノートは表紙が焼け焦げ、黒煙を立ち上らせている。
緑谷出久
「!?」
挙句それは窓から投げ捨てられ、空中で広がり一瞬の浮遊を見せた。
爆豪勝己
「無個性のテメェが雄英に進学できると思うか?」
爆豪勝己は改めて言葉を口にした。その表情は自信に満ち溢れ、その他を有象無象と見下しているのが容易に想像できるほどの嘲笑を浮かべていた。【爆破】はそれ程までに"ヒーロー"として申し分のないレベルの【個性】だった。
そんな嘲笑が取り巻きのクラスメイトに伝播を見せる中
爆豪勝己
「俺はな、この凡…」
取り巻きの生徒
「爆豪避けろ」
取り巻きの言葉に爆豪勝己は戸惑い顔を挙げるとそこには、緑谷出久が今にも爆豪勝己に掴み掛からんと走り出していた。爆豪勝己は右腕で咄嗟に顔を覆うもー予想だにしない位置に圧迫感を受けよろめいた。
右肩が力強く押され背にしていた窓を正面に捉える様に"よろめく"爆豪勝己ー攻撃としては"イマイチ"と言って差し支えない程に弱く余りに脆弱だったそれに"戸惑い"を飲み込み視線を上げる。
そこには足を振り上げ窓の縁に足を掛ける緑谷出久の姿があった。
躊躇なく飛び出した緑谷出久は、はためく制服をそのままに窓から身を投げた。空中で広がりを見せていたノートはその羽を閉じ今にも落ちようと準備を進めている。それを緑谷出久は捕まえると身体は落下を始めた。
取り巻きを含む生徒は唖然とし、続く豪快な水音に"ハッ"と我に返った。
窓枠から身を乗り出し下を確認すると緑谷出久は体を半分ほど濡らす様にして鯉の生簀に浸かっていた。ノートを庇う様に右手を上げた姿勢で。
爆豪勝己
「…雄英受けるなデク」
取り巻きの生徒
「爆豪、帰ろうぜw」
他の取り巻きの生徒
「やりすぎw」
緑谷出久のそんな様子に冷ややかな視線が向けられる。放課後の夕暮れが深まる景色の先、爆豪勝己は何を思ったか
爆豪勝己
「…そうだデク」
口を開いた
爆豪勝己
「来世は個性が発現するように、屋上からお祈りワンチャンダイブw」
教室から聞こえる高笑いに緑谷出久はノートが濡れなかったことに安堵しつつ、飲み込む様に呟いた。
緑谷出久
「屋上からのワンチャンダイブ…か」
◆◇◆◇◆
夕焼けと夜が広がる空の下、生簀の飛沫で変色したノートを軽く叩きつつ、濡れた制服は着替えることなく、下敷きにしてしまった足を引き摺りながら帰る緑谷出久はふと、工事現場の仕切りから覗く足場だけのビルが目に止まった。
緑谷出久
「…」
緑谷出久は長い間仕切りを見つめ、夕焼けから来る陽により伸びた陰が彼をを覆い隠したと同時に仕切りをすり抜ける様にして中へと入ったー足の裏でなる石や砂利を踏みつけ、錆の目立つ鉄骨のみのビルを見上げると
その一階へと入った。
鉄骨一本、一本から伸びる陰が陽の光を遮り、一階の通路を階段へと向かう彼を悪戯に見送って行く、《カツンカツン》とやや厚みの弱い金属板の足場は歩く度に彼のローファーとぶつかり音を反響させている。
緑谷出久は階段を上がる最中、何度も何度も目の下を掻いた。掻きむしった。涙すら流れなくなった下瞼。クマになりにくいのか誰も気づかなかった。しかし、陽の光がチラつくこの瞬間には疲れを露わにして度重なる瞬きへと誘った。
酷く乱れた呼吸の果てに強風吹き荒ぶ、屋上に一人佇んでいた。稀に止む風の圧が「跳んでしまえ」と彼の背中を押し続ける。そんな屋上の錆びた手すりから下を見ればいやでもその高さに目眩を起こすだろう。
緑谷出久
「個性が…ないから」
緑谷出久はゆっくりと深呼吸をした。しゃくり上げたひと呼吸は余りに寂しく、余りに呆気なく吸い終わった。熱の逃げた口内が唾液で潤い始める。
手すりにかけた手をそのままに身体を上下に揺らすとへたり込みー誰にも聞こえない屋上に少年の泣き叫ぶ声が響いた。憧れの職業、憧れた将来、憧れた人、それら全てを屋上の古ぼけたタイルに向け、涙と共に吐き捨てた。
ひとしきり涙と嗚咽、叫び声を上げた緑谷出久はゆっくりと
緑谷出久
「自殺教唆だよな」
大きく涙をすすり上げた。苦笑いで歪んだ口元、その端から垂れる唾液と涙、汗で顔中がぐちゃぐちゃになっている。緑谷出久はポケットから縫い目だらけのハンカチを取り出すと顔を拭き、下への階段に向き直った。
緑谷出久
「母さんを残しちゃダメだよな」
緑谷出久は【無個性】で生まれた中学3年、彼は個性社会では珍しく【個性がない】状態で生を受けていた。それは酷く不利な状況で、憧れを追うには余りに無謀といえる境遇だった。
緑谷出久
「そうだ…明日先生に進路変更届を出さな…!」
そう『だった』
突然の強風に身体が少し浮いた緑谷出久は咄嗟の判断で身を屈め事なきを得た。ちぎれ飛んだ
緑谷出久
「待って!」
彼の後先を考えない悪癖が最悪の形で身を結んだ。風に乗ったノートの一部が柵に引っ掛かり軋む音を立て、その後を追っていた緑谷出久は不意に吹いた強風によりバランスを崩し
落ちた
◇◆◇◆◇
緑谷出久
「うわ!!」
ベッドから飛び起きた緑谷出久は勢い余って床に倒れ込んだ
緑谷出久の母
「出久!?大丈夫?凄い音がしたけど」
緑谷出久
「大丈夫だよ母さん」
床にぶつけた頭を押さえながら緑谷出久は母親に返事をした後ー《パタパタ》とスリッパとフローリングの接触音が遠退いていった。緑谷出久は先程まで見ていた夢の内容を思い出しながら胸に手を当て、呼吸を整えた。
確かに脈打つ心臓に安堵を覚えつつ、手のひらを眺めた。夢の続き、あの事故の続きー黒く変色した指先から肩に掛けての範囲は起きてなおー覚めることのない実態として目の前に残っていた
緑谷出久
「…」
手のひらを見つめて数十秒が経った時
緑谷出久
「うわ!?」
手のひらに線が引かれる様にして瞼の境が出現すると目の玉が現れ《ギョロ》っと緑谷出久を見つめ返した。
緑谷出久
「やっぱり夢じゃないよね」
苦笑いを浮かべる緑谷出久とその手のひらに現れた目の玉は"しきり"に周囲を見回し瞬きをした。
緑谷出久の母
「出久?ご飯ができたよ?」
緑谷出久
「今行くよ母さん」
未だ不可解な現象ながら日常生活に支障がないとあって半ば無視をする形の緑谷出久は母親の呼び声により我に帰ると立ち上がり、自室の扉へと手を掛けた。
『緑谷出久は【個性?】を発現した』