【R18個性】も『クソナード』に掛かれば【強個性】 作:『代行さん』
身体から流れ出る血液が溜まり始め、誰がどう見ても緑谷の身体は限界を迎えていたー筋肉を含む身体中の器官が痛みと発熱を訴えかけていた。それでも尚緑谷は地面に手をつき、黒霧を眺めていた。
黒霧
「何とも醜いですね」
闘争心の冷めていない眼光に黒霧が心底うんざりした様子で言い放った。その直後、緑谷の首を囲む形で影が現れー縮小を見せ始める。
黒霧
「これで終わりです」
上半身だけを肘で持ち上げている状態の緑谷ー地面に平行に現れた影は緑谷の首を両断できる軌道を表していた。
緑谷出久
「何も」
縮小する影が緑谷の首に触れようとした瞬間『影は爆ぜて消えた』
黒霧
「!!?」
緑谷出久
「奪わせない!!」
『影に触れていた手を血溜まりに戻した緑谷』は力の限り地面を押し出すと共に両足で踏ん張ると『血溜まり』諸共飛翔した。限りなく地面と平行に近い姿勢と初速を維持するエアロダイナミックフィールドは『黒霧の知覚』を上回る速度で黒霧の肩を弾き飛ばした。
黒霧
「ック!」
もつれ込む様に両者は倒れ、装置が宙を舞った。黒霧は装置を手元に寄せようと躍起になるもー続く緑谷の血液が顔の形を崩したことで事態の把握を困難にした。
黒霧
「小癪ですね」
黒霧が顔の形成に戸惑っている間に緑谷は勢いのまま転がり地面に突っ伏した。宙を舞った装置は放物線を描くと自ずと緑谷の近くに落ちた。
黒霧
「やれやれ、手負のヒーローは厄介ですね。何をするか分かったものでは」
血の雨が止み、黒霧のモヤが形を取り戻していきーやがて体勢を整えて立ち上がった。そして装置を回収するべく『装置と緑谷の方向』に振り返り一瞬の隙が生まれた。
黒霧
「?」
『黒霧の驚嘆』ー緑谷の手から目が黒霧を凝視していた。その間僅か1秒未満ーしかし、その隙が装置回収の猶予を緑谷に与えた。
黒霧
「何を!!」
『緑谷は装置を徐に被った』ー癖毛を巻き込む形で強引に頭から通された"それ"は緑谷の耳で止まり"目隠し"の様に装着された。機械の駆動音が警報鳴り響く施設の中でも鮮明に聞き取れた黒霧は驚きのあまり再度硬直を示した。『個性増幅装置』の起動が完了した直後、緑谷は力なく横から地面に崩れる様にして倒れ伏した。
黒霧
「…ッ?」
黒霧は動かなかったー"再三"の虚を突く行動に気をつけなければならなかった。目の前のそれはピンの抜けた手榴弾の如く、いつ爆発してもおかしくない危うさを孕んでいた。そして、その警戒は間違いなく正解と不運を引き当ててしまった。
緑谷の腕が膨張を始め、流れ出していた血液が黒色の液体へと変化を始めた。黒霧の警戒の眼前で緑谷の"変態"は終わり、全身が真っ黒な姿ー空間にぽっかりと穴が空いている錯覚を持って佇んでいた。
黒霧
「姿だけが変わったところで意味はありません!」
周囲をざっくばらんに埋め尽くす影が黒霧の叫びと共に配置され総じて縮小を始めた。そんな中微動だにしない緑谷の顔面の中心に線が入ると上下に開かれ眼球が出現した。『眼球は乱雑に辺りを確認すると流れる水が如く収縮する影を寸出で避け』黒霧の目の前で黒霧を凝視ー瞬きをした。
黒霧
「ッ!?」
四度驚きの間もなく、黒霧は開いた天井ー黄昏時に染まる空が覗く穴を見上げる形で床に叩きつけられた。投げられた感覚も"それ"に類する衝撃の一切もなく転がされていた。休む間もなく持ち上げられた黒霧は隙を見て極小の影で緑谷の手首を覆い切断を試みた。が
黒霧
「これは!」
先程の回避は何だったのか、緑谷に触れた瞬間ー影が爆ぜた。黒霧の六度目の驚きより先に空から両手を組んだ脳無が颯爽と侵入し、着地際ー緑谷へと殴り掛かった。がしかし『拳は手首から折れ曲がり緑谷に触れる事はなかった』
緑谷の手は黒霧を離し脳無の腕を掴み上げると目にも止まらぬ速さで壁へと叩きつけ、続け様に反対の壁へと投げつけた。圧に耐えきれず千切れた脳無の腕を放り捨て緑谷は歩き出した。
黒霧
「仕方がありません、今日のところは…!?」
『七度目の衝撃』ー黒霧の周りに影が現れ、脳無と黒霧を隠し始める中、緑谷は瓦礫をいつの間にか持ち上げており、黒霧に目掛けて今、飛翔を始めた。瓦礫は影に僅かばかりめり込み脳無を引き摺り出したーしかし『大半の瓦礫は緑谷と反対の壁に当たり砕け散った』
緑谷
『空間…移動』
口元の液体が裂け、緑谷の口が独り言をつぶやいた。影の縮小が瓦礫の速度を僅かばかり上回り、【空間移動】により逃走を許してしまった。踵を返し緑谷が脳無の近くに移動しようと足を一本踏み出そうとして地面に転がった。それというのも身体中を覆っていた黒色の液体は所々解れており、限界といった様子だった。
警備ロボット
「警告、このフロアへの立ち入りは禁止されています」
警備ロボットと共に駆けつけたヒーローが目にした惨状ー『研究保管室』は円状の部屋に壁にいくつものポッドが壁に沿って備え付けてあり、それが床から天井まで規則正しく並んでいる設計。なのだが吹き抜けとなった天井と"ヒビ"だらけのポットの数々、所々に血痕、血溜まりがあるばかりだった。
ヒーローA
「君!大丈夫か!」
瓦礫の中、ヒーローは横たわる緑谷を見つけた。しかし声掛けや反応を窺う行動の一切に反応がなかった。呼吸はなく、脈もなく、体温もなしー閉じられた瞼は誰が見ても死体だった。
ヒーローA
「報告!一般客1名を発見、意識不明の重態、至急応援を求む!」
ヒーローB
「こちらも1人発見、意識はありますが反応がありません」
緑谷の反対側の壁に座り込んでいる脳無もまた発見され、搬送されることになった。