【R18個性】も『クソナード』に掛かれば【強個性】   作:『代行さん』

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夏休み2日前『自傷』

朝食をとり終え自室へと戻った緑谷出久は机に向かうとノートを広げ、何が起きているのかについて書き起こしを始めた。その間も目の玉は手のひらから親指の付け根に移動するとノートを眺めていた。

 

◇◆◇◆◇

 

ノートに書き起こす程に鮮明に思い出せる記憶の中、あの時ノートの切れ端を無理矢理に掴んだ体勢は風に押されるがまま、前方へと倒れ込み、屋上に設けられていた"手すり"に身を預けることになった

 

緑谷出久

「危なかった」

 

頭部が屋上から出ており、ノートの切れ端を掴んだ腕が腹の下で手すりを掴んでいる体勢、『身を乗り出している』状態ー体勢を整える為に手すりに力を入れた瞬間。鈍い音と共に身体は浮遊感に包まれた。丁度、窓から放り捨てられたノートの様に

 

緑谷出久

「あ」

 

気づいた時には既に手遅れだった。投げ出された身体は支えのない今、落ちることしか叶わず、"単調な世界"ー景色が形を線に変形させると緑谷出久の身体は地面に直撃した。

 

頭頂部から諸に突っ込み、頸椎を通して走る痺れに身悶えする間もなくー続けて落下してきた瓦礫が緑谷出久目掛けて降り注いだ。

 

◇◆◇◆◇

 

緑谷出久

「僕は、あの時潰された筈だけど」

 

手からペンを離すと緑谷出久は両腕を前に突き出し眺めた。光に照らされるそれはまるで"精巧"に作られた黒い義手とも見える。極め付けは義手の上に出現する目の玉、白目に"一回り"小さな黒目のある一般的な瞳、埋もれているというよりは少し飛び出たそれは時折現れると周囲を見回すか緑谷出久を凝視するかの動きを見せ、気がつけば消えている。消えるときは目を閉じる様に消え繋ぎ目などは確認できない。

 

緑谷出久

「怖い感じはちょっとある。けど」

 

思い描いていた個性とは毛色の違う個性に戸惑いつつ、改めてペンを持つと緑谷出久は個性について纏めると『僕の個性ノート』と題名をつけると勉強に取り掛かる為に別のノートを取り出した。

 

 

 

『歴史』の勉強をする中で目に入ったのは『個性覚醒期』の混乱と鎮静化までの社会の変化だった。

『個性覚醒期』の始まり、確認できる最古の個性はCの国の病院内で生まれた【光る】赤ん坊、生後間も無くして衰弱したとのこと。これを皮切りに世界各地で【個性】が確認され始めると『混沌期』へと突入した。

 

緑谷出久

「個性ってなんだろう」

 

歴史を読み解くうち、緑谷出久は思った。個性がその言葉の意味、個人を形成する特徴ー特性から、個々人が有する力を指す言葉になった現状は察するに『主張する"表面的な個性』であり、何故突如として世界に広まったのか不思議に思った。

 

気がつけば目の玉が手の甲から緑谷出久を凝視していた

 

緑谷出久

「…」

 

緑谷出久もまた目の玉を見つめ返した。手の甲の目の玉は視線を逸らすといつもと同じ様に周囲を見回し、一度瞬きをすると消えていった。

 

緑谷出久

「びっくりした」

 

蛇に睨まれた蛙の様に呼吸すらとめていた緑谷出久は止めていた呼吸を再開した。いつも音もなく現れ、一頻り周囲を眺めて消える目の玉に未だ慣れていない様子の緑谷出久はノートを閉じると席を立った。

 

自室の扉を開け、リビングまで向かった緑谷出久は気がつけば時計の針が一周していること、母親が外出中であることを今になって知った。

 

リビングからキッチンに移動し、冷蔵庫の中に入っているペットボトルを取り出し、コップの中に麦茶を注い手に違和感を感じた。

 

緑谷出久

「何だ?」

 

ペットボトルをコップの隣に置き、代わりにコップを持ち上げると一気に飲み切った。冷たかった。

 

緑谷出久

「感覚がない?」

 

持ち上げたコップには結露が僅かに生まれる程には冷たくなっているにも関わらず、掌から伝わるべき冷たさは緑谷出久には感じることができなかった。"真冬に凍えた手"に現れる『痛覚の鈍くなった感覚』に似ているもの"より"強くした『感覚の消失』が現れていた。

 

緑谷出久

「どういうことなんだ」

 

感覚の消失に驚くなか、ペットボトルを冷蔵庫に戻すと緑谷出久はシンクに溜まっている食器の内、包丁に目が止まった。冷蔵庫の"とって"から手を離し、包丁に手を伸ばし掴み上げた。よく研がれ年季を感じる包丁を持ち上げ眺めた緑谷出久は

 

『徐に人差し指に向けて突き立てた』

 

振り下ろされた包丁は人差し指を貫通ー切断に至ると勢いをそのままにキッチンのスペースに接触。予想以上の挙動、勢いは緑谷出久を巻き込み体勢を前方に崩れー自身に向き直りつつある包丁に目掛けて倒れ込んだ。まさに『切腹』といった体勢。

 

しかし、そうはならなかった。

向き直りきった包丁。キッチンのスペースに接触した手の甲が緑谷出久を"常人なら倒れ込んでいる体勢"で支えていた。

 

緑谷出久

「って、うわぁ!?」

 

慌てて包丁から身体を離す緑谷出久は勢い余って冷蔵庫の角に後頭部をぶつけ悶絶した。

 

緑谷出久

「何で包丁なんて」

 

逆手持ちされた包丁を眺め、不思議に思いながら包丁を元の位置に戻すと。シンクに目を止めた緑谷出久はスポンジを手に取り、泡立てると食器を洗い始めた。

 

 

 

自室での勉強に戻り数分が経った時「ただいま」と玄関から母親の声が聞こえると「お帰り母さん」と返事をした。耳に入るビニール袋の数は『4つ』それぞれに食材の入った音がした。緑谷出久は自室から出ると母親からそれを受け取りリビングまで運んだ。

 

緑谷出久の母親

「食器洗ってくれたのね。ありがとう」

 

緑谷出久

「ちょっと目に入ってね」

 

緑谷出久の母親

「あら?何かしらこれ」

 

緑谷出久

「どうしたの?」

 

緑谷出久の母親

「何か黒いものがあったのよ」

 

そう言って母親は摘み上げられる程度の大きさのそれを緑谷出久に見せ手渡した。手のひらにすっぽり収まる程の大きさに長さ、どこか覚えのある形状からやや輪郭の薄ぼけたそれを見て緑谷出久は

 

緑谷出久

「何だろうこれ?」

 

緑谷出久の母親

「出久のじゃないの?その手袋の素材とか」

 

緑谷出久

「そうかも、ごめん」

 

緑谷出久は"それ"をポケットに入れると冷蔵庫に持ってきた様々を入れ自室に戻った。

 

 

 

緑谷出久

「何だろう、これ?」

 

自室の天井に向け、照明に透かす様にかざした"黒い何か"を不思議に思いながら眺めていると不意に目の玉が現れ周囲を見回した。

 

緑谷出久

「あれ?」

 

目の玉は視線を黒い何かに向けると"その"黒い何かは忽然と姿を消した。摘み上げていたのは確実だったが何の前触れもなく忽然と消えた。

 

緑谷出久は身体を預けていた椅子の背もたれから起き上がると手の甲と"ひら"を交互に確認し、机の下ーベッドの下を探し、確実にないことを確認した。

 

緑谷出久

「どこにやったんだよ」

 

緑谷出久は目の玉に話しかけた。しかし、返事は返ってくることなくーやがていつも通りに消えてしまった。

 

緑谷出久

「まぁいいか」

 

不思議に思いながら緑谷出久は椅子に腰をかけると未だ謎多き自分の両腕を見つめた。黒い何かの正体が分からない緑谷出久はため息を吐くと支えに向き直り勉強を再開した。

 

それから

『緑谷出久は目の玉が現れる度に一言二言話しかける様になった』

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