【R18個性】も『クソナード』に掛かれば【強個性】 作:『代行さん』
医者
「痛みはないかい?」
緑谷出久
「問題ないです」
入院して2か月ー緑谷は手の触診を受けていた、"黒色"になっていないこと以外は概ね元通りになっていた。緑谷は【個性】のことより進路と勉強について考えており上の空になっていた。
医者
「やはり不思議だ」
触診を終えた医者は採血に移った。
緑谷出久
「何がですか?」
医者は慣れた手つきで緑谷の静脈に針を通すと血液を取りながら話を始めた。
医者
「個性進化論は知っておるか?」
緑谷出久
「世代を追うごとに複雑になっていくっていう話のことですか?」
医者が興奮気味に続けた。
医者
「そう、今まで見てきた個性はそのどれもが遺伝や掛け合わせによる連続性を持ったものであり、血縁を辿ればある程度の予測はできていたのだが」
血液200mlの1本目が終わり2本目に差し替えられた。
医者
「しかし君の個性はこれまで見てきた個性とは"まるで違う進化を遂げている"いわば個性因子の突然変異」
緑谷出久
「突然変異?」
医者
「そう、世代を掛け合わせるのとは訳が違う。回復の速度に品質!!異形の個性をも遥かに凌駕している大変素晴らしい…個性だ」
3本目の採血が終わり、緑谷の腕から管抜かれた。3本の採血官は『赤色』を示していた。
医者
「明日退院だったかな?」
緑谷出久
「はい」
緑谷は未だ生えてくる気配のない左腕を気にしながら答えた。医者一言「お大事に」と告げ病室から出ていった。
緑谷出久
「突然変異」
医者を見送った後、緑谷は"元通り"になった手を眺めながら"黒い手"の【個性】について考え込んだ。
◇◆◇◆◇
その日のニュースで退院と同日、例の『脳無』が『タルタロス』へ移送されることを知った。その姿は以前のような荒々しさはなく大人しく手錠に繋がれて怪しい動きを見せる様子は見られなかった。
◇◆◇◆◇
翌日、早朝に引子が出久の着替えとともにやってきた。気分良く病室を開けて入ってきた母親の顔を見て、出久は安堵した。着替えを受け取った出久は着替えを始めた。
緑谷引子
「出久大丈夫?」
緑谷出久
「大丈夫だよ母さん」
病衣を脱ぎ、普段着に袖を通した出久は片手で器用に前側のボタンを留めた。ズボンも同様に器用に履くと携帯やらハンカチやらをポケットに詰めた。病室を出る間際、振り返り忘れ物がないことを確認した。白を基調とした病室の中、窓から見える青空が"外の猛暑"を告げていた。出久は向き直ると引子の元へと小走りで向かった。
緑谷出久
「母さん、荷物は自分で持つよ?」
手持ち無沙汰な出久は荷物を両脇に抱え気持ち良さげに歩く引子に"自分の荷物を持つこと"を提案した。
緑谷引子
「いいのよ、片腕じゃ危ないでしょ?出久は転けない様に気をつけて」
しかし、引子はそれを断り問題ないとばかりに"ガッツポーズ"をして見せた。
病院の受付で引子が見舞いの完了手続きを済ませて戻ってくるのを待ち、2人で病院を後にした。
未だ蝉の鳴き声が聞こえる炎天下、強い日差しの下に2人して出た。病院の快適さと比べ、数分としない内に服の下に汗が滲む暑さに緑谷は手で顔を仰いだ。
緑谷引子
「帰ったら麦茶あるからね」
緑谷出久
「うん」
蝉の声、カゲロウ、人混みの喧騒の最中ー街の道路を並んで歩く2人の側をパトカーが横切った。道行く人々は携帯に眼を"おとしたり"、《ワイワイ、ガヤガヤ》としている。何の変哲もない日常の一幕
〜『その筈だった』〜
程なくして2人並んで信号を待ち、信号が変わった
『その時』
抑揚のない声
『捕まえろ』
緑谷出久
「!?」
緑谷引子
「どうしたの出久」
◆◇◆◇◆
鮮明に聞こえたその声ー青になった信号を前に立ち止まった。出久が片耳を押さえ目を見開いた様に引子が渡り切っていた横断歩道を戻ってきた瞬間、出久の『死角から』護送車が現れた。
道路の『上』を飛ぶ様にして引子に突っ込んでいた。
両手の塞がっている引子は飛んできたそれを目の前にして、荷物を"しっかり"と握ってしまっていた。
緑谷引子
「あ」
短い吐露
◆◇◆◇◆
《ガシャン》となった横断歩道に上がった悲鳴が一瞬の静寂を生み、混乱を伝播させた。
響いた轟音と鳴り始めたサイレン音が夏の騒々しさを悲鳴と慌しさの阿鼻叫喚で包み上げた。そこに響く地響きが人避けをより強固なものへと変えた。響く地響きの正体は『脳無』の行進だった。
その行進は一歩、一歩がコンクリートを叩いて揺らし"道路のど真ん中"から護送車を吹き飛ばした横断歩道に向かって強引に横断していた。
《クロロロ》と喉奥から鳴き声の様な呼吸音を上げた脳無は人の捌けた横断歩道の"ど真ん中"に鎮座する護送車を両腕でしっかりと掴んだ。脳無は『腰を屈めた』状態をとった。
しかし、持ち上げようとした時《ピクリ》とも動かすことができなかった。その代わり『腰を屈めた状態のまま』横断歩道とは逆のビル群に"その"姿勢のまま背中から突っ込んだ。
緑谷出久
「お前」
上がる土煙の中、2つ一対の光が現れた。青緑色の光が僅かに揺れたかと思えば一瞬にして土煙が晴れ、緑谷出久が姿を現した。その表情は『筆舌に尽くし難いほどに怒りに満ちていた』
尻餅をついた引子の目にはーポロシャツの袖から出ていた右腕は黒くなり、頭から陽炎を立ち昇らせる緑谷出久の姿が映し出されていた。