【R18個性】も『クソナード』に掛かれば【強個性】   作:『代行さん』

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【スケール・シフト】その3『誰が為に』

研究室に響く《バチバチ》とした音はメリッサが『サポートアイテム』の調整をしている音だ。電気を用いた道具の独特な音は心地良くもあり、雑音でもあった。

 

緑谷はそれを聞き流しつつ本を読んでいた。作業等を間近で見たいものの、自分がそれをやられた場合気が散って仕方がないため自重していた。慣れた手つきで頁を捲り文字に、文に目を通していた。

 

メリッサが今調整しているものは矯正・動作補助の『サポートアイテム』である『スケイル・アーム』ー今朝、2人が食事を終えた後にメリッサが緑谷へと譲渡した代物である。全体が真紅の素材でできており、人の手の造形ではなく利便性を重視した『二つの爪』を開閉するタイプの義手である。

 

矯正用とあって、緑谷の『隻腕』による歪な成長を重量で矯正する設計となっていた。しかし『気を抜けば義手側に倒れてしまう』程重いとあってー調整している真っ最中なのであった。

 

 

 

メリッサ

「いいかな?緑谷君」

 

緑谷出久

「お願いします」

 

そう言ってメリッサは装着された『スケイル・アーム』のパネルを押した。緑谷に装着されている『それ』は淡い発光を始めると変形を始めた。形に大きな変化はなく、変わった点と言えば肩関節のみを支点にしていた過重モデル『ver1.0』と比べ重さは軽く、首を包むようにして支点を二つにすることで負担を点から面に分散させる『ver1.1』と呼べる進化を遂げていた。

 

緑谷はスケイル・アームを動かそうと試みながら、身体の重心が不安定になっていないかを"ぎこちなく"確認し、許容範囲内の負荷であることを確認するとメリッサの方に向き直った。

 

緑谷出久

「少し重いですが、これなら大丈夫そうです」

 

メリッサ

「良かった」

 

スケイル・アームが空中を2、3度摘んだ。そのことを確認した緑谷は先程まで読んでいた本を掴むと持ち上げた。がしかし

 

緑谷出久

「肘が…」

 

メリッサ

「頑張って緑谷君!」

 

慣れない義手の操作に指先ー『爪先』の操作は比較的単純で問題なかったものの肘を曲げることに苦戦を強いられた。

 

 

 

雨が止む気配を見せない今日この頃、疲れた緑谷は生身の方で鞄から飲み物を取り出した。メリッサはというと机に向き直り『スケイル・アーム』を眺めていた。真紅の装甲を外し、中にある骨組みと人工筋肉を丁寧にバラしながら問題点を独り言として呟き始めた。

 

メリッサ

「…これで問題ないと思ったのに」

 

真紅の装甲の中を確認しながらメリッサはスケイル・アームの構造、構成に悩んでいた。それは『1.1』の問題点は『1.0』で生じていなかった不具合であるー『肘関節』を模した部分の可動不良が発生していた為である。

 

メリッサ

「重量の関係で削った部分がダメだったのかしら、それとも関節かしら」

 

メリッサは手を動かしながらスケイル・アームのデータに目を通し、髪を手で梳きながら耳へと掛けた。眉間に寄せた皺の数が彼女の苦悩を物語っていた。それもその筈、メリッサにとってのサポートアイテムは『1を10や100』にするものであり『0から1』を作ることは初めての試みだった。

 

メリッサ

「お父さんならどうするのかしら」

 

 

 

『1.1』から『1.2』重量がやや増加したものの、関節の可動部に生じていた問題は解消され、一応の完成を迎えた。

 

緑谷出久

「ありがとうございますメリッサさん…メリッサさん?」

 

メリッサ

「え?あ、うん。お疲れ様緑谷君」

 

完成度に納得のいっていないメリッサが机に向かったまま空返事をした。その様子に緑谷はそっと研究室を後にした。

 

 

 

緑谷出久

「凄い雨だな」

 

緑谷は『メリッサと共にレストランへ向かった道』をなぞる様に歩いていたー視界に入る大窓には打ち付ける様に大粒の雨が叩きつけられていた。雷が数度鳴るのを見届けながら階段を降りていった。

 

 

 

ひとり資料と睨めっこを続けるメリッサの肩が叩かれた。軽く二度、骨張ってはいないものの筋肉質な分衝撃が生まれ、集中の糸が途端に切れた。ため息とはいかないものの肩を上下させたメリッサは改めて机の上の資料に目を通そうとした。

 

緑谷出久

「メリッサさん」

 

今度は声で呼ばれた。集中の糸は既に切れている。幼さの残る少年の声に僅かばかりの苛立ちが胸の内から湧き出てきた。しかし、それを押し込める様に目頭を押さえる。メリッサが休憩をしたのは数時間も前のことだった。

 

それでも『やらなければ』と言う使命感に似た焦りが休憩に向かおうとする思考を押し留めていた。

 

メリッサ

「何?緑谷君、今は」

 

自分の才の"なさ"と煩わしさにより一層眉間に寄せた皺をそのままにメリッサが緑谷に振り返った。小言の一つでも出そうな雰囲気の最中。

 

緑谷出久

「これを」

 

メリッサ

「え?」

 

思考は停止した。振り返ると眼鏡を僅かに曇らせる湯気に芳ばしい香りが五感を刺激した。差し出されたとあれば当然受け取るメリッサだったー目の前に差し出されたコーヒーを受け取り《ポカン》とするメリッサを他所に緑谷は『サンドイッチ』を机の隅っこに置くとソファーに戻り読書を再開した。

 

メリッサ

「えっと、これって?」

 

緑谷出久

「あ、紅茶の方が?」

 

メリッサ

「そうじゃなくて、どうして私に?」

 

受け取ったコーヒーを前に緑谷とコーヒー、サンドイッチを右往左往する視線。緑谷は「どうしてって」と表情で訴えながら空中を仰ぎ見た後、あっけらかんと言った。

 

緑谷出久

「応援したくなったからです」

 

メリッサ

「応援?」

 

メリッサが聞き返した。

 

緑谷出久

「僕はメリッサさんの発明品を使わせてもらっています」

 

緑谷はスケイル・アームのパネルを押し、肩からそれを外した。

 

緑谷出久

「使うことでその仕組みを感じ取れてもメリッサさんの苦悩を根本から理解することは難しいです。それでも何か僕にできることがないかって思ったら身体が動いてました」

 

緑谷は自嘲気味に笑い、メリッサは『八百万の啖呵』を思い出していた。

 

メリッサ

「確かにヒーローね」

 

緑谷出久

「え?何か言いました?」

 

メリッサ

「ねぇ緑谷君、スケイル・アームの仕組み見たい?」

 

緑谷出久

「いいんですか!?」

 

メリッサ

「勿論、いつも私が見れるわけじゃないし」

 

メリッサは緑谷を手招きするとスケイル・アームの仕組みと構造について説明を始めた。『メリッサ』が何故『発明をするのか』。深まる夜と雨音を外に"張り詰めていた『緊張』"はメリッサの表情からは消えていた。

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