【R18個性】も『クソナード』に掛かれば【強個性】   作:『代行さん』

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ー『生々しい現実』

緑谷出久は困惑していた。連日、足繁く通っている海岸ー目的は海岸の清掃であるが、そこに打ち捨てられているものについて疑問が尽きないのであった。

 

緑谷出久

「粗大ゴミは分かるけど、これは」

 

家電製品、日用品、衣類までは問題こそあれど理解の範疇だった緑谷出久の前にあるのは『標識』だったー道路の脇にある交通規制を知らせる物、それも1本や2本であれば海沿いの道路から何らかの問題で外れて流されてきたと考えられるが、そこには複数本が積み重なった状態で流れ着いていた。加えて不可解な点があった。標識の要、規制内容を示す『文字』『図柄』『数値』の一切が記載されていなかった。

 

緑谷出久

「こういうのってどう処分するんだろう?」

 

持ってきていたゴミ袋を眺め長考する緑谷出久は一旦そこから離れると拾えるものだけを集め、袋の中を溜めていった。

 

 

 

ゴミ袋ひとつ満タンにした緑谷出久は海岸を眺めた。全くもって片付いた気がしないそんな景色。時間にして数十分の結果はそんなものだった。

 

緑谷出久

「全然だ、ゴミ袋も数を増やさないといけないし、そうなれば安定した財源が欲しくなるな。夏休みだから毎日来れるけど休みが終わればそうも行かなくなる。ペースを上げるにしても粗大ゴミはどうすればいいんだろうか?そもそも分類の難しいゴミだってパッと見ただけでもかなりあるし、運び出せたとしてどこに置かないといけないのか、回収をしてもらうにしても纏めておかないと邪魔になるかも知れない」

 

ゴミ袋を見つめた数分を《ブツブツ》と自問自答を続けた。緑谷出久には清掃を諦めるという選択肢はなく、自分の使える時間と体力を確認した上でどうすればいいかを小一時間考え続けていた。

 

 

 

考えが纏まらぬうちに帰宅後、昼食を食べ自室で勉強をした。脳裏には常に海岸のゴミ問題が鎮座していたものの勉学の手が時折止まりつつ、集中に繋げて勉強に取り組んでいた。

 

 

 

日の沈む黄昏時、顔にかかる夕陽を前に足の違和感を感じた緑谷出久は無性に運動がしたくなり落ち着かなくなっていた。膝立ち、空気椅子と足の筋肉をどうにか使ってみたものの筋肉の疼きは止むことなくー痒みにも似た感覚に緑谷出久は立ち上がると玄関に向かった。

 

緑谷出久の母

「どうしたの出久?」

 

緑谷出久

「ちょっと走ってくる」

 

緑谷出久の母

「いってらっしゃい」

 

物音に気がついた母親が心配してか、声をかけたー緑谷出久は端的に"何をしに行くか"を告げると玄関の扉を開けて走り出した。

 

 

 

道路の上に車はなく、ひとつ動く影が股下の慌ただしく動く両足の下に居た。道路に等間隔で並んだ街灯を横目に夜が増していく空の下を脳裏に浮かぶ『感情』を走りにぶつけた。沸々と湧き出る『怒り』は何に対して発生しているのかわからず、ただひたすらに走り続けた。夏の暑さが汗に混ざって緑谷出久の頬を伝った。ぼやける視界の中、体に籠る熱を名一杯吐き出す様にため息をついた。

 

急いで外に出た結果、走る準備などは一切していない為ーTシャツで雑に拭うと緑谷出久は歩き始めた。いくらか落ち着いた感覚で今一度大きく息を吸い込み吐き出した。

 

胸中で湧き出した怒りは、先の個性による催眠事件ー海岸のゴミ問題と一見関連性が乏しい両者。緑谷出久の中ではこの両者は『自己を形成する上で欠かせない』ものだった。それを足蹴にされたことに対する無意識の憤慨ーそれに対して何もできない自分の『無力さ』に怒っていた。

 

緑谷出久

「個性があるのに何で。もっとあるだろ、もっとずっといい使い方が、なのにどうして」

 

歩いていた足が立ち止まり、俯くとやがて膝をつき、涙を流した。個性という"当たり前"を持って生まれた人に対しての失望は計り知れず、それらを含めた

社会が再び『混乱期』に入るのではないかという不安が"それ"をより深いものにしていた。

 

『無力さ』『不安』『失望』の入り混じった感情は思春期の小さな器では受け止めきれずその内容物を保持できなくなり『涙』という形で出力された。一年強もある受験までの日々ーその前に夏休みが終わり、自分自身も『無責任な人達』の中に入っていくのかと思うと、それだけで緑谷出久に果てしなく続く地獄を想起させた。

 

年若い女の声

「どうしましたか?」

 

緑谷出久が顔を上げるも目に溜めた涙が視界を遮り顔を確認することができなかった。加えて鼻水でぐちゃぐちゃの顔では開こうとした口が開くに開けず、啜り上げることしかできなかった。声の主はそんな緑谷出久を見て『ギョッ』とした。

 

 

 

年若い女の声

「なるほどねぇ」

 

声の主は緑谷出久の近くで相槌を打ちつつ話を聞いていた。将来の不安や最近起きたショックなこと、昔からの積み重ねであるゴミ問題など、緑谷出久は話した。

 

緑谷出久

「酷いと思いませんか?」

 

年若い女の声

「知らね」

 

緑谷出久

「へ」

 

緑谷出久の切実な悩みに対し、声の主は何とも淡白な反応を返した。緑谷出久の涙と嗚咽は一瞬で引くと、声の主に視線を向けた。

 

年若い女の声

「そんなものそん時にならないと分からないじゃない」

 

緑谷出久

「そ、そうですよね」

 

年若い女の声

「こっちはそれどころじゃないっつうの」

 

緑谷出久

「…」

 

緑谷出久は内心、この声の主に対して「何だコイツ」と思ってしまった。口調で言うなら幼馴染のそれと引けを取らない様子でー面倒臭さ全開を表に出しているとあってさっきまでのセンタな雰囲気は吹き飛んでしまった。

 

自分より荒れている声の主に対して緑谷出久は逆に冷静さを手に入れてしまうと相談側との立ち位置が逆転してしまった。

 

緑谷出久

「どうしたんですか?」

 

年若い女の声

「ヒーローになれば良いと思ってたけどいざ活動をすれば物が壊れて賠償金が発生するしで見回りしなきゃだわ、ファンやメディアは活躍じゃなくてヴィジュアル重視の決めポーズしか撮らないわ」

 

緑谷出久

「な、なるほど」

 

年若い女の声

「あんな一発ネタやるんじゃなかった」

 

項垂れる声の主、Tシャツで顔を拭い緑谷出久は声の主を見た。その姿は紫と白のピッタリしたヒーロースーツにマスク姿、街灯に照らされた金髪が特徴的な女性だった。緑谷出久の脳内にてその姿が『マウントレディ』という若手ヒーローの名前が思い浮かんだ。最近の活躍は駅構内で発生した"ひったくり犯"の撃退。かなりオーバー戦略気味に解決したそれは確かに"被害"より活躍時に起きた建築物への被害の方が大きい物だった。

 

マウントレディ

「あぁもういいや、少年」

 

緑谷出久

「はい」

 

マウントレディ

「夜にあまりで歩かない様にさっき話してたけどヴィランがどこに潜んでいるのかも分からないんだから、それとそう言うのは役所にでも相談しに行きな」

 

緑谷出久

「あ、はい」

 

マウントレディ

「それじゃ、あたし見回りに戻るから」

 

緑谷出久

「あ、あ、あ、あの」

 

立ち上がったマウントレディに続いて立ち上がった緑谷出久、背丈は緑谷出久の方がやや大きく見下ろす形になった。感謝を述べようとした緑谷出久だったがその口から出た言葉は全く関係のない言葉だった。

 

マウントレディ

「何よ?サインなら今は」

 

緑谷出久

「よ、よ、夜は気をつけて下さいね?」

 

マウントレディ

「…何よ、馬鹿にしてるの?」

 

緑谷出久

「あ、いえ、そうではなくてですね」

 

しどろもどろになりながら緑谷出久は身振り手振りで弁明しようとして更にマウントレディから呆れた様な笑いを誘った。マウントレディは緑谷出久の言葉を待たずして歩き出した。

 

マウントレディ

「…そ、気をつけて帰りなよ"ガキンチョ"」

 

気怠げに手を挙げたマウントレディは《スタスタ》と歩いて行った。憧れのヒーローの活躍の裏側を赤裸々に聞いてしまった緑谷出久は自身のちっぽけとも言える悩みに呟いた。

 

緑谷出久

「ヒーローも大変なんだな」

 

『憧れは何と言うか生々しく現実的なんだな』と思う緑谷出久だった。

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