ループもので心が折れた奴   作:パレード

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【登場人物】

べレト

何百何千とファイアーエムブレム風花雪月という鬱ゲー世界をループした可哀想な人。
もちろん難易度はルナティックのクラシックモード。
運命(原作ストーリー)を変えようと奮闘するが結局は蒼月ルートに落ち着く。
永遠にも感じる地獄を乗り越えようやくエンディングを迎えるがその頃には既に心が折れていた。
またループして1からやり直しと思ったら急にベレス先生が生えてきてびっくりした。
だが主人公という役目を終え安心している。が無意識に自分の手で生徒を導きたいというベレスへの嫉妬心があったり、原作が変わらないよう誰とも関わらないようにしているが生徒に話しかけられると嬉しくなっちゃったり矛盾を抱えて日々を生きている。


ベレス

突然現れ、べレトから主人公の座をかっさらっていった。
ブラコン。お兄ちゃん呼びが1番しっくりくるが、出来れば結婚したいのでべレトを名前で呼んでいる。
自分には冷たいべレトが他の誰かと楽しく話しているとドス黒い感情が心に宿る。
彼女が主人公の世界は難易度ノーマルクラシック。


心が折れたべレト

 

 浮かれていた。と言わざるを得ない。物語の主人公になったとて、何者でも無かった自分に何かを成せるハズが無いというのに。

 

 最初は物語が始まる前に死んだ。しかし幸か不幸か彼には時を巻き戻る力があった。

 だが、だからといって急に事柄が上手く行く訳では無く、10周目辺りまでは1周目と同じく名も無き盗賊に殺された。

 試行錯誤の末、やっとの思いで原作の開始にこぎつけたが生徒も、自分すらも守れずに死に続けた。

 

 いつしか目標は「誰も死なないハッピーエンド」ではなく「守れるものだけ守りきる」事に変わった。

 

 随分と格が下がったが、それでもその道にはびっしりと棘が敷き詰められていた。

 

 何かを救えば何かが溢れる。それの繰り返しだった。特に父ジェラルトとソティスを救えば取り返しのつかない事態に繋がってしまう。

 

 結局、黒鷲の学級(アドラークラッセ)を切り捨て

 次に、金鹿の学級(ヒルシュクラッセ)を切り捨て

 父も、ソティスも、切り捨て

 

 そうやって繰り返す内、気付いてしまった。

 

 結局ゲームと同じ歴史を辿る他無い。と。

 

 自分という異端がいても決して物語の歯車は狂わない。

 

 自分が生まれた意味が分からなくなった。何も変わらないというのに、どうして自分が主人公になってしまったのか。

 

 既に彼の心は跡形もなく粉々になっていた。

 

 それでも歩みを止めることは無かった。せめて教え子たちだけは導いてみせる。その一心で彼は戦乱を駆け続けた。

 

 時々考える。エーデルガルトやクロードたちの事を知れば、自分は今でも運命という物に抗い続けていたのかと。

 

 しかし、彼はその可能性から目を逸らし続けた。知ってしまえば、必ず今の目標に甘んじる事が出来なくなるからだ。

 

 それに、心の平穏の為に、クロードはともかく、エーデルガルトの事は大嫌いでいたかった。

 

 それからそう長くない時が経ち、そして遂に。

 

 

「あぁ、やっと終わったな」

 

 沈み行く意識の中、ベレト=アイスナーは声を捻り出した。

 

 正直声を出すだけで胸の辺りに信じられない痛みを感じるが、達成感から言葉に出さずにいられなかった。

 

 何千回もの繰り返しの末、ようやく青獅子の学級(ルーヴェンクラッセ)の皆を死なせずに戦争を終わらせる事が出来たのだ。

 そりゃ感極まって声も漏れる。

 

 死は何度も経験した。今更怖いという感情も無い。

 

 しかし、これからのディミトリたちの歩みを見ることが出来ないのが少し心残りだ。

 

(………そろそろ、頃合……かな)

 

 もう喋る事も出来ない。何も見えない。何も、聞こえない。

 

(死は、怖くは無い。けど、心残りは……あるな)

 

 今となっては既に手遅れだが。

 

 

 

 …………眠いな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………ここは?」

 

 目が覚めるとベレトは聖墓にいた。

 

 また時が巻き戻った………という事だろうか?

 

 もう繰り返す事は無い。と確信していたのだが、それは間違いだったのか。

 もう何も思い残す事は無く満足して死ねたというのに、勘弁して欲しい。

 

 これ以上どうしろと言うのだ。今のベレトなら自学級の生徒を守りきる事は出来るだろう。

 

 しかしこれから何度繰り返したって決められたレールから足を踏み出す事は出来ない。

 

 もう、何もしたくない。どれだけ頑張ろうとも行き着くエンディングは変わらない。そんな物の為に人の命を奪いたくは無い。

 だけど、主人公の自分が黙って見ていては、もっと多くの命が失われてしまう。救えたハズの命を捨て置く事は出来ない。

 

「俺はどうすれば……」

 

「………なーにが、俺はどうすれば、じゃ!」

 

「……!?」

 

「どうすれば、じゃと?そんなモノ決まっておろうが!童共をこれからも導いてやればよかろう!この腑抜けが」

 

 突然の罵倒にしばし呆然とする。が、すぐに驚愕が上回った。

 自分がまだ死んではいなかった事。そして自分の目の前に、消えてしまった後のソティスの姿がある事の驚愕が。

 

「………すまないが、それは出来ない」

 

「は?はぁぁぁ!?おぬし、自分で何を言っているのか分かっておるのか!?」

 

「戦いが必要無くなった今、戦いの術しか教えられない俺の居場所は無い」

 

「おぬしには聞こえぬのか!今も童共が必死に呼びかけているこの声が」

 

 正直に言うと、ソティスの言う通りずっとディミトリたちの声が聞こえていた。

 「死んではダメだ」「目を開けてくれ」と。戻ろうと思えば、すぐにでも起きれる。と思う。

 

「でも、もう満足なんだ」

 

「おぬし……、いや、もう何も言うまい。この身体も人生もおぬしの物だからの。ガミガミ言ってしまってすまんのう」

 

「いや、謝るのは俺の方だ」

 

 分かっている罠に飛び込んで、何度も何度も犠牲にしてしまった。

 

「………ふぁ。眠くなってきたわ」

 

「そうだな。そろそろ眠るとしよう」

 

「じゃな」

 

 いい加減終わらせたかった。皆を救おうなんて夢幻はとうの昔に諦めた。

 

 さぁ、眠ろう。

 

 何千年と続いた人生の幕を閉じよう。

 

 

 

 

 

 ◇◆◇

 

 

 

 

 

《1165年》

 

 自分では、主人公という立場に辟易していると思っていたというのに。

 ソレは同時に大きな支えにもなっていたらしい。

 

 主人公という自覚があった。だからどんな困難も乗り越えて戦い続けられた。頑張れば、最低でも学級の生徒は守れるのが約束されてるから。

 

 しかし今回では、とうとう主人公ですら無くなったらしい。

 

「………ベレト」

 

 ただ無気力に回想していると、何者かが天幕の中に入ってきた。

 

 自分と同じ髪色に、無表情がデフォルトの彼女はベレトの双子の妹で、名をベレスという。

 今までの世界では影も形も無かったのだが、今回になって突如として現れた。

 

「どうした?」

 

「また少女の夢を見た」

 

「そうか」

 

「眠っていた。寝言でベレトの名を呼んでいた」

 

 少女の夢。十中八九ソティスの事だろう。

 さて、ここまで言えばお察しだろう。先程主人公では無くなったと言ったが、彼女こそがベレトに代わるこの世界の主人公だ。

 

 ソティスも彼女の中にいるし、炎の紋章を宿すのも彼女だ。間違いないだろう。

 

「お前の夢の中の人間だ。俺を知っていても不思議じゃないだろう」

 

「……………」

 

 ベレスは顔を顰める。まるで納得がいかないと言っているように。

 相変わらず喋らないヤツだが、双子だからか不思議と何を言いたいのかが分かってしまう。

 

「お前の夢の事なんて俺が知るわけ無いだろう。眠いんだ、寝させてくれ」

 

「……………」

 

「…おい」

 

 ベレスが寝床に潜り込んできた。掛け布団が引っ張られ体の半分が外気に触れる形になる。嫌がらせだろうか。

 

 追い出そうとグリグリしてみるが、ガッチリと抑えられ動かない。ちょっとすると気持ちよさそうな寝息を立て始めた。

 

 今頃ソティスの夢でも見ているのか、それとも1000年前の戦争の夢か。

 

(……さて、と)

 

 今まで避けてきたが、ようやく自分について考える。

 

 まずは、どうして今回の世界は今まで繰り返してきた世界と隔離しているのか。

 

 ベレスの存在はもちろんとして、ループの起点となった時期も違う。今までは受け持つ学級を選ぶ直前がセーブポイントだったが、今回は少なくとも物心が付く前になっていた。

 

 まあ、それらについては仮説がある。というか1つしかない。

 

 主人公がベレトからベレスになったから、セーブデータが消えて世界は最初からやり直しになったのだろう。主人公が代わった理由は………、ベレトに資格が無かった故に入れ替えられたと考えるのが自然か。

 

 だが1つだけ解せない。

 

「俺は、何故こうして生きている?」

 

 主人公を選んだ際、選ばれなかった方の性別がライバルになる。というゲームがあるが、あいにくこの世界の元となるゲームはそういうのじゃないと記憶している。

 

 いや、こうして生きているのだ。今更生まれた理由について考える暇は無い。

 

 今考えるべきは、これからどう生きるかだ。

 

(と言っても…………)

 

 元々、何者でも無かったベレトが世界に受け入れられたのは主人公という大役を抱えていたからだ。

 

 だが……今のベレトは何者でも無い人間だ。

 

 ベレトという名を持っていたとしても、主人公がベレスである限り原作キャラとも言えない。

 

 いわば『モブ』だ。

 

 いてもいなくても変わらない存在。

 

 だとすれば、自由に生きてもいいのではないか?

 しがらみに捕らわれず、列車の走るレールの整備をし続ける人生ではなく、自分がしたい事をして生きていけるのではないか?

 

 そうだ。その通りだ。もう十分頑張ったんだ。文句は言わせない。

 

 何、心配はしないで欲しい。好き勝手生きると言ってもベレスの邪魔はしない。生徒たちとも極力関わらないようにする。テキストも無い様なモブに徹しよう。

 

「………スゥ」

 

「…………………」

 

 もし、俺が頑張れば、主人公は、ベレスは誰も死なない未来を実現出来るのだろうか?

 

 

 ……いや、そのような訳が無い。自分如き、この世界に影響を与えるなどと思い上がりもいいとこだ。

 

 この世界はゲームの世界なんだ。どうせ結末を変える事は出来ない。だから頑張るだけ無駄なんだ。

 

「……………痛い」

 

 ベレス……ではなくベレトはそう声を漏らした。

 

 いつの間にか握っていたベレスの手を握り締めると、それ以上の力で握り締め返された。

 

 相変わらずの怪力だ。最初から剣の腕も凄かったし、主人公としての資質はベレトのソレとは比べ物にならないだろう。

 

 だがこの歳になっても兄と添い寝をする部分は矯正しなければならない。それに、あまり自分が関わって物語に変な影響が出る恐れがある。

 

 ベレスとの関わり方も、考える必要があるな。

 

 

 

 

 

《1180年 孤月の節》

 

 あれから10年以上。自由に生きているハズだが、何かに縛られている感がするのは何故だろう。

 

 割り切ったと思ってるが、やはりまだ等しく全てを救いたいなどと言う願いは消えていないのか………。

 

 これ以上は止めておこう。考える程に辛くなってくる。

 

 ……さて。今は1180年の孤月の節。つまりはあと1ヶ月程経てばベレスは教師になり、物語が始まる。ただでさえ関わりの薄いベレスやジェラルトとの関係はいよいよ絶たれる事だろう。

 

 しかし寂しくは無い。言った通り元々の関係がそもそも薄いのだ。あちら側も特に思う事は無いに決まっている。

 

「ベレト」

 

 背後から、自身を呼ぶ声が。

 

「………」

 

 声の主は案の定ベレスであった。関わりは薄いと言ったが、声を掛けられる事自体は珍しくない。

 

 そして声をかけられたベレトが取る行動は決まっている。

 

「……………」

 

「あっ」

 

 無視だ。

 

 彼女を視界にすら入れず、その隣を通り過ぎた。

 

 可哀想だとは思っている。実の兄が突然冷たくなったのだ。感情がある者なら、きっと悲しかろう。

 

 だから、出来れば自分を嫌ってもらいたい。さすれば、自分もくだらない情を捨てられるのだから。

 

「あっ!べレト坊!訓練の相手付き合ってくれよ!」

 

 ジェラルト傭兵団の団員がベレトの肩に手を当て、気さくに話しかけてくる。

 

「あぁ、もちろんだ」

 

「よっし!今日こそはお前を下して、エースの座を奪ってやるよ!」

 

「フッ、お前に出来るかな?」

 

 原作キャラと仲良くする事は出来ないが、ご覧の通りモブ仲間とは仲良くやっている。

 

 ゲームではセリフも無い様なヤツらだが、これは現実だ。当たり前に一人一人個性がある。

 

 家族であるベレスとジェラルトにはしばらく向けなかった笑顔を、ただの傭兵に向け、訓練のために開けた場所に向かい歩いていった。

 

「…………許せないな」

 

 そんなベレトが、冷静に瞳孔を広げるベレスに気付く事は無かった。

 

 

 

 

 

《1180年 大樹の節 20日》

 

 ついにやってきた。主人公が大修道院へ行くキッカケとなる出来事が今日起きる。

 

 ちゃんとマニュアル通りに行くだろうか?俺の存在で未来が変わってはいないだろうか?そう考えると眠れず最近はすっかり寝不足だ。あの頃のディミトリに負けず劣らずの隈ができてしまった。

 

「起きているか」

 

 眠れないままにベッドの上でボーッとしていたその時、部屋にジェラルトが訪ねてきた。

 ちなみに現在はルミール村に滞在しておりいくつか家屋を貸して貰っているので寝床は天幕ではなくなっている。

 

「今、起きた」

 

「にしては隈が酷いが、寝不足だといざって時に力を出せねぇぞ」

 

「その時は死ぬだけだ」

 

「お前………!いや、今の俺が何を言っても無駄か。それよりベレスを起こしに行ってくれ」

 

「何故俺が……」

 

 いや、そう言えばベレスはグッスリ寝てしまうと何故か俺が起こさないと起きないんだった。

 

 いつもなら、俺が起こしに行かないので自然に起きるのを待つのがいつもの光景だったが、今日は夜明け前には起きて王国に向かうと言っていたな。

 

 仕方ない。

 

 

 ◆

 

 

 ベレスを起こすため、彼女が使っている部屋を訪れたが……。

 

「ベレト」

 

 起きてるじゃんか。だったらもうここにいる必要は無いな。

 

「お前以外はもう出てるぞ、さっさと支度をしろ」

 

「なんの話?」

 

【ベレト】⤵⤵

 

「王国に行くと言ってたろう」

 

「そうだっけ?」

 

「とにかく早くしろ。俺はもう行くぞ」

 

「……待って」

 

 呼び止められる。が、俺の方から話す事はもう無いので当然止まらない。

 

 そう言えばもうそろそろ生徒たちが助けを求めてくる頃だったかな?

 

「ベレト!スマンが、来てもらっていいか?」

 

 ほら来た。

 

「どうした?」

 

「詳しいことは外で、俺はベレス嬢を呼んでくる」

 

「……ああ。分かった」

 

 

 ◆

 

 

「来たかベレト」

 

「ジェラルト。何があった」

 

「どうやらコイツら、野営中に盗賊に襲われちまったらしくてな」

 

 そう言うジェラルトの後ろには、何千年と共に過ごした3人の姿があった。

 

「コイツらを追ってきた盗賊団が村を包囲してんだ。ガキどもはともかく、この村を見捨てる訳にはいかねー」

 

「だったら、俺は南の方角へ行こう」

 

「じゃあ私も南へ」

 

 俺の言葉に同調するベレス。

 コイツいつの間に来ていたんだ……。年々気配を消すのが上手くなってやがる。

 

「えっと、貴方たちは兄妹なのかしら?」

 

 俺とベレスの顔を見比べたエーデルガルトが尋ねた。

 

「「そうだ」」

 

 1寸違わぬタイミングで俺たちは返事をする。

 

 ベレスが嬉しそうにしているが、この一瞬で何か良い事でもあったのだろうか?

 

「それと、お前はジェラルトと共に北へ行け」

 

「嫌だ」

 

「俺も嫌なんだ。お前と共に戦うのがな」

 

「………分かった」

 

 渋々ジェラルトの後を追って行くベレス。その光景を見ていたクロードが面白い物を見たと言わんばかりに腕を組んだ。

 

「いやー、仲は宜しくないみたいだね。もしかしてベレスさん、紋章をお持ちかい?」

 

「クロード…!」

 

 成程。つまりクロードは紋章を持っているベレスに俺が嫉妬していると考えた訳か。

 

 確かにこの世界で兄弟が仲違いするのは5割は紋章の有無が関係しているだろう。

 

「その通りだが、紋章の有無で悩んだ事は無いんだ。そして嫌いでもない。ただアイツと関わりたく無いだけだ」

 

「へぇ」

 

 そう答えればクロードはこれ以上口を開かなくなった。他の2人は納得していないみたいだがな。

 

 これ以上詮索されるのも面倒だしさっさとコイツらもジェラルトの所に行ってもらおう。

 

「そんな事より、お前らもベレスの後を追え」

 

「お、じゃあそうさせてもらうよ。お互い生き残ったらまた話を聞かせてくれ」

 

「いや待てクロード。あっちにはジェラルトさんがいるんだぞ」

 

「そうよ、戦力を1箇所に固めるのは得策ではないわ」

 

「心配するな。お前たちの選択で変わるのはお前たちの生存率だ。俺たちの勝率には一切関係ない」

 

 厳しい言い方だが、3人にはベレスと共に戦ってもらわなければならない。頑固者2人を動かすにはこれくらい言わなければ。

 

「そういうこった。俺たちは実戦経験の無い雛なんだよお二人さん。自分たちの身を守るのを最優先にすりゃいいんだ」

 

 クロードがそう言うが、2人は納得していない。ベレスは一言言えば聞くのだが、やはりコイツらは頑固者だな。

 

 クロードが2人を説得している内にこっそりその場を抜け出し、俺たち傭兵団は襲ってくる盗賊どもを迎撃する。

 

「死ねぇぇぇ!!」

 

 斧を振りかぶり襲ってくる盗賊。

 

(隙だらけだな)

 

 斧を弾き飛ばし、盗賊の胸を斬り上げた。その体は宙を舞い地面に叩き付けられる。

 

「かあさ………たす…………」

 

「………」

 

 最後の言葉なんて、どいつもこいつも同じようなセリフしか吐かない。

 

 だからもう慣れた。人を斬るのに迷いは無い。そのはずなのに……

 

「死ねぇぇぇ!!」

 

「……!?」

 

 油断した。やはり迷いは戦場では致命傷だ。相手が訓練された騎士だったら無事では済まなかっただろう。

 だが敵はただの盗賊だ。いくら隙を晒しても、正面から負ける相手では………

 

(コイツ、顔が……)

 

 瓜二つだった。今しがた殺した盗賊と。

 

「…………グッ」

 

 動揺したベレトは斧での一撃を喰らった。と言っても直前に身を捻ったので軽傷で済んだ。

 

「はぁぁ!!」

 

 今度は迷わない。盗賊を容赦無く斬った。と同時に気付く。

 

 さっき斬った盗賊の死体が無い。

 

 まだ生きていたのか?だったらどこに………

 

「いや、天刻の拍動か」

 

 条件付きだが、少しだけ時を巻き戻すという力だ。べレスが使用したのだろう。

 

 だとすれば、あっちはもう終わったのか。

 

「コッチも早く終わらせよう」

 

 残り少ない盗賊を殺すべく、ベレトは再び剣を振るう。

 

 

 ◆

 

 

 盗賊団を始末した頃には、既に夜は明けていた。村に戻ると、王国ではなく大修道院に向かう事になったと仲間に知らされた。

 

 ひとまず安心した。序盤の序盤だが、筋書き通りに物事が進んでいる。気の長い話だがこれからも何年も事柄が台本通りに進めば、何も気にせず自由に生きられるのだが………。

 

「べレト!!!」

 

 耳が痛い。

 

 一体何があったのか。ベレスが普段の彼女からは信じられない大声を上げ駆け寄ってきた。

 

「………どうした」

 

「怪我は!?」

 

 誰から聞いたのか、天刻の拍動の際に負った傷を心配しているようだ。

 

 しかし傭兵にとっては十分軽傷の部類だ。あんなバカでかい声を上げる程の傷ではない。

 

 にも拘わらずベレスは、さもキズが致命傷みたいに絶望した表情を浮かべオロオロとしている。

 

「心配される程の傷じゃない」

 

「……包帯を変えよう」

 

「触れるな。お前の力でこの傷が致命傷に化けたらどうする」

 

「ちょっと、彼女は貴方の事を想って言ってるのよ。そんな言い方はないんじゃない?」

 

 ベレスの扱いを不快に思ったのか、エーデルガルトが苦言を呈した。

 ディミトリも、言葉には出さないがべレトに厳しい視線を怒っている。

 残るクロードはというと、相変わらず何を考えてるのか分からない笑みを浮かべていた。

 

 しかし分かって欲しい。今回ばかりは意地悪で言ったのではなく、本当に腕を折られかねなかったのだ。

 

 べレスの怪力をもってすれば、万が一という可能性も有り得る。がそんな事を言ってしまえばエーデルガルトたちも黙っていないだろう。

 

 あまり関わりたくない相手たちなのでここは退散させてもらう。

 

 

 

 

 

《1180年 大樹の節 24日》

 

「しっかし、ちぐはぐな兄妹関係だね」

 

 ガルグ=マク大修道院へ向かう途中、クロードが藪から棒に切り出した。

 

 エーデルガルトとディミトリが敢えて触れないようにしていたというのに、クロードはお構い無しにベレスの兄妹関係について口を出した。

 

「兄の方は妹を嫌い……とまでは行かないが避けている。その逆にあんたはとびきり兄想いの妹。兄妹同士が向ける感情はだいたい同じなんだが、真逆なのはあんたらが初めてだよ」

 

「……クロード。お前は気遣いという物を知らんのか?」

 

「そうよ。何でもかんでも質問してしまうのは感心しないわ」

 

「ははっ、2人とも手厳しいな。でもコレは俺なりの気遣いなんだぜ?人に話せば抱えてる物も幾分か軽くなると思うぜ?なぁアンタ、べレトさん、だったか。あの人について教えてくれないか?」

 

「《分かった》」

 

《クロード》⤴︎

 

「お、そう来なくっちゃな。しかし、そこのお二人は聞きたくないみたいだから耳打ちで教えてくれ」

 

「別に知りたくないとは言ってないわよ、クロード」

 

「そうだぞ。本人が教えてくれるというなら、是非とも聞かせて欲しい」

 

 ベレスは親愛する兄について、大修道院が見えるまで語り続けた。

 

 

 ◆

 

 

 1日が長い。なんて感覚を覚えるのはいつぶりだろう。

 

 いつもなら、傭兵の仕事をしていると1日など直ぐに終わってしまうのだが、今日に限ってはまだ昼になったばかりだ。

 

(しかし、本当に久しぶりだな。大修道院(ここ)は)

 

 時間にして、20年ぶり位だったか?しかし、敷地内の事は隅から隅まで鮮明に思い出せる。1000年以上ここで過ごしたのだ。

 

 ああ。本当に懐かしい。

 

(……感傷に浸っている場合ではないな)

 

 さっきジェラルトとべレスが謁見の間に行くのを見た。もうしばらくすると、ベレスが士官学校の生徒の事を知るためそこら辺を歩き回るだろう。

 

 そうなった時にベレスや生徒の誰かに絡まれる前に見つからない場所、墓地にでも行くか。

 

 

 ◆

 

 

「べレト、探した」

 

 なんでここに来たんだコイツは?

 

 生徒と交流して担当を決める時間のハズだが、なんで墓地なんかに来たのか?もしかして本当に俺を探し回っていたのか?

 

「ここで何を?」

 

「………」

 

 母の墓参り、なんて素直に答えれる訳が無い。

 

 返答に困っていると、ベレスはいつもの無視だと思ったらしい。

 

「大司教から伝言が」

 

「大司教が?」

 

「べレトを士官学校の副担任にするって」

 

「…なんだって?」

 

 ベレスが告げたのは衝撃的な一言。俺が、士官学校の副担任?

 

 本当に勘弁願いたい。副担任なんて傍観者とは程遠い立場じゃないか。

 

 辞退は……させて貰えないだろうな。レア様が決めた事は絶対だ。何を言っても押し通されるのは目に見えている。

 

 腹を括るしかないのか……。

 

「………行こう」

 

「どこへ」

 

「私が担当する学級の教室へ」

 

 背筋に冷たいものが走った。

 

 何故だろう。とても嫌な予感がする。

 

 いや、別にコイツがどの学級を選ぼうと関係無いハズだ。

 

「学級は3つあるんだったな。お前は、どの学級を選んだんだ?」

 

「うん。黒鷲の学級(アドラークラッセ)

 

 ………そっか。

 

 帝国か、そっか………………。

 

「………悪いが、調子が優れない。宿舎に戻らせてもらう」

 

「だったら私も」

 

「着いてくるな」

 

「…分かった」

 

 嘘では無い。本当に胸の辺りに穴が空いたようだ。

 

 寝れば治るだろうか。

 

 

 

 

 

《1180年 大樹の節 25日》

 

 半日以上寝たが、空虚感は拭えない。

 

 これじゃダメだな。どんな結末だろうと、俺には関係無いんだ。

 

 ……何か気分転換が必要だな。訓練所にでも行くか。

 

 

 ◆

 

 

「アイツは……」

 

「どうしたの?フェリクス」

 

「奴だ」

 

「奴?………あの人は」

 

 イングリットがフェリクスと同じ方を見るとそこには、良くも悪くも、噂の人物がいた。

 

 べレト=アイスナー。

 灰色の悪魔の片割れ、妹嫌いの兄、修道院の敷地内を走り回るベレスと違い中々その姿を見かけないレアキャラだ。

 

「ちょうどいい。腕を見させてもらおう」

 

「フェリクス、そうやってあなたは戦う事ばかり」

 

 呆れるイングリットをよそに、フェリクスはべレトに向かっていった。

 

「おいお前」

 

「………君は、フェリクスだったな。何か?」

 

「訓練の相手をしてもらいたい」

 

「あぁ。構わない」

 

 2人は訓練用の剣を手に取って向かい合う。

 

 決着はすぐについた。

 

 

「俺は勘違いをしていた」

 

 べレトが訓練場から立ち去った後、フェリクスはイングリットに語りかけたとも、独り言とも、どちらとも取れない声で呟いた。

 

「奴の実力を疑っていた訳では無い。だが、精々あの女とさして変わらないものだと俺は高を括っていた」

 

「………?実際にそう見えたわよ」

 

「はたから見たらそうだろうな。だが実際に斬り合った俺には分かる。奴は大幅に力をセーブしていた。本来の実力はあんな物ではないだろう」

 

「にしては、満足そうな顔をしているけど?」

 

 フェリクスは訓練の際、手加減される事を何より嫌う。とイングリットは記憶している。

 

 そんな彼が手加減されていたとなれば、いつもに増して険しい表情を浮かべそうな物だが、何故か満足そうな顔だ。

 

「今まで、他人を尊敬するなどという感情は欠片も理解出来なかった。が、このような感情を言うのだろうな」

 

「あなた、本当に大丈夫?風邪でも引いているんじゃないの?」

 

 決して生まれ持った力ではない。一つ一つ積み重ねて、必要の無い物を切り捨てた着実な力。

 

 自分もあの域に至れたのなら………。

 

 ベレスが血眼になってべレトを探し回るのに、少しだけ同調する。

 

「中々有意義な時間だった。大司教に進言すれば青獅子の学級(ルーヴェンクラッセ)の担任をべレト………さんに変えてもらえるか?」

 

「やめなさい。マヌエラ先生に雷を落とされるわよ?って、あなた今、人の事をさん付けしたの!?……後で殿下たちに伝えておかないと」

 

「チッ。やめろ」

 

 口ではそう言うがフェリクスの顔は上機嫌の時のソレであった。余程べレトという教師に巡り会えたのが嬉しかったのであろう。

 

「軟弱な奴ばかりなのは変わらんが、士官学校での生活も案外退屈しなそうだな」

 

「あなたが楽しいのなら何も言わないけど………、あれ?ベレス先生、いつの間に、怖い顔してどうしたんですか?」

 

《べレトとフェリクスの支援レベルがCになりました!》

 






べレト

ゲームでは絶対にスカウト出来ないユニットになっている。
加えて彼から教員研修は受けれないし、お茶会にも料理にも浴室にも合唱練習にも誘えない。落し物も無い。
出撃の際にべレト関係の外伝も発生しないので食事に誘うのが親密度を上げる唯一の条件。
ベレス以外で唯一全てのユニットと支援会話があるが、なぜか青獅子の学級の生徒とは支援レベルが上がりやすい。
逆に黒鷲の学級の生徒とベレスは要求される支援値が高く設定されるので狙って上げないと支援レベルがCにもならない。

べレト先生の結末を予想しよう!

  • ベレスの和解する(帝国ルート)
  • 野望のために奔走する(同盟ルート)
  • すべての敵将の撃破(王国ルート)
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