《1180年 大樹の節 29日》
学級対抗戦を翌日に控えた今日。生徒たちの様子はまちまちだ。
普段と変わらない者。
気合いが入りすぎている者。
緊張して思考力が落ちている者。
……少なくとも、べレトの目の前にいる生徒は緊張でナーバスになっている者だ。
教師として導いてやりたい気もあるが、いかんせん彼は原作キャラだ。無闇に話しかけるべきでは無い。
向こうから相談してきたのなら、その限りではないが………。
「あの先生、ちょっとお聞きしたい事があるんですけど…」
してきた。
してきちゃったからには仕方ない。
「何のようだ。アッシュ=デュラン」
「ええと、先生は傭兵の仕事をしていた時、どんな事を考えて戦っていたんですか」
「何故、そんな事を聞く?」
「その、情けない話なんですが、明日の事を考えると、とても緊張するんです」
ただの対抗戦なので、そこまで緊張するような行事では無いのだが、他の人間より考え込んでしまう気質の彼らしい相談だ。
「戦いに慣れろ。としか言えないな」
「そう、ですか」
「だが緊張しなくなる事が必ずしも良い事とは限らない」
「え?」
戦場での緊張が無くなれば、余計な事を考えずに目の前の敵に集中出来るものだ。
一瞬の隙を突かれる事も無く、純粋な実力勝負が出来る。
だがそれが仇になる事もある。目前の敵の事で頭が埋め尽くされると、横槍に反応出来ずに呆気なく死ぬ。
その点、緊張感を持っていれば、警戒心を広く持てる。茂みから矢が飛んできたりしても、気付けるかもしれない。
「だから鼓動が少し早くなる程度の緊張がベストだな」
「そうなんですね。僕は戦場の経験が無いのでとても参考になりました!」
「良ければ弓の使い方を教えてやろう」
「本当ですか!?ありがとうございます」
俺も200年くらいは弓を使っていた時期がある。人様に教えられる程度の実力はあるつもりだ。
訓練所にて数時間の間、アッシュに弓矢の扱いを教えてやった。
「動かない的なら安定して当てられるようになったか。だが実戦では当然的は動き回る。経験を積め。対抗戦では、
「ありがとうございます!……………」
…最後のは余計な一言だったな。期待を押付けてしまったか。
「…………………」
「………本の読み聞かせでもしてやろうか?」
「は、はい!ぜひお願いします!」
べレトはアッシュに『キーフォンの剣』を読み聞かせた。
《べレトとアッシュの支援レベルがCになりました!》
《1180年 大樹の節 30日》
今日は学級対抗戦が行われた。
実況でもしようと思っていたが、予想以上に
にしても、士官学校の生徒ってこんなに弱かったか?
俺の時はもっと強かった気がするが、錯覚……かなぁ。
アッシュが落ち込んでなければいいが……。
「ベレスの奴、完勝だったな」
隣で観戦していたジェラルトがニヤケながら話しかけてくる。
俺には子供がいないのでよく分からないけど、娘の活躍が嬉しいらしい。
「何か、贈り物でもしてやる気にならないか?」
「父さんがやってくれ」
「年頃の女が喜ぶ贈り物を、俺が選べると思うか?」
…………無理だな。
だが、それを言ったら、俺にも無理だ。昔ならまだしも、今のアイツの事知らないし。
「考えておく」
この場はうやむやにして逃げるとしよう。
しかし、ベレスの喜ぶ贈り物、ね。
そういえば傭兵をやってた頃、商人から謝礼を貰った事があったのを思い出した。
中々貴重な物だったので使わずにとっていたが、死ぬまで使わない可能性が無きにしも非ずなので、この際ベレスに譲るか。
《ベレスが風呼びの聖靴を獲得しました!》
《1180年 竪琴の節 1日》
ガルグ=マク大修道院での生活は退屈だ。
以前みたいに担任を持っていないので日中はやる事が無い。
しかし一応は副担任として業務時間内なので温室などで遊んでる訳にもいかない。
最近は生徒たちの授業の様子を眺める日々を過ごしている。
そうして今日の授業が終わり放課後になった。これからはようやく自由時間だ。温室で植物の世話をして、釣り池で釣りをして、犬猫に魚を与えて1日を終える。
………こんな生活があと1年続くのか。
とてもじゃないが、想像していた自由とは言えないな。
なんで俺、大修道院に来たんだっけ?なんとなくでベレスたちに着いてきてしまったが、わざわざここに来る必要は無かったんじゃないか?
「べレト君」
「…………?」
温室へ向かう途中、呼び止められる。相手はハンネマン先生だ。
「少し時間をくれないかね?君にも紋章があるのかどうか、是非とも調べさせてくれ」
俺が紋章を持っているハズが無いが、実際に見せた方が早く済むか。
◆
「これは………!どの書物にも記されていない、正真正銘未発見の紋章!我輩の前で今、何が起きているというのだ!?」
本当に何が起きているんですかね?
予想に反して、装置は俺の身に宿っているらしき紋章を映し出した。
しかも装置が表示した紋章は、全く見覚えが無い紋章だ。
セイロスの紋章でも、炎の紋章でもなく、どの文献にも無い真新しい紋章。マジでなんなんだコレは。
「そうだな。ひとまずは『アイスナーの紋章』を仮称としよう。コレが本名となる日もそう遠くないと思うがね」
「……何故、俺に紋章が」
「冷静に考えれば数千年の間未発見というより、コレが初出だと考えた方が自然………つまりは、べレト=アイスナーという存在を特別視した女神が新たに創造した紋章だとでも言うのか?だとしても何故この若者に………」
既にハンネマンは自分の世界に旅立ってしまった。
これじゃあしばらくは何を言っても無駄だな。俺としても紋章について詳しく知りたいところだが、彼の考えがまとまったらまた聞くとしよう。
……しかし、俺の存在を女神が特別視、ね。
少し、いや大分見る目が無いな。
◆
予想外の事が起きて、温室に来るのが随分と遅くなってしまった。夕日は沈み、辺りはすでに真っ暗だ。
これでは釣りをする時間は無いか。
「……〜♪…………〜〜♪」
温室に近付くと、中から音が聞こえてきた。
話し声……いや、歌声だろうか?
歌といえばドロテアやマヌエラ先生だが、ドロテアはこんな時間に出歩く子では無いし、マヌエラ先生もさっき医務室で見た。
その他で歌を歌うような生徒といえば……
「……ベルナデッタか」
「ひゃん!……あ、あわ、あわわわ」
「夜中に歌うのは辞めろ。怖がる者が出てくる」
「びゃあああ!聞かれてしまいました!もうお嫁に行けませーん!!」
うるさいな。コイツ………
「そんな隅に溜まった埃を見るみたいな目で見られたら、ベルは、ベルは〜!!」
構ってやれる程俺は優しくない。1人で盛り上がるベルナデッタをよそに植物の芽に水をやっていく。
「さて。用事が済んだので失礼する。君も夜更かしが過ぎないように」
「ちょちょ、ちょっと待ってください!」
背後から衝撃。それと共に腹に圧迫感。
「離してくれないか。ベルナデッタ=フォン=ヴァーリ」
「あの!今日の出来事はどうかご内密にお願いします!」
「元より誰かに話すつもりは無い」
「本当ですか?信じますよ?信じていいんですよね!?………にしても、先生とくっついていると落ち着きます。それに、ここに来てから誰かとこんなにお話出来たのも先生が初めてです」
まだ1分も話してないが……。
「士官学校の皆さんも、先生も、こんなあたしと関わろうとしてくれるんです。なのにあたしは遠ざけてばかりで、そのクセ誰も構ってくれなくなったらどうしようって、うぅ……」
相当参っているようで、体に巻き付いた腕の力が弱まる。それでも引き剥がそうとすれば力を入れてくるが。
「ベレスがいる限り、君が心配している事にはならないと思うが」
「無理です!あの人、表情変わらないし喋らないしで怖いんですよ!きっと頭の中ではベルの事、ぐちゃぐちゃのめちゃめちゃにしてるんですぅぅ!!」
「アイツは自分なりに生徒と仲良くなろうとしている。俺にも何度か相談しに来た」
全部適当に返事したのでなんて返したかは覚えてないけど。
「それでももし、どうにもならないと感じたら俺が何とかしてやる。どれだけ嫌われて疎まれようと俺が必ず君を救い上げてやる」
「本当ですか?本当の本当ですか!?言っておきますが、あたし遠慮なんてしませんからね?」
「ああ」
そっとベルナデッタの前髪を上げる。
「約束だ」
「はい!!」
《べレトとベルナデッタの支援レベルがCになりました!》
《1180年 竪琴の節 3日》
新たに発見された紋章を発表するため、ハンネマン先生が大修道院から出ていった。
そのため、今節中は
形のある仕事を貰えるのは願っても無い話だ。
早速来週の授業の準備に取り掛かるとしよう。
《1180年 竪琴の節 5日》
「べレト先生。ちょっと話をしませんか?互いの親睦を深めるために」
授業が終わり、教室から出かかった所でクロードが気さくに話しかけてきた。
「悪いがクロード。授業についての質問しか答えてやれない」
「いやいや、10分も早く授業を終わらせたんだから、ちょっと位はいいじゃないですか」
確かに、終了する時間を本来より大分早めたのは事実。
ベレスと教室を出る時間が被らないように、わざわざ予定より早く終わらせたのだ。
ヒルダを筆頭に大半の生徒には喜ばれたが、リシテアのような真面目な者は不満がっていたな。
「………授業についての質問には答えてやるが、君の個人的な物には付き合わないぞ」
「だったら、俺の独り言を聞いてくださいよ。それだけならいいでしょ?」
「歩きながらなら」
「ありがとうございます」
◆
「先生って、今のところ1番謎が多い人物なんですよ。例えば妹に紋章がある事を知っていたり………傭兵団の皆さんはおろか、ジェラルトさん。そして本人すら知らなかったのに、どうやって知ったんですか?」
コイツ、わざわざ傭兵団の皆から聞いて回ったのか。
「そのくせ、自分は紋章を持っていた事を隠していた」
「知らなかっただけだ」
「いやいや、人の紋章の有無を調べる術を持つ人間が、自分の紋章に気付かない訳ないでしょ」
相変わらずやりにくい奴だ。他の誰かなら少し疑問に持って終わりな所、コイツはとことんまで突き詰めてくる。
俺の秘密なんて解き明かしても、コイツの野望にはなんら関係無いというのに。
「それに今日の授業、随分と手慣れてましたよね。言っちゃ悪いがハンネマン先生よりも分かり易かった。あのリシテアが授業中に質問しなかったのは初めてだ」
「それは良かった」
「もうすぐ目的地に着いちまいそうだからハッキリ言いますよ。アンタ一体何者なんだ」
「……言っただろう。授業以外の質問には答えかねる。と」
「ま。答えが本人の口から出ちまったらつまらないか。俺は自力でアンタの正体を解き明かすとしますよ」
「………………」
「ところで………先生」
「なんだ」
「先日の練習試合、勝利を掴んだのは
「そうか」
まぁ、俺が教えたのだからな。それくらいの評価も当然だろう。
ふふん。
「聞けばアンタから弓を教えてもらったと言う。先生、俺にも弓の稽古を付けてくれないか?」
「それなら問題ない」
「お。本当に教師の鑑みたいな人だな。良くも悪くもね」
《べレトとクロードの支援レベルがCになりました!》
《1180年 竪琴の節 10日》
釣りは好きだ。日頃の悩みを忘れ、時間を潰せるので。
しかし欠点もある。釣りすぎると魚の処理に困ってしまう。食堂に寄付しようにも、量が多いと逆に嫌な顔をされてしまう。
かと言ってリリースするのも嫌だ。折角釣ったのだからどうせなら食べたい。
という事で今日は大食らいの生徒を呼び寄せてみたが……
「どりゃああああ!!!」
……………
「うおりゃああああ!!!」
「……ラファエル。その、何を叫んでいるんだ」
「おお!これはな先生、腹ぁ空かせる為にトレーニングしてんだ」
魚が逃げてしまうのだが?
そういえば、前にもこういう事があったな。アロイス殿が煩くて全然魚が釣れていなかった出来事を思い出す。
まるでつい先程の事のように鮮明に。
何周目からはそんな事に気を配る余裕が無かったが、あの頃はミミズを捕まえるのも嬉しかったな。
「うおんどりゃああああ!!!!」
「少し静かに……」
「あ!先生、竿引いてるぞ!」
「は?……重っ!?」
「よっしゃ!!手伝うぞ!先生!」
未だ類を見ない大物に引きずり込まれそうになるが、ラファエルの加勢もあり徐々に魚の動きが弱っていく。
これで誰かが捨てた粗大ごみだなんてオチはやめてくれよ…!
「魚影が、見えた!」
「もうひと踏ん張りだあ!!!!」
決着は呆気なくついた。
勢い良く釣り上がったソイツは一瞬、月影を遮り、重力に従い落下する。
「うおお!キャッチだあ!」
地面に触れる寸前でラファエルが魚を掴み、無惨な姿になるのは避けられた。
しかし、初めて見る魚だ。全長は2メートルくらいか?デカ過ぎるな。
焚き火で丸焼きにでもしようと思っていたのだが、このサイズの丸焼きは無理があるか。
「ん?どこ行くんだ、先生?」
「食材を取ってくる」
「それだったら先生、その間にクラスの皆を呼んできていいか?こんな2人より、大勢で食べた方が楽しいからよ」
「だったら、食堂で集合だ」
「おお!」
《べレトとラファエルの支援レベルがCになりました!》
《
《1180年 竪琴の節 16日》
「んしょ……んしょ……」
夜、書庫に行くと、見覚えのある後ろ姿を発見する。
銀の長髪をゆらゆらと揺らしながら一生懸命上段の本を取ろうとしている。
はしごを使えば一発だが、彼女のプライドがそれを許さないのか……?
代わりに取ってやりたいが、そうすると逆に機嫌を損ねかねないな。
ここは静かに立ち去るとしようか。
"パタン"
あ、マントの謎の袖が引っ掛かって本が落ちてしまった!
「ひひゃ!?お、おお化け!?」
「お化けでは無い」
「な……なんだ。先生じゃないですか。なんたってこんな時間に書庫に」
「………なに、本を探しに来ただけだ」
そう言いながら、1冊の本を手に取った。理学に関する内容の本だ。
「あっ……それ」
「もしかして、リシテアもこの本を?ならば君が先に」
「え、良いんですか?」
「生徒の意欲を削ぐ真似は出来ないからな。それに、先に来ていたのは君だ」
「そこまで言うなら受け取りますけど……」
確かにリシテアに本を手渡したので、今度こそ書庫から出るとしよう。
本来の目的もリシテアがいては実行出来ないからな。今日は諦めるか。
「ちょっと待ってください!!」
呼び止められる。
つい先日もこんな事があったような気がするが……
「今日は朝から曇り空でしたよね。きっと今夜は月明かりが遮られて、外はとても暗いと思うんです」
「まあ、そうかもな」
「そこでですよ?寮まで送っていってくれませんか?」
「あぁ。お化けが……」
「違います!ただもしも敵襲があった時のため先生がいた方が安心出来るというだけの事で、決してお化けが怖い訳ではないですことよ。オホホホ……」
「確かに一理あるな。それでは君を護衛させてくれ」
「やった!ふぅ、感謝します。先生」
◆
「わたし、子供扱いされるのがどうしても気に入らなくて。でも、先生は不思議とそういう感情が湧かないんです。どうしてでしょうか」
どうして、と言われてもな。
強いて言うなら、生徒は皆同じように接しているからではないか?個々の性格によって多少の差異はあるが、俺にとってはヒューベルトからリシテアまでもが同じく庇護の対象だ。
「先生、迷惑じゃなかったですか?こんな夜更けに、寮まで送っていけなんて」
「迷惑だと感じたなら、最初から断っている。それに、先日同じような事があったからな。慣れたものだ」
「同じような事ですか?」
「ベルナデッタが1人では怖いと喚くのでな」
「………………」
「リシテア?」
「レディといる時にほかの女の名前を出すのは御法度ですよ」
「……………?すまない?」
何が気に触ったのか、途端に機嫌が悪くなるリシテア。
さっきまで怖がっていたというのに、夜の闇の中をどんどん突き進んでいく。
「リシテア」
「何ですか?」
「後ろから足音がする」
「え」
「冗談だ」
「なっ!からかわないでください!」
場を和ませようとしたが、余計に怒らせてしまったみたいだ。
これは失敗だったな。
《べレトとリシテアの支援レベルがCになりました!》
《1180年 竪琴の節 19日》
「すまないが、生徒である君と交際する事はできない」
そう告げると、涙を浮かべて走り去っていく女生徒。
申し訳ない気持ちになるが、仕方の無い事だ。
しかし、今節で5回目か……
今までのループでも生徒から告白された事はあるが、精々1年に2、3回だった。
「いやー。流石ですね先生」
「……何の話だ。シルヴァン」
「とぼけないでくださいよ。この短い間で、一体何人の女性を泣かせたのか。先生も罪な男ですね」
「望んでやっている訳じゃない。俺としても、この状況は好ましくないんだ。でも彼女たちがどうして好意を寄せてくるのかが分からない。理由が分からないのでは対策のしようが無いのが現状だ」
「先生、それ、本気で言ってます?」
「…………?」
「1度話し合いましょう。お茶でもしながらじっくりと」
いつに無く真面目な表情のシルヴァンに、俺は頷く事しか出来なかった。
◆
「それで先生、自分がモテてる意味が分からないって、それじゃあ普段の仕草は無意識に
「俺は普通に接してるつもりだが」
「はぁ………普段通りがあんなんじゃ、ベレス先生のガードが硬いのも納得が行きますよ」
「シルヴァン。俺の言動には問題があったのか?」
「問題は無いんですがね………先生、もう一度聞きますが、本当にアレが普段通り何ですね?」
「俺は生徒毎に対応を変えたり、贔屓をする事は無い」
「いや、それは十分理解してますよ。しかし、お言葉ですがね先生。誠実すぎるってのも良くないと思いますよ。現に本気にしちまった生徒が5人も出てる」
「しかし、本当に俺はいつも通り接しただけだ」
落し物を一緒に探してやったり、授業について行けない生徒の相談に乗ってやったり、ストーカーを追い払ってやったり………
精々それくらいである。
「精々それくらいって、普通の人間は人にそこまで親切に出来ませんよ」
「俺も他人に対してはここまでやらない。彼女らが生徒だからだ」
どうしてここまでしてくれるんですか。と言われたらきちんとその旨も伝えた。
君が特別だからな。って。
「これで天然だってんだから、困ったもんだなあ」
「俺の対応には問題があったのだろうか」
「そうですね。最後の一言を無くせば、ある程度は落ち着くと思いますよ」
「それだけでいいのか?」
「完全って訳にはいかないですけどね。何をしなくともレディから好かれるってのは色男の定めですよ」
シルヴァンが少し冷めてしまった紅茶を口に含む。
「この味は、もしかしてフレスベルグブランドですか!?」
「好みじゃなかったか?」
「大好きですけど、こんな貴重な物どこで手に入れたんですか?値段もそうですけど、流通量が極端に少なくて中々手に入らない代物ですよ」
「ある生徒からの貰い物だ。お近づきの印に。と」
「………先生アンタ、俺が言えた事じゃないが、いつか刺されますよ」
「…………?今日はありがとうシルヴァン。話が出来て嬉しかった」
「いえ、こちらこそ。噂の色男とお話が出来て、色々勉強になりました」
何かを教えた覚えはないが。
「君とも是非、良好な関係を築きたい。質問があるなら何でも聞いてくれ」
「だったら最後に1つだけ。先生は、自分に紋章があると知って、どう思いました?やっぱり嬉しかったですか?」
「………そんな訳があるか」
「え?」
「こんな物を持って何になる。こんな力が無ければ、自分は苦しまなくてすんだ。全てを捨てて逃げ出したいと思っても、力を持った者がやり遂げなければならない。死ぬまで、死んだ後も。紋章を持っていて良かったなんて、1度たりとも思った事は無い!!」
「先、生?」
「………すまない。古い友人の話だ」
「な、なんだ。自分の事みたいに話すんで、勘違いしましたよ」
どうやら、熱くなりすぎたみたいだ。
生徒の前なんだ。見苦しい格好をこれ以上見せる訳にはいかないな。
「さて、そろそろ解散しよう。片付けは俺がやっておく」
《べレトとシルヴァンの支援レベルがCになりました!》
《1180年 竪琴の節 21日》
「先生、あの…少し、ご相談があるのですが」
マリアンヌが何かを話したそうにしていたので、人気の無い場所まで行くと予想通り彼女が話しかけてきた。
「マリアンヌ。なんの用だ」
「その、今節の課題の事で」
「大修道院内の清掃活動だったな」
「はい。それで、その、私を皆さんと違う所で、1人でやらせていただけませんか?」
「1人で?」
「決して、怠けようという事ではなくて、私が一緒だと、皆さんが………」
「不幸になると?」
「……はい」
そう言えば、彼女も紋章で人並みの生活を送れなかった者の1人か。
「この1ヶ月。学級の生徒と少なからず関わりはあっただろう。彼らの事、君はどう思った?」
「えっと、皆さんとてもいい人で、私なんかにも沢山話し掛けてくれて、とても良い人たちばかりで」
「少なくとも、君を避けてはいないという事だな」
「ですが、だからこそ私が関わってしまったら」
「……君の身に何があったのかは分からない。だから自分を信じろなんて軽薄な事を言うつもりは無い」
自分を信じるなんて、普通に生きていた人間ですら難しい事だ。過去に嫌な事があった人間には、とてもじゃないが出来ない。
俺もそうだ。自分を信じる事なんて、出来た試しが無い。これはどれだけ経っても変わらないだろう。
「だけど、自分では無い誰かを蔑ろにしているのは感心しない」
「そんな!私は、皆さんが不幸にならないように………」
「君の言う事を信じているかはどうあれ、皆覚悟の上で君に話しかけている。君と関わると不幸になるなんて言い訳は通用しないぞ。そしてそれを受け入れない限りは、君は永遠に1人ぼっちのままだ」
「私はそれでも……」
「正直に言ってくれ。ここには俺と君以外、誰もいない」
「私は……嫌です。このままの自分は、嫌です!」
「だったら、彼らを信じるんだ。自分を信じる必要は無い。人を信じる力があれば人は変われる。君が自分を信じられない分は、彼らが変わって君を信じてくれる」
「人を、信じる……」
「難しい事では無い。君に何度も話し掛けてくれた奴ら、心当たりがあるだろ?もちろん、俺も全身全霊で君を信じる。俺に出来る事なら、喜んで協力しよう」
「ありがとうございます。先生。少し、気分が晴れました。今節の課題も、皆さんと一緒に頑張ってみます!」
「その意気だ」
「このお礼は、また今度させていただきます」
「必要無い。教師として、当然の事をしたまでだ。だが、そうだな。どうしてもと言うなら。俺の事も信じて貰えないだろうか。偉そうな事を言った手前だが、俺も自分を信じられてはいないんだ」
「ふふ。おやすい御用です。先生」
そう言って微笑むマリアンヌの目元からは翳りが消えていた。
彼女が抱える悩みの少しでも解消できたのなら、教師としてこれ以上に嬉しい事は無い。
《べレトとマリアンヌの支援レベルがCになりました!》
◆
「べレト」
「ベレスか」
マリアンヌと別れた直後、どこからか現れたベレスに行く手を阻まれる。
それも唯ならぬ雰囲気だ。
「どうしたんだ。険しい顔をして」
「ベルナデッタの事、感謝している。あれから、比較的授業に出席するようになった」
「それは良かった」
「しかし………女生徒を口説き回る行為は感心しない」
「何を言っているんだ?お前の戯言に付き合ってやれる程、今節は暇では無いんだ」
例によって双子の会話は長くは続かずに、べレトは立ち去ってしまった。
(分かってる。これはただの八つ当たりだ。べレトがそんな不誠実な男の訳が無い)
頭では分かっていたが、言わずにはいられなかった。
頭の中にこびりついた嫉妬が故に。
いつからだろう。兄が自分に冷たくなってしまったのは。
父は思春期などと言ったが、年齢を重ねても家族関係が修復される事は無かった。
それなのに、自分たち以外には変わらず接する兄の姿を見て、嫉妬しないという方が無理な話だ。
士官学校に来た時は生徒にも同じような態度を見せかけたが、結局は真摯に接している。
「そんなの、許せる訳がないでしょう」
べレトは、自分のお兄ちゃんなのに。
《べレト》
本人はこれで原作キャラとあまり関わっていないつもりでいる。紋章ガチアンチ勢。
《アイスナーの紋章》
べレトに宿った紋章。彼がこれまで経験した事柄を1つ残らず収納する能力を持つ。これが後世に受け継がれるかどうかは、べレトの結末に直結する。
《ベレス》
大好きなお兄ちゃんがぽっと出の生徒に奪われそう。
とりあえずベルナデッタの課題は5倍になった。
べレト先生の結末を予想しよう!
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ベレスの和解する(帝国ルート)
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野望のために奔走する(同盟ルート)
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すべての敵将の撃破(王国ルート)