俺がガキの頃、眼の前にはうっとしい木々が広がっていた
見渡す限りの大自然、出ることのできない田舎。
己を縛り付ける両親。
大多数の人間から見たら、それはそれはどうでもいい、ちっぽけな問題だろう。
でもそれは、俺にとって大きな問題だった。
自由がほしい。都会に出たい。
そんな俺を救ってくれたのは、一冊の漫画だった。
幾千もの漫画の中の一冊だが、それは俺のバイブルとなった。
「進撃の巨人」
それが俺を救ってくれた漫画だった。
自由になってもいい。それを邪魔する人間は、俺の敵だと思っていい。
そんな攻撃的な指針を俺にもたらした。
でも、現実は残酷だった。
都会に出て5年。社会の荒波にもみくちゃにされていた頃。
俺は、通り魔に殺された。
一瞬だった。刺されて、刺されて、切り刻まれた。
痛かった苦しかった。それ以上に悔しかった。
俺を害したこいつを、必ず殺してやるとそう決意させた。
でも、人間は弱い。何度も急所を刺されてしまえば、ほんの数秒で息を引き取ってしまう。
眼の前が暗くなった。段々と意識が遠のいていく。
最後に思い出したのは、子供の頃嫌ほど見た木々と、両親の顔だった。
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ざわざわと木々が揺れる音がした。
春の風が体を吹き抜けて、心地良い。
そうだ、さっきまでの記憶を記憶として読み込めるってことは、俺は生きている。
最初に記憶を思い出したのは、4歳のときだった。
そこから3年、見知らぬ土地で見知らぬ人間と共に生きている。
3年も生きていればわかることがある。
この場所は俺が暮らしていた日本よりも、技術のレベルが低いということ。
具体的には中世ヨーロッパのそれ、人々の顔もそっち系の彫りの深い顔が多い。
そして一番重要なのは、高さが50mもある、クソでかい壁があるということだ。
うん、ここはどうやら「進撃の巨人」の世界らしい。
そして俺は、異世界転生をしてしまったらしい。
正直歓喜している。俺が何度も夢見た立体機動が実際にできるんだから。
そんでもってこれが一番嬉しいのが
「アダム!今日も来たぜ、早く出てこいよ!」
「アダム!!今日も外の話の考察しようよ!!昨日の続きから!!」
これだ。俺はシガンシナ区の名家の長男として生まれたらしい。
記憶を取り戻してここがシガンシナ区だと気づいてから、速攻でエレンとアルミンにコンタクトを取りに行ったよ。
こうして俺も立派な幼馴染だ。エレンは簡単な格闘術とトレーニングで落ちたし、アルミンはちょっと外の世界の話に興味を持ったら爆速で友だちになれた。
あ、アダムってのは俺の名前な。随分と大層な名前だけど、この世界では前世の神話なんてない。全部ユミルの話だ。
まあ、シガンシナ生まれのオタクとして流石にみんなこうすると思う。
「アダム!今日も特訓だ!立派な兵士になるためにな!」
「ちょっとエレン!今日はまず僕からって言ったろ!」
「まあ落ち着けよ、俺なら本を読みながらエレンをボロボロにしてやれるんだから。喧嘩すんなよ」
「はあ!?言ったな!行くぞ!」
そんでもって俺の身体能力はめちゃくちゃ高い。
決して弱くないはずのエレンを片手間でボコしながらアルミンの話に付き合えるぐらいは。
アッカーマンの血でも入ってるんじゃないかって思えるほど高い。
でも別に入ってないんだよな…
そもそもシガンシナに移った家とはいえ、中央政権とズブズブの家だし。
何なら、ユミルの民ですらない可能性がある。両親はエレンとアルミンを若干見下してる節あるし。
まあこれを利用しない手はないよな普通に、こんだけ動ければ立体機動も余裕だし。
まあ、あと3年でベルトルト来ちゃうし、それまでお坊ちゃまを楽しむとするよ。
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あれから3年、ついに845年が来た。
一年前にミカサが幼馴染に加わったり、エレンが少しカッコつけ始めたりとまあいろいろあったが。
俺はいつ来るかわからん災害に備えて色々備蓄してる。
具体的にいえば、家の金で干し肉やら非常食をアホみたいに買い込んでる。
開拓地に移ったとき、食料が間違いなく足りなくなる。普通に食べ盛りの男子を舐めちゃいけない。
そういえば3年でメキメキ体ができあがってきた。
それに伴って身体能力も馬鹿みたいに上がってく。ミカサ以上だ、今んとこ。
普通に何かのバグなんかじゃないのか?これ、覚醒したアッカーマン以上はなんか怖いぞ。
そんなふうにまあ、順調にすくすく育ってます。
しかし、今日はなんか、嫌な感じすんな。
エレンとミカサは家の薪拾いで集まれなくて、アルミンと二人だし。
や、いいんだけどね、可愛いしアルミン。
「ねえアダム、今日はね!この本についてッ!?なんだ!!??」
「伏せてろッ!!」
おー地響きと雷、来たかついに。
「あ、あれは…」
「ヤツだ、巨人だ!」
そろそろ蹴破られる!衝撃に備えねば!
爆音がした。厚さもそこそこある壁を思いっきりぶっ壊したんだから、そりゃそうか
壁の破片が、シガンシナ区に降り注ぐ。
それぞれ向かった先には。知らん家々とイェーガー家と、我が家ッ!!??
「悪いアルミン一人で逃げてくれ!!」
まじかまじかまじか!!俺の家が!!10年間も世話になった両親と使用人たちが!!
そうか、道理で原作にこの家が出てこないわけだ!
なくなってたんだ物理的に!畜生無事であってくれ!
「父さん!!母さん!!」
直撃、中身は
あぁ、覚悟はしてたさ。でもこれは、あまりにも理不尽だ。
俺の家族がなにをしたんだ?使用人たちも別に悪いことはしてないだろう。
バチバチと電流が迸るような感覚がする。
体が熱い、涙が溢れて止まらない。
ズシンと、巨人がこちらへ向かってくる。
口元を血濡れにした巨人が数体。5mぐらいのが多いな。
普通ならここで食われて終わりだろうが
俺ならやれる。確信がある。このやり場の内怒りをぶつける相手が、来た。
ふと足元を見る。パンパンのバック、その横には包丁を握った手がある。
俺の防災バックだ。どうやら無事だったらしい。
包丁はなんだろう、料理中に逃げようとしたんだろうか?
ちょうどいい。
後ろを見る。ニタニタと楽しそうな巨人、どこか苦しそうな巨人。2体だった。
数歩下がり、助走をつけ、飛ぶ。
十数mはとんだ、項だ、項が見える。
「ああああああ!!」
削ぐ、削ぐ、また削ぐ。
まずは一体、次の巨人めがけて飛ぶ。
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「アダム!!無事、だったんだね、そ、その血は?」
「返り血、家はだめだった。家族も。」
「そ、んな。て、返り血!?なんの!?」
アルミンが心配している、ちょっとかわいそうだけど、そのままにする。
少し黄昏させてくれ。割と気に入ってたんだ。今の家族も。
「駆逐してやる、この世から、一匹、残さず!」
エレン…複雑だ。進撃の巨人を全部読んだ身としては、あのセリフも、未来のエレンに作られたもんだと思うと
余裕がなかった、家がだめなら、エレンのとこに行ってやればよかった。
未来のエレンもだ、あれだって、泣く泣く親を殺したんだ。
この世界に来て初めて絶望したよ、何だ、これは。
「俺もだ、エレン。全部、全部ぶっ壊そうな…」