一年戦争についてジークアクスで描写されなかった部分はジオリジンから引っ張ってきてます。
人類が増えすぎた人口を宇宙に移民させるようになって、既に半世紀が過ぎていた。
地球の周りの巨大な人工都市は人類の第二の故郷となり、人々はそこで子を産み、育て、そして死んでいった。
宇宙世紀0079年、地球から最も遠いスペースコロニー郡、サイド3は自らを『ジオン公国』と名乗り、地球連邦政府へ独立戦争を挑んだ。
宣戦布告と同時にジオン公国は連邦軍巡航艦隊と月面都市グラナダ、フォン・ブラウンを攻撃。
更には同日、反ジオンを掲げていたサイド2へも侵攻を開始した。
パプア級から出撃したモビルスーツ隊はコロニーに駐留していた警備艦隊を核の炎で丸焼きにし、それでもなお悪あがきを続けるコロニーは艦砲射撃で外壁を破壊した。
もはや戦争ではなく、虐殺と呼べるその戦いが終わってから36分後。
グワジン級を擁した本隊のチベ級から新たなモビルスーツ隊が発進した。
⬛︎
漆黒の宇宙、真っ暗な空間に自分は居た。
唯一の例外として向かって右側のモニターに明るく光っている天体、我々の母なる星こと太陽が存在感を放っている。
音に関しては全くの無音で、すーはーと自分が呼吸する音以外は何も聞こえない。
まるでこの世界には既に自分しか居ないのではないかと。
ふとそう思った時、途端に孤独感が大挙して押し寄せてきた。
自然と呼吸の速度が上がり、心拍数が上昇する。
着用したノーマルスーツがそれを感知したようで、暗いコックピット内のコンソールにコンディションの変化が通知される。
するとその時、機体がガンと揺れ、接触回線が繋がれたことを示すフリップがコンソール上に表示された。
そして被ったヘルメットに備えられたスピーカー越しに隊長の声が聞こえてくる。
[曹長、心拍数が上がっているぞ。怖いのか?]
「た、ただの武者震いです。問題ありません。」
[まあそう強がりなさんな。俺もビビってるよ。]
「隊長が?ご冗談を。」
[そりゃ俺だって人間だし、初陣でビビりはする。ただそれを拒否して押さえ込むな。自分は緊張してるって自覚しろ。そうすれば随分と楽になる。]
「なるほど……やってみます。」
再び軽い振動が発生し、上官の声が途切れた。
スクリーンの上方から人型のシルエットがヌッと現れると、各所のバーニアスラスターを微弱に吹かしながらこちらの方へ回転してくる。
すると顔の真ん中に球体の赤い光がグポンと浮かび上がり、左右へ動く。
MS-06『ザク』。
ジオン公国宇宙軍が誇る全高17.5mの主力モビルスーツだ。
今自分が乗っているのは核攻撃に対応したC型で、目の前を行く隊長機の手にはザク・バスーカをひと回り大きくしたような核ミサイル対応の専用バズーカが装備されていた。
背中のバックパックには活動時間を伸ばすためのプロペラントタンクが、太いものが横向きに2本と、そこから手前斜め下へ向かって細いのが1本取り付けられていた。
ちなみにこちらの機体も同じ装備となっているが、頭部の外装式単装機関砲と作業用のヒート・ホークを除いて武器は持っておらず、代わりに隣のペア機と一緒に大きな『宅配便』を引っ張っている。
[これより無線封鎖を解除、作戦行動に入る。予定通り、第一小隊と第二小隊は6番ノズルを、第三小隊と第四小隊は7番ノズルの設営に入れ。ミノフスキー粒子による通信障害が起こるだろうが、そこは距離に応じて各自対応するように。]
隊長機は手を振って合図すると、太ももと背中のアポジモーターを点火させた。
こちらもシステムを同期させたペア機と同時に燃焼を開始する。
「っっ!!」
ガタガタと機体が揺れ、身体がシートの背もたれに押し付けられる。
コロニーの中とは違って基準となる周りの物が無いため、どれだけ速いのかはよく分からないが、少なくともサイド6の、どの公共交通機関よりも速い速度を出していることは確かだ。
「5、4、3、2、1……燃焼終了!」
自動で噴射口からの青い光が停止する。
コンソールにはコンピューターが計算した予定航路の座標が示されており、特に警告も示されていないことから上手くいったと分かる。
安堵の息を吐いていると、前方左側の空間にAIが何かを捉えたようで、スクリーンの一部を四角く強調表示してきた。
太陽の光に照らされて全体像が見えてくる。
「あ……サラミス……。」
それは連邦軍の航宙巡洋艦『サラミス級』……と、呼ばれていたものだった。
水色の塗装は焼け焦げて真っ黒になっており、熱で溶けかかった艦橋の窓に光は無く、ただゆっくりと回転しているそれ。
観察を続けていると、船体が横向きになり、艦橋から後ろの部分が無くなっていることに気付く。
あそこに乗っていた連邦軍の人間はどうなったかは言うまでもない。
初めて見る戦争の痕跡に、戦いが起こっているのだと、心の底からハッキリと理解した。
再び緊張感が込み上がってきて、胸を締め付けてくる。
[ぶつかる馬鹿はウチには居ないとは思うが、ここはもうデブリだらけの戦闘宙域だ。大々的な戦闘と制圧は終わったとはいえ、残党が隠れているかもしれん。警戒は怠るなよ。]
先ほどのサラミス以外にも沢山の残骸が流れてくる。
そして一際大きな物体が、AIによって明度が補正された円筒形のシルエットが、暗闇の中に幾つも浮かび上がった。
スペースコロニー群、サイド2『ハッテ』。
沢山ある中で目の前に浮かんでいるのはその8基目、首都機能を有するマザーバンチコロニー『アイランド・イフィッシュ』。
本来はコロニーの端から伸びたミラー板によって円筒内部が明るく照らされている筈だったが、今は微妙に薄暗かった。
というかガラス張りになった箇所が幕か何かで覆われており、外部からの光を一部遮断していた。
更にコロニーへ接近を続けると、戦闘で損傷した表面部分と、そこでうごめく友軍のザクと工作艇が見えてきた。
[よし、作業開始だ!後続の連中に遅れを取るなよ!]
側面部が近付いてくると、今度は姿勢を変え、減速の為に逆噴射をかける。
次第に大きな鉄の壁が目の前へと迫り、その壁へ
上下感覚を90°ほどズラすと、作業を開始する。
[ヒビキ、そっちをハメ込んでくれ。もう少しいける筈だ。]
「おうよ……っと!」
ザクの肩からマニュピレーターの先端までを操作することの出来る精密作業用のグローブを装着しながら、昔流行ったVRゲームのように何も無い空間でワキワキと両手を動かす。
自分達の他に何十機ものザクが群がって組み立てているのは2基1組の巨大なロケット・ブースターだった。
こんなものを何に使うかは知らないし、皆目検討もつかない。
しかし細かいことはお偉いさんに任せて考えるのは辞めると、今は目の前の作業を完遂することに集中する。
工兵隊からの指示に従ってパイプや支柱を挿し込み、接続は人間が手作業で行っていく。
「ふぅ……終わった……。」
全ての工程が終了すると、最終チェックは工作艇に任せて自分はコックピットの中で手足を伸ばす。
その時、視界の一部を占めるガラス張りの床に塗装の剥げのようなものがあった。
隣に居た僚機の肩に手を置く。
「なあ、トキワ、あのガラスに何が塗られているんだ?」
[知らん。多分、中にまだ残ってる連邦の連中に外が見えないするためじゃあないか?]
「ふーん、なるほどねぇ。」
[おい、どこ行……。]
床から足を離すと、スラスターを吹かしながら、コーティングが剥がれた部分へと近付いていく。
案の定、そこから中の空間を見ることが出来た。
「んー……。」
ザクの顔を穴に近付けるとコロニーの内部が見えてくる。
どうやら中は混乱が起こっているのか、反対のガラス面の上にかかった橋には沢山の車が渋滞を起こしており、遠目に確認出来る街も車や人でごった返していた。
人々の慌てふためく様子を覗いてやろうと、好奇心から頭部モノアイのカメラをズームさせる。
そしてそのことを後悔した。
「…………えっ?」
確かに混乱の痕跡は見受けられた。
しかし、実際は不気味なほどに静寂に満ちていた。
動く物がひとつも無かったのだ。
犬や猫、鳩などの動物でさえも。
では皆んなどこへ行ったのかと言うと、全員が地に果てていた。
車のハンドルを握ったまま、胸に子供を抱いたまま、携帯を耳に当てたまま。
しかし彼らに炎症や怪我の痕は無く、ただ目を閉じていることから、おそらく鎮圧の為に友軍が催眠ガスを流したのだろうと、一瞬安堵しかける。
しかしよく観察すると、倒れた住民は誰ひとりとして呼吸による胸の膨らみは確認出来ない。
赤外線センサーに切り替えても、人のシルエットは全て真っ青だった。
つまり、死んでいた。
男も女も老人も、軍人も民間人も……サイド6の幼馴染と同じくらいの幼児まで、例外無く、全員。
「あ……えあっ……あっ……。」
頭の中が真っ白になっていく。
呼吸頻度と心拍数が上がり、すぐにノーマルスーツがバイタルの異常を検知してくる。
隊長機から通信が入るが、何も耳に入って来なかった。
「あああぁぁぁぁ……!!!」
⬛︎
「……っ!!」
ビクンと、意識が瞬時に覚醒する。
視界に映ったのは薄汚れた和室の天井。
枕元の携帯端末を点けると、昼前の時間が表示された。
ついでに電話の不在着信経歴がいくつも重なっていることに気付く。
「しまった……。」
渋々起き上がると、履いたトランクスに手を突っ込んで直に尻を掻きながら布団を出る。
床に散乱したビール缶やツマミの空袋を足で避け、リビングを通って廊下に出ると、朝一番の用を足す為にトイレへ入った。
「……ひでー顔。」
次に洗面所に立つと、鏡に浮浪者のおっさんこと『ヒビキ・ムトウ』が映り込んだ。
黒い髪はボサボサの伸び放題、口周りは無精髭だらけ、目元は落ち窪んで、眼球はアルコールの多量摂取で赤くなっている。
これでも本来ならまだ若々しい筈の20代なのだが、あまりの酷さに自嘲してしまう。
「はは……これがエースともてはやされた男の末路か……。」
顔を洗ってリビングに戻ると、そこらじゅうにゴミや食べかすが散乱した、目も当てられないような汚部屋が迎えてくる。
流石に少しくらいは掃除すべきだろうかと、電気ポットに水を入れると、お湯が沸くまでにゴミ拾いを始める。
すると脱ぎ捨てた冬物の衣類に埋もれて何か光る物体があることに気付く。
拾い上げてみれば何とも懐かしいものだった。
「ああ……。」
自身の手に収まっていたのは戦後の軍縮に伴う名誉除隊の時に貰った3等級ジオン十字勲章。
一年戦争においてエースと呼ばれるパイロットに授与されるもので、これはその中でも平エース向けの一番低い勲章だ。
1級と2級はかの有名なランバ・ラルやジオンの英雄、シャア・アズナブルなど、もはや天部の才を持っている人間向けであり、並大抵の軍功では手に入れることは出来ない。
まあ3級とはいえ、自分にとっては一年戦争を最後まで戦い抜いた証であり、こうして今ジオン公国から支払われる年金を受け取ることが出来る権利証明書となっている。
もちろんだが、数ある勲章の中でもジオン十字勲章は取得ハードルが非常に高く、こんな見た目浮浪者でも戦時中は中々のやり手だったのだ。
「あの時は良かったよなぁ……。」
過去を思い返せば、途端に脳裏へ蘇ってくる青き日々。
上から言われたことに対して何も疑わず、ただ純粋な理想の為に頑張っていた。
しかしその後に待っていたのは思い出したくもない地獄の光景。
楽しかった思い出よりも遥かに多くの辛い記憶が瞬時にフラッシュバックしてくる。
「ぐっ……ごくっ……。」
勲章を棚の引き出しに放り込むと、テーブルに放置してあった飲みかけの焼酎カップを一気飲みする。
空きっ腹に数十度のアルコールを
やはり酒は良い。
こうして悪い記憶を遠ざけてくれるから。
酩酊状態で椅子に座りながら、ただボーッとしていると、ポケットに入れた端末がうるさく振動し始めた。
画面に映ったのはマヴこと戦友の名前。
無視するわけにもいかない為、通話ボタンを押すと、爽やかな雰囲気の男の声が聞こえてきた。
[やあ、よく眠れたかい?]
「おかげさまで。すまんな、気付かなかった。」
[別にいいさ。ただ『アレ』について聞きたかったものでね。試合は明後日だ。調達は出来たのかい?]
「『デバイス』なら大丈夫。バイヤーに接触出来たし、既に現ナマで支払いは済ませた。後は宅配便が来るのを待つだけだ。」
[分かった。じゃあまた明日。]
「おうよ。頼まれた酒、持ってくから。」
[楽しみにしてるよ。]
通話が切れると、再び部屋に静寂が訪れた。
今日はこのままゴロゴロとしていようかと和室の畳に寝転ぶ。
だがその時、耳をつんざくようなインターホンのやかましい音が連続で室内に響き渡った。
同時にドンドン!と玄関のドアが叩かれる。
あいにくと借金取りに追われる程には困窮していないことから、犯人は1人しか考えられない。
「ひーびーきー
「んにゃろめ……。」
鳴り響く騒音に耐えながら息を殺し、居留守を決め込む。
扉のドラミングはしばらく続いたが、それは少しして止まった。
ようやく帰ってくれたかと、安堵の息を吐く。
しかし次に見えたのはあちら側から勝手に開いていく扉の鍵だった。
「なっ!?」
「はい、やっぱり居留守だったねー!私を騙すとか100年早いから!」
バン!と勢いよく開いた扉の向こう側に立っていたのは近隣の高等学校指定の制服とセーターを身に纏った、ショートヘアーの赤髪が特徴の少女。
自分の記憶の片隅にあった小さくて可愛らしい幼馴染をそのまま大きくしたような感じ。
9年以上前の在りし日は、こちらに向かってぽてぽてと愛らしく歩き、両手で抱き上げると、にぱぁと眩しすぎる笑顔を見せてきた天使のような子ではあったが、今は……。
「うわっ、汚ったな!酒くっっさ!お風呂入ってるの!?ホント最悪!」
「分かった分かった、入ってくるから蹴るな……。」
こちらへジト目を向けながら、げしげしとスネを蹴ってくるおてんば少女は通称『マチュ』こと『アマテ・ユズリハ』という。
当時の家が隣同士ということから家族ぐるみの付き合いで、終戦後はあちらが小学校卒業と共に引っ越したということもあってしばらく会っていなかったのだが、近年偶然にも再会し、こうして家に押し入られる関係となっている。
社会的には幼馴染と呼べる存在なのだろうが、どちらかと言えば親戚の子供という感覚が近い。
ちなみにこの家は彼女が学校や塾から逃げる時に最適の場所とのことだ。
「ほら早く!行けって!」
「へいへい……。」
ひと回り近く歳下の少女に尻を叩かれながら風呂場へ放り込まれる。
念入りに身体を洗い、歯磨きなども済ませてから部屋に戻ると、テーブルにはご飯と味噌汁、納豆が準備されていた。
更には床のゴミが幾らか片付けられている。
「……すまんな。」
「味噌と出汁、全然使われてなかったんだけど。インスタントは無しにしろって言ったよね?」
「忙しかったんだ。」
「無職が忙しい……?」
「そ、それより今日も学校サボってきたのか?」
私服に袖を通しながら聞くと、マチュは首を横に振った。
「ううん、今日は先生が会議とかですぐに終わったの。」
「家には?」
「帰ったらお母さんから塾行けって言われる。あの遠隔カメラウザい。」
「なるほど……まあそれは良いとしてだな……。」
箸を置いて立ち上がると、キッチンへ水を取りに行くふりをしながら、椅子にかけてあったマチュのリュックを取り上げる。
「あっ!何するの!」
「家の鍵を返してもらうだけだ。また勝手に持ち出しやがって。」
「いいじゃん別に!どうせ見られて困るものなんて無いでしょ!」
「その前に俺のプライバシーを考えろよ……って、ちょっ……このっ、登るな……ぐえっ……!」
腕を伸ばしてマチュが届かない位置までリュックを掲げると、彼女はこちらの背中から肩によじ登ろうとする。
どうにか鍵だけをリュックだけから取り出すことに成功したが、その時、首元にしがみついていたマチュが爆弾発言をしてくる。
「返してくれないとおじさんとおばさんにここをバラす。」
「ぐふっ……お、お前……。」
「いっつも言ってるよ?ヒビキ兄はどこに居るのかって。3年前に家出してからずっと会ってないんでしょ?いいの?せっかくの生ポ生活が無くなっても。」
「生活保護じゃない。年金だ。」
「受け取る先がジオンなだけで実質同じじゃん。で?どうする?」
ニタァと勝ち誇った笑みを向けてくるマチュ。
結局、いつも通りこちらが折れることとなった。
「……周りの目は考えろよ。現役のお嬢様JK連れ込んでるなんて噂されたら詰む。」
「今さらでしょ。まあ?私がここで叫んだら確実詰むだろうけどねー。」
「お前なぁ……てか降りてくれ。重い。」
「うわー、女の子にそんなこと言っちゃうんだー。そんなノンデリだからいつまで経ってもカノジョ出来ないんじゃない?」
「うるせえ、いいから降りろ。」
マチュは取り敢えず離れてくれたが、何か言いたげな視線をこちらへ向けてくる。
「……おととい発売されたVRゲームならあっちにあるぞ。いつものコンソールゲームならその棚の中だ。」
「えっ、ホント……って、今はそっちじゃない。」
「じゃ何だ。」
「ね、また地球について聞かせてよ!」
途端にキラキラとした目をし始めるマチュ。
犬の尻尾があればぶんぶんと左右へ振られていただろう。
生まれも育ちもスペースコロニーの生粋のスペースノイドである彼女は地球に興味津々なのだ。
「本当に好きだな。」
「えー、ダメー?」
「……で、何について話せばいい?第二次降下作戦からオデッサの撤退まで色々あるが。」
「じゃあ……今日は国について教えてよ!あっちじゃコロニーとは違ってひとつの土地にひとつの民族が住んでるんでしょ!」
「ああ……まあ……たくさんあったな……。」
マチュの純粋な瞳に対し、納豆を混ぜながら、どう返したものかと言葉を詰まらせる。
ジオンが行った地球降下作戦。
自分も第二陣として北米大陸に降り、その後は東アジアや中央アジア、ヨーロッパなど様々な場所へ転戦し、最終的に敗走した。
行く先々にあった国とやらはブリティッシュ作戦によるコロニー落としの影響から、大半が既にボロボロだった。
特に人口過密地帯のアジアは酷いものだった。
アラビア上空で分解したコロニーの中央部分が太平洋へ落下し、発生した大地震と大津波によって幾千万もの人間が死んでいた。
ニューギニアに降りた友軍によれば制圧といっても、被災者だらけの廃墟と化した首都にジオンの旗を立てるだけで、何とも虚しいものだったとのこと。
自分が配置変えで東アジアの制圧に向かった時も、津波で何も無くなった街があっただけで……。
「……ヒビキ兄?」
「んっ……な、何だ?」
我に返ると、目の前にはこちらを心配そうに見つめてくるマチュの姿が。
「その、話したくないのなら……。」
「いや、勘違いしないでくれ。話をするにも候補が多すぎただけなんだ。本当に多種多様な国があってな、大体似たり寄ったりなコロニーと違って人間の雰囲気が全く違うんだ。」
どうやらマチュの察する能力は相変わらず健在らしい。
慌てて作り笑いを浮かべると、記憶の中でも比較的損害が少ないように思えたヨーロッパ方面について話し始める。
だが彼女はいつものように話に食い付いては来なかった。
テーブルを挟んで気まずい空気が流れる。
どうにか明るい話題を繰り出そうとするが、その時、部屋に再びインターホンの音が鳴り響く。
「宅配便かな?私、見てくるよ。」
「あっ……待て!」
席から立ち上がろうとするマチュを慌てて止める。
今日中に来る予定の『宅配』は少し普通ではないのだ。
「何?」
「座っててくれ。それくらい俺がする。」
「いいよ、ハンコの位置くらい知ってるし。」
「いやいやいや、本当にいいから。」
マチュを押し除けてモニターに向かおうとすると、ジト目を向けてくる彼女と目が合う。
かと思えば、彼女はするりとこちらの脇から抜け出し、玄関に向かって駆け出した。
「あっ、おい!」
「はーい!」
マチュが扉を開けると、そこに立っていたのは長い髪と大きなサングラスが特徴の、背の高めな1人の少女。
彼女はいきなり現れたマチュを軽く一瞥すると、口を開いた。
「こ、コンニチハオイソギデスカ。」
「…………はい?」
よろしければ高評価又は感想をお願いします。作者のモチベが爆上がりするので。