生まれ変わった魔術師は普通の暮らしを求めます   作:みなかみしょう

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第2話:目覚め

 目覚めは想像よりも穏やかだった。むしろ、久しく感じたことのないくらい爽快な気分だ。

 体のどこも痛くない、頭がスッキリしている。起き上がる際にも、だるさを感じること無く、すっと体が動いた。

 その瞬間にわかった。魔術は成功だ。久しく忘れていた若い頃の感覚、それが全身にみなぎっている。具体的に言うと、腰とか関節の痛みを気にしないでいいと本能的にわかる。すごいぞ、若い体すごい。活力に溢れている。

 

「……よく寝たな。いや、寝ていたというべきなのかな、これは?」

 

 自分を作り直す。私がやったのは、そんな魔術だ。魂を除いた全身を一度魔力へ分解し、再構築する。歴史上数例しか確認されていない大魔術。私はそれを上手くやった。

 魔力は万物を構成可能な力。心をそのままに、体だけを作り直すという荒技すら可能にする。

 勿論これを実行するには、前提条件として魔術をある程度極めていなければいけないわけだが……、いや自画自賛はよそう。

 

「……そういえば、鏡を用意していなかったな」

 

 自分の声が聞こえる。喉も聴覚も問題ないようだ。

 今の私は全裸だ。『新生の魔術』を使用した際、分解された服は元に戻っていない。更に言うと、サイズも合わないだろう。

 新生前の私は小柄な老人だった。しかし今は、やや背の高い、精悍な顔つきの若者になっている……はずだ。困った、確認できないぞ。事前の計画だと、黒髪にちょっと目つきの鋭い、細身の筋肉質になっている予定だったんだけれど。

 

「……うん、ちゃんと若返ってはいるみたいだね」

 

 改めて確認する。見た感じ、肉体は若い時分のそれだ。魔術で作り直された体なので、魔力を扱いやすくなっているはずだが、そこは実践しないとわからない。

 ともあれ、まずは服を着ないとな。

 うっすらと明るい石造りの部屋の中を私は歩く。天井付近に漂う光は、目覚めた時に自動で発動するよう設定していた光の魔術だ。計算だと百年は経過しているはずだが、しっかり発動してくれて良かった。

 

「よし……これは無事だな」

 

 各所を金属で補強された木箱を目にして、一安心する。これは状態保護の魔術をかけた保管箱で、中に衣類と路銀になりそうな貴金属が入っている。

 服は大事だ。魔術の真髄、第七属性に至った魔術師といえど、全裸で闊歩すれば普通に捕まってしまう。むしろ、それで伝説を作ってしまう恐れすらある。

 中に入っていた下着とローブを身につけて、とりあえず一息。あまり高級でない藍色のローブを選んだのは、人目を避けるためだけど、この判断が正しかったのかわかるのはこれからか。

 

 他に箱から取り出したのは、宝石と金貨がいくつか。どこかで換金できれば、しばらくは食うに困らないだろう。

 

 それともう一つ、短い一文が書かれた紙片があった。

 

「マナール……うん、幸いにも覚えているよ」

 

 これは、新たに生まれた時に名乗る名前だ。もし、記憶を失っていた時のため、ここに残しておいた。せっかく見た目を変えて時代を超えたのだから、名前も変えようというわけだ。

 

「さて、実際に何年たっているのか。世の中はどうなっているのか……」

 

 一通り準備を整えた私は、力を失って消えゆく魔術陣を一瞥してから、そんな言葉を漏らす。

 全てが未知、なにもかも一からのやり直し、頼りになるのは自らの魔術だけ。なんだか少し面白くなってきた。肉体を変えて、気持ちがすっきりしているからだろうか。

 

「できれば、平和な世の中だといいなぁ」

 

 地獄みたいな世界になっていたらどうしよう。そんな不安と共に出口に向かい、恐らく百年は閉まっていたであろう石の扉を魔術で開く。

 

 嬉しいことに、外は日中だったようだ。扉の動きに合わせて、太陽の光が差し込んでくる。眩しく、物理的な力を感じるくらい強い日光。だが、まだ暑くはない。季節は春頃だろうか。心地よい日差しだ。

 

「…………よし」

 

 軽く自分の中で覚悟を決めて、私は扉の向こうへと歩き出した。 

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