生まれ変わった魔術師は普通の暮らしを求めます   作:みなかみしょう

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第45話:魔術師の町の魔術師とは

「さて、いきなりだがイロナ。お前はどんな魔術師になりたい?」

「え? 本当にいきなりなんですけど。お爺ちゃん、何かありました?」

 

 イロナさんの魔術お披露目の後、室内に戻るなりアルクド氏はそう切り出した。

 家の中の明るいリビング。温かなお茶の香りとイロナさんが趣味で買ったであろう、動物の形をしたクッキーが並ぶ場所に相応しくない重い話題が始まった。

 

「イロナさんの魔術を見て、早めに方向性を決めた方が良いということになったんだ。標準魔術? だっけ。あれをどれだけ修めてるんだい?」

「本に書いてあることなら大体できるようになりましたけれど……」

「普通は一年ほどかけて習得するんじゃよ、イロナ。元々才能があったとはいえ、天才とも言える速度なんじゃ、お前は」

 

 怪訝な顔をしながら言うイロナさんに、ため息をつきながら言うアルクド氏。

 

「でもでも、わたしは元々魔力の扱いには慣れてたから、覚えが早いだけなんじゃ?」

「それが才能だといえば才能だね。自分の中に魔力があるのを認識し、魔術師として訓練なしで操れるのはそうできるものじゃない」

 

 イロナさんは幼少の頃、誘拐事件でアルクド氏に助けられた際に魔術師としての際に目覚めた。自分の中に蠢く特殊な力。魔力。それを扱う第一歩は、その存在を認識することから始まる。

 魔力は精神、そして魂と呼ばれる人の根幹と深く繋がり。自らの内部と向き合うことで自在に操れるようになる。

 

 というのが一般的な話だ。実際、自分の中にある別種の力というものを感覚として掴むのは非常に難しく、魔術師として第一歩を踏み出した人が最初に躓く場所でもある。魔力を認識できても、それを思うがままに操れるようになるのもまた大変で、これも四六時中訓練をしてようやく習得できる。

 

 しかしながら、世の中例外というのはあるもので、そういった事柄を「なんとなく」で乗り越えてしまう者もいる。イロナさんもその一人というわけだ。

 

 アルクド氏によると、イロナさんは史上最年少で魔術機士になったそうだ。これは魔術師としての才覚によるもので間違いない。魔術機も広い意味では魔術だからね。

 

「イロナよ。標準魔術を一通り修めたなら、これから先必要になるものもわかっているのではないか?」

「……そうですね。標準魔術だと、火とか水の矢を作ったり、土壁を作ったりはできますけど、お爺ちゃんみたいに魔術印を作ったり、マナールさんみたいに凄い治療はできないです。専門家に教わらないと駄目だなって……」

「何を集中的に学びたいか、希望はあるかい?」

 

 さすがはイロナさんだ。既に把握していた。標準魔術では、例えば、私がやっているような相手の魂に触れて重症を治療するような治癒魔法は使えない。魔術印についても記述はないようだ。

 ここからは専門家に師事すべし、そういう道筋のための魔術というわけだ。実によく出来ている。

 

「そうですね。魔術具を作れるようになれたらいいな、って思います」

「魔術印じゃなくて良いのかい?」

「魔術印はその、ちょっと怖いので……」

「そうじゃろうのう」

 

 イロナさんにとって一番身近な魔術はアルクド氏の扱う魔術印だ。同時にそれは祖父の体を蝕む魔術を見てきたということでもあり、学びたいとは思えないだろう。

 こればかりは仕方ない。アルクド氏も納得しているように見える。

 

「魔術機士をやっていてずっと思ってたんです。これ、どうやって動いてるんだろうって。仕組みがわかればもっと色々できるのにって。マナールさんに会った時、簡単に故障を直しましたよね。私、ああいうのがしたいなって……」

「ふむ……魔術機の中身はかなり高度な魔術印なんじゃが」

「そもそも、魔術具と魔術印に深い関係があるね。それはそれとして、アルクド氏は魔術具作りの得意な魔術師のあてが?」

「いますが……儂の知り合いは皆老齢ですからのう。少し、伝手を当たってみるとしますか」

「そうだね。私も魔術師組合の方から聞いてみよう」

 

 とりあえず、私の知る魔術具作りの達人というと、錬金術師であり『真実同盟』の中心人物であるセルタ氏だな。彼には貸しがあるから、言えばやってくれそうではある。ミュカレーに住んでいないからイロナさんに教えてもらうのは難しいか。なにか、方法を考えるか、別の人を探すとしよう。

 

「後はイロナが魔術師として働くなら、ミュカレー内の派閥についても教えておこう。魔術機士と違い、魔術師同士が激しく争っているからのう……」

「ひえぇ……もしかして、ここで魔術師するのって思ったよりも大変だったりしますか?」

「私もこの短い期間で何度か派閥争いに巻き込まれているからね。魔術師にとっては結構治安が悪いと思うよ」

「いや、それはマナール殿が極端な事態に巻き込まれているからですじゃ。まあなんじゃ、儂の方から教えるとしましょう。良ければマナール殿もお聞きくだされ」

「はい」

「よろしくお願いいたします」

 

 その後、私とイロナさんはアルクド氏から「ミュカレーで魔術師が生きていく方法」をじっくりと聞かされたのだった。大変、参考になった。

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