生まれ変わった魔術師は普通の暮らしを求めます   作:みなかみしょう

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第5話:風車と出会い

 城壁を越えた先の草原にその身を下ろし、周囲に誰もいないことを確認して各種魔術を解除。私は静かに人の住む領域へと侵入することに成功した。さて、観察を始めよう。

 

 小型の風車に近づいてみた。小さいといっても、私が見上げるくらいの高さはあるし、土台部分は上物を支えるために広く作られているため、結構大きい。鶏くらいなら飼えそうな大きさはある。

 

 とりあえず、私はなぜか羽の回転が止まっている一つの前に立ち、じっくりと観察をする。

 面白い風車だった。まず気づくのは、回転翼だ。金属と布を組み合わせて作られたもので、表面に魔術文字が刻まれている。

 魔術文字というのは、組み合わせて魔力を流すと魔術を発動できる特殊な文字だ。これを組み合わせて作るものを、魔術印や魔術陣と呼ぶ。

 風車のそれを見た感じ、風を受けて回転している間、空気中の魔力を取り出して、軸に流すようになっているようだ。

 どうやら、軸を伝わって取り出された魔力が内部でどうこうされているはずだ。

 ある程度理解したので、小型風車の裏に回る。すると、しっかりとした錠前につきの扉があった。

 

 ……無理矢理開けたら怒られるよな。

 

 中を見たい。きっと、この内部にも何らかの魔術的な装置があるはずだ。回収した魔力をどうしているのか知りたいぞ。

 しかし、錠前を壊して勝手に中を分析したら怒られるだろうな。まだ町に一歩も足を踏み入れていないし、住む場所はおろか、知り合いすらいない現状、問題は回避したい。

 

 でも見たいな。魔術的な興味がある。これで魔力を集めて、この町でどう利用しているのだろうか。

 

 しばらくの間、小型風車の裏側で懊悩していると、後ろから声をかけられた。

 

「あの……なに、やっているんですか?」

 

 振り返ると、そこに女性がいた。

 金色の髪に琥珀色の瞳をした女性だ。やや大柄な体格で、スカートではなく動きやすそうなズボンに濃い青色の上着。腰に巻いたベルトに使い道のわからない器具をいくつか吊りさげ、手には長い杖を持っていた。

 杖の先端には小さな透明な石が嵌っていて、わずかだが魔力を感じる。

 服装的に散歩をしていた町娘ではない。今代の魔術師だろうか。

 

「…………」

「えっと、なにか言ってください。も、もしかして不審者ですか? 故障した抽出機なんて何もとれませんよ?」

 

 女性は杖の先端をこちらに向けて声を張る。気丈に眉を立てているが、どう見てもこういう事態に向いていないのは明白だ。穏やかそうな顔の作りをしているし、そもそも私への話し方に威圧感がない。

 

「抽出機? 申し訳ない。初めて見るもので気になって、見学していたんだ」

「見学? 別に珍しいものでもないですけれど」

 

 向けられる不信の目。しまった。これは別に珍しいものじゃないということか。うまい言い訳を考えないと。

 

「実は遠方の山奥から出て来た魔術師でして。こういったものを見るのは初めてなのです」

 

 我ながら苦しい設定だとは思ったけれど、女性には通じたようだ。態度から不信感が消えた。

 

「なるほどっ。まだ魔術機のない国から来た方ですね。理解ですっ。どおりで古……昔ながらの魔術師みたいな格好をしているなと思いました」

「この格好は古風なんですね……。そして、これは魔術機というのか」

「はい。魔術師以外にも魔術を使えるようにした道具の総称ですね。そして、それを整備するのが、わたしのような魔術機士の仕事です」

 

 間違いない。これは弟子達の技術がもたらしたものだ。彼らはこうして、魔術師でもない人々に魔術が技術として普及するのを目指していた。

 まさか、こんなに早く、これほどわかりやすい成果に出会えるとは。

 

「つまり、貴方は仕事中だったわけですね。失礼しました、あー」

「イロナです。これからこの抽出機を修理しますので、良ければ見ていきますか?」

 

 願ってもない申し出だ。未来の技術について説明してもらえるなんて。

 

「よろしくお願いします。私はマナール。昔ながらの魔術師です」

 

 私は新しい名前を名乗りつつ、軽く頭を下げる。自分でも笑っていたのがよくわかった。しかし、古風な格好か。普通の生活をする上では服装も少し検討すべきかな? ローブ姿は魔術師らしくて好きなのだけれど。

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