生まれ変わった魔術師は普通の暮らしを求めます 作:みなかみしょう
ヴェオース大樹境の中頃。何もないように見える森の中、妙に段差の多い地域の一画に入り口がある。
テオハルトと会った翌日、私はそこに突入した。勿論、彼も一緒だ。
ぽっかりと口をあけた入り口の向こうに、破棄された古い工房がある。
状態はいい。綺麗な通路を歩く。地下工房で規模が大きい。私が眠っていた小さなものとは全然ものが違うな。
周囲に異常はない。いや、奥の方から魔力を感じる。
警戒しながら進むと、テオハルトが口を開いた。
「綺麗なもんだ。なんでこんなわかりやすい場所が今まで見つからなかったんだ?」」
「魔術で隠蔽されていたからだよ。この規模の研究施設だ、念入りに隠されていた。その上で、大魔術師ミュカレーも見つからないよう手を加えたようだね」
「……全く、どうせなら潰しておいてくれれば良かったのによ。なんでそんな手間をかけたんだ?」
「そこは、本人にでも聞かないとわからないね」
「生きてるなら是非聞いてみたいとこだ」
「同感だね」
ミュカレーは生死不明ということになっている。私も会ってみたいが、居場所がわからないので何ともいえない。
「静かなもんだ……。他の冒険者やら魔術師はいないのか?」
杖で周囲を探りながらテオハルトが言う。
「どうかな。奥の方から魔力を感じる。何かあるのは間違いないんじゃないかな?」
「マナール、お前、何が見えてるんだ? 探知魔術を使ってるようにも見えねぇんだが」
「秘密だよ。私だって、人に教えていない魔術の一つや二つは持っているということさ」
「そんな少ないようには見えねぇけどな」
そう言いつつも、テオハルトは追求しないようだ。今は共闘関係だから、余計なことは言わずにいるということだろう。なかなか、道理をわきまえているというか、本当に悪そうなのは名前だけみたいだな、闇の魔術師。
「ついたぜ。ここが最奥か。……たしかに、あの魔術陣だな」
「そのようだね」
そこそこ広い部屋に、魔術陣があった。稼働を停止しているけど、先日みたものと同じだ。
「あいつらはこいつを写して、自分達で実験場を作ったわけだ。迷惑な話だぜ。いや、少し形が違うな」
「そうだね。生命力を魔力に変換する箇所に手を加えた跡がある。最初は生き物を使う予定だったんだけど、後から別の魔力源の目処でもたったのかな」
「あいつら、わざわざ魔術陣を劣化させてたのかよ」
舌打ちしながらもテオハルトは魔術陣をメモしている。それを止めるつもりはない。恐らく、似たようなものを見た時に対応できるようにしたいのだろう。
「おかしいね。魔術陣はあるけど、資料のあった形跡がない」
「情報通りだが、やっぱりげせねぇな……」
テオハルトが聞き出したところ、この工房には魔術陣と少しの資料しか無かった。だから、彼らも上手く扱えなかった。
「ふむ…………なるほど…………」
魔力感知の精度をあげるとすぐにわかった。
「どうした?」
「扉が隠されているね。ここに」
何もない壁を軽く手で振り払って、魔術を解除。隠蔽の魔術で隠されていた扉が現われる。魔術で閉じられているけど、ついでに解除しておく。
「隠蔽の魔術は古いけど、施錠していた魔術は少し新しかったね」
「つまり、元々魔術のかかっていなかった扉に、最近来た奴が施錠したってことか」
頷く。この隠蔽の魔術は師匠の施したものだろう。扉に刻まれた魔術陣の癖に覚えがある。ここは再利用したわけか。
「さて、私が扉を開けたことは、この先にいる人々も気づいているだろうね」
扉を開いたおかげで、魔力感知の精度が上がった。五名ほど、奥の方にいるようだ。
恐らく、テオハルトが相手をしていた連中の残党だろう。あるいは、別口かもしれない。つまり、彼らもまた不完全な魔術陣を渡されて、実験させられていたというやつだ。
「つまり、手っ取り早く話を聞けるわけだ」
杖で肩を叩きながら、不適に笑うテオハルト。好戦的な顔が似合うね、まったく。良い人なのに。
「一応聞くけど、それなりの魔術師が相手になる。危険だよ?」
「それなり、くらいなら問題ねぇよ。ここまで関わって帰るわけにもいかねぇだろ」
「それもそうだ。組合には君の分まで報酬を出すように頼んでみるよ」
「ありがたいねぇ」
にやりと笑ったテオハルトと共に、奥に向かって歩き出す。
少し下がった先にある扉。特に罠はない。
目配せして互いに頷いて、一気に開く。それぞれ、防御魔術を張り巡らせながら。
明けた直後、周囲に魔力の光が散った。威嚇の攻撃だ。
「おっと、動かない方がいいぞ! 次は当てるよ」
扉に向かって、四人の魔術師がこちらに杖を向けていた。
「まあ、こうなるとは思ってたけどよ。お前ら、なにもんだ?」
テオハルトが聞くと、リーダーっぽいのがククッと笑って、酷薄な口調で言う。
「我々は魔術結社『わくわく実験室』。ようこそ、我らの秘密工房へ!」
両手を広げて歓迎された。
魔術結社って、色々な名前があるんだなぁ。