生まれ変わった魔術師は普通の暮らしを求めます   作:みなかみしょう

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第63話:話し合い(領主代理編)

 今、私達に何よりも必要なのは情報だ。

 そんなわけで、私はベルウッド氏と共に、ミュカレーにある魔術師用の地下牢にいた。

 場所的としては大障壁の中にあたる。ここは大魔術師ミュカレーが手ずから作った結界付きの地下牢があり、罪を犯した魔術師でも特に力あるものが放り込まれるという。

 

「アルクド氏とメフィニスは了承してくれたよ。もともと、貴方に協力的だったようだ」

「二人にはお世話になったからねぇ。ちょっと怖かったけど。こちらも、ナイレ君に情報網の引き継ぎをお願いしている。思った以上に乗り気でね。助かっているよ」

「それは何より」

 

 昨日の今日で忙しい。朝起きたら組合から使いが来て呼び出された形だ。通信用の魔術機は不在のうちに設置してくれるらしい。

 

 衛兵の案内を受けながら、どんどん下へと進んでいく。『ミュカレーの書』を見つけた時にわかったが、この建物はかなり師匠の趣味が入っているな。地下牢なんて喜んで作りそうだ。

 

「こちらです」

 

 そう案内されたのは、かなり下った先だった。他に部屋のない最下層の個室。魔術の明かりがぼんやりと映し出すその場所はいかにも鬱屈とした場所だ。通常、カビと汚物で臭いが酷くなるはずだが、空気は思ったよりも綺麗だ。魔術でしっかり対策しているらしい。

 

 鉄格子で挟まれた面会用の部屋で、私達は男と相対した。

 仮面をつけていない魔術師は、自らをライトと名乗った。声の印象通り、若者だ。まだ二十代だという。監獄に入って数日なのもあり、まだ身ぎれいで、目つきに険があるのだけが際立っている。

 

「久しぶりだね。ライト君」

「……なんの用だ。とは言わない。隣にいるのはベルウッド領主代理だな。何を知りたい」

「話が早くて何よりだねぇ。差し当たって、ナイレ君と僕を殺そうとした連中と後ろ盾だね」

「全部じゃないか……。いや、いい。それより、話を聞いた後、俺をどうするつもりだ?」

「内容次第かな。できれば味方になって欲しいな。悪いようにはしないよ、僕が勝つし」

「大きく出たな……」

「僕はミュカレーの領主代理だ。味方もそれなりにいるよ。ここにいるマナール殿のようにね。他にもいくつかの魔術結社に頼むこともできる。既に話がついてるよ」

「ほう……」

 

 さすがはベルウッド氏だ。既にそんな手回しをしているとは。いや、机の下で指先がちょっと震えてる。ハッタリ混じりだな。

 

「君には簡単な仕事を頼みたいんだよ。ナイレ嬢が怪我をして、僕は心底怯えている。そこで、譲歩を引き出そうと提案してきた。手土産を用意した上でね」

「手土産?」

「未公開の『ミュカレーの難題』だよ。簡単かつ実入りの良いものをいくつか用意してある……という話をして欲しいんだ」

 

 つまり、ライトに嘘の情報を流させるというわけだ。手始めに、ミュカレー内にいる敵対勢力の魔術師をどうにかしたいのは確かだし、良い方法だね。

 

「ミュカレー内にはお前以外の魔術師もいるんだろう? 彼らを焚きつけることは可能かな?」

「……血の気の多い連中だから可能だろう。俺も含めて、手柄に焦っている」

 

 功名心がなければ貴族の勢力争いに加わりもしないか。ベルウッド氏を降参させた上で手土産を持っていけるとなれば動くはずだと踏んだのだが、当たりのようだ。

 

「君は遺跡の戦いで怪我をしたことにして不参加にするといい。後は、ヴェオース大樹境が仕事をしてくれる、というわけだ」

 

 一瞬、ベルウッド氏が強く目を閉じた。こういう陰謀めいたことは苦手なんだろう。同時に、やらねばならないことは出来る男でもある。決断に迷いはない。

 

「ミュカレーに来ている俺の仲間も相応の腕がある。難題を攻略してしまうかもしれないが?」

 

 その問いには私が答える。

 

「そうだね。私よりも強いなら可能性はある。そういうものを選んでいるよ」

「……マナールと言ったか。貴方は何者だ? 噂に聞いたこともないのに、強すぎる」

「旅の魔術師だよ。目立たないようにこの町で暮らしているだけさ」

「……目立たない? そうかなぁ」

 

 ベルウッド氏が微妙な顔をしているが気にしないことにする。私はそのつもりなんだ。今回は貴族の陰謀に巻き込まれたりしているが、本音では静かに暮らしたい。それが望みなんだ。

 

「……わかった。少なくとも、俺では貴方に勝ち目はない。この件は協力しよう。ただし……」

「な、なにか条件でもあるのかな? ああ、報酬?」

「いや、違う。これがただの貴族同士の争いなら、このまま貴方に忠誠を誓ってもいい。今回は別だ。『沈黙の塔』が絡んでいるからな」

「…………」

 

 驚いた。まさか、その名前をこんなところで聞くことになるとは思わなかった。

 『沈黙の塔』。私の古巣。まだ現存していたとは。

 

「また……大物が出て来たねぇ。なるほど、それが後ろ盾か」

「ああ。反ミュカレー派とでもいえばいいのかな。そんな勢力をまとめて、ついでに俺も含めた魔術師も煽った主犯だよ。人数は二人。塔の方針なのか、奴らの独断なのかはわからないが」

 

 ベルウッド氏の表情にちょっと陰りが見えてきた。心配そうにこちらを見ている。

 

「マナール殿……ど、どうだろうか? 『沈黙の塔』は魔術機を開発した凄い組織で、所属している魔術師も一流以上だそうだが」

「そうだね。見てみないとわからないが。何とかなるだろう」

「あ、あっさりと言うものだね?」

「何か根拠でもあるのか?」

 

 二人して心配性だな。塔が私の居る頃と変わっていないなら、この場合は恐れる必要はあんまりないのだけれど。

 

「本当に実力があるなら、こんな策を弄したりしないものだよ。直接ベルウッド氏に交渉してヴェオース大樹境に乗り込めばいいんだからね」

 

 実力的に問題がなければ、『ミュカレーの難題』が公開され次第、こっそり潜入でもしているはずだ。それをこんな搦め手を使うなんていうのは研究職の魔術師かなんかじゃないだろうかと思う。師匠だったら私を即座に送り込むね。

 

「妙に説得力があるな……」

「そうなんだよね。でも、安心したよ」

 

 ベルウッド氏はライトを真っ直ぐ見つめた。小さな瞳だが、意外なほど眼力は強い。

 

「改めて、協力をお願いできるかな?」

 

 その言葉には領主としての威厳すら備わっていた。少なくとも、私はそう感じた。

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