生まれ変わった魔術師は普通の暮らしを求めます 作:みなかみしょう
「やっぱり……駄目でしたか……」
勝負が終わって、治療したマツサは目覚めるなりがっくりと項垂れてそう呟いた。
いや、怖かったね。まさか防御魔術を分解する魔術具を作ってくるとは。私の使っている魔術は今の時代だと古いものが多いから、簡単に対策されてしまうな。
あのままだと殴られて負ける恐れがあったので、ちょっと反撃させて貰った。愛弟子を傷つけるのは本意では無かったけれど、仕方ない。本気で怖かった。あれは全力で殴るつもりだっただろう。昔、訓練の時に何度かされたことがある。
「少し危ないとは思ったけれどね。私も今『塔』に戻るわけにはいかないんで、反撃させて貰ったよ」
「いいんです。先生ならそうすると思っていましたから」
いじけた様子で言われた。状況的に、私は襲撃を受けた被害者のはずだが、何だか立場がおかしい気がする。あと、一番の被害者はベルウッド氏な気もしてきた。別荘は彼の儚い野望ごと更地になってしまった。
「さて、約束通り。『塔』に話をつけて貰えないか?」
「……謝ってください」
「……なにを?」
「急にいなくなったことをです。あの後あたしが立ち直るのにどれだけ時間がかかったか……」
涙ぐみながら睨まれた。怖い。あの時はあの時で、私も切羽詰まっていたのだけれど、この子には関係ないといえばないのは確かだ。もう一人立ちして長いから、問題ないと思ったんだけれど。
「毎日先生を起こしたり、ご飯のお世話をしたり、洗濯したりするのを、あたしがどれだけ楽しみにしていたと思ってるんですか!? 何十年も続く日課だったのに!」
「それを聞くと、私が物凄い駄目な人間だった気がしてくるね……」
実際、駄目だったと思う。マツサが独り立ちし後も、毎日色々やってくれるのが楽で任せていたのがいけない。ああいうのはよくないな。あと、無断で消えたのもよくない。
「申し訳ない。私が悪かったです」
「許します」
即答だった。
こんな簡単でいいのだろうか。しかし、マツサの機嫌は直ったようだ。どこか晴れやかな顔をしている。彼女が納得したのなら、よしとしておこう。
「では、これで『沈黙の塔』と話をつけて貰えるかな。必要なら私も行くから」
「はい。向こうで転がっているヨファーナ君の失態が増えるだけですから、大丈夫です。あたしもちょっと失点ですけれど、どうにかできます。先生がついてくると、それはそれで問題になるかなー。あ…………」
にこやかに話すマツサの顔色が変わった。青どころか真っ白に。
「何かあったのかな?」
「まずいです、先生。実はこれ、二面作戦になっていまして……。いえ、ちゃんと成功するような計画にしなきゃ駄目だなって、思いましてね……つまり……」
物凄く焦っている。目が泳いでいるし。二面作戦とは、嫌な言葉だ。とんでもなく、厄介なことが起きている予感がする。
「つまり?」
「ベルウッド領主代理の所にも行ってるんです。襲撃者」