生まれ変わった魔術師は普通の暮らしを求めます   作:みなかみしょう

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第73話:顛末、そして家路

 とりあえず一段落するまで、十日以上かかった。

 マツサが協力的になってくれたおかげで、話はすんなり進んだとはいえる。しかし、『塔』まで距離があるのと、話をつけるのに手間取ってしまった。

 捕縛した二人の魔術師をつれて、マツサは『塔』を説得すべく戻っていった。必要なら私も説明に行こうと言ったら、「とりあえず。今はいいです。ややこしくなるので」と拒否された。私の何がややこしいのだろうか。

 

 マツサ達が去ってすぐ、ミュカレーへの貴族達の手出しがとまった。ベルウッド氏は嬉しそうに言いつつも、まだ油断はできないと神経質そうに日々を過ごしていた。

 

「と、いうわけで。話をつけてきました。それも良い条件ですよ。褒めてください、先生」

「それは内容次第だね」

 

 領主の屋敷の応接にて、私とベルウッド氏はマツサの報告を聞くことになった。ロビー付近は戦闘と私がガラスを派手に割ったこともあり、現在修繕中だ。ちなみに更地になった別荘のことを伝えたら、ちょっと悲しそうな顔をした上で「仕方ないね。命には替えられないから」と言っていた。申し訳ない。

 

「そ、それで。『沈黙の塔』はどうしたんだい? 今のところ、王都からのちょっかいはなくなったんだけれど。安心したくてね」

 

 落ち着きなく机をトントン叩きながらベルウッド氏が問いかけると、マツサはにっこり笑った。

 

「はい。その点はご心配なく。ヨーファ君主催の、『沈黙の塔』ミュカレー進出作戦は頓挫しました。あの二人はしばらく『塔』の中で淋しい生活になりますね」

「マツサは大丈夫なのかい?」

「あたしは元々反対の立場でして、そちら派閥からのお目付け役みたいなものだったんですよ。一応、貴族様相手の危なそうな所で助言くらいはしていましたけれどね」

 

 とても朗らかな態度だけれど、解せないことがある。

 

「じゃあ、私と戦う必要はなかったんじゃないかい?」

「あれは八つ当たりです。いえ、一応『塔』への説明に使えましたけれど。ミュカレーの魔術師、恐るべしってことになってますよ」

「八つ当たりって……この子になにしたの? マナール殿」

「いえ、まあ、無断で旅に出た……みたいな?」

「それは仕方ないねぇ……」

 

 ベルウッド氏はマツサの味方のようだ。これはまずいな。いや、あの時点でマツサは五十歳超えてたし、もう大人にも程があるから問題ないと思っていたんだ。

 この辺り、詳しく指摘すると面倒なことになりそうなので、私は沈黙を選んだ。大人なので。

 

「では、確認するよ。『沈黙の塔』はミュカレー……僕達を追い出そうとしている貴族達への支援を止める。そうすると、連中は後ろ盾を失うから止まる。むしろ、王都で失敗者の烙印を押されてやりにくくなる」

「はい。それで問題ありません。それどころか、おまけがあります」

「おまけ?」

 

 そういえば、良い条件をつけたみたいなことを最初に言っていたな。何を決めてきたんだろう。

 

「ベルウッド領主代理。ミュカレーの魔術師組合に『沈黙の塔』の魔術師を所属させてみませんか? 具体的に言うとあたしですっ」

「なんだって?」

「そ、それは良いのかい? 意図としては、上手くいかなかったから僕へ協力するという理解になるけど」

「はい。それで構いません。あたしを『塔』への報告役として町に住まわせてください。本当に困った時、お手伝いしますよ。少し、『塔』に色々と流してくだされば」

 

 にひひ、と歯をむき出しにして笑った。注意したのに、最後まで治らなかった悪癖だ。

 

 この条件が良いか悪いか、何とも言えないな。今回の一件で、『塔』がベルウッド氏の側についたと上手く演出できれば良さそうに思えるけど。

 

「ふむ……。マツサ君がミュカレーの事件や大樹境に手出しすることは?」

「依頼がない限りは致しません。個人的に調べたい時は、許可を求めます。さすがに『沈黙の塔』も完全にヴェオース大樹境を無視することができないという事情もありまして……」

「なんだ。そちらの都合じゃないか。ベルウッド氏、無理に受ける必要は……」

「いや、受けよう。味方は多いほうがいい。今回、僕やナイレさんに手出しして来た連中に対する牽制にもなる。本家だって手出ししにくくなるんじゃないかなぁ……だよね?」

「それはもう! あたしが味方するのはベルウッド様ですから。先生がいる限りは!」

 

 ちらちらとこちらを見ながら言ってきた。さりげなく、この町に居着く理由まで作って帰ってくるとは。恐らく、今の『塔』でマツサはかなりの地位にあるんだろう。それも自由が効く。かつての師匠のように。

 

「……私はベルウッド氏を支持するよ」

「ありがとう。マナール殿。では、その話に乗ろう。今後は味方ということで考えて良いよね?」

「んー、まあ、先生がいる限りは?」

「本当に大丈夫だよねっ!?」

 

 ベルウッド氏が不安に顔を青くしつつも、何とか話はまとまった。

 

 ◯◯◯

 

「ベルウッド様! いかがでしたか!?」

 

 応接を出るなり、こちらに駆け寄ってきたのはナイレ嬢だった。ベルウッド氏の前に立つと心配気な顔つきで言葉を待つ。

 

「もう安心していいよ。君は安全だ。王都に戻ってもいい……あー……戻れるのかな?」

 

 ナイレ嬢の家は今回の騒動で一番被害を受けている。家族の安否も怪しい。王都に戻って元の生活に戻れるかと言うと疑問だという。

 

「戻りません! このままベルウッド様をお支えします!」

 

 力強く宣言するなり、ナイレ嬢がベルウッド氏に抱きついた。

 

「若い子は大胆ですね。先生、どう思います?」

「ナイレ嬢は優秀な頭脳を持っている。きっと、ベルウッド氏の片腕になるだろう」

「そういう意味じゃありません!」

 

 もちろん、わかっている。ナイレ嬢が優秀なのも事実だ。メフィニスから引き継ぎ中の情報網を、かなり把握している。使い方についても、ベルウッド氏よりも覚えが早いらしい。多分、頭脳の面で見れば、ベルウッド氏や私よりも良いのではないだろうか。

 

 その上で、ベルウッド氏に好意を持っているのならば尚更良い。

 

「お、落ちついてね。本当は危険な業務に関わらせたくはないのだけれど、情報は身を守ることにも繋がる。それに君はとても優秀だ。これからも頼むよ」

「……ありがとうございます。心より感謝を致します」

 

 ベルウッド氏から離れると、ナイレ嬢は打って変わって落ち着いた所作で優雅な礼をしてみせた。目の端に光るものが見えたのは、気の所為ではないだろう。

 

「では、マナール殿。僕はこれからマツサ殿とナイレさんの件で、組合にいくけれど」

「特に必要がなければ、家に帰らせて貰うよ。夕食に間に合わないといけないからね」

「そうか。アルクド殿とイロナさんにも改めてお礼を言いにいくよ。ケーキを用意してあるから持ち帰ってね」

「ありがとう。感謝する」

 

 わざわざお土産まで用意してくれているベルウッド氏の周到さに感心しながら、私は屋敷を後にした。

 

「お疲れ様です。マナールさん」

 

 外に出ると、イロナさんがいた。いつもの魔術機士の格好だ。ちょっと汚れている所を見るに、仕事帰りだろうか。

 時刻は夕方、空の色に赤みが混じり始めている。もう少しすれば、町の各所に設置された魔術機の街灯が明るくなり、ミュカレーの夜景を作り出すだろう。

 

「待っていてくれたのかい?」

「ええ、近くを通りましたので。あ、それ、有名なケーキ屋さんのですね!」

「ベルウッド氏に持たされたんだ。本当に、よく出来た人だよ」

「ですね。あの人が領主様で良かったです。それで、話し合いは?」

「やっと元の生活に戻れそうだよ」

「何よりです! じゃあ、今日はどこかで食べに行っちゃいましょうか。お爺ちゃんも一緒に」

「構わないけれど。ケーキはどうするんだい?」

「そんなの、食べてから行けばいいんですよ!」

 

 食事に対して自由な思想を披露したイロナさんと共に、家路につく。外食となると、カレーだろうか。こんなことなら、ベルウッド氏に気の利いた店の一つも聞いておけば良かった。

 

「今回は報酬も沢山出るようだし、良いところに行こう。アルクド氏なら、知っているんじゃないかい?」

「いいですね! 実は、前から一度行ってみたいお店があるんです!」

 

 夕飯に期待を膨らませながら、私達は家路についた。

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