勝ち組男の異世界迷宮で奴隷ハーレム   作:Lilyala

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奴隷

 

 

 三十六層で稼ぐ前に適当な階層に寄り、イザベラのレベルを20まで一気に上げる。

 

 使った方法は単純明快、メテオクラッシュによる先手必殺だ。装備を強化したお陰で弱点なら一発で沈められるしな。

 

 本当はこういう時に身代わりのミサンガがあれば便利なんだが……残念ながら芋虫とは縁が無さすぎた。これからに期待しよう。

 

 薬草採取士を錬金術師に変え、イザベラにメッキ。これで準備完了。後は魔物を狩るだけだ。

 

 

「イザベラは暫く待機。グロリア達はスキルを全力で止めろ。後は何時も通りだ。何か質問はあるか?」

 

 

 問い掛けると、グロリアが小さく手を挙げた。

 

 

「イザベラさんは暫く待機でよろしいのでしょうか?」

 

「ああ。戦闘に参加して貰う時は合図を出す」

 

「分かりました」

 

「他には──無さそうだな。それじゃサギニ。イザベラが戦える様になるまで敵の数が少ないところに案内してくれ」

 

「かしこまりました」

 

 

 いつもの様に先導を頼み、サギニの後ろをイザベラと共についていく。

 

 

「いました。アリ2、コボルト2だと思います」

 

「よし、行こう」

 

 

 という訳で戦闘開始。開幕からウォーターストームを二発叩き込み、イザベラの前に立つ。

 

 その間に駆け寄ったグロリアがアリを二体抱え、メローとサギニの二人はコボルトに駆け寄った。

 

 

「……所詮はコボルトですね。位置によっては私でも二匹抱えられそうです。グロリアさんの方はどうですか?」

 

「アリの方は階層相応の強さですね。ただ毒に怯えなくて良いので下の階より強気に行けます」

 

 

 言葉を交わしながらも二人は攻撃の手を緩めない。

 

 グロリアの方はまだ戦いが成立しているが、メローの方は見ていて可哀想なぐらいボコボコだな。

 

 二巡目のウォーターストームを発動。装備を強化した恩恵は確かにあったようで、コボルトケンプファーが二体とも沈んだ。

 

 後は残るハントアントを三巡目の魔法で仕留めて戦闘終了。ドロップ品は──懐かしき香り玉とコボルトスクロース(砂糖)か。

 

 魔導師取れたらケーキでも焼くかねぇ。

 

 

「みなさんお強いなぁ」

 

 

 隣で戦闘を見ていたイザベラが嫉妬混じりの感嘆の声を上げた。たぶん元主と俺達を無意識に比べたからこそ出た言葉なのだろう。

 

 俺にその嫉妬の感情を叱る権利はない。キャラクター再設定なんて力を好き勝手使ってる俺が諌めるなんて、冗談にしても笑えない。

 

 

──だから、だろうか。

 

 

 迷いのある俺達に代わり、イザベラへ声を掛けたのは、こういう時に沈黙を選ぶサギニだった。

 

 

「イザベラ様は前の主の事を大切に思っているのですね」

 

「サギニさん……?」

 

「きっと善き主だったのでしょう。イザベラ様が未だ思うぐらいですからね」

 

 

 ゆっくりとイザベラに近付き、サギニは視線を合わせる。

 

 

「ですが、私達は奴隷です。それを忘れて過去の幸福を懐かしむのは止めた方が良いですよ?──()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「…………ッ!」

 

 

 サギニらしくも無い、まるで氷の様な冷たい言葉。それに俺も含めて戸惑っていると、サギニは続けて言葉を紡いだ。

 

 

「最初の主は優しい方でした。ですが迷宮攻略で怪我を負い、薬代の為に私を手放す事になりました。次の主にとって私は()でした。乱雑に扱われた回数は数えきれません。私が元の主と比べるのが気に入らなかったのでしょうね。その時は理解できませんでしたが、今ならその気持ちも良く分かります」

 

 

 一旦言葉を区切り、サギニは大きく息を吐き出す。感情的にならないように自制心を利かせているのかも知れない。

 

 

「ご主人様に拾われる前の主にとって、私は肉盾の出来る性奴隷でした。夜の相手が終われば真冬でも冷たい床で寝る毎日。与えられる食事は野菜くずのスープに固くなったパンが少し」

 

 力さえあればと心の底から望み、けれど手に入れる機会すら無く。それが悲しくて、辛くて、それでも死ぬ勇気を持てず、惰性と諦観で生きる日々を送ってきた。

 

 そう語ったサギニが真っ直ぐイザベラと視線を合わせる。

 

 

「私は奴隷として長い月日を過ごし、やっと()()のご主人様を得られました。これ以上の主は皇族ぐらいだと断言出来るご主人様です。だからこそ私が貴女に伝えましょう」

 

 

 言葉を区切り、ハッキリとサギニが告げる。

 

 

「奴隷に過去の幸せを懐かしむ権利はありません。私達は私達を人として扱ってくれる()()()を幸せに思い、精一杯尽くし、人並みの幸せを守るしかないんですよ」

 

 

 

 

 出来るだけ数の少ないところを狙い、避けきれない時はメテオクラッシュも含めて全力で薙ぎ払いながら迷宮を進む。

 

 すでにイザベラの暗殺者は30になっているが、先程のサギニの()()によって精細を欠いている人間を前に出すわけにもいかず、今日一日、後ろで置物にする事に決めた。

 

 その事に対して他の奴隷達から不満が出なかったのは正直助かった。無理矢理戦わせたところで連携の邪魔になるだけだろうが。

 

 

「……ご迷惑をお掛けしてすんません」

 

「まぁ、お前の気持ちも分からなくはない。お前の元主は後一歩で貴族に成れるところまで来ていたしな」

 

 

 四十五層まで辿り着けば迷宮討伐まで後少し。弱体化込みなら少なくとも五十五層まで攻略出来るし、厄介な敵が前半に固まれば後半はボーナスステージになる。

 

 きっと長い年月を掛けて準備をしてきたのだろうな。装備や連携を磨き、貴族になる為の最後の大勝負に出たのだろう。

 

 

 だがハッピーエンドにはならなかった。

 

 

 複数の迷宮が現れるという分かりやすい脅威に心を折られ、引退する決意を固めてしまった。

 

 しかも、イザベラに願い()を託して。

 

 

「温泉でお前も見ただろうがグロリアの身体には傷があり、女としての価値は殆ど残っていない。メローはちょっと特殊だが、奴隷落ちした人間の末路を聞いていたから自分もそう扱われる覚悟を決めていた」

 

 

 俺が奴隷に求めたのは容姿と他言無用を守れるかどうかだ。それ以外は全てオマケ。

 

 だからイザベラの様な奴隷が来たのは、ある意味では今までの()()なんだろう。

 

 

「サギニは盗賊の囮にされたところを助けたんだ。だから最初は俺に対しても怯えと諦観があった。今じゃ見る影も無いけどな」

 

 

 前を歩くサギニへ視線を移すと、こちらの視線に気付いたサギニはふんにゃりした笑みを浮かべ、小さく手を振った。

 

 

「前の主を忘れろとは言わん。だが今は俺の奴隷という事を忘れるな。サギニにあそこまで言わせてしまった以上、もうなぁなぁで済ませられるラインは越えてしまったんだ」

 

「……はい」

 

 

 すでに役に立っている奴隷と、どれくらい活躍するか分からない奴隷。どちらを選ぶかと言われたら、考えるまでも無く俺はサギニを取る。

 

 あそこまで言われて全く改善しなかったら、それこそ迷宮攻略後に売り払う事を真剣に考えている。それぐらい命のやり取りを行う場所での不和は不味い。

 

 

(……俺のお気楽ハーレムは何処へ行ってしまったのやら)

 

 

 ハーレムの主も楽じゃないぜ。本当に。

 

 

 

 

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