午前の狩りを終え、自宅へ帰宅。先程の影響で空気が少し重いが、気にしてない様に振る舞い、食事の準備を頼んでから再びレーヌへ向かう。
その際、軽く手招きしたイザベラを呼び出した。
何故嫉妬の感情を向けたのかの説明をした上で謝罪をする様に伝える為だ。
後は時間が解決してくれる事を祈るしかない。人間関係は本当に難しくて嫌になるぜ。
「ベラちゃんのご主人様とは聞いていたけど、本当に潜ってくれてるんだねぇ」
「そういう約束だからな」
レーヌの冒険者のギルドで老婆からいつものより数の少ない、だが価値は一段上の貨幣を受け取り、ボックスへ投げ込む。
まさか午前だけで一万ナールを超える*1とは。
一度に現れる敵の数が増えたのも理由の一つだろうが、
「律儀だね。依頼した探索者の中にはそのまま消えた奴もいたってのにさ」
「そいつは今頃後悔してるだろうよ。もしかしたら死んでるかもな」
盗賊に強制的にジョブを変えられる世界なんだ。例え口約束だとしても、出来ない約束はするもんじゃない。
「ま、少なくとも俺は約束を守るから安心してくれ。攻略の確約は出来んがな」
「実際の所どうなんだい?攻略出来そうなのかい?」
「時間さえ貰えれば第三と第四はたぶん出来る。第一は戦力的に厳しい。第二は最終層次第になりそうだ」
「へぇ、そりゃ良い知らせだ。後で街の皆にも話してやらないとねぇ」
「それは構わんが、討伐後の事も考えておけよ?」
「……どういう事だい?」
直前の笑みを消し、真剣な表情で老婆がこちらに視線を寄越す。
こりゃ考えてなかったみたいだな。まぁ、この世界の常識的に間違ってるのは俺の方なんだが。
「討伐は引き受けたが、俺はこの街の領主になるつもりはない。だから元の領主に頼むなり、街独自の対策を考えるなり、討伐後に備えろって話だ」
「迷宮を討伐するのに領主にならない?それならアンタは何で迷宮に挑むんだい?」
「前者は今暮らしてる場所が過ごしやすくて出たくない。後者はギルド神殿が欲しいからだ」
「そんな理由で……変わってるねぇ……」
「よく言われるよ」
温泉から離れて手拭い生活を送れる現代人は居ない。原作の様に湯船を作る事も考えたが、今更生活ランクを下げて暮らせるかというと……ハッキリ言って俺には無理だ。
日本人は温泉の魔力に勝てないのだ。コーヒー牛乳は無いけどな。
◇
いつもより静かな昼食を終え、食休みを挟んで再び迷宮へ。薬草採取士のジョブを削り、経験値二十分の一を付けている恩恵は凄まじく、今まで全く動かなかったレベルが軒並み上昇していた。
「あの、主人さま。わっちも午後からは戦わせてくれんさい」
「んー……グロリア。どうだ?」
「大丈夫だと思います。むしろ戦わせない方が彼女の為にならないかと」
……ふむ。まぁ、この階層ならどうにでもなるか。
「分かった。フォローはしてやるから頑張ってくれ」
「はいッ!」
という訳で五人で探索開始。サギニにはひたすら敵の居る場所へ案内する様に頼んだ。
イザベラが戦闘に参加する以上、最大編成でも問題無いしな。
「敵です。コボルト4、アリ1、サンゴ1ですね」
「アリとサンゴはグロリア。他は適当に」
『『『かしこまりました』』』
通路を曲がって即開戦。開幕からスキルの発動兆候を見せる気合いの入った魔物は二匹。それを容赦なくメローとサギニが止める。
「二人とも強権武器なんですか……!」
「お前の槍にも付いてるぞ?」
「えっ!?──あっ」
驚きで隙を晒したイザベラのフォローの為にウォーターウォールを発動。飛び掛かってきたコボルトがそのまま水の壁に突っ込み、もがき始める。
「す、すんません!」
「反省は後にしろ。戦闘中だぞ」
「はいっ!」
槍捌き、足捌き、敵との間合いの取り方。仲間への援護を意識した立ち回りも含め、イザベラの長年騎士として戦ってきた経験は確かな物だ。
即戦力としては良い貰い物、本当に先程の一件が無ければなぁ。
「石化しました。サンゴに行きますね」
「お願いします」
グロリアと短い言葉を交わし、サギニがサンゴに突きを放つ。それを眺めながらウォーターストームを撃つと、石化したコボルトがアイテムに変わった。
俺も忘れがちだが石化には魔法耐性が下がるオマケがある。
探索者の多くが物理主体故に評価は低いが、物理貫通という抜け道がある事を考えると、もっと評価が高くてもおかしくないんだけどな。貴族が手を回してるのかね?
そんな事を考えているうちにクールタイムが明けたので、ウォーターストームを発動する。
これでコボルトは全滅。生き残っているアリとサンゴは数の暴力で沈めて戦闘終了。六体でも余裕だったな。
『『『あっ!』』』
アイテムを拾い集めていたグロリア達が嬉しそうな声をあげた。その声に惹かれて意識をそちらへ向ければ、満面の笑みの三人と、それを見て疑問符を浮かべるイザベラの対照的な姿が見えた。
「主様見てください!
掲げたアイテムに鑑定を使えば、例え犬のフンを踏んづけ、鳩のフンに当たり、黒猫が横切って、仕事ではミスをして、研究が上手く行かない最悪な一日を許せるぐらい幸せな光景が広がっていた。
とりあえず頬をつねり、夢かどうか確認。うん、ちゃんと痛い。って事は現実か。
「今日は色々あって大変だったが、この幸運で全部チャラだな。むしろお釣りが来るぜ」
今の俺ならパンツ一枚で道頓堀に飛び込める。それぐらい最高な気分だ。
「ご迷惑をお掛けしてすいません。本来なら一番奴隷の私が対応しなければならなかったのですが……」
「いや、今回の件はグロリアじゃ無理だ。サギニぐらいの経験がなきゃ説得力が無さすぎる」
「私の経験がご主人様のお役に立って何よりです」
ニコニコ笑っているサギニの笑みは、いつも通りのふんにゃりした柔らかい微笑みだ。……これ、サギニは気にしてないな。忠告はした。後は自分で決めろのストロングスタイルな気がしてきたぞ。
だとしたら──
「イザベラ」
「は、はいっ!」
「グロリア達に謝罪を済ませ、サギニが気にしてない以上、今回の件はこれで終わりだ。後はお前の実力でグロリア達に認めてもらえ」
「…………はい!」
後は時間が解決するだろう。俺は主人として注意しておけば大丈夫な筈だ。
◇