──春の季節 七十七日目
前日の午後は四十層のホワイトキャタピラー相手に戯れるだけで終了した。流石に追加でボス部屋を引ける運は無かったらしい。
そしてその翌日。いつもの様に朝食を食べてから探索再開した訳だが、六割ぐらい書き込まれた地図は中々面白い
「凄いな。この階層、地図が確かなら渦巻きだぞ」
「渦巻き……ですか?」
俺の言葉に疑問符を浮かべたグロリアに地図を見せると、周囲に居たメロー達も興味があるのかグロリアと一緒に地図を覗き込む。
「……なるほど。珍しい事もあるものですね」
「この形だと、最初の分岐で正解かどうか決まっていたかも知れませんね」
「片方はボス部屋に続き、もう片方は行き止まりですか。出来ればこちら側が当たりだといいのですが……」
「外れたとしても戻るだけやし、そな深刻に捉えんでもええんやない?」
「イザベラの言う通りだな。分岐を選んだのは俺だし、責任があるとしたら俺だぞ」
責任を感じそうになったサギニにフォローしつつ、その責任は俺の物だとハッキリ宣言しておく。
開き直られるとイラつくが、勝手に背負って落ち込まれるのも困る。ここらへんは奴隷と主人の関係である以上、仕方ない事なんだが。
そんな会話をしながら探索していると、無事に中央部でボス部屋へと続く待機部屋を見付けた。
多少の小部屋はあったが、最初から最後までほぼ一本道だったな。
「芋虫層のボスはシルバーキャタピラーだ。動きを止める粘糸と斬擊効果のある糸を使い分けるボスで、発動するまでどちらなのか確認する事は不可能だ」
これはレーヌの冒険者ギルドでギルドマスターから仕入れた情報になる。そしてここからがレッジから仕入れた情報だ。
「体を丸めて突撃してくる事もあるが、そっちはそこまで使用頻度が多くないらしい。しかも始動で止めると速度が乗り切らず、容易に止められる。だから基本的にスキルを止められるなら雑魚だ」
「つまり、私達にとっては相性が良い敵ですか」
「普通の探索者パーティーに強権武器は四本も無いんよ……」
「準備に掛けた金が違うからな」
総額でたぶん白金貨二枚分ぐらい使ってるし。
ジョブや装備を入れ替え、準備が出来たらボス部屋へ突入。いつもの様に出現してる最中にグロリア達が走り、湧いた瞬間に武器を叩き込む。
後はまぁ、特に語る事もなく。
一匹目は麻痺から石化のコンボで沈み、もう一匹は麻痺から麻痺の永久ループでタコ殴りにした。ふっ、他愛ない。
ドロップ品の銀糸は鍛冶素材だ。主にローブ系統に使われる素材で、ランクとしてはダマスカスや竜革と同じになる。
一応シルバーキャタピラーがレアドロップとして落とすミスリルスレッドも鍛冶素材なのだが、どれハファンにとってはストッキングの材料のイメージが強いだろう。皇帝にも贈られたしな。
残念ながら意図的にハルツ公爵領とは距離を取っている俺に帝都でストッキング屋を営むエルフの店に伝が無く、素材を持ち込んだとしても買う事は出来ないだろう。
一瞬だけ自作する事も考えたが、今は迷宮討伐の方が先なので、血涙を流しながら諦める。
「主様?どうかなさいましたか?」
「……いや、何でもない。それより先へ進もう。昼までまだ時間があるしな」
心配そうな視線を向けるグロリア達と共に四十一層に進む。
「この匂いは──たぶんウドウッドですね。樹木の香りがします」
通常ドロップで薪、レアドロップでリーフだったか。
「ドロップ品の薪は売らずに取っておいた方が良いか?」
「そうですね。トロムソは秋頃から雪が降り始めるそうですし、日常でも使いますから」
「秋頃から降るのか」
「らしいです。パン屋の主人が教えてくれました」
「なるほど。そりゃ備えないとな」
夏場でも涼しいと聞いていただけに納得出来るが、冬を越すのにどれくらいの量が必要なのやら。
まぁ、最悪はワープ使って補充すればいいか。足りないなら奪えばいいのだ。俺達は探索者なんだし。
それからウドウッドを虐殺しながら探索しているうちに午前の探索は終了。昼飯を挟んで午後も探索したが、残念ながら今日はボス部屋には辿り着けなかった。
ペースは悪くないんだがな。もうここらへんは運だ。そう割り切るしかない。
◇
──春の日 七十八日目
この日は探索開始から一時間ほどでボス部屋を発見した。地図の埋まり具合は七割だった。
「ボスのコニファー*1は水属性に耐性を持ち、枝を鞭の様に振るう魔物だ。発動するスキルは基本的に水魔法。だがラブシュラブの様に針の様な葉を飛ばしてくる事もあるから気を付けてくれ」
もちろんラブシュラブより攻撃力が高いし、本体の大きさも大木に近いらしいので、当然のように葉のサイズも巨大化している。
聞き間違いじゃなければ包丁サイズの葉が飛んでくるらしい。ヤンデレかよ。
軽く休憩した後にボス部屋に突入。現れたのは想像以上に巨大な松だ。
さて、初手はどう来る──
「ッ!バーンウォール!」
最短距離を詰める前衛を無視して、後衛の位置に立つ俺に向けて射出される松の葉。編み針並に大きいそれは地面に刺さった深さから逆算するに、肉体を余裕で貫通出来て尚余る長さだった。
「殺意高けぇなッ!」
「一人護衛に回しますか!?」
「いらんッ!」
定期的に飛んでくる松の葉を躱しながらボス部屋を走る。その間に博徒のスキルを使い、サンダーストームを二連打。
ただ一定時間同じ場所に立っていると葉っぱが飛んでくるので、常に動き回る事を強制されているのは面白くない。……面白くないが、試しに魔法使い枠で張ったサンドウォールは見事に貫通したから諦めるしか無さそうだ。
攻撃手段を減らす訳にもいかんし。
「……感覚的な話になりますが、もしかしたら魔法一回ごとに後衛を移動させる為の攻撃なのかも知れません。一般的な魔法使いでも詠唱終了後に即座に移動すれば、何とか避けられる間隔ではないでしょうか?」
「確かに。……って事は、これが正解か」
メローの進言を元に散歩気分でボス部屋の外周をトコトコ歩く。すると、一秒前に俺の居た場所に針が突き刺さった。
「正解っぽいな」
「普通の魔法使いには厄介な敵ですが、残念ながら御主人様の敵ではありませんね」
本来なら魔法使いや神職の為に盾持ちの護衛役を置くのが正解なんだろう。もちろんその分の火力が下がる訳で、事故の確率は上がる。
魔法使いを確保したからといって貴族に成れるとは限らない訳だ。いや、その為の
(……蟲毒の壺だな)
多くの人間を飲み込み、
適者生存、弱肉強食。
諦めて凡人として生きる選択肢があるだけマシなのかね?そこそこの暮らしで満足出来る様にはなっているし。
そんな事を考えながらひたすら魔法を連打する。
ぶっちゃけ種が割れれば、後は消化作業だ。詠唱省略を持つ俺なら歩きながらの魔法も余裕だし、敵のスキルは全てグロリア達が止められる。
危機に陥る理由が一つも無い。
その証拠に十分ほどでメローの抱えるコニファーが落ち、その五分後にグロリアの相手していたコニファーが霞となって消えた。
ドロップ品は吸血鬼に強そうな武器──じゃない。良い建築素材になりそうな立派な丸太だった。
森を切り開く事すら不要な世界か。地球に意思があるなら血涙を流しそうな世界だぜ。