四十三層に入った瞬間、頭の装備を耐眠のダマスカス鋼の額金に替えると、メローは嫌そうな声色で尋ねてきた。
「もしかしてビープシープの階層なのですか?」
「十層がチープシープだったからな」
「って事は敵が一段階強くなる四十五層にも湧きますか。面倒な位置に居ますね」
「まぁ、装備があるだけマシだと思うしか無いだろ」
警策をボックスから取り出し、剣帯に差したら準備完了。昼までに二割は埋めたいところだ。
「……えっと、ご主人様。どうしましょう?」
「……?どうした?」
「左に羊が六匹、右に羊五匹と木、直進するとオリーブと羊が三匹づつで、距離が近いので乱入が発生する可能性があります」
「そら厄介だ」
他の迷宮なら一旦別の場所で時間を潰す事を考えるぐらいには厄介だ。
「わっちら以外の探索者はいらせんし、諦めて行くしかなか?」
「…………だな」
イザベラの言葉に深い溜め息を吐き出した後、覚悟を決める。
「まずは左を片付ける。ついでにグロリアはデュランダルを使ってくれ」
「かしこまりました」
経験値二十倍を捨て、デュランダルをグロリアに渡す。
ついでに強壮剤を取り出しやすい位置に動かせば、後は処理するだけだ。
「開幕のスキルは間違いなく止めきれないだろう。だから滋養剤は遠慮なく使ってくれ」
『『『はい!』』』
グロリアとメローが先頭で突っ込むと、スキルの発動兆候を四体の羊が見せた。
一体目はグロリアが、二体目はメローが、三体目はイザベラが止めたが、四体目は位置の関係上で間に合わない。
────ビィィィィッ!!
迷宮に鳴り響くブザーに良く似た音。それを聞いた瞬間、グロリア達がぶらりと腕を下げ、棒立ちになる。
慌てず状態回復を使うが──まぁ、間に合わんよな。
「ッ──!?」
「痛ッ!」
「ぅ!?」
「相変わらず嫌らしい……!」
即座に滋養剤を飲めたのはイザベラだけ。残る三人は敵の攻撃を食らい、状況把握に精一杯だった。
「しっかりしろッ!そのままなら死ぬぞッ!」
全体大回復でフォローしつつ叫ぶと、ようやく状況を認識出来た三人が動き出す。
その間に一人だけ動けていたイザベラが再発動しようとしたビープシープのスキルを止めていた。
やっぱり騎士経験者を探して正解だった!
グロリア達が立て直したのを見届けた後、さっさと片付ける為に攻撃に回る。
もちろん使う魔法はメテオクラッシュ含む魔法四連発だ。
(流石にコストが重い……!)
残りMPは六割ほどか。流石に全体大回復と状態異常回復のコストが重い。まぁ、MPを持っていったのはメテオクラッシュが一番なんだが。
クールタイム中に強壮剤を飲み干し、空になった瓶を踏み砕く。そしてクールタイムが明けた瞬間、即座にメテオクラッシュを除く魔法を繰り返した。
「本当に状態異常は厄介ですね……!」
苛立ちながら振り下ろしたグロリアの一撃はクリティカルを引いたらしく、良い感じに羊を転倒させた。そこへさらに左手のダマスカスで追撃を叩き込む。
「御主人様が耐性装備を求める訳です……!」
メローは金砕棒を思い切り振り抜き、二体を纏めて壁に叩き付けた。その後も足を止め、HP吸収頼りに殴り合いするつもりらしい。
サギニは無言のまま担当の羊を麻痺させ、グロリアの二体目にちょっかいを掛けている。麻痺が治った瞬間、最初の敵に戻り、麻痺したら再び二体目にエストックを突き刺す。ひたすらその繰り返しを行うつもりのようだ。
イザベラは着実に自分の担当を石化させる事を選んだようだ。無理をせず、堅実にダメージを与える姿は頼もしいな!
眺めてる間に飲み干した強壮剤で得たMPを再びメテオクラッシュに注ぎ込む。
他の魔法は使わない。流石にこの状況でネガティブラインに入る五割を切るのは危険すぎる。
「石化やっ!」
「でかしたッ!メローの方に回れ!」
「了解ッ!」
イザベラがメローの二体目に向かうのを眺めつつ、強壮剤を飲み干して魔法を放つ。
使うのは──先程撃たなかったサンダーストーム。
五割を割らない様に気を付けつつ魔法を回していく。
「こちらも石化しました!」
「よし!グロリアの二体目に回ってくれ!」
「はいっ!」
念のために背後を確認するが、敵影は未だ無し。このまま行けば間に合いそうだ。
「やはり主様の剣は素晴らしいですね……!」
グロリアが足を止めて殴り合いしていた羊がついに沈む。封印された状態でも魔法三発分の火力は伊達じゃない。
強壮剤を飲み干し、サンダーストームを放つ。珍しく麻痺が仕事したお陰で、生き残ってる羊が全員麻痺った。
そのタイミングを待っていたかの様に全員が足を止め、攻撃に専念する。
サギニが残る全てを石化させた時点で戦闘終了、後は消化作業だ。グロリアからデュランダルを受け取り、石像砕きの時間に入る。
「ダメージはどうだった?」
石像を殴りながら問い掛けると、四人は少しだけ考え、一瞬だけアイコンタクト。
その結果なのか一番奴隷のグロリアから報告が始まった。
「……あの時は焦ってしまいましたが、思い返すとダメージ自体は余裕でしたね。たぶん二十発食らっても大丈夫でした」
「私も後十発は耐えられたと思います」
「そうか」
重装備組は問題無さそうだ。微妙な差は種族と頑強装備かね?
「サギニとイザベラは?」
「ご主人様の貸してくださった装備のお陰で全く問題ありませんでしたね。たぶん回復抜きでも五発は耐えられました」
「わっちも同じぐらいやね」
竜革装備と竜騎士効果のお陰か、軽装備組も問題無かったらしい。──つまり、だ。
「俺も含めて焦りすぎたか。イザベラは良くやった。あの中で冷静に動けていたのはお前だけだ」
「騎士だった経験のおかげです」
少し照れたように微笑みを浮かべたイザベラにほっこりしつつ、二体目の石像を砕く。
この欠けた何かが埋まっていく充足感よ。依存性が無くて本当に良かった。もしあったら故意にMPを消費する癖が付いていたな。
「……よし、回復完了。それじゃ二戦目行くか」
デュランダルをグロリアに再び渡し、羊が五匹待ち構える通路へ進む。……ウドウッド?
◇