贅沢な昼飯も終わり、午後の探索の為に食休み。普段と何ら変わらない食休みも、魔道師が居れば変化が現れる。
「冷えたお茶も美味しいですね。夏場に良さそうです」
氷を入れたお茶を美味しそうに飲むグロリア。メローは温度差による味の変化を考察しており、サギニはお茶請けのクッキーを夢中で頬張っている。
イザベラは耳をこちらに向けて俺の顔色を伺いながら、サギニに追従して遠慮気味にクッキーへ手を伸ばしていた。
この遠慮が無くなったら、そこでようやく俺達に
「どうでしょうね?トロムソは北にありますし、案外温かいお茶を楽しんでるかも知れません」
「うーん、確かにその可能性もありますね。竜人族は寒さに弱いですし」
帝国の北側に位置するこの街は日本と違い、夏場も肌寒い気温の可能性が普通にある。
そうなると心配になるのは、グロリアの体調だ。
夏場はひんやりする代わりに寝覚めが悪く、冬場は体力を消費してぐったりする程、体が熱くなる。
原作で語られていた通りの特性だとすると、冬場に備えて部屋や布団を暖かくしておく必要があり、それを怠れば間違いなくグロリアは体調を崩す。
そうなったら看病の為に人を割く必要も出てくるので、事前の対策は急務だ。
(ビープシープの
雪道を歩くための厚手の長靴なんかも欲しいし、厚手の靴下なんかも必要か。
なんか一年の準備期間じゃ足りない気がしてきたぞ。
そんな事を考えながらお茶を楽しんでいると、カランカランと来客を知らせるベルが鳴った。
「出てきますね」
「任せた」
席を立ち上がったグロリアが玄関に向かうのを見送り、寂しさを覚えた口にクッキーを放り込む。
実はこのクッキー、毎日サギニが焼いている物だったりする。固めに焼けば三日ぐらい持つぞと教えた結果なんだが、朝食後の食休みに作ることが日課となり、それが現在まで続いている。
その関係で探索を終えて帰る直前、コボルトから砂糖と小麦粉を奪う仕事が追加された。俺としては僅かな可能性でもコボルトのカードが手に入る可能性があるので、別に文句は無いが。
ちなみに三日持った事は一度も無い。全てその日の内に消化されている。余ったらサギニが頬張るのだ。
ここまで熱心にやるならジャム作りも教えてやるべきかね?砂糖を多めに奪う必要があるが。
「主様。レッジ様達がおみえです。どうなさいますか?」
「上げてやってくれ」
「かしこまりました」
報告の為に戻ってきたグロリアにそう告げると、すぐにレッジ達を連れて戻ってきた。……やって来たのはレッジと姫さんか。
「おっす。依頼に来たぜ」
「いらっしゃい。すぐに席を空けさせるから少し待ってくれ」
「いや、このままでいいぞ?急にやって来たのは俺達だからな」
「そういう訳にもいかんだろ」
という訳で、イザベラとサギニを席から立たせる。クッキーもそのままだ。サギニが絶望の表情を俺に向けているが、我慢して貰うしかない。
「好きに食べてくれ。お茶はすぐに持ってこさせる」
「えっと、お構い無く」
「つーか、あの表情を見た後に手を伸ばせる奴は居ないだろ……」
「毎日食ってるから遠慮しなくて良いぞ?無くなったらまた焼くだけだしな」
補填として俺が焼いても良い。手間だが出来ない訳じゃないし。
「いや、俺達も飯を食ってきた後だし大丈夫だ。それより本題に入って良いか?」
「おう。構わんぞ」
俺に断りを入れてからレッジが机に乗せたのは、一本のオリハルコンの剣。
スキル 空き 空き 空き
最高傑作では無く、傑作でも無い。だが間違いなく良品だ。
「悪くないな。幾らだ?」
「五十万ナールだ」
「これからの付き合いを考えると、信頼出来る隻眼と当たったな」
面倒に思うかも知れないが、この世界は機械が物を作る量産品に溢れる世界じゃない。
だから職人の品に出す金は信頼であり、そのまま
有象無象の悪評より作品が全ての世界なのだ。職人の世界はな。
「おう。俺達としても長い付き合いになれば良いと願ってるよ。──って訳でミツル。合成する前にちょっと試させてくれ」
「…………?」
「隻眼がミツルの見極めを不審に思っていてな。この武器の評価を聞きたいそうだ」
「なるほど」
本当に信頼出来る職人に当たったな。客が騙されてないか心配出来る辺り、人間としても当たりだ。
「で、どうだ?ミツルならこの剣にどういう評価を下す?」
「最高傑作じゃないし、傑作でも無い。駄作でも無いし、良品でも無い。だから俺が評価を下すとしたら一級品ってところだ」
「…………本当に分かるんだな」
「じゃなきゃ迷宮討伐なんて目指してねぇよ」
お前らより才能は無いんだから。
「いや、試すような真似をして悪かった。それじゃ改めて依頼して良いか?」
「おう。──それじゃメロー。頼んだ」
コクリと頷いたメローがレッジからカードを受け取り、詠唱を三回繰り返す。
そして完成したのがこちら。
スキル 詠唱中断 攻撃力二倍 防御貫通
「良くやった」
「流石に緊張しました……」
MP的には余裕があるとはいえ、流石に心労が溜まったのか御茶とクッキーに癒しを求めるメローをわしゃわしゃ撫でる。
それから少しして、何度もオリハルコンの剣と俺とメローに視線を動かしていたレッジが正気に戻った。
「ほ、本当に三つもスキルを付けられたのか……?」
「武器鑑定だと全部は見えないから試して貰うしか無いがな。ただ、スライムを殴ってくれば分かりやすいだろう。攻撃力二倍に関してはもう一本用意して比べてくれ」
「い、いや、ミツルを疑ってる訳じゃないんだ。……疑ってる訳じゃないんだが、余りにもアッサリしていてな。俺の常識が崩れそうなんだよ」
「パラーはこんな武器を壊しながら迷宮討伐してるんだが?」
「…………ドワーフってスゲェ」
俺もそう思う。
「ところでレッジ。灌木と羊のカード余ってないか?」
「おう、余ってるぜ。欲しいのか?」
「ビープシープに苦しめられててな。売ってくれると助かる」
「あいよ」
レッジがボックスから三枚のカードを抜き、雑に机の上に置く。念の為に鑑定。──うん、問題ないな。
「幾らだ?」
「やるよ。次回の合成料をタダにしてくれればそれでいい」
「さんきゅ」
有り難く受け取り、ボックスにしまう。
持つべきものは友だな。俺一人だったら集めるまでどれだけ掛かったやら。