「あ、そうそう。不要だと思うが一応言っておくぞ。武器は強くなったが、お前らが強くなった訳じゃないからな。迷宮討伐してない身で言うのもなんだが、五十以降にはまだ挑まない方が良いぞ?」
「そこらへんはしっかり理解してるさ。
この場合の親というのは後援の貴族の事だ。普通ならどんどん潜れと言われるのだろうが、職を変えた後のアフターケアまでしっかりしてるとは。
こういう『縁』で当たりを引ける辺り、持ってる人間は本当に違うぜ。
「私も止められなかったので同罪ですが、レッジさん達は調子に乗って酷い目に遭ってますからね。だからミツルさんが心配せずとも大丈夫ですよ」
「参考までに聞くが、何やったんだ?」
「転職直後に十層のパーンに挑み、全体魔法を食らったんです」
「うわ……」
良く死ななかったな。何人かミサンガ切れたかも知れんが。
「装備のお陰で後遺症が残るほどの怪我は受けませんでしたが、それでも滋養錠を使う羽目になりましたからね。それ以降は大人しいものです」
「馬鹿やって六千ナールを人数分飛ばしたんだ。そりゃ俺らだって覚えるさ」
「高い勉強料だったな」
滋養錠の価格は一つ六千ナール。ギルド売りでも一つ千五百ナールで売れる薬師の稼ぎ頭だ。
欠点は最低でも四十五層以降に潜れないと素材が取れない事と、薬草採取士では作れない事の二つ。
俺達の様に五人で潜る探索者は希だし、一部のジョブのレベル上げの辛さが半端じゃないこの世界では、薬師の総数はたぶん隻眼より少ない。
貴族ならお抱えの薬草採取士を育てる事も出来るけどな。野良で誘われる可能性は──まぁ、ゼロでは無いって程度だろう。
「まぁ、お陰で貴族が薬師を抱える理由が良くわかったし、支払った額に見合う学びは得たぞ。実際、自前でエリクシールや錠剤を作れるかどうかで出ていく金額が違いすぎるしな」
「鍛冶師も、ですね。ボスに武具を壊される可能性を考えると、手早く補充出来るかどうかは領内の安定に直結します」
「ギルドに頼むのもありだが、統治者としては最後の手段にしたいよな」
武具にしろ薬にしろ。領内のギルドに委託する事は別に間違いじゃない。経済も回せるし。
だが、それが最上位の品となれば話は変わる。
単純に生命線を他人に握られる事になるのだ。武具や薬が無ければ迷宮討伐は出来ず、必然的に上下関係が生まれてしまう。
もちろん自前で用意出来ない貴族側が下になる。そうなれば色々便宜を図るしかなくなり、汚職へと繋がり、領内が荒れ始める。
何?迷宮という脅威があるのにそんな事する筈がない?
残念ながらそれは甘い考えと言わざるを得ない。薬師や鍛冶師は何処の領地でも引く手あまたであり、
悪評なんて遠い地に飛べば消せるしな。それこそ他国すら選択肢に入るぞ。
「すでに鍛冶師を確保してるミツルが羨ましいぜ」
「メローはやらんぞ?」
「流石に他人の
苦笑いを浮かべながら片手を振ったレッジが表情を真面目なモノに変える。
「ミツルと出会う前から決めてた事なんだけどな。俺達は人材探しも兼ねて季節の変わり目のオークションに行くつもりだ」
「狙いは鍛冶師か?」
「ミツルと会う前はそのつもり
「って事は、今は違うのか」
「ああ。隻眼と知り合えたってのもあるが、普通の鍛冶師がミツル達を超えるとは思えないからな。資金に余裕がある訳でもないし、薬師や魔法使いを狙うつもりだ」
「なるほど」
纏めて揃えたところで育成まで手が回るとは思えんし、正しい判断だな。
「ミツルはどうするんだ?」
「竜騎士を狙いに行く予定だったが……現状だと厳しいな」
「討伐が間に合わんか?」
「一つは間に合うんだが、もう一つが三十六層で止まっていてな。元々放棄される予定の土地だったから他の探索者も居ないし、たぶん間に合わん」
こればっかりは仕方ないと割り切っている。イザベラを無料で手に入れた対価だし。
「ふーむ……三十六層か。──姫様」
「ええ、構いませんよ。隻眼と縁を繋ぐという目標は達成してますしね」
「ヨッシャ!って訳で、ミツル。俺達が代わりに進めておいてやるよ」
「こっちとしては助かるが……良いのか?」
「ほら、一緒に探索した時に
「そういえば、そんな話もあったな」
最近、忙しくてすっかり忘れてたぜ。
「おいおい。忘れてたのかよ」
「いや、言い訳になるかも知れんが、俺の予定では新規に現れた迷宮を一から登る予定だったんだよ。それがまさか途中まで攻略されてる迷宮を拾うなんて幸運が起こるなんてなぁ……」
「確かに、三十六層まで開拓済みの新規迷宮を拾う事なんて早々ありませんものね」
基本的に新しく開かれた迷宮は領主が配下の騎士団を潜らせ、そのまま討伐まで行くのが普通だ。
確保してる迷宮の弱体化にも繋がるので、領主にとっては楽にギルド神殿を手に入れられるチャンスでしか無く、わざわざ野良の探索者に譲る事は滅多に無い。
原作で譲ると話が出ていたのも、主人公に対する報酬の前払いみたいなもんだしな。
道夫くんは自力で討伐を成し遂げていたが。
「ま、そういうのも引っ括めてミツルの運だろ。それで、どうする?」
「頼む。依頼料はどうする?」
「いらんいらん。さっきも言ったが、あの時のお礼だからな」
「……そっか。それならお言葉に甘えさせてもらうわ」
「おう!任せておけ!」
分厚い胸板を力強く叩き、何処か人を信じさせる笑みを浮かべるレッジ。
(……俺は本当に良い友人を得たな)
願わくば、この付き合いが長くなる事を神にでも祈るかね。
◇