レッジにレーヌへの交通費として金貨一枚を渡した後、そのまま玄関でお見送り。
探索については心配する必要が無い。ぶっちゃけ、俺達よりレッジ達の方が強いしな。
「念のため確認しておくが、俺達は第三迷宮の方で良いんだよな?」
「ああ。俺達は第四の方を攻略中だからな」
「了解。それじゃまたな」
「お世話になりました」
「向こうで会ったらよろしくな」
玄関の鍵を閉めて居間に戻る。これからグロリア達を引き連れて午後の探索に向かう訳だが、その前にやるべき事が一つだけあった。
「メロー。合成を頼む」
「かしこまりました」
机の上に置いたのは、先程レッジから譲り受けたカードと装備品だ。慣れてきたのか淀み無く詠唱するメローをぼんやり眺めていると、居間に閃光が走り──無事に装備品が完成。
これがその鑑定結果だ。
スキル 睡眠耐性 麻痺耐性 空き 空き
スキル 詠唱中断 石化添加 麻痺添加 空き
うーん、これでムカつく羊も安心だ。
「俺の使ってた額金はメローに回す。ついでに警策も渡しておくから俺が眠ったら頼む」
「畏まりました」
ちなみに浮いた四スロの額金は六人目の装備に回すつもりだ。額金程度なら邪魔にならないし、サギニに渡しても良いんだが……アイテムボックスで装備を管理してる関係上、一式で管理した方が楽なんだよな。
「イザベラ様の槍も私と同じく麻痺を狙える様になりましたか」
「新人に追い付かれて不満か?」
「いえ、特には。ただ二枚目の灌木はメロー様の麻痺耐性になるのだと勝手に思っていましたので、少し意外だっただけです」
「あーそういえば言ってなかったか。ついこの間、禰宜になったから状態異常を治せる様になったんだ」
「なるほど。納得です」
特に疑問に思うこともなく受け入れるサギニ。それとは対照的に驚きを隠せていないのはメローだった。
「えっと、ついこの間まで神官でしたよね?もう禰宜の条件を満たせたのですか?」
「いま戦ってる階層を思い出せ。それが答えだ」
一般的な探索者の探索スピードは分からないが、階層プラス一から五程度を目安にしているなら、別に俺が禰宜になっていてもそこまでおかしい事ではない。
もちろん、条件を満たして即転職している事を除けば、だが。
「……そういえば、私達は四十三層を探索してましたね。御主人様に拾われる前の自分に言っても信じなさそうです」
「そうですね。私もこんな短期間に到達階層が二十以上増えるとは思ってもみませんでしたし」
感慨深そうに呟いたグロリアに対して肩を竦めてみせる。
「準備を整えれば五十五層まではこんなもんだ」
「ずっと気になっとったんですが、主人さまは迷宮攻略した経験がすでにあったりします?どえらい情報が正確なよってかん……」
「ま、そこらへんは師匠のお陰だ」
敢えて言葉を濁し、話を切り上げる。
道夫くんがこの世界の仕様を少しずつ解明してくれたお陰で、俺は何一つ迷わず最短距離で動けた。
そういう意味では彼は俺の師匠と呼べる存在だろう。本人は嫌そうな顔をしそうだが。人見知りに人間不信も混じってる気がするし。
「ま、俺の話はここまでだ。それより迷宮に行くぞ。今日か明日中には越えたいからな」
◇
改めて言うまでも無いが、四十三層のビープシーブは睡眠スキルの使い手だ。
セットで現れる魔物次第でビーストコンボ*1が当然の様に発生し、随伴する魔物次第で下手すれば一撃で即死する事もあるとレッジは語っていた。
そういう意味では俺達は恵まれているのだろう。
この階層の随伴はウドウッドとパームパウムの二種類。どちらも一撃が重いタイプでは無く、どちらかと言うと手数型なのだから。
「とはいえ厄介な事に変わらん。もう少し強くなれば違うと思うんだが……」
「それでも午前より、かなり楽になっていますよ?敵の大半が麻痺なり石化なりになりますし」
デュランダルで石化したビープシープを殴りながらボヤけば、慰めるようにグロリアが実感を語る。
実際、雷魔法と麻痺添加武器二本の活躍は凄まじい。一度だけだが六体全てが麻痺状態になり、そのまま石化した事もあったぐらいだ。
欠点はとにかく成果が安定しない事だな。頼りにするには不安定過ぎる。
「私達が中級職になれば色々変わるのでしょうか?」
「どうだろうな?グロリアやメローはかなり変わると思うが、サギニやイザベラの方は微妙かも知れん」
「というと、何か心配する事が?」
「探索者から冒険者になるとダンジョンウォークが消えるだろ?あれと同じ様に状態異常を与えやすくなるスキルが消える可能性があるんだよ」
「……それは厄介ですね」
刺客という名の通り、バックアタック時に火力が上がったり、詠唱アリで即死攻撃とかもあり得そうなんだよな。
後者に関してはすでに賞金稼ぎに生死不問があるので、そこまで心配せずとも大丈夫だと思うが。
「お話し中にすいません。敵です」
立ち止まったサギニが鼻をヒクつかせ、報告を上げる。
「種類は?」
「たぶん羊が五匹です」
「了解」
さて、頑張るとしようか。
◇
一日目の探索は地図を四割ほど埋めて終了した。厄介な魔物の時に限って近くにボス部屋が無いとは。やはり迷宮討伐は運が大事らしい。
とはいえ何時までも引き摺るのもアレなので、気持ちを切り替えて夕飯の支度に入る。
「用意する物は卵、小麦粉、揚げたい具材。ポイントは卵と
「何か理由があるのですか?」
「こうすることによって衣が重くならず、カラッと揚がるんだ」
隣でレシピを記入しているメローに答えつつ卵を割り、小麦粉をざるを通して振るい、さらに冷水を加えて菜箸でかき混ぜる。
地球で作るなら小麦粉と薄力粉を1:1がオススメだ。この割合を弄ると食感に変化が現れるので、興味があるなら自分好みの衣を探すと良い。
ついでに揚げる予定のジャガイモは予め切っておき、火の通りづらいサツマイモ?等には切り込みを入れておく。
ジャガイモは水に一時間ほどさらしてあるので、後は揚げる直前に水気を拭き取ればオーケーだ。
「まずはジャガイモから揚げる。ジャガイモを鍋に投入した後、油をジャガイモの1cmほど上まで垂らし、火にかける」
160℃の油で三分ほど揚げたら一度取り出し、脇に移しておく。
「次にカボチャやサツマイモ等の火が通りづらい野菜を天ぷら衣に通した後、小麦粉を掛けて揚げていく」
「どれくらい揚げるのですか?」
「大体
火が通っているか心配なら爪楊枝かなんかで確認するといい。
「野菜を揚げ終わったらジャガイモを揚げ、最後に魚介類や肉を揚げる。後回しにした理由は
「なるほど。ところで具材によって揚げ時間は変わるのですか?」
「基本的に同じ揚げ時間で大丈夫だ。海老だけは
時計があるなら時計を頼った方が楽だぞ。異世界だと大体で作るしかないがな!
そんなこんなで天ぷらの完成。めんつゆも藻塩も無いのが残念だが……まぁ、美味いもんは塩でも美味い。
不味かったら?具材が悪いだけだ。
「……うん、良い感じに揚がってるな」
鶏天(兎)や鶏天(蛙)等の一部怪しい食材こそあるが、基本は鶏肉に似た何かだ。問題ない。
「何というか上品な味ですね。探索者のご飯というより貴族の食事の様な気がします」
白身の天ぷらを美味しそうに食べるグロリアからはそんな感想が出た。
でもな、グロリア。お前がバクバク食べてるフライドポテトは俺の中でジャンクフードの扱いなんだ。
「えっと、グロリアさん。貴族でもこんな大量にパームオイルを使う食事は滅多に出ませんよ?」
「そうなんですか?貴族の方ならこれぐらいの食事を毎日食べているイメージだったのですが」
「食道楽な方や上位貴族の方は知りませんが、男爵程度ならどちらかと言うと探索者よりの食事が多いですね」
「なるほど。食事の質より探索者としての装備や薬代に回されますか」
「そうですね。なので御主人様の料理を基準にしてしまうのは危険かと」
ちなみに説明しているメローもフライドポテトにフォークが伸びている。いや、色々満遍なく食べているのだが、二回に一回はポテトに行ってるんだよな。
「…………!…………♪」
サギニは先程からポテトとサツマイモ?しか食べてない。時々鶏天(蛙)を摘まむぐらいだ。
塩気と甘味のコラボに完全敗北してる辺り、ジャンクフードとか作ってやったら喜びそうだな。
「くっ……!わっちは負けんよ……!」
ポテトに人気が集まり、浮いていた野菜天と魚介類に敗北しているのはイザベラだ。こちらも一口食べるごとに大切な記憶を上書きされていく様な表情をした後、無意識に次の天ぷらにフォークを伸ばしている。
そんな四人を眺めつつ、揚げ物を摘まみに冷えたエールを流し込む。
世界が変わっても、揚げ物とエールの組み合わせが最強という事実は覆らない。
体に悪い物は美味しい。悔しいが、それこそが世界の真理なのだ。
◇