──春の季節 七十九日 - 八十日目
四十三層は想定していた内の最低を引いた。地図の完成度は100%。つまり、完全踏破するまでボス部屋を引けなかった。
次の層は短いと良いんだが。というか、本格的に奴隷オークションは見送りになりそうだな。
気を取り直してボス部屋の前で作戦会議を行う。このまま次の層も探索する予定なので、ここでチンタラしてる訳にもいかないしな。
「羊層のボスのスリープシープだ。コイツは湧いた直後は基本的に寝ている。だから大技を叩き込んでから戦闘を始めるのが基本らしい」
「……残念ながら私達ではその隙を生かせそうにありませんね」
「そうでもないぞ?二体の距離を強引に引き離して各個撃破を狙えるからな」
「なるほど。確かに私とメローさんの力なら出来ますか」
二対五では無く一対五かける二回で戦えるのがスリープシープの良いところだな。探索は腐ったが、ボス自体は弱いのだ。
という訳でサクサク討伐して四十四層へ。スリープシープ?強権で全てのスキルを止め、麻痺から石化のコンボで終わったぞ?
「第四ランクのラストはコラージュコーラルだ。ただ警戒しなきゃいけないのは羊の方だから、四十三層と戦術の変更は無い」
ぶっちゃけ、羊の出現する頻度が下がった分だけ四十三層より楽だったりする。
「強権武器が大活躍ですね」
「逆を言えば、用意が無ければ地獄絵図になりますか」
「聞いた話によると、ビープシープの睡眠からハチノスの突進やパーンの全体魔法での事故が多いらしい。三十四層から四十四層で発生する死亡原因のトップだそうだ」
ちなみに二位はパーン単体の全体魔法で、三位はハントアントの毒だそうだ。
どちらも数が揃うと一瞬でパーティーを壊滅させるだけの脅威がある事は間違いない。弱くても強権付きの武器を使う探索者が居るのも納得だ。
「強権武器は激情等に比べて人気が無い印象だったのですが、やはり御主人様のように上へ行く方々は考える事が普通の方とは違うのでしょうか?」
「いや、それに関しては凄く切ない理由だぞ?」
「え……?」
呆けた声を上げるメローと視線を合わせ、一般的な探索者達の悲しい現状を伝える。
「火力が無いとな?魔物の乱入から全滅に繋がるんだ。だから魔法使いが居ないパーティーは僧侶や巫女すら武器を持って戦うし、火力が上がる武器を追い求めるんだよ」
「……なるほど。身の安全の為に敢えて危険に身を晒すんですね」
「俺と一緒に居ると分かりづらいが、複数のスキルが付いた武器は貴族ぐらいしか持ってないからな。激情か強権の二択で強権を選べるのは、魔法使いが居るパーティーだけだ」
後はドワーフ。というか
原作のセリーはデュランダルの搭載スキルの数を聞いて引いてたし。
「話を聞けば聞く程、鍛冶師の重要さが分かりますね。スキル装備無しで迷宮を踏破したという話を聞かないのも納得です」
「俺の力を使ってもそれは不可能だろうな。レッジ達でも無理だと思うぞ」
デュランダルを封印されたら初動が完全に止まり、安全マージンを稼げなくなる。それはそのまま魔法使いを得られない事に繋がり、スライム層で詰んでしまう。
無理矢理魔法使いを得たとしても第三ランク辺りで火力不足に悩み始め、第四ランクに至っては雑魚処理が追い付かず、乱入される事が増えると思う。
第一、第四、第七ランクは弱点持ちが少ない。それがそのまま火力不足に繋がるからな。こればっかりは魔法使いが居てもどうにもならん。
「えっと、ご主人様。敵です。数は──サンゴ二ですね」
「この階層で少ないのは珍しいな」
「遠くの方に羊の匂いがあるので、ゆっくりしていると合流してしまうかも知れません」
「なら急ぐか」
少し駆け足気味に移動してコラージュコーラルに奇襲を仕掛ける。もちろん先頭はグロリアだ。
「毎回こうだと楽なんですけどね」
「そうですね。時間を掛ければ私達だけでも倒せますし」
グロリアとメローが一体ずつ抱え、サンゴの背後からサギニとイザベラが殴る。敵を抱えず、殴る事だけに集中出来るのならば、暗殺者の敵じゃない。
それを示すかの様に二体とも麻痺した後、そのまま石化する。
「あ、羊が来ます。── 一匹ですね」
「待ち構えてスキルを使われるのもあれですし、こちら側から襲いますか?」
「そうしましょうか」
四人が通路の奥へ走り、曲がり角を曲がってきた羊をそのまま壁に叩きつけてフルボッコ。
今回は石化こそしなかったが、麻痺った時点で辿る末路は決まった。トドメはメローの金砕棒による振り下ろしだ。
ドロップを抱えて戻ってきたメローと二人で石化しているコラージュコーラルを処理して戦闘終了。アイテムをボックスに投げ込み、先へ進む。
「主様の言う通り、羊の階層の方が厄介でしたね。コラージュコーラルは確かに硬い魔物ですが、スライムや貝ほどではありませんし」
「私に限って言えば金砕棒に防御無視が付いてますからね。スライムや貝のように警戒すべき動きも無いので、本当にただの雑魚です」
「普通の探索者はもっと苦労するんよ……主人さまとお二人が強すぎるんよ……」
なんかイザベラが闇落ちし始めたな。そんなイザベラに対してサギニが索敵しながらフォローに入る。
「えっと、イザベラ様。ご主人様が強い事は良いことですよ?世の中には十一層で奴隷を見捨てて逃げる主も居ますからね」
「サギニさんはちょくちょく闇が漏れるなぁ……!」
「甘味を頬張る姿からは想像出来んだろうが、サギニは悪い方の経験も豊富だからな。恵まれてない種族の厳しさは一通り味わってるぞ」
人間よりはマシって程度だからな。狼人族の奴隷は。
奴隷の種族格差を説明しながら探索を続けていると、午前の探索予定時間の半分ほどでボス部屋を引いた。
ここを越えれば、この先は弱点を抱える魔物ばかり。状態異常の対策は出来ているし、戦闘自体は間違いなく楽になる。
「サンゴ層のボスはミラージュコーラル*1。時々凄まじい回避力を発揮する魔物で、凄く眩しいらしい」
「眩しい?ですか?」
疑問を投げ掛けてきたグロリアに頷く。
「そうらしい。レッジのところの百獣王が目が痛くなるボスって言ってたんだ」
コラーゲンコーラルは岩に木の根の様な足が生えた魔物で、そのボスだったコラージュコラーゲンは様々な質の鉱物を雑に
その法則から想定するに、ミラーボールでも掲げてるのかね?その場合、ペルマスクが泣くと思うが。
いや、この魔物を見たから鏡を作ろうと考えた可能性もあるか。地球とは鏡の発祥が違っても別に不思議では無いし。
「ま、凄まじい回避がどんなものなのか分からんが、常に反撃を食らう可能性を頭に入れておけば問題ないだろう。後は急激な発光による目潰しに注意ってぐらいか」
「伝聞だけではそれぐらいの想定が限界ですか」
「これ以上は勝手に敵を強大にしちまうしな」
幽霊の正体見たり枯れ尾花って奴だ。俺達の装備とキャラクター再設定があって負けるなら、そもそも原作で描写があっただろうし。
「じゃ、そろそろ行くか。気張れよ」
『『『はい!』』』
ここを越えれば、あと五層か。思えば遠くまで──いや、高くまで来たもんだ。