四十五層の探索を終えて迷宮の外に出ると、ラフな格好のレッジ達とバッタリ出会った。
「おっす。もう来てくれてたのか」
「おう。ミツルからの依頼だったしな」
軽く言葉を交わし、第三迷宮の最新階層までノリの軽い後輩系探索者を案内する。俺はすでに冒険者だが、迷宮攻略を終える前に転職するのは不自然だからな。
だからしばらくは探索者のフリだ。
案内を終えたらレッジ達を連れて冒険者ギルドへ。戦利品の精算を終えると、そのまま昼食を取りながら情報交換する事になった。
「探索の進歩はどうだ?」
「四十五層まで行ったぞ。んで、ミラージュコーラルに目潰しを食らってきた」
「ハッハッハッ!ムカつくぐらい眩しかったろ?」
「ああ。苦戦はしてないんだが、面倒だったわ」
懐かしの硬いパンを野菜スープに浸し、柔らかくしてから口に運ぶ。サギニがしょんぼりしているが、こういう付き合いは疎かに出来ないので我慢してもらうしかない。
「アイツ、オレ、キライ。真面目な話、アイツを討伐した後に次の層で戦うと色々
俺と同じようにパンを浸している百獣王が愚痴れば、同じ感想を抱いていたのであろう禰宜も溜め息混じりに参加してきた。
「厄介だよね、あれは。状態異常じゃないから治せないし」
「俺達としては装備で対策出来ないってのが一番困る。足りない才能を装備で補ってるっつーのに、それすら許してくれないからな。先の事を考えると頭が痛いぜ」
「マザーリザードの子供産み*1もそうだが、上に行けば行く程、強権で止められない行動が増えるからなぁ」
貴族としての作法を学んだのか、言動に反して綺麗な所作でスープを掬うレッジがぼやけば、百獣王が真偽は知らんが、と前置きしつつ冒険者の間に伝わる噂話を語ってくれた。
「そこらの特殊行動を止めるにはウサギの最上位とハイコボルトのカードが必要らしいぞ?」
「ハイコボルトはともかく、ウサギの最上位とか情報すら聞いたことねぇよ」
「ボーパルラビットの時点で凶悪だしな」
首を刎ね飛ばされそうになった恐怖は今でも覚えている。命の危険という意味では、あれが一番やばかった。
「……本当にミツルの言ってた通りなんだよな。貴族になって終わりじゃなくて、そこからが始まりっつーか。俺達もまだ六十層までしか到達してないし」
「探索者ならそこまで行ければ十分なんだが、貴族だと微妙なラインよな」
初代皇帝は除くとして、七十から八十層ぐらいは定期的に狩られてるっぽいんだよな、この世界。
そうじゃないとゴスラー配下の僧侶が九十まで上がらんだろ。十の倍数ごとに上がりづらくなるし。
「ミツルはどうだ?」
「俺も迷宮討伐してからが本番だな。今回の件で分かったが、四パーティーぐらいは好きに動かせる探索者が欲しいし」
「やっぱり厳しいか?」
「戦闘より探索がな。四十三層は地図が完成しちまったぜ」
「うへー……ミッチー、運無さすぎだろ」
「ほっとけ」
それを一番痛感してるのは俺だ。
「まー、貴族が見込みある冒険者に声を掛けるのも分かるよな。上に行けば行くほど探索出来る奴の総数は減るが、階層の広さは拡大する一方だし」
「四十層ですら最大三日掛かる事を考えると、七十層辺りは一週間ぐらい掛かりそうだもんな」
「だよなー。そこまで来ると個人で探索出来る気しねーわ」
人が少ないと迷宮内で乱入される確率が増え、命の危険も相応な物となる。
クーラタルに冒険者が集まる理由はこれも関係しているだろう。過疎地の高層とか自殺しに行くようなもんだろうし。
「だから貴族は近くに湧いた迷宮を踏破して、弱体化させた後に本命の探索を進めるんだろうね。五十層の迷宮でも体感出来る程度には弱くなるし」
「そうなのか?」
禰宜の方に視線を向ければ、パンを齧るのを止めて説明してくれた。
「体感だけど、五層下ぐらいにはなるかな?*2六十層なら十層下ぐらいだね」
「それって五十五層とか半端な階層だったらどうなるんだ?」
「五十層と同じだと思う。たぶん魔物の切り替わりごとに弱体化も大きくなるんだと思うよ。あくまでも個人の感想だけどね」
って事は、五十から五十五層が五レベルダウン、五十六層から六十六層が十レベルダウンって感じか?
(……なるほど。スキル装備が普及してなくても迷宮討伐を行える訳だ)
メジャーな領地の迷宮に潜っている探索者は、
領主がまともなら定期的に弱体化するし、その恩恵は探索者全員が受けられる。
レベルを見られるのが鑑定持ちだけってのもあるが、冒険者になるまで他領になんて滅多に行かないからな。この推論はそう外れていない筈だ。──逆を言えば、いざ貴族になろうとする時に苦労すると思うが。
何せ同じ五十層でも敵の強さが違うのだ。レベル差補正の件もあるし、その影響は決して無視出来ない。
(……俺には価値が無いと思っていたドラゴンのカードだが、意外なところから使い道が湧いたな)
今までとは違い、五十より上は安全マージンを確保しながら探索すると決めている。
具体的に言えば、階層プラス五レベルぐらいを目安に探索するつもりだ。そうじゃないとレベル差補正に苦しめられる。
だからドラゴンのカードに価値を見出だしていなかったんだが……こうなってくると話は変わる。
貴族になった時、弱体化した迷宮でしか戦った経験の無い冒険者を抱える事もあるだろう。そんな時、適当な武器にドラゴンを差して渡してやれば、少なくとも攻撃面で苦労する事は無くなる筈だ。
渡すとしたら獣戦士かね?一番火力が出るだろうし──
「昼食中にすまない。ギルドマスターはどなただろうか?」
ガタンッ!と音を立て、開かれた扉。そこから現れたのは鋼鉄装備に身を包んだ
……鍛冶師レベル43か。中々の強さだな。
「アタシだよ。何か用かい?」
「こちら、パラー公爵からの手紙になります」
「パラー公爵から……?」
鍛冶師から手渡された手紙を引き出しから取り出した紋付きのナイフで開き、内容に目を通すギルドマスター。それを昼食を食べながら見守っていると、まるで肩の荷が降りたかの様に息を吐き出した。
「……すぐに返事を書いてくる。少し待ってておくれ」
「かしこまりました」
ギルドの奥へ引っ込んだギルドマスターから視線を外し、正面にいるレッジと視線を合わせる。
「どっちだと思う?」
「この町にとっては朗報だろうな」
「根拠は?」
「パラー公爵から直接聞いた」
「……そら最強の根拠だわ」
って事は、第四迷宮討伐後の話について辺りだな。……先手を打っておくか。
「イザベラ。たぶん案内する事になるから第二迷宮の最新層に案内してやれ。
「わっちでよろしいので?」
「俺はこの町ともパラー公爵とも関係が無いしな」
むしろその配下の貴族との方が繋がりが強い。
「かしこまりました。責任を持って案内してきます」
「頼んだ」
キャラクター再設定でイザベラを探索者に戻した後、パーティーから除名する。
丁度そのタイミングでギルドマスターが手紙を片手に戻ってきた。
「ミツルさん。悪いけどイザベラちゃんを貸してもらえないかい?彼らを第二迷宮に案内して欲しいんだ」
「あいよ」
視線でイザベラに指示を出すと、探索者と思われる女と軽く言葉を交え、二人でギルドを出ていく。
「この手紙をパラー公爵にお願いね」
「ハッ!かしこまりました。──よし、この手紙を公爵へ頼む」
「了解」
今度はギルドマスターの手紙を最終的に受け取った冒険者の男が壁を使い、何処かへ飛んだ。
なんというか慌ただしくなってきたな。いや、この街にとっては良いことなんだろうが。
「自分達も仲間が戻り次第、迷宮探索へ向かいます」
「助かるね。出現する魔物は壁に一覧が貼ってある。攻略の糧にしてくれりゃアタシらの努力も報われるよ」
「お約束しましょう」
んー……今日はここまでだな。
「レッジ。たぶん後から騎士団も来るだろうし、俺達はイザベラ拾ってそのまま迷宮に行くわ」
食事代をカウンターに置き、席を立つ。グロリア達は──準備出来てるか。流石、俺の自慢の奴隷達だ。動きに無駄がない。
「あいよ。俺らは責任者に挨拶してからだ。流石に貴族としてしない訳にもいかん」
「じゃ、今日はここで解散だな。用事があるなら自宅のポストに手紙でも投げ込んでおいてくれ。出来るだけ時間は作る」
「おう、分かった」
レッジと拳を軽くぶつけ合い、そのまま別れる。
第二迷宮でイザベラ拾って、午後の探索も頑張るとするか。
◇