──春の季節 八十一日目
昨日の探索の貯金もあり、翌日の昼前にはボス部屋を見付ける事が出来た。ここを越えれば残るは四階層。やっと終わりが見えてきたな。
「さて、それじゃ説明するぞ。──ロールトロールのボスは
「……?えっと、同じ名前の魔物なのですか?」
「ややこしい事にそうらしい」
四十五層に雑魚として現れる魔物は
「コイツの注意点は
「なるほど。それは中々面倒ですね」
「……いえ、逆に有利になるのでは?特殊行動では無くスキルである以上、私達なら強権で止められますし」
「ま、そこら辺は試してみなきゃ分からんな。とりあえずこの階層から追加で湧く雑魚はイザベラ、ボスはグロリアとメローが抱えてくれ。サギニはボスの武器が杖なら杖持ちを優先、次が素手、それ以外なら雑魚から頼む」
『『『かしこまりました』』』
「よし。それじゃ行くぞ」
開きっぱなしのボス部屋へ入ると同時に、グロリア達がそれぞれの担当目指して駆ける。サギニは見極めから入るようだ。
さて、ボスの職業はなんだろな──
「サギニは素手の奴から行け。他はさっきの通りだ」
指示を飛ばしつつ博徒のスキルで耐性を下げ、メテオクラッシュからファイヤーストームまでの魔法を発動。湧いた雑魚はパットバットだったので、残念ながら火属性だけ弱点じゃない。
とはいえメテオクラッシュは弱点だから二巡目辺りで落ちるだろう。別に火に耐性を持ってる訳でも無いしな。
「石化や」
「よくやった。そのままグロリアの抱えている方も頼む」
イザベラがコウモリを石化させてくれたお陰で戦場に余裕が生まれた。少なくともロールトロール達ではうちの前衛を越えられず、俺の方へ来る可能性は皆無に近い。
ぶっちゃけ、この階層まで来ると探索の時の方が敵の数が多くて厳しい気がする。ボスは確かに強いが、単体相手なら事故る可能性もほぼ無いし。
そんな事を考えながら強壮剤を飲み干し、二巡目の魔法を放つと、石化したコウモリが二発目のメテオクラッシュでアイテムに変わった。
弱点と石化とメテオクラッシュの組み合わせは流石にオーバーキルだったらしい。この感じだと、ボスの命も長くなさそうだ──
「……おや?珍しい事もあるものですね」
「予想以上に削れてたんだな」
グロリアがデュランダルを振り下ろすと、僧侶トロールがアイテムに変わった。残る敵は後一体。まぁ、そう遠くないうちに沈むな。
「グロリア、デュランダルをくれ。MPを吸収したい」
「かしこまりました」
グロリアからデュランダルを受け取り、一度だけ全体大回復。後はボスを適当に殴り、使ったMPを回収。
それから五分ほどで二体目のボスが沈み、ドロップに変わった。……なるほど。そりゃ鋼鉄装備が市場に出回る訳だ。
「ノンレムゴーレムと違ってレアドロップ枠では無いのですね」
「そうですね。ハントアントのボスも鋼鉄を落としますし、鋼鉄はそれなりに入手手段が豊富な鍛冶素材になります」
「まぁ、この階層まで来られる奴は基本的に鋼鉄装備になってるから、大人しくギルドに売り払う奴の方が多いけどな」
装備をあまり更新しなかった原作でもベスタが鋼鉄一式だったぐらいだ。それぐらい何時でも店で買える品として普及してるし、たぶん多くの騎士達の基本装備として扱われている。
最大で三スロなのも大きいか。俺達は例外だが、スキルを付ければ五十層までなら通用するだろうし、そこそこの品質で数を用意するならこれ以上の素材は他に無い。
「……なんというか感慨深いですね。私のお借りしている剣の素材まで手に入れられる様になりましたか」
「すぐにオリハルコンの剣に替えるつもりだったんだが、気が付けば長く使わせちまってたな。悪い」
「いえいえ。私の役割は主様の守護ですからね。その分、状態耐性を優先して貰ってますし、武器が後回しになっても仕方ないかと」
「……そうか」
オリハルコンの剣に全種類の属性剣を付けるとか妄想していた日々が懐かしいぜ。まさかこんなにもコボルトのカード集めに苦労するとはな……。
まだまだ枚数を稼がなければならない事実に気分が落ち込みかけたが、軽く首を振って振り払い、気持ちを切り替える。
「よし、そろそろ次の階へ行くぞ。準備は良いな?」
「問題ありません」
代表して答えたグロリアに軽く頷き、次の層へ足を動かす。目標まで後少し。レーヌの件が片付いたら一度長めの休暇でも取るかね?
◇
「この匂いは──豚ですね」
「昼食には困らなさそうだな」
遊び人の魔法を雷魔法に切り替える。ピックホックは土に耐性を持っているが、火属性の要素を含むメテオクラッシュは等倍で通るので問題無い。
「属性の並びが悪いから戦闘時間は確実に延びると思ってくれ。種類が偏ってるなら大差無いかも知れんがな」
「ピックホックは攻撃力の高い魔物ですし、私とグロリアさんが引き受けた方が良いですよね?」
「だな。猿の方はサギニ達に任せる」
「「かしこまりました」」
軽く打ち合わせしてから探索開始。いつも通り右から地図を埋めていく。
たまには左から探索するかと欲を出した結果、四十三層で地図が完成したからな。もう二度とやるつもりは無い。
「敵です。豚3の猿3です」
「あいよ」
まずは開幕メテオクラッシュ!そしてバーンストーム!ファイヤーストーム!最後にサンダーストーム!
そして強壮剤をグビっと飲み干し、後ろからグロリア達の奮闘を眺める。
まず始めに視界に入ったのは、轟音を迷宮に響かせ、二匹のピックホックの突進を左右の剣で受け止めたグロリアの姿だ。流石に体重差によってジリジリと後退しているが、動きに焦りは見られない。
次にメローに視線を向けると、丁度、猿の魔法を強権で止めているところだった。
常にピックホックと同時に殴れる様に位置取りしつつ戦う姿は頼もしい。ただ流石に回避を意識する余裕は無いようで、先程から何度かダメージを貰っている。
それでも直撃や致命傷は避けている辺り、コツコツと磨いてきた鍛練は形となっている様だ。
全体大回復を使い、メテオクラッシュを除いた二巡目を放つ。原作ではそれなりに麻痺していた雷魔法だが、使用者の運が悪いのか暗殺者を外すとそこまで麻痺らない。
三、四戦に一回だから十分と言えば十分なんだが。暗殺者を付けてる時は一戦で一回は麻痺るので、何となく少なく思うだけかも知れん。
再び強壮剤を飲み干し、クールタイムが明けるまでの僅かな時間で戦場を再び眺める。
サギニは麻痺させた猿をボコボコに殴ってる最中だった。あれでは石化が発動するのも時間の問題だろう。
イザベラの方も特に問題無さそうだ。こちらは麻痺ってないが、距離の取り方が上手く、猿がそもそも近寄れていない。
三巡目の魔法を放つと猿が纏めて落ちた。他の魔法の活躍もあるが、やはりメテオクラッシュが弱点なのが大きいのだろう。
等倍でも弱点を突いた中級魔法ぐらいの威力があるしな。流石はボーナス魔法。格が違うぜ、格が。
「私が抱えている魔物は最後で問題ありません」
「分かりました」
短いやり取りの後、サギニ達暗殺者組がメローのピックホッグと戦闘開始。俺も火から水に魔法を切り替え、豚を削っていく。
「一体だけになると、流石に余所見をしなければ余裕ですね」
「メロー様の場合、足を止めて殴りあっても問題無いですからね」
「体感的には黒字ですからね」
「吸収系スキルは与えたダメージによって吸収量が変わるからな」
だから攻撃力二倍と防御貫通が付いて、尚且つ一撃の火力がある鎚の場合、この階層でもダメージと回復の収支が釣り合う訳だ。
もちろんグロリアの竜騎士が持つ体力上昇の影響もあるがな。
三人の猛攻プラス俺の水魔法に耐えきれず、メローの抱えていた豚がアイテムに変わった。それからすぐにグロリアの抱えていた豚が石化して戦闘終了。
デュランダルでの回復タイムとなる。
「そういえば主様。強壮剤の在庫は大丈夫ですか?かなり使用してる気がしますが」
「とりあえず後二層は大丈夫だ。その前にアニマルトラップの階層を引けると助かるが」
一個のドロップで三つ作れる関係上、強壮剤の在庫はまだまだたくさんある。
ただ強壮丸の時は気にならなかったが、地味に強壮剤は腹に貯まるのが困るんだよな。いや、別にトイレ休憩の為に帰宅しても良いんだが。
「強壮錠は効果も凄いですが、気軽に使うにはお値段が高くないですか?」
「素材さえ手に入れば加工出来るから問題ない。それにもっと上の層ではエリクシールをがぶ飲みする可能性すらあるからな。死ぬよりはマシだと割り切るしかないだろ」
「エリクシールをがぶ飲み……?」
顎が外れそうなぐらい唖然とした表情でイザベラが呟くと、グロリアが諦観の表情で慰めの言葉を掛けた。
「イザベラさん。本気で貴族を目指す方はこういう考えなんです。だから早く割り切った方が楽になれますよ?」
解せぬ。回復量が足りなければ上位の薬を使うのは当然の事なのに。
◇