──春の季節 八十二日目 ー 八十六日目
豚の階層で再び三日ほど足止めを食らった。それに業を煮やし、グロリア達の鍛練を諦めて秘密兵器を投入。
スキル 腕力五倍 体力五倍 器用五倍 俊敏五倍 知力五倍 精神五倍
ひもろぎのスタッフを超える知力の上昇。それを武器に探索をゴリ押し、さっさと討伐を目指す事にしたのだ。
さらに追加でもう一つの切り札も投入。薬師と入れ換えたのは
勇者Lv1
効果 HP大上昇 MP大上昇 腕力大上昇
体力大上昇 知力大上昇 精神大上昇
器用大上昇 敏捷大上昇
スキル オーバードライブ
さらに遊び人の効果を知力大アップに入れ換え、だめ押しに浮いたBPを全て知力に注ぎ込んだ決戦仕様。
その効果は凄まじく──
「い、幾ら弱点とはいえ一撃で……!?」
グロリアの驚愕の言葉通り、
「出来れば使いたくなかったんだけどな。流石にこれ以上の遅れは個人的に認められん」
現在の設定はセブンスジョブ、アクセサリー、キャラクター再設定、詠唱省略、メテオクラッシュのみ。
セットしているジョブは冒険者、遊び人、魔法使い、魔道師、英雄、勇者、禰宜の七つ。
経験値二十倍すら切っている、本当の意味で討伐の為にしか使えん設定だ。
まぁ、その甲斐あって四十六層のランスホッグ、四十七層のセファロタス*1、四十八層のバケツマーメイド*2を三日で全て撃破出来たんだが。
そんな訳で俺達は特に苦労する事も無く四十九層に辿り着いた。
ここに現れる魔物は待ち望んでいたフライトラップ系の魔物であり、強壮剤どころか強壮錠の材料を落とすビーストトラップがボスとして待ち構えている階層となる。
つまり、補給すら探索と同時に行える。運が良いことにネペンテスも雑魚として湧くからな。
「……ま、そんな階層に限ってこうなるんだが」
探索を開始してから僅か十分。雑魚戦を二度ほど経由しただけでボス部屋が見付かった。
何というかクーラタルが人気な理由が良く分かる。探索者側としては貴族になる目的が無いなら地図のある迷宮の方が気が楽だし、予定を組み立てやすい。
少なくとも俺達の様に三日間ボス部屋に辿り着けなかったり、探索開始から僅か十分で立てていた予定が崩される事は無いしな。
軽く首を振ってネガティブな感情を振り払い、気持ちを切り替える。この世界に来てから慣れてしまった動作なのだが、その事実がこの世界に
「今日は朝夕両方の探索でビーストトラップを連戦する」
ここで強壮錠を量産しておけば、第三迷宮を攻略する時に補給を気にする必要が無くなるのはデカイ。売って金に換えてもオークション費用に使えるしな。
「えっと、今回も敵の説明は無しなのでしょうか?」
「基本的にアニマルトラップの延長線上でしか無いってのもあるが、戦闘らしい戦闘にはならん。よって、俺は説明するなら別の機会の方が良いと判断した」
「分かりました。それでは私達は敵を抑える事に注力しますね」
「頼んだ」
グロリア達に指示とは決して呼べない指示を出し、四人を連れてボス部屋へ突入。ボスが出現した瞬間、ここ最近、酷使しまくっている
(……確かに原作の感想になるのも納得だよな)
オーバーホエルミングの様な、止まった時間を動いていると感じる程の時間遅延は起きない。代わりに発生しているのは、全てがスローモーションになった世界。
英雄は取得条件こそ特殊だが、あくまでも下級職に過ぎず、戦闘に不馴れな人間の為に強力な時間遅延が発生する。
対して勇者のオーバードライブはレベル50に至った人間が獲得出来る力であり、不馴れな人間の為に割いていた『時間停止』とも呼べるほどの力を別の方向に振り分けている。
──
その効果を最大限に発揮する魔法と言えば、もちろん
「無限の宇宙の彼方から、滅ぼし尽くす空の意志、滅殺、メテオクラッシュ」
ボス部屋の天井を
ボスは──まだ健在。流石は四十九層のボスだ。
だから俺は
これが勇者の持つ力。この世界では貴重な連発可能なバフスキル。
原作では遅延した分だけ老化が早くなる事を恐れていたが、大人は老化を気にするより
オーバードライブを使うことによって人生を九秒失うより、その九秒で自分が好きに使える時間を増やす方が大切なのだ。──大半の社会人はそれを睡眠時間に充てるだろうがな。
再び遅延していく時間の中で、今度はバーンストームを放つ。
サンダーストームは魔物間を走る雷だし、ボール系と違って名前詐欺が凄い。今更な話だが。
そして僅かな間を置いて三度目のオーバードライブ。放つ魔法は魔道師枠のバーンストーム。
それが止めとなり、魔物が霞となり、アイテムを残して消えた。
当帰
附子
「強壮錠の材料は当帰だったのか」
「トウキ?ですか?」
「補血、強壮、鎮痛、鎮静などの効果がある漢方で、月の物の痛みを和らげる効果のある多年草だ」
セリ科シシウド属なんて言っても理解出来んだろうし、説明はそこまでで切る。
ついでにキャラクター再設定を弄り、薬師を付けて強壮錠に変え、そのままパクリ。
「強壮丸が一割、強壮剤が三割、強壮錠が五割か。このサイズで五割は助かるな」
明らかに体に悪い薬漬け生活だが、エリクシールを飲めばチャラだろう。ただ、魔物のランク的にもう一段上があるんだよな……アンブロシア*4辺りかね?
「えっと、今日はこの当帰を集めるんですよね?」
「おう。ただ、次からはお前らの鍛練も兼ねて少し力を抑えるつもりだ。ビーストトラップはこれから一番戦う魔物になるだろうしな」
セファロタスとビーストトラップは滋養錠と強壮錠の素材を落とすので、高層探索者にとっては長い付き合いになる魔物だ。
こちらもランク的にはもう一段上が居るので、たぶん全回復まで行くと思う。問題は薬師で加工出来るとは思えない事か。
薬師の上級職は一体どんな性能なのやら。ドープ剤は薬師で行ける気がするが、それ以上となると……霊薬とか神薬クラスになるんだが。
「あの、御主人。力を抑えると仰りましたが、どれくらいまで制限するのですか?」
まだ見ぬ上級職に思いを馳せていると、メローが当然の疑問を口にした。その問いに対してキャラクター再設定を弄りながら答える。
「魔法はバーン二種のみにする予定だ。開幕の切り札も使うつもりは無い」
「……なるほど。苦しい戦いになりそうです」
ちなみに使う設定は経験値稼ぎのコレだ。
・キャラクター再設定 | 冒険者Lv 50 |
|---|
| 基礎BP | 149 | 使用中BP | 147 | 使用可能BP | 2 |
パラメーター設定 | 消費BP- |
|---|
ボーナス装備設定 | 消費BP- |
|---|
ボーナス呪文 | 消費BP1 |
|---|
ワープ 1
ボーナススキル設定 | 消費BP146 |
|---|
必要経験値減少 1 必要経験値二分の一 2
必要経験値三分の一 4 必要経験値五分の一 8 必要経験値十分の一 16
獲得経験値上昇 1 獲得経験値二倍 2
獲得経験値三倍 4 獲得経験値五倍 8
獲得経験値十倍 16 獲得経験値二十倍 32
セカンドジョブ 1 サードジョブ 2
フォースジョブ 4 フィフスジョブ 8
シックスジョブ 16
結晶化促進 1 結晶化促進四倍 2
結晶化促進八倍 4 結晶化促進十六倍 8
鑑定 1 ジョブ設定 1
詠唱短縮 1 詠唱省略 2
キャラクター再設定 1
うーん、欲張りセット。これは稼げる。
セットしているジョブは冒険者、英雄、勇者、魔道師、遊び人、禰宜の六つ。魔法使いは勇者を育てる為にお休みだ。
本当なら冒険者を切りたかったんだが、アイテムボックスに中身が入ってると外せないので泣く泣く諦めるしかなかった。
(……こうやって考えてみると、最後のメンバーを巫女で埋めるのもありか)
そうすれば禰宜を外せるので俺の自由度も上がるし。
ちなみに冒険者のLvが50まで上がってる事に一番驚いたのは俺だ。原作でも結構さっくり上がっていたのは知っていたが、四十層以降は稼ぎの桁が違うらしい。
まぁ、ずっとメインに設定していた魔法使いが55でピタリと止まった事を考えると、五十以降は五刻みに必要経験値が増えるのだろう。つまり、ここから先はもっと上の階層に行けって訳だな。
「あれ……?バーン二発でも十分では?」
頭に疑問符を浮かべながらメローが呟くと、即座にイザベラが突っ込みを入れる。
「そうやね。そもそも一般的な探索者は魔法を連発せんし」
「完全に常識が麻痺していました。御主人の御力は凄まじいですが、それを当然と思わない様にしないと一般的な探索者の方々と齟齬が生まれそうです」
「そんな気にしなくても大丈夫だけどな。人間は自分の常識しか信じない生き物だし」
武器は杖、頭はとんがり帽子、胴はダルマティカ、手足はダマスカス鋼。
俺にとっては最高の装備だが、この世界の一般的な常識ではチグハグな筈の装備。
それについて突っ込まれた事は一度も無い。各自で勝手に納得して、各自で勝手に答えを出している。
迷宮に門を開けば探索者が魔法対策でローブを纏っている様に見え、冒険者ギルドで門を開けば冒険者だと勝手に考える。
杖を見て神官だと思うやつも居るだろうし、高価な装備と奴隷の首輪を付けてない姿から勝手に貴族を連想して魔法使いだと判断した奴も居るだろう。
常識的に考えて、そこから複数ジョブ持ちだと考える奴は滅多に居ない。まぁ、問い掛けられても探索者と返すし、他のスキルを見られたとしても遊び人だと答えるだけなんだが。
「それに探索者が奥の手を伏せるのは常識で、それを探るのはマナー違反だ。だからお前らは主から他言無用と命令されているとごり押せばいい。それでも引き下がらないなら決闘で始末するだけだ」
自分から振りかざすつもりは無いが、自由民には権利があるのだ。自力救済という名の決闘を申し込める権利がな。
「……それもそうですね。その時は是非私達を使ってください。御主人様の秘密を全力で守ってみせます」
「いらんいらん。雑魚なら俺が斬った方が早いし、レッジみたいな奴が相手なら他国に逃げるだけだ。だからわざわざ俺達が危険に飛び込む必要は無い」
名誉に拘った結果、未来にやってくる道夫くんに殺される人間を知ってるんだ。それを知りながら名誉に拘るとか馬鹿だろ。
俺は勝てる戦いしかしない主義なんだ。楽に勝てると尚良し。
「ま、話はこれぐらいにしてそろそろ周回を始めるぞ」
先に五十層へ飛び、ワープに登録してから最もボス部屋に近い小部屋に戻る。
長かった討伐依頼も明日で終わりとなると、こう胸の奥から込み上げるものが──あるような無いような……いや、やっぱり特に無いな。
いつも通り飯食って、いつも通り討伐して終わりそうだ。
(……ま、それも俺達らしいか)
どうせこれから先、嫌になるぐらい討伐を経験するんだ。その未来を思えば喜ぶのは貴族になった時で良い。
大人になるってのは悲しいな。喜怒哀楽が年々薄れてる気がするぜ。
◇