グロリア
──春の季節 十日目
ふと冷たい感触に戸惑いを覚え、身体を起こす。視線の先には凍死体──とまでは言わずとも、冷たくなったグロリアの裸体が。
うーん……流石は竜人族。朝は本当にひんやりしてるな。
あの後の事を簡潔に語ると、グロリアを連れて当初の予定通り、帝国領の最北端に程近い、位置としては北西にある『トロムソ』で宿を取った。
公衆浴場では無く、宿付きの温泉に二人で向かったのだが、残念ながら男女別だったのでグロリアの裸体を楽しむ事は出来なかった。
その分じっくりと浸かる事が出来たので、個人的には満足しているが。
ただその後に男女の営みを行った事で、奴隷商人が何故あそこまでグロリアを格安で売りたがっていたのかも理解する事が出来た。
実はグロリアの体には、胸の谷間に沿うように斜めに走る剣傷があるのだ。本人曰く盗賊にやられたと語っていたが、その時の傷が尾を引いて、どうやら子供を成せる体では無くなったらしい。
幸いな事に傷以外に残る物は無く、性行為自体は可能だし、回復薬のお陰で感覚を失った訳でも無い。だが子供を産む事は出来ず、
そりゃ奴隷商人も売れるなら売りたいわな。同時に一年間という長い間、性病の発症は無かったと断言出来る訳だ。
とはいえ原作知識&キャラクター再設定のある俺には関係無い。早い話が『エリクシール』を取ってくれば良いだけの話なのだ。
クーラタルの63層で出てくる事が確定してるし、『ハーフハーブ』が最速の23層で出現する迷宮を見付ければ、56層という早い段階で入手する事も可能となる。
製造する為には薬草採取士のレベルを上げておかなければならないが、その頃には流石に奴隷も揃ってると思うので、ボーナススキルを経験値に割り振る余裕もある筈だ。
「おはようございます。主様」
少し寝惚け眼なグロリアが、掛け布団を胸元に寄せながら頭を下げる。あんなに激しく愛し合ったのに可愛いもんだ。
「おはよう。今日から迷宮に潜るが大丈夫か?身体が暖まるまで待つ事も出来るぞ?」
「いえ。問題ありません。すぐに着替えますね」
頬を少し染め、裸体を手で隠しつつ、グロリアが後ろを向いて手早く着替え始める。その姿をじっくりたっぷりねっとり見詰めていたいが……俺も迷宮へ行く準備をしないとな。
◇
探索者ギルドで聞いたトロムソ近くの迷宮は、俺にとってかなり理想的な魔物の配置だった。
| 1F | ニートアント | 2F | グリーンキャタピラー |
|---|---|---|---|
| 3F | スパイスパイダー | 4F | チープシープ |
| 5F | スローラビット | 6F | ニードルウッド |
| 7F | コボルト | 8F | エスケープゴート |
| 9F | ミノ | 10F | コラーゲンゲル |
| 11F | ナイーブオリーブ | メモ | 七層がレベル上げ向き |
ご覧の通り、七層に出現する魔物が『コボルト』『ニードルウッド』『スローラビット』の三種類となっている。
厄介な状態異常持ちは全部浅い階に固まっているし、そのお陰で十一層まで状態異常の心配が無い。
もちろん入り口の探索者をパーティに編成して七層に運んでもらった。わざわざ自分で登る意味も無いしな。
そして現在の俺達はこんな感じとなっている。
探索者Lv25
装備 デュランダル ダマスカス鋼の額金 絹のローブ ダマスカス鋼のガントレット ダマスカス鋼のデミグリーヴ
竜騎士Lv1
装備 鉄の剣 鉄の剣 硬革の帽子 硬革のジャケット 硬革のグローブ 硬革の靴
見ての通り、グロリアはすでに竜騎士だ。村人Lv4を5に上げた段階で獲得していたので、原作のセリーと同じ状況だったのだろう。
硬革の鎧は来る途中で売り払い、代わりに硬革のジャケットを購入した。というかグロリアに装備させたら凄い事になった。
ロクサーヌに着せた時の主人公の気持ちが良く分かったな、アレは。ぴっちりタイツを着せた様なエロスと言うか……たぶん男なら誰でも興奮するだろう。
ちなみに二本目の鉄の剣はLv38の盗賊の持っていた物だ。他は俺のお下がりとなる。残る手持ちの装備は硬革装備一式だけ。
二人目はともかく、三人目からは装備代を稼ぐ必要があるか。
「暫く後ろで見ていてくれ。戦闘は俺一人でやる」
「前に立たなくてもよろしいのですか?」
「ああ。それに見た方が早い」
「……?」
伝えるべき情報と隠す情報。その選別はすでに済ませてある。魔法は見せる、ワープも見せる、キャラクター再設定は教えない。
スロットに関しても黙る予定だ。スキル合成については主としての強権を振りかざす。つまり、大体は原作主人公と同じだ。俺は彼より奴隷に甘くないが。
「お。漸く見付かった」
コボルトLv7
目の前にはコボルトが二匹。レベルは階層と同じ。それが迷宮のルールとなっている。
見た目はファンタジーに出てくるゴブリンに近く、頭の少し大きい小鬼と言った感じだな。ドロップ品はコボルトソルト*1とコボルトナイフ*2の二つ。塩は最低価格の四ナール、ナイフも十ナールの価値しか無い。
「じゃ、行ってくるわ」
初手にファイヤーストームを発動。後ろでグロリアの驚く声が聞こえたが、無視してそのまま一体切り捨てる。
そして横に少しだけ動き、二体目もデュランダルの錆に変える。うーん、弱い。流石コボルトだぜ。
「ま、今見せた通り、俺は探索者のスキルと魔法使いの魔法が使える。他言無用な?」
「主様は貴族なのでしょうか?」
「いや?ただの自由民だ。いずれ貴族に成るつもりだが」
今はまだ何もかもが足りないが、個人的に最難関だと思っていた竜騎士を手に入れた以上、迷宮を進む上で問題になる事は余り無いだろう。
強いて言うなら魔法使いの確保が大変なぐらいか。こればっかりは貴族との伝や運次第なので、最初から手に入ると思ってないが。
「私は凄い御方に購入して頂いたみたいですね。これ程の装備を貸し与えて頂いた事もそうですが、コボルトとはいえ一太刀で切り捨てる方を初めて見ました」
「装備に関しては盗賊から貰ったもんだし、一太刀で切れたのはこの剣のお陰だ。だからお前が思う程、俺は凄い存在じゃないぞ」
会話してる間に魔物が湧いたので、全体魔法を叩き込んでから切り捨てに行く。先程の戦闘で多少上がったとはいえ、グロリアのレベルはまだ低い。
安全面を考慮すると、必中の全体魔法でヘイトを取るのが最善策になるのだ。贅沢な話だが。
「私も早くお役に立てる様に頑張ります」
「ま、暫くはアイテム拾いを頼む。この階層なら俺一人でも何とかなるからな」
それから暫く戦っていると、漸くグロリアの竜騎士がLv10を越えた。ついでに俺の探索者も30になった。
それを見計らったかの様に目の前にはボス部屋が。
「取り敢えず越えておくかね。お前は自分の身の安全を優先しろ。生きてさえいれば後は俺がやる」
「かしこまりました」
二人でボス部屋に入ると、煙が集って魔物が姿を現す。もちろん即座にオーバーホエルミングファイヤーストームラッシュを発動。
数分も掛からぬ内にボスのコボルトケンプファーは、ドロップ品を残して煙に変わった。
◇