勝ち組男の異世界迷宮で奴隷ハーレム   作:Lilyala

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下準備

 

 

──春の季節 十八日目・未明

 

 

 未だ眠るグロリアを起こさない様にベッドを抜け、隣の自室へと足音を立てない様に注意しながら向かう。

 

 昨日は調べる暇が無かったからな。今更金庫の鍵が見付かるとは思えないが、自分の部屋になるのだ。

 

 パン屋が開くまでの暇潰しにはなるだろう。

 

 そんな軽いノリで向かった俺を出迎えたのは、黒檀に良く似た材質の重厚な机だった。

 

 ガッチリと金具で固定されている為、どう頑張っても俺一人では動かせそうに無い。

 

 これでセンスが悪かったら世話役も破棄したのだろうが……床の木材と見事に調和している辺り、錬金術師の美的センスはそう悪いもんじゃなかったらしい。

 

 

「引き出しを調べて、何も無かったら床辺りか」

 

 

 椅子に座り、まずは天板の下にある広く浅い引き出しを開ける。特に何も無し。続いて横にある四段の引き出しを上段から開けていく。

 

 一番上の引き出しには何も無し。二段目も特に気になる点は無い。三段目、四段目と続けて開けるが、二重底の様な仕掛けは無かった。

 

 

「うーん……見当違いか?」

 

 

 錬金術師なんて職業に就いているなら、二重底の仕組みとか好きそうだと思ったんだが。

 

 軽く溜め息を吐き出し、次は床を叩いた時の反響を調べる。床下に何か隠せるスペースがあるなら返ってくる音も変わる。それを探ろうと言う訳だ。

 

 

「特に何も無し。鍵は持ち去ったっぽいな」

 

 

 努力の甲斐も空しく、何の成果も得られなかった。四つん這いで床を叩いた時間を返してほしい。

 

 諦めて椅子に座り、ダラリと机に体重を預ける。北方の土地という事もあり、未だ朝は冷えるお陰で机もひんやり冷たい。

 

 

「────そういや引き出しを引き抜いてなかったな」

 

 

 ふと思い付いたので即座に実行。一番下の引き出しを引き抜き、その奥へと視線を向けると、床と引き出しの僅かな隙間に隠れていた木箱があった。

 

 

「ウォード錠か。良い趣味してやがる」

 

 

 木箱から出てきたのは、特殊な形状の鍵*1だった。

 

 ウォード錠は鍵穴の内部に正規の鍵に合った障害が設けられている仕組みの錠前の事を指す言葉だ。

 

 現代だと力ずくで突破する方法が多いので余り信頼は無いが、鍵自体がアンティークとして魅力的な他、工作機械を使わなければ未だに突破する事が難しい為、小物入れ辺りの鍵としてなら現役だったりする。

 

 この世界の文明レベルなら、まず抉じ開ける事は不可能だろう。魔法やデュランダルなら行けると思うが、そんな力があるならこそ泥になんてならないしな。

 

 ちなみに複製は基本的に職人芸になる。現代でも合鍵を作りにくく、自分だけの唯一無二の鍵が欲しいならアンティークショップで探すのも一興だ。

 

 

「さて、お宝と御対面──っと。ま、こんなもんだよな」

 

 

 金庫は残念ながら空だった。ただ金庫として使える様になったので、アイテムボックスにある邪魔な銀貨とモンスターカード、ついでに人頭税用の金貨十一枚を詰め込んでおく。

 

 そして再び鍵を閉めて木箱に封印。奥の隙間に置き、引き出しを元に戻す。

 

 結果は残念だったが、良い暇潰しになったな。

 

 

 

 

 竜人族特有の朝の弱さに敗北したグロリアを放置して町の冒険者ギルドに飛ぶ。

 

 そのまま町へ繰り出し、パン屋へ突撃。原作でも言われていた通り、二ナールのパンはパサパサしていたので八ナールのパンを買った。二ナールのパンはスープに浸して食べる物なのだろう。

 

 ついでに一つ五ナールの卵を二つ買い、百ナールの薫製肉の塊も購入。一度家に戻って居間の机に荷物を置き、今度は戦闘装備に着替えて迷宮へ。

 

 目的はスパイススパイダーの落とす『ペッパー(胡椒)』とコボルトが落とす『コボルトソルト()』だ。

 

 ついでにコボルトケンプファーの『コボルトスクロース(砂糖)』も拾うか。大した手間じゃないし。

 

 サクサクと魔物を片付け、朝食の調味料をゲット。狩ってる内にナイーブオリーブの『オリーブオイル』も欲しくなったので、帰る前に狙いに行く。

 

 本当にこの世界は飢えとは無縁だな。常に迷宮という名の脅威に晒されているので、天国とはとても呼べないが。

 

 

「も、申し訳ありません……!」

 

 

 家に帰ると、グロリアが土下座していた。何を言ってるか分からないだろうが、俺にも分からない。

 

 取り敢えず立たせ、居間の椅子に座らせる。ついでにアイテムボックスから調味料を取り出し、昨日買っておいた入れ物に移していく。

 

 

「で、何でいきなり土下座なんてしたんだ?何か壊したか?」

 

「い、いえ。本来なら私がやるべき雑用を主様にさせてしまったので……」

 

「ああ、そういう事か」

 

 

 素焼きの陶器に塩、陶磁器に砂糖と胡椒とオリーブオイルを入れ、中で透明な膜を割る。ドロップ品がサイズの基準になっているらしく、二個で満タンになった。

 

 

「気にすんな。竜人族が朝に弱いのは知っていたし、それを知った上で俺はお前を買ったんだ」

 

「ですが……!」

 

「それより朝食作るから手伝え。火起こしは得意だろう?」

 

 

 強引に話をぶった切り、朝食作りを開始。竈の火入れをグロリアに任せ、その間に卵を溶いておく。

 

 本来なら火打石か火魔法を使う必要があるのだが、竜人族は火が吹ける。戦闘に使える程では無いが、日常で使うなら便利な特技という訳だ。

 

 鉄鍋にオリーブオイルを垂らし、軽く薫製肉を焼く。色目が付いた辺りで卵を投入し、鍋を振る。

 

 火が通った所で皿に移せば、ハムエッグの完成だ。

 

 後は適当に洗った野菜を適当に切り、オリーブオイルと塩と胡椒を雑に混ぜ合わせてドレッシング作れば──朝食の準備は完了。

 

 

「そんじゃ食うか。──頂きます」

 

 

 醤油派の俺としては忸怩たる思いだが、ハムエッグの味付けは塩と胡椒のみ。主食もパンなので適当に切れ目を入れ、ハムエッグを乗せてそのままガブリ。……うん、普通だ。

 

 昨日の残りの野菜炒めを小皿に移し、フォークで掻き込む。箸が欲しいな。後で依頼しに行くかねぇ。

 

 サラダは思ってたより旨かった。農夫の特性なのか、それともこの世界の野菜が旨いのか。

 

 どちらにせよ食事に困る事は無さそうだ。

 

 そんなこんなで朝食終了。食器を洗いに行こうとしたら慌ててグロリアが名乗りを上げたので、大人しく任せ、代わりにパピルスを取り出して手持ちの情報を纏めていく。

 

 人間の行動原理なんざ世界が変わろうとも決して変わる事は無い。それを読めば、何処に誰が居て何を望んでいるかぐらい丸裸に出来る。

 

 

(十一層がコボルトの迷宮は手持ちの情報だと四ヶ所だけ。その内、スラム街のある大きな街は二ヶ所か)

 

 

 もちろん原作のベイルの街は条件から外している。あそこはロクサーヌの為の盗賊(資金)なのだ。

 

 加賀道夫が必死に調べてくれた情報を利用している俺が手を出して良い場所じゃない。

 

 

(大きめな街と村を繋ぐ街道。ここら辺も狙い目だな)

 

 

 漫画版では街の中に居たが、Web版では街の外に拠点があった。村と村を繋ぐ道だと労力の割に稼ぎが少ないだろうし、盗賊に堕ちる様な奴等が細々とした暮らしに耐えられるとは思えない。

 

 例外はハインツの様な兇賊に昇り詰める様な奴だけだろう。というか帝都に賞金稼ぎギルドがあるのに、良くもまぁ狩られないで成り上がったもんだ。

 

 

「お茶を淹れましたのでよろしかったらどうぞ」

 

「おう、ありがとな」

 

 

 目の前に置かれた木製のカップを手に取り、一口分だけ飲み込む。……香りの違うジャスミンティー?

 

 喉ごしは水みたいだが、甘い花の香りがする。

 

 

「ん?自分の分は淹れてないのか?」

 

「私は水で十分ですので」

 

「そこらへんは気にしなくて良いぞ?むしろ分ける方が面倒だろ」

 

「ですが……」

 

「増長する様なら叱るが、たかがお茶程度で格差を付けてもな。上に行けば自然に暮らしは良くなるんだ。今の内に慣れておけ」

 

「……かしこまりました」

 

 

 奴隷として扱うが、過度に虐げる趣味も無い。日々の食事が身体を作る以上、食べた分だけ働いてくれるなら文句は無い。

 

 

「あの、主様。聞いて良いのか分かりませんが、先程から何を書いているのですか?」

 

「盗賊が居そうな場所を予想してる。二人目の奴隷を買う為の資金源にするつもりなんだ」

 

 

 商人ギルドに寄って情報が拾えるか試してみるのもアリか。冒険者ギルドに手配書があるなら、それも見ておきたい。

 

 

「情報だけでそんな事が分かるのですか?」

 

「浅い考えで盗賊に堕ちる奴は基本的に楽して生きたいってのが根底にあるからな。騎士団の目を盗み、計画的に略奪なんてまず出来ない。それを踏まえて考えれば、ある程度は絞り込めるぞ」

 

 

 町で家を借りるにもインテリジェンスカードのチェックがあるし、村はそもそも排他的な場所だ。だから必然的にスラム街か洞窟辺りが根城になる。

 

 迷宮に泊まり込みも可能性としては無くは無い。生きてる間は飲み込まれないのならば、常に一定の気温を保つ迷宮は隠れ家としてアリだしな。

 

 ただ、眠ってる間に喰われるかも知れないという恐怖に打ち勝てる盗賊は少ない気がする。

 

 そんな勇気があるなら盗賊になんてならないだろうし。

 

 

「よし、こんなもんだな。──グロリア」

 

「はい」

 

「今日から暫く午前だけ迷宮に潜り、夜は盗賊探索に充てる。その間、お前には家事と食事の準備を頼みたい」

 

「私も同行します」

 

「いや、お前は留守番だ。顔に特徴的な傷がある以上、何処から情報が漏れるか分からん。それを逆手に取られて居場所が割れたら面倒だ」

 

「ですが……!」

 

「二度は言わん」

 

 

 背が高い竜人族は隠密行動に向いていない。本人的には納得いかないだろうが、我慢してもらうしか無い。

 

 

「買い物は銅貨袋(コレ)で頼む。高い物を購入する時は事前に言ってくれ」

 

「奴隷にお金を持たせてもよろしいのですか?」

 

「この程度の端金で盗賊に堕ちる馬鹿だったら俺の見る目が無かったで終わる話だ」

 

 

 確かに三百枚近い銅貨が詰まっているが、所詮は銅貨。銀貨換算なら三枚ぐらいしか無い。

 

 これから幾らでも稼げるのに、それを棒に振る馬鹿ならそもそも仲間として危険だしな。こちらから願い下げだ。

 

 

「よし、それじゃ迷宮行くか。戸締まりよろしく。俺はその間にパピルス(これ)を仕舞ってくる」

 

「かしこまりました」

 

 

 それじゃ今日も一日頑張りますかね。

 

 

*1
キーブレードを想像すれば大体合ってる。

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