──春の季節 一日目
一ヶ月ほど時間を掛けて諸々の後始末を終え、放置していた最終警告に対して『はい』を選択。一度意識を失い、目覚めてみれば、そこはすでに見知らぬ森の中。
「取り敢えず着替えるか」
周囲に落ちている装備を鑑定頼りに拾い集め、一つずつ装備していく。当然の様に原作未登場の武具ばかりだが、デュランダルさえあれば問題無い。
『××××××××!』
着替え終えるのを待っていたかの様に森の外から悲鳴が聞こえた。残念ながらブラヒム語では無いらしく、何を叫んだのか理解出来なかった。
木々の合間を走り抜け、視界が開ける直前で立ち止まる。手短な木に身を隠して覗き込むと、前方に何やら争うエルフの集団が。
取り敢えず、安定の初手鑑定。
ハインツ ♂ 年齢xx歳
兇賊Lv20
装備 鋼鉄の剣 硬革の帽子 硬革の鎧 硬革のグローブ 硬革の靴
「……マジか」
兇賊のハインツは原作に登場した盗賊の一人だ。
コイツは色々あって最終的に主人公達のパーティーと戦い、敗北する所謂〝やられ役〟なのだが、そのお陰で最後の奴隷へと繋がる重要なポジションに居るキャラクターだったりもする。
つまり、ここで殺すと原作から
こんなにも早く選択を迫られるとは……異世界転移も楽じゃない。
(……見逃すか?)
いや、次にいつ盗賊の一団と出会えるか分からないのだ。それまで迷宮に入れない事は単純にデメリットだし、俺の
だからと言ってハインツを殺す事はもっと有り得ない。主人公の下に集うべき仲間は彼女達以外考えられないのだから。
悩んでいる間にも村人と思われるエルフが次々と殺されていく。村人達も必死に抵抗しているが、相手は原作で騎士団を皆殺しにした盗賊なのだ。
村人が相手になる様な存在では──
(待てよ?ハインツとシモン以外は殺しても問題無いんじゃないか?)
ハインツ一味として原作に登場した盗賊の数は十人。目の前の盗賊団は三十人以上。最高で二十人までは処理しても問題無い。
それだけ殺せば、あちらが逃げる事もあるだろう。都合の良い事に襲撃している集団の一番後ろに居るんだ。逃げる時は最初だと思う。
「そうと決まれば動きますかね」
心の中で三つ数を数える。何時だって一歩踏み出す時に数えていた数字だ。その結果、死んだとしても──悔いは無い。
「XXXXXX!?」
「ふっ!」
デュランダルを振るい、一番近くに居た盗賊を二つに分ける。興奮しているのか他の盗賊達は未だに気付いていない。
続いて二人目、三人目と切り捨てていると、村人に襲い掛かっていた集団がこちらに気付き、駆け出してきた。
とはいえこちらはBPボーナス防具一式にデュランダルを持つ転移者だ。皮装備の盗賊を恐れる理由も無く、剣を振り上げた隙に四人目を切り捨て、その遺体を蹴り飛ばして後続の足を止めてから五人目、六人目を切り捨てる。
「XXXXXX!」
『『『XXXXXX!!』』』
ハインツの隣に居る狼人族の男がこちらに剣を向け、部下を怒鳴り付けた。そのお陰で残る盗賊達がこちらへ殺到する。
たぶん、あの男がシモンなのだろう。原作に登場している以上、俺が殺す訳には行かないか。……まぁ、見逃してもいずれ主人公に爆殺される運命なのだが。
身を翻し、森へ逃げ込む。
一対多の基本は分断だ。こちらにはスキル持ちの足装備もある。逃げるだけなら余裕だった。
森の中に怒声が響く。こちらを探す盗賊達を一人一人丁寧に切り捨てていくと、五人目辺りで盗賊達は我が身可愛さに逃げ出し始めた。今度はこちらが追い掛ける番か。鬼ごっこは得意だぞ?
原作では余り注目されていなかった『移動力増強』のスキルは素晴らしく、そう苦も無く追い付き、また一人切り捨てていく。
そのまま次々と盗賊を打ち取っていると、急に視界が開けた。
飛び出す形で森の外へ出た俺の目に飛び込んできたのは──先程までとは違った光景だった。
なんと騎士団が村人を守る様に立ち塞がり、ハインツ達と対峙していたのだ。
そして俺の存在に気付いたハインツが形勢不利を悟り、生き残りを連れて撤退していく。
即座に騎士団も追撃に動くが、生き残りの盗賊を恐れた村人達がそれを邪魔する。数分もしない内に俺の立つ位置と反対側の森へハインツ達が消えていった。
「何とかなるもんだな……」
二度とやりたくないが。
軽く息を吐き出し、呼吸を整える。これから森に戻り、盗賊達の装備と左腕を切り落とす作業をしなければならない。だがその前に『ジョブ設定』と念じ、設定画面を開く。
英雄Lv1
効果 HP中上昇 MP中上昇 腕力中上昇
体力中上昇 知力中上昇 精神中上昇
器用中上昇 敏捷中上昇
スキル オーバーホエルミング
望んでいた物は確かに手に入れた。この事を思えば──いや、やっぱり二度とやりたくない。
◇
「救援、感謝致します!」
刈り取った盗賊達の遺品を集め終えて森から出ると、若い騎士が待っていた。この世界のエルフにしては珍しく、人間に対して侮蔑の感情が無いらしい。
「そちらこそお疲れ様。賊を逃がしたのは残念だったな。村人が居なきゃ打ち取れたかも知れなかったのに」
「彼らを守るのも自分達の役目ですから。ところで、これからお時間を頂いても大丈夫でしょうか?隊長から貴方を招待する様に言われてるんです」
「あー……それなら装備運ぶの手伝ってくれないか?見ての通り、狩り過ぎて一人じゃ運べないんだわ」
「『アイテムボックス』は使わないのですか?」
「これから『探索者』になる予定で『剣士』ギルドを抜けたばかりでな。まだ『村人』なんだ」
嘘だが。
「成る程。事情は分かりました。それなら先に隊長のもとへご案内した後、私達で運んでおきます」
「助かる」
会話してる間にも時間が経過したらしく、盗賊の左腕から『インテリジェンスカード』が出てきた。それを適当に回収し、残る腕を森に投げ捨てる。
その後すぐに若い騎士に連れられ、騎士団の集まる場所へ向かうと、共に居た村人から侮蔑の視線が。
その視線を遮る様に一団の長が俺の前に立ち、軽く頭を下げた。
「救援、感謝する」
「気にすんな。ここまで連れてきてくれた『冒険者』がさっさと逃げ出したんで、仕方なく降り掛かる火の粉を払っただけさ」
嘘だが。
「それでも貴殿の活躍のお陰で我々は間に合ったのだ。あの盗賊は領内を荒らす〝札付き〟でな。我々も何とかしようと頑張ってはいるのだが……」
「守護対象に邪魔されたら上手く行くもんも行かないか」
「仕方ないと頭では理解しているのだがね。彼らは戦う者では無いのだから、盗賊を恐れるのは当然の感情だ」
「そうかい。板挟みは辛いな」
上司には何とかしろと怒鳴られ、守るべき領民にも何とかしろと怒鳴られる。
何処の世界も中間管理職は世知辛い。
「隊長。纏め終わりました」
「うむ、ご苦労。貴殿が倒したと思われる盗賊の遺品とインテリジェンスカードを集めておいた。確認して貰えるか?」
「それは良いんだが……後ろの奴等はどうした?」
村人が憎々しげにこちらを睨んでるんだが。
「彼らが言うには盗賊は彼らが全員倒したそうだ。盗賊に襲われ、それなりに被害が出てしまった以上、これから入り用になる。故に金に目が眩む気持ちも分からんではないが……誇り高きエルフなのに情けない」
「隊長さんは信じていないのか」
「村人達に皮の鎧ごと断ち切る腕は無いし、首だけを狙える技量も無い。そんな実力があるなら我々がスカウトしているさ」
「確かに」
一太刀で仕留めた事が証明に繋がるとは……何が役に立つか分からんものだ。
「一応、貴殿が望めば我が主に繋ぐがどうする?」
「堅苦しいのは苦手だから遠慮する。それより要らない装備の運搬と換金、ついでに街まで送ってくれると嬉しい」
「了解した。部下を付けよう。それでは失礼する」
軽く会釈して後始末へ向かう隊長を見送り、今の内に装備を鑑定しておく。鉄の剣と硬革装備が
スロット付きを回収しないとな。