「金貨五十五枚か。結構行ったな」
「こんな大金、初めて見ました」
居間の机の上に積み上げられている金貨を見て、グロリアが畏れを含む表情でポツリと呟く。
金貨の隣に積み上げられた銀貨の山を合わせれば、目標だった六十万ナールには間違いなく届いているだろう。これでドワーフを購入する事は出来る。肝心の商品が見当たらないが。
「取り敢えず、先に装備の更新だ」
貨幣を雑にアイテムボックスへ流し込み、代わりに取り出したのは竜革のグローブと靴だ。どちらもスロットが無いので、いずれ売り払われる繋ぎ装備にしかならないのが難点か。
「盗賊の着けてた装備だから一度手入れを頼む。アイツらが手入れするとは思えん」
「かしこまりました。お風呂場をお借りしますね」
装備と手入れ用の布、そしてコイチの実を持って風呂場へ消えるグロリアを見送り、再びアイテムボックスの整理に戻る。
銅の剣や鉄の剣は売った。皮装備も売った。手元に残したのは硬革装備一式と兇賊の持っていたレイピア、そして
「せめて鉄なら……毒の銅の剣とかどうしろと」
たぶん上位は猛毒だと思う*1ので、たまたま手持ちのアリのカードを突っ込んだだけな気がする。
一応、暗殺者を取る為の条件を満たせるので、そこまで悪い武器では無い。無いんだが……必要かと問われたら要らないと答える。
「売るか」
帝都に行くついでにオークションに流そう。暗殺者ギルドがあるならあそこだろうし、買ってくれるだろ。たぶん。
兇賊の寝台の側に置かれていたレイピアは中々良い物だった。スキルスロットが二つ空いているので、スキルを付けて売り払う土台にはなる。
問題はドワーフが見付からないって事だが。
(可能性があるとしたら帝都だが、原作に登場したベイルの
登場時点で奴隷商人Lv44だったというのもあるが、ミリアを手に入れる一連の物語の中で、帝都の奴隷商人を小僧扱いしてそうな貫禄があった。仕入れルートも狼人族が暮らすとされる東部まで手が伸びていたし、期待は出来ると思う。
ロクサーヌを育て上げた手腕もある。一度、顔を繋ぐのも悪くないとは思うんだが……
「これが原因で主人公が来なくなるのが一番困るんだよな」
ロクサーヌを買う資金が集まらない程度の問題だったら予め話を通して安く売らせる事も出来る。
ルティナのフラグが潰れてるならゴスラーと繋げば良い。だがそもそもこの世界に来なかった場合、何もかもが御破算になる。
すでにハインツと殺り合った改変要素もあるのだ。これ以上の原作介入は出来るだけ避けたいのが本音だ。
(とは言ったものの、ドワーフが手に入らないと俺が帝国解放会に誘われないってオチもあるから悩ましい)
スキル付きの装備はそれぐらい重要だ。特に石化武器と詠唱中断、身代わりとひもろぎは必須だろう。
最悪、石化武器は無くても良いが、他は迷宮に潜るなら必須装備だ。敵のスキルを止められない時の被害を考えれば、詠唱中断は前衛全員の武器に付けたいぐらいだし。
「……他国と断言されてるペルマスク近辺から探して、それでも見付からなかった時だけ向かう。これが妥協出来るギリギリか」
願わくは、早めに見付かってくれると助かるんだが。
◇
手入れを終えたグロリアと昼飯を適当に作り、そのまま二人で食卓を囲む。
原作の様に一日三食と行きたいところだが、正直作るのが面倒なんだよな。金に余裕があったら雑事を任せられる奴隷が欲しい。
食後に軽く休憩したら、二人でドワーフを探す旅に出る。
ベイルの東にあるドホナを出発点にして、そのさらに東にあるシュポワールに飛ぶ。さらにドブロー、サボージャと進んだ後、一度迷宮で補給を挟み、アイエナへ。最後にザビルに飛べば、ペルマスクはすぐそこだ。行かないが。
「まずはこの街の奴隷商人を訪ねるぞ」
「かしこまりました」
ザビルの広さはベイルと大体同じ*2だ。ペルマスクに比べれば落ち着いた雰囲気であり、個人的にはこちらの方が好みに合っている。
ただ、ほぼ街の中と言って良い場所に迷宮があるにもかかわらず、この街には迷宮関係の店が少なかったりする。
たぶん、帝国の認識としてはペルマスクとの中継地点という価値しか無いのだろう。もしくは領主である貴族の怠慢か。
そんな事を考えている内に奴隷商の店に着いた。館はベイルより小さく、下手すれば
店の前に居る護衛の男に話し掛け、主人に繋いで貰う。少しだけ待った後、再び現れた男に案内されるがままに店の中へ入ると、快活に笑う日焼けした男が出迎えてくれた。
「いらっしゃい。売りと買い、どちらで?」
「買いだ。ドワーフの女が欲しい。用途は迷宮奴隷と性奴隷の予定だが、性奴隷の方なら無理でも構わん」
グロリアが居るから問題無いしな。色魔は取れないが、無くても何とかなるジョブだし。
「成る程。後ろの姉ちゃんは竜人族みたいだし、懐の心配はしなくても大丈夫か?」
「流石に白金貨は無いがな」
「ハッハッハ!そんな高級奴隷うちには置いてねぇよ!」
バンバン俺の背中を叩き、楽しそうに笑う姿に元の世界のアメリカみを感じる。というかザビルの人間は日に焼けた奴が多いから、何処か南国の雰囲気があるんだよな。若干暑いし。
「さて、まずは先に言っておくぜ。お望みのドワーフはうちにも居る。胸も大きい可愛い子ちゃんがな」
「ほう。そりゃ良い──」
「
気の良いオジサンの声色が完全に消え、冷酷な商人の声が商館に響く。表情は真剣そのもの。嘘でも脅しでも無さそうか。
「どんな厄ネタなんだ?」
「ペルマスクより東へ向かうとカッシームって所があるんだが、そのさらに先の国でお家騒動が起こってな。そこに仕えていた奴隷なんだ」
「成る程。だが距離を考えれば心配する必要は無いんじゃないか?帝国にとってはカッシームすら遠い国だぞ?それに言っちゃなんだが奴隷は奴隷。国を跨いでまで取り返しに来るか?」
「俺もそう思ったからカッシームの知り合いから引き取ったんだ。が、厄介な事に
「そら大変だな」
旗印があるなら迷宮を解放せずとも貴族になれる。その甘い言葉に乗せられたのか、乗ったのか。
俺としてはその後どうするんだと言いたいが、そこまで頭が回る奴ならそもそも反乱なんてしないだろう。
何せ迷宮攻略するだけで貴族になれる世界だ。実力があるなら大人しく攻略すれば良い。その方が資金的にも戦力的にも国からの覚え的にも数百倍マシだろうに。
「で、どうする?興味あるなら連れてくるが」
「いらんいらん。主より元主に従う奴に大金は積めん」
「だよなぁ」
分かってる事だろうに。せめてセットじゃないなら買ったんだけどな。
「残念ながらうちの店に他のドワーフは居ねぇし、今回はお互いに縁が無かったっつー事で終わりだな」
「まぁ、仕方ない。ところで在庫抱えてそうな所を知ってたりするか?謝礼は出すぞ?」
「ドワーフは本気で迷宮攻略を狙う奴等に人気だからなぁ。残念ながら心当たりは無い。が、紹介状は書いてやろう。ペルマスク周辺には顔が利くんだ」
「助かる」
さらさらと近くの紙に羽根ペンを滑らせ、封筒に仕舞って手渡して来た男の右手に銀貨を五枚乗せる。
高すぎず、安すぎず。冒険者のフィールドウォークの値段と同じ額にしたが、あちらも満足してくれたらしい。
「まいど。何かありゃまた来い。見ての通りこの街は迷宮攻略に力を入れてないが、他の国に近いからな。面白い奴隷が流れてきたりするんだ」
「そりゃ楽しみだ。四人目を探す時にでもまた来るぜ」
「おう。またな」
軽く握手を交わし、店を出る。さて、次の街を目指すかね。