ワープで複数の迷宮を経由し、自宅に帰還。俺の事を探索者だと思っていたメローが終始疑問符を浮かべていたのは御愛嬌。
ただ素直に疑問を口にしないだけの思慮深さは個人的に加点ポイントだ。
キャラクター再設定をフルに活用する俺には秘密にしたい事が多すぎる。
「先に言っておく。色々聞きたい事はあるだろうが、その全てに答えるつもりは無い」
「畏まりました」
居間で簡単な自己紹介を終えた後にそう告げると、メローはコクリと一度頷き、そのまま背筋を伸ばして次の言葉を待つ。……随分、物分かりが良いな。
「末席とはいえ貴族でしたから。秘するべき知識がある事は理解しております」
「そうか」
本当に良い買い物だったかも知れん。俺の気持ちを察してすぐに言葉を紡げる聡明さもあるし、座り方一つ見ても正しい教育を受けてきた人間特有の気品が見える。
心配なのは幼少期の病弱だが……こちらは俺の方で見極めるしか無いか。
「そんなに緊張しなくても大丈夫ですよ、メローさん。主様が他言無用と仰られた知識を秘すれば良いだけです。それさえ守れば、貴女は
「……そんなに分かりやすかったでしょうか?」
「私はこの通り、片目が見えませんから。人より多く把握出来ないと駄目だったんです」
お盆に乗せた御茶を各自の前に置きつつ、何でも無い様にグロリアがそう口にした。……いや、ちょっと待て。
「メローが緊張していたというのは俺も察していたが、傍から見ても気付けないレベルの仮面を被っていたんだぞ?何でお前はそれに気付いた?」
「……?気配で分かりますよ?」
まさかのファンタジー的察知能力。いや、これはギリギリ地球でも出来るか?
お前にも分かるのかという意味も込めてメローを見ると、ブンブンと分かりやすく首を横に振った。可笑しいのはグロリアの方か。
「グロリア。それが出来る事は他言無用な?」
「はい……?分かりました?」
コテリと首を傾げながら返事するグロリアの姿は可愛らしい。だがその能力は真偽判定出来ると言ってる様なモノ。
この貴族社会でそれを望む者がどれだけ居ると思ってるのやら。俺と同じ想像に至ったメローなんて顔を青くしているぞ。
とはいえ何時までもこうしている訳にはいかないので一度手を叩き、二人の視線を集める。
「取り敢えず、この話はここまでだ。二人は夕飯の支度を頼む。俺は自室に居るから出来たら呼んでくれ」
「「かしこまりました」」
グロリアの腕は確認済みだし、メローが戦力外でも最低限食べられる物が出てくる筈。
まぁ、カロリーバーと栄養ドリンクで過ごす日もあった地球時代に比べれば、どんな食べ物でもマシなんだが。
スポンサーへの顔出しを兼ねた会食は会話ばかりで食べてる余裕なんて無かったし、現役時代は美食を食いに行く時間すら研究に注ぎ込んでいた。その結果が人類史上、最も人間を殺した科学者だなんて世の中は本当に優しくない。
◇
自室に戻って始めに行なったのは、金庫を開いてカードを取り出す作業だ。とはいえ鍵を探す時間があった前回とは違い、そこまで時間の掛かる作業でも無い。
牛1枚 豚1枚 ウサギ1枚 羊1枚
取り出したカードを一旦机の上に置き、金庫を閉める前に
「さて、選択肢は色々あるが……どうするのが一番良いのやら」
机の上に並べたモンスターカードを眺め、組み合わせを考える。
単純に戦力の事を考えるならば、スタッフを買ってきて『ひもろぎ*1のスタッフ』が安定だ。
回復の為にデュランダルを取り出す手間こそ掛かるが、経験値系ボーナススキルをフルで割り振れるのはデカイ。
レベルが高くなれば補正も大きくなるし、命の危険からは遠ざかる。俺の死が奴隷二人の死にも繋がる以上、安全策を取るのは決して悪い事では無い──
「ん?」
いや、羊は睡眠でヤギが知力二倍だったか?勘違いしてたな。
となると『ひもろぎのスタッフ』を作る為にはヤギのカードを仕入れる必要があるのか。
オークションに通うか?ドロップするまで狩るパターンと、どちらの方が効率良いのか分からんが。
「……一旦、白紙に戻すか」
最初の案を脳内で破棄し、次の案を考える。
つぼ式はHP
オリハルコンの剣が手に入るなら迷わずグロリアの為に使ったが、現状で手に入る可能性があるのはダマスカス鋼まで。
メローを安く買えたお陰で懐に余裕はあるが、いずれ装備更新を行う事を考えると複数スキルは勿体無い気もする。
「ウサギを使う事は確定。やっぱり武器を買ってくる必要があるな」
前衛に詠唱中断は必須だ。魔法を止める為にも使うし、こればっかりは勿体無いなんて言ってられない。
いずれ売ることを考えると、ダマスカス鋼の剣辺りが欲しい。金貨十枚は行かないだろうし、スタッフとセットで買ってくるか。
「んー……豚は要調査。牛は俺の足に使うとして、残りはコボルト待ちになるか」
原作を読んでいると、コボルト抜きでカードを使う気は起きない。皮や硬革程度にスキルを入れる事も有り得ない。
最低で竜革、ダマスカス鋼クラスの装備。売る時の事を考えれば、こうなるのは必然だ。
「原作主人公が開拓してくれた知識様々だ──お?」
扉を軽く叩かれた音に視線を上げると、向こう側からグロリアの声が聞こえた。
「主様。夕飯の支度が整いましたよ」
「分かった。すぐ行く」
机に並べたモンスターカードをアイテムボックスに仕舞い、最後に仕舞い忘れを確認。……大丈夫だな。
部屋の前で待っていたグロリアを連れて一階に降りると、東欧の香りが鼻を刺激した。
「ボルシチか。確かドワーフの得意料理だったか?」
「はい。ボルシチは家庭によって味や具材の変わる料理なので、今日は基本とされる物だけで作ってみました。御主人様のお口に合うと良いのですが」
「味見をしたなら大丈夫だろ」
机の上に置かれた鍋からボルシチを皿に移す。まずは俺、次にグロリア、最後にメロー。さらに今朝買ってきたパンを人数分に切り分け、同じ順番で置いていく。
ポイントは俺の量を少し多め、少し大きめにする事だ。奴隷より少ないのは駄目らしい。
「あの、グロリア様。私も食べて良いのでしょうか?」
「主様は日々の食事が身体を作ると仰せです。醜く肥え太るのは論外ですが、体調管理も奴隷の仕事ですよ」
「な、成る程……。素晴らしいお考えです」
「それにしっかり食べないと迷宮で戦えませんし、夜の御勤めにも支障が出ますから」
「よ、夜の御勤め……」
チラリとこちらを見たが、無視して両手を合わせ、食事を開始。取り敢えずスプーンで掬い、口に運ぶと、口内を通して土臭い香りが広がった。……これ、ビーツっぽい野菜の湯戻しやってないな。
食材は見事だが、どうやら調理技術は未熟らしい。手間隙掛けるのは貴族だけで、庶民は食べられるなら何でも良い感じなのかね?
「ど、どうでしょうか?」
「料理は奴隷になってから習った感じか?」
「……はい。元の家の味を目指しているのですが、中々あの味は出せなくて」
「貴族が手間暇掛ける部分が抜けてるからな。グロリアが普通に食べてるところを見るに、一般的な味なんだろうが」
「……?美味しいですよ?」
モグモグ食べ進めるグロリアの手は止まらない。別にガツガツ食べている訳では無いし、作法から逸れている訳でも無い。
ただ単純に幸せそうに食べるので、こちらも釣られて頬が緩むのだ。
「俺の知ってる限りの調理法は明日にでも教えてやるよ。取り敢えず、今は食べるぞ」
「はい」
それから三十分ほど掛けて食事を終え、少しだけ御茶を楽しんだ後に温泉へ向かう。
最初に自分の髪を洗い、続いて二人の髪。
そろそろ石鹸を作るべきか。確か原作だとコイチの実と
グロリアの大山脈に比べれば小さいが、それでも足元が見えないぐらい大きいメローの双子山を攻略する為の下準備に移る。
まずはグロリアの全身を隈無く洗い、次にメローの全身を洗濯。毎日温泉に浸かっていたグロリアに比べると多少汚れていたが、それも今日までの命。
むしろ隈無く洗う理由付けになるしな。楽しまねば損だろう。
身体を洗い終えたら、ついにお楽しみの時間。
ここから先は──
◇