俺はこの世界で本気で貴族を目指している。この言葉に嘘は無いし、その為に毎日全力を尽くしている。
──だから盗賊狩りは義務だ。
原作でもハルツ公爵を煩わせていたのだ。俺が貴族となった後でも間違いなく何処からともなく現れ、俺が手に入れた領地を荒らすだろう。
──だから盗賊相手に慈悲は必要無い。
恨むなら、盗賊になった愚かな自分を恨め。俺は──
「お前らが金貨にしか見えない」
キャラクター再設定を弄り、戦闘に極振りする。遊び人の魔法すらブリーズウォールに変えた。
ブリーズウォールにしたのは装備品を回収する為だ。ファイヤーウォールだと燃やしそうだしな。
準備を終えたら探索者達が逃げてきた方角へ走る。幸いな事にすぐ近くだった様で、曲がり角を二回ほど曲がれば、
「×××××!」
「×××××?」
盗賊達が俺の方を指差し、にやけた笑みを浮かべる。それを無視して狼人族の女性へパーティー編成を飛ばすと、すぐに反応があったので全体回復を使う。さらにワープを開き、背後から探索者の首を刎ねる。
「×××××!?」
「×××××!」
俺を見失っている隙にオーバーホエルミングを発動。さらに追加で二人の首を刎ねる。
「×××!××××!!」
「×××!××××××××!」
唾を飛ばしながら盗賊の一人がこちらに切りかかる。それをブリーズウォールで吹き飛ばし、さらにもう一人に向けてブリーズボールを放つ。
風魔法の良いところは視界を遮らない事だ。
だから興奮した頭では何が起きたか分からないし、気付けない。その隙にクールタイムを終えたオーバーホエルミングを再発動して距離を詰め、そのまま二人ほど切り捨てる。
これで七人。残るは三人。
「おい、盗賊ども。武器を捨てれば楽に殺してやるぞ?歯向かうなら惨たらしく殺してやる。好きな方を選べ」
「×××××!」
「××××──」
言葉が通じなくとも侮蔑の視線は通じるらしい。盗賊の一人が仲間の制止を振り切り、こちらへ走ってくる。
もちろん俺の次の手は────これだ。
「ブリーズウォール」
目の前に発生した風の壁に吹き飛ばされ、仲間の下へ戻る盗賊。残る盗賊達の視線がそちらへ向いた瞬間を縫う様にワープを使い、背後から奇襲を仕掛け、首を刎ねる。
これで残りは二人。
もちろんここで使うのはオーバーホエルミングだ。遅くなった時間の中を駆け抜け、残る二人を纏めて切り捨て戦闘終了。お疲れさまでしたっと。
「あ、あの……」
「ん?」
盗賊から左手と装備を剥いでいると、逃げ出した探索者パーティーの最後の一人だと思われる狼人族の女性が声を掛けてきた。
「どうした?」
「えっと、まずは助けて頂き有難うございます」
「おう。生き残れて良かったな」
鑑定しながら剥ぎ取っているが、さっきから皮装備と銅の剣しか見付からない。一番金になりそうなのが青魔結晶な辺り、盗賊としては底辺だったらしい。
こりゃ懸賞金は期待出来んか。湿気てやがる。
「そ、それで……なんですけど。助けて頂いた身でさらに御願いするのは心苦しいのですけど……どうか私を奴隷商人の下へ連れていってもらえないでしょうか?」
「んあ?なんで奴隷商?」
「私、奴隷なんです」
御主人様は逃げてしまいましたが、と俯いたまま告げる狼人族の女性を眺めつつ首を捻る。
……この場合、どうなるんだ?
原作で奴隷について語られていたのは確かロクサーヌを身請けした時だった筈だ。
その内容は奴隷の衣食住の保証、税金を支払う義務、そして──著しく奴隷を不当に扱った時に契約破棄される可能性についての忠告。
今回の場合、奴隷を殿として残して逃げ出した行為が三番目に該当する可能性は十分にある。……が、そもそもその場合、奴隷は死亡するのが普通だ。
「あの……?」
「ちょっと待て。一旦、入り口まで戻るぞ」
盗賊の戦利品をアイテムボックスに流し込み、ついでに腕を盗賊の着ていた服に包む。──そして。
──入り組み惑う迷宮の、勇士導く糸玉の、ダンジョンウォーク
何気に初めて使うダンジョンウォークを使い、迷宮の外へ出た。
「おう、兄ちゃん。良かった、無事だったか。ついさっき餓鬼共が慌てて逃げてきてな。どうやら盗賊が現れたらしい──後ろの女は?」
「その盗賊相手に殿に使われた奴隷だ」
「おう、そりゃ
ホントにな。
「ところでこの場合どうなるか分かるか?」
「すまん。俺には分からねぇ。というかその場合、大体死んでるだろ」
「だよな」
さて、どうするかね?
俺一人ならワープ使って帰宅出来るが、奴隷の前でダンジョンウォークを使った以上、ワープで帰宅する事は不可能。
こりゃ大人しく冒険者ギルドに行って、何処かの街の奴隷商の下へ行くしか無いか?
「おい見ろよッ!
「マジかよ!こりゃラッキーだな!」
悩んでいると前方から五人組の男が現れた。鑑定結果はLv12から13の探索者、剣士、戦士、僧侶、僧侶。
全員普人族だ。まぁ、狼人族の女を買うならそうなるか。
「兄ちゃんが助けてくれたのか?ありがとなっ!」
「三十万ナールもしたからな!生きてて良かったぜ!」
「ホントにな!」
「また好きに女を抱けない生活になるところだったぜ!本当に助かった!」
生存を喜ぶ五人とは対照的に、狼人族の女性は俯いて唇を噛み締めている。
これが普通なのかと狼人族の探索者に視線を向けると、肩を竦めて首を横に振る。
なるほど。これが一般的な奴隷の扱いか。
今まで知らなかった〝普通〟に感心していると、場に新たな乱入者が現れる。全身に金属製の鎧を身に付け、腰に剣を差した獣耳の騎士だ。
「盗賊が現れたと報告を受けたのだが……これは一体、どういう状況だ?」
視線で狼人族の探索者に説明役を譲る。こういう時は第三者の発言が大切だしな。
「まず、そこの餓鬼共は奴隷を殿にして逃げてきた探索者だ。で、俺はその報告を聞いてアンタたち騎士団に連絡を入れた」
「うむ。そこまでは分かる」
「その少し後にこの普人族の兄ちゃんが奴隷を連れて出てきて、餓鬼共が死ぬ筈だった奴隷の生存を喜んでる場面だ」
「…………ちょっと待て」
意味分からんよな。当事者なのに俺もよく分からん。
「よし、まずは貴殿に尋ねたい。盗賊はどうした?」
手に持っていた包みを地面に投げ捨てると、緩く結んでいたシャツがほどけ、盗賊達の左手首が飛び出す。
「あの場に居た十人は狩ったが、それ以上居たなら知らん」
「確認しなかったのか?」
「要救助者が居たからな」
「なるほど」
狼人族の騎士はチラリと一度だけ奴隷を見た後、すぐに部下に盗賊のインテリジェンスカードを確認させた。
「盗賊が九枚、探索者一枚で間違いありません」
「うむ、よろしい。……一応、職務として聞いておく。この探索者は盗賊の一味だったのか?」
「知らん。そこの女を犯そうとしたから纏めて切り捨てただけだ」
「まぁ、そうだろうな。私でも貴殿と同じ判断を下す。──さて、この者の言葉に相違は無いか?」
「あ、ありません」
「……うむ。結構」
ここまでは起こった事実を語っただけ。問題なのはここからだ。
「さて。我々は騎士として活動する中で、今回の様なケースに遭遇する事が稀にある。だから結論から先に言おう。──たぶんだが
「なっ!?ふざけんなッ!コイツは俺たちの奴隷だぞ!?」
「そうだっ!それが何でソイツの物になってんだよ!!」
「────黙れ」
深く、重く、短い言葉。それは頭に血が上った探索者達を冷やすには十分で、一瞬にして場が静まり返る。
「奴隷契約を結んだ時、奴隷商人から説明を受けた筈だ。不当な扱いをした場合、奴隷契約が解除される可能性があると」
「そ、それは……」
「彼女を
その言葉に反射的に言葉を返そうとするが、何も思い付かないらしく口をパクパクさせたまま黙り込む。
このままだと知りたい事が聞けないので、仕方なく話に割り込んだ。
「彼らが奴隷の主としての資格を剥奪されたのは分かった。だが何で俺の方に契約が来る?普通なら逃亡奴隷扱いか、自由民になるんじゃないのか?」
「我々も詳しい事は知らないが、お偉い学者先生の話では奴隷契約の切れた奴隷は
大抵は主と共に死んで死体となるか、新たな主を得られず、そのまま野垂れ死ぬ。もしくは盗賊の仲間入りする事の方が多いが。と言葉を締める騎士。……なるほど。今回の件が特殊なケースなのか。
通常は非道な扱いを受けている奴隷を見かねて保護する者が居り、その時に契約が切れて所有権が移動する。
もしくは非道な扱いを受けた時点で契約が破棄され、保護者が現れた時点で所有権が移動する。
奴隷を殿にして所有者が逃げる事は、別に
どちらが生き残る方が正しいかなんて子供でも分かる。
ただ今回は
「カードの確認をしてもらって良いか?俺じゃなくてそっちの元所有者のだが」
「ふむ。その心は?」
「言われただけでは納得出来ずとも、インテリジェンスカードを見れば納得するしか無いだろ?」
この世界で個人の名前や立場を証明する唯一の物であり、奴隷の所有情報を明記しているただ一つの存在。
「うむ。心得た」
騎士が呪文を唱え、所有者となっていた男の左手からインテリジェンスカードが飛び出る。
そのすぐ後に崩れ落ちた姿を見れば、所有権を失っていた事は間違いない様だ。
「そ、そんな……高かったのに……」
「一応、忠告しておこう。決闘は自由民の権利だが、彼は盗賊十人を一人で狩れる猛者だ。それを理解して尚、彼に挑むというなら立ち会い人を務めるが?」
「…………いや、良い。せっかく拾った命を無駄にしたくない」
仲間と共にトボトボとこの場を去る探索者達。完全に彼らの姿が見えなくなるまで見送ると、獣人族の騎士がこちらを向いた。
「さて。一応、貴殿には説明しておこう」
「うん?」
「保護した奴隷の扱いは基本的に所有者の自由だ。騎士団ではそのまま奴隷商へ引き渡すが、貴殿がそのまま所有しても法的には何の問題も無い。……願わくは、同族が幸せになる選択をしてほしいが」
「それは俺じゃなくてコイツ次第だ」
「確かに。ところで
「頼めるか?」
「了解した。それでは一度、部下をパーティーに誘ってくれ。フィールドウォークで詰め所まで運ぼう」
「助かる。……世話になったな」
「俺は騎士団を呼んだだけさ」
狼人族の探索者にお礼を伝えれば、そんな言葉が返ってきた。
これで思い残す事は無い。呪文を唱えて騎士団の冒険者をパーティー編成で組み込み、黒い渦を抜ける。
その後は特に語る事も無く、普通に詰め所に行って換金を終え、自宅に帰った。
臨時収入に加えて新たな奴隷ゲット。予期せぬところで嬉しい悩みが増えたな。また頭を悩ませる日々の始まりだ。