──春の季節 二十五日目
「それじゃ行ってくる」
『『『行ってらっしゃいませ』』』
三人に見送られ、帝都に飛ぶ。目指すは商人ギルドだ。
「いらっしゃいませ。どの様な御用件でしょうか?」
「オークションに参加したい」
「それではあちらの列へどうぞ」
促されるままそちらへ視線を向けると、先日は空だった受付に人が立っていた。どうやらあそこがオークションの受付らしい。
案内された列の最後尾に並ぶ。長さ的に十分ぐらい掛かりそうか。
少し遠いが受付に渡している銀貨の数を数え、アイテムボックスから取り出しておく。十枚、千ナール。冷やかしが参加しない様にする為の対策で、確か競りに参加すると戻ってくる仕組みだった筈だ。
「本日の目玉は杖らしいですよ。何でもひもろぎのウッドステッキが出品されるとか」
「おお!それは貴重な品ですな!魔法使いの奴隷を御持ちの方には喉から手が出る程の逸品でしょう」
「ええ、まさしくその通りです。ですが、今の我々には縁の無い話ですな」
「そうですなぁ。いつか魔法使いを手に入れたいものです」
目玉は要らんな。俺にとってはゴミだ。
「他にもあのドワーフの聖地、パラーから取り寄せたダマスカス装備やオリハルコンの剣も出品されるみたいですね」
「なんと!?あそこまで飛べる冒険者が居たのですか!」
「いえいえ。無数の冒険者を雇っての強行軍ですよ。だから値段の方は覚悟しなければなりません」
「うむむ……やはりダマスカス以上の装備を手に入れるのは苦労しますな。今日だけで一体何枚の金貨が飛ぶのやら」
「私も戦々恐々ですよ」
そういや帝都からだと二十以上の街を経由した先の街か。……貿易したいところだが種銭が足りん。最低でも白金貨は無いと、一回で稼ぐのは厳しい。
順番が回ってきたので聞き耳を立てるのを止め、千ナール支払って会場へ進む。
席は一番後ろだ。ここからでも鑑定出来るしな。
それから十分ほど黙って待っていると、舞台の上に司会者が立った。お集まりの皆様から始まるありきたりな口上を述べた後、オークションの開始を宣言する。
「厳正なる抽選の結果で決まった最初の品物は──『コウモリのカード』です!この場に居る皆さんには説明不要だと思いますが敢えて説明しましょう!単品で使えば回避力上昇、コボルトのカードとセットで使えば回避力二倍を付与出来るモンスターカードとなっております!最低入札価格は三千ナールから!それでは皆さんどうぞ──」
「三千」
司会者が言い切る前に手を上げ、最低入札価格を宣言。いきなりとは思わなかったが──譲らないぜ。
「三千百」
「三千二百」
「三千三百」
それから暫く待ち、入札が止まったところで再び動く。
「四千七百」
「四千八百」
「四千九百」
「五千」
「五千百」
動きが止まったか。相手は代理人だったのかね?
「他にいらっしゃいませんか?──居ないみたいですね。それでは五千百ナールでの落札とさせて頂きます。出品者と落札者はあちらの部屋へお願いします」
案内されるがままに部屋へ移動する。ギルド神殿のある部屋だ。
「ありがとうございます」
「こちらこそ」
「入札を続けるならお待ちしますが、どうなさいますか?」
「悪いが待ってもらっても良いか?モンスターカードが出品されるなら欲しいんだ」
「かしこまりました。それでは待機所でお待ちしております」
「すまんな」
謝罪の言葉と共に軽く頭を下げ、会場に戻る。──二連続でカードかよ。
「他にいらっしゃいませんか?」
「すまん。今の入札価格が幾らか教えてくれ」
「四千八百ナールです」
「ありがとう。四千九百」
入札しながら席に戻る荒業を駆使すると、こちらを忌々しそうに見ている商人の姿が見えた。……ふーん?
「五千五百」
「五千六百」
「……六千!」
「六千五百」
最後の入札はブラフだ。鑑定したらイモムシのカードだったし、六千五百ナールを支払ってまで欲しくない。──ただ、売られた喧嘩は買うだけだ。
「七千!」
こちらを鼻息荒く見る商人にニヤリと笑い、入札を取り止める。熱くなりすぎたな。
「他にいらっしゃいませんか?──居ないみたいですね。それでは『イモムシのカード』は七千ナールでの落札とさせて頂きます。出品者と落札者はあちらの部屋へお願いします」
唖然とした顔をこちらへ向ける商人から視線を外し、次の商品へ思いを馳せる。
四スロのエストックか五スロの聖剣でも出品されないかねぇ。五スロのオリハルコンでも良いんだが。
◇
オークションに参加して分かったのは、基本的に出品される武具は微妙だという事だ。
スキル付きは基本銅や鉄、良くて鋼鉄。ダマスカス以上は基本的にスキル無しで出品数も少ない。
何故か詠唱遅延の銅の剣六本セットだけは三セット出品されていたが。ウサギのカードで寄越せや。
俺が求めているモンスターカードは殆ど出品されないらしく、今回出品された二十の商品の内、僅か三枚だけしか出品されなかった。
モンスターは三十三種居るし、狙ったカードが得られる確率は察しろと言うしか無い。
「まずはギルド神殿で鑑定なさいますか?」
「そうだな。よろしく頼む──っと、すまん。銀貨しか手持ちに無いんだが大丈夫か?」
確か利用料金は十ナールだった筈だ。
「大丈夫ですよ。職員が両替してくれますから」
「なるほど」
ギルド神殿前で待機していた職員に銀貨を渡し、銅貨を九十枚を受け取る。そして隣に居た出品者から渡されたカードを職員が神殿に置くと、鑑定を使った時によく見る表示枠が神殿の上に表示された。
「確認した」
「では精算しましょう。オークションで落札した商品には主催したギルドから千ナールの補填が一度だけあります。その分を商品から差し引き、ついでに御客様との次回の縁に期待して、五千百ナールのところを三千五百七十ナールでどうでしょう?」
三割引やったぜ。ついでに銅貨も減ってくれた。
「ありがとう。また良いカードが手に入ったらよろしく頼む」
「はい。こちらこそ宜しくお願いします」
笑顔で握手を交わすと、出品者は時間が惜しいと言わんばかりの早さでそそくさと部屋を出て行った。そして入れ替わる様に
軽く先程の会話の焼き増しのような定型文を交えた後、さっきと同じようにギルド神殿を使って鑑定して貰う。
十一番目の出品まで粘って本当に良かった。途中で何度帰ろうと思った事やら。
残念ながら二回目は値切りが発生しなかった。それでも四千五百ナール程度だったので、一日の稼ぎで事足りた。
「ありがとう。また手に入ったらよろしく頼む」
「こちらこそありがとうございました。またよろしくお願いします」
挨拶は終えた。オークションはまだ続いているが、ギルド員からカードの出品はもう無いと聞けた。
さて、それなら愛しの我が家に帰るとしよう。ウサギのカードを手土産にな。