──春の季節 二十七日目
原作小説は十三巻*1、漫画版は十一巻*2まで出ている『
例えば、ランク2以降のドロップ。
すでにハントアントやハチノスのドロップがこの世界独自のドロップな気もするので、何を今更と思うかも知れない。
だが、大事な事だ。
ぶっちゃけるとコウモリ。コイツのドロップ品が硝酸だった場合、銀貨を溶かして硝酸銀水溶液を作り出せる。
つまり、鏡が作れる。
ヴェネチア共和国式なら銀と錫さえあれば行ける。十四世紀から作られていたし、世界観的にはこちらの可能性が高い。
まさかあそこまで念入りに情報規制を掛けているにもかかわらず、異世界から製法を持ってこられるとはペルマスクも想定外だろうな。
主人公が奴隷を揃えるまで作る気は無いが。
ビッチバタフライも少し怪しい。名前的に媚薬の原料を落としても不思議じゃないので、下手すればカカオかチョコレートを落とす可能性がある。
ストレートに媚薬だったら笑うな。色魔ギルドが買い漁りそうだ。
そんな事を考えている内に午前の部は終了。相変わらずカードのドロップは無し。稼ぎも三千ナール前後だ。
「ひもろぎが遠い」
奴隷達が昼食を作ってる間にアイテムボックスを眺め、ひとり居間で溜め息を吐き出す。
現状だとコボルトが無くて使えないカードが七枚。その内、戦闘時に移動速度が上がる牛は三枚ある。
つぼ式はHP吸収、羊は睡眠添加または睡眠耐性、コウモリは確か回避力上昇だった筈。
残る一枚の豚は──原作で情報が出てないな。
「メロー。豚のカードで何のスキルを付与出来るか知ってるか?」
「精神上昇か精神二倍ですね。主に僧侶や巫女の武器に付けられますが、状態異常耐性目当てで前衛の武器に付ける事もあると聞きます」
「精神上げると抵抗力が上がるのか?」
「はい。ただ、素直に耐性を付けた方が効果が高いらしいです。それに武器かアクセサリーにしか付けられないのであまり人気がありません」*3
「そうか。ありがとう」
防具に付けられるなら悪くないが武器のみか。俺のスタッフは二スロだし、どうするかね。
それから少しして完成した昼食をグロリア達がテーブルに並べていく。
塩と胡椒で味付けした豚肉を焼いた物に野菜のスープ、そして
良く原作の主人公は米を食わずに我慢出来たもんだ。俺はすでに禁断症状が出始めてるぞ。米食いたい。
「足りなかったら好き勝手おかわりしてくれ。──それじゃ頂きます」
『『『頂きます』』』
知らぬ間に俺の真似をして言う様になった『頂きます』の言葉。豚肉が現代と大差無い味という事も手伝って、まだ日本に居ると錯覚しそうだ。
まぁ、もし帰れたとしても帰るつもりは一切無いが。米は食いたいけどな。
◇
午後からは昨日の続きを行う。目指すは十三層。クラムシェルが湧く階層だ。
「さっき豚肉食べたからか、ピッグホッグが食材にしか見えんな」
「主様のお陰で楽に狩れるのも理由の一つだと思います」
「魔法使いは貴重ですからね」
渡されたドロップ品をアイテムボックスに突っ込みながら喋っていると、無言のまま索敵していたサギニの動きに戸惑いが生まれた。
「どうした?」
「さっきまで追えていた探索者の匂いが途切れました。勘違いでは無いと思うのですが……」
「行ってみれば分かるだろ」
という事で足早にその場所へ移動する。地図の出来は七割。そろそろ見付けても可笑しくは──っと、ボス部屋か。
「扉が閉まってますね」
「先程言っていた探索者達が入ったみたいですね」
「じゃ、休憩しておくか」
ウォーターウォールを使い、持ち込んだ水筒に汲んで水分を補給する。ついでにキャラクター再設定を弄ってデュランダルを取り出した。
「剣はグロリアが使え。鉄の剣は預かっておく」
「かしこまりました」
鉄の剣はそのままアイテムボックスへ。これもダマスカス鋼かオリハルコンに変えたいところだが……先にサギニのエストックを探すべきか悩む。
やる事一杯で楽しいなぁ!
「あ、開きました」
「……全滅したみたいですね」
開いた扉の奥にはボスの姿が見えた。ピッグホッグが小豚なら、ボスの
ハチノスほど大きくないが、あのサイズの猪に体当たりされたら交通事故みたいな光景になりそうだ。
十二層から現れる筈の雑魚はいない。そちらは倒し済みだった様だ。
「主様。どうなさいますか?」
「サギニは戦う前に遺品を端に寄せてくれ。他は何時も通りだ」
『『『かしこまりました』』』
という訳でグロリアが突っ込んで戦闘開始。
「ハァァァッ!!」
初手で何かしらのスキルを発動しようとしたビッグホッグの頭に二本の剣が叩き込まれる。
どちらも詠唱中断付きの武器だ。グロリアが近付けた以上、ビッグホッグがスキルを使える可能性はゼロになった。
だが敵も十二層のボスだ。頭を低く下げると、そのまま御自慢の牙でグロリアを
「グロリアさんッ!」
ボス部屋に響くメローの悲鳴。この場に居た誰もがグロリアが宙を舞う姿を幻視する。──だが現実は違った。
「だい……じょう……ぶ……ですッ!」
攻撃の為に下げたビッグホッグの頭に剣を叩き込み、無理矢理鍔迫り合いの状況に持ち込んだのだ。
そこへ間髪入れずにメローが槍を突き込む。さらにサギニが走っていき、反対側から切り掛かる。
「回復いるかー?」
「大丈夫です!」
デュランダルとダマスカスのHP吸収で間に合ってる感じか。それなら俺も攻撃に移るとしよう。
魔法使いのスキル枠でウォーターボールを放ち、遊び人枠でウォーターストームを放つ。
ウォーターボールの弾速は決して遅くない。何故か避ける
んー……面倒だし、ストーム連打で良いな、これ。
それからは何時も通りのパターンだ。グロリアが力でゴリ押し、二人がサポート。一度だけ振り回しによってメローとサギニが傷を負ったが、それも全体回復で即座に回復。
特に問題も無く立て直し、そのままの勢いで討伐完了。
ドロップ品は豚ロースだった。レア食材でモモ辺りが落ちそうだ。
ヒレは希少部位だし、もうワンランク上のボスだろ。たぶん。
ちなみに敗者の装備品は硬革と鉄武器だった。ワンドが一つしか無かったところを見るに、回復が追い付かなくてそのまま……と言ったところか。
「……私達も気を引き締めなければなりませんね。次にこうなるのは私達かも知れません」
「そうですね。最近は浮かれすぎでした。御主人様が叱咤するのも無理はありません」
「え、えっと、もっと頑張ります……!」
「気を引き締めてくれてなによりだ。それじゃ次の階に行くぞ」
『『『はい!』』』
最後に一度だけ振り返る。明日、ああなるのは俺達かも知れない。──だが、止まるつもりは無い。
主人公に俺の奴隷を自慢したいし、貴族にもなりたい。武具のスキル構成を考えるだけで何時間も楽しめる。
俺はこの世界を楽しむ為に来たのだ。だから怯えて立ち止まる事なんて許されないし──俺が許さない。
「主様?」
「何でも無い」
さらば。見知らぬ探索者達よ。お前らは俺の奴隷の良い教材だったぜ。