「十三層に出現するクラムシェルは一メートルサイズの二枚貝だ。主な攻撃方法は殻で挟む攻撃と水鉄砲。殻は固く、防御力に優れているが、その分中身は下の階層より柔らかい。弱点は土、火属性に耐性ありだが……俺以外には関係無い話か」
カードが余っていたとしても属性耐性を優先するのが普通だろう。俺は何時かオリハルコンの剣に全ての属性剣を付けて魔法剣!とかやってみたいが。
「ドロップは
「モンスターカードよりは見掛けますが、それでも二、三十匹に一個ぐらいしか落ちませんね。噂では料理人が居ると落ちる確率が上がるみたいですが、それでも十匹に一個らしいです」
「詳しいですね?」
「前の主の好物だったのでよく狩りに来てたんです。機嫌が良い時に貰える蛤のスープは絶品でした」
「わ、私も一度だけスープを頂きましたが、その味は今でも思い出せます」
「な、なるほど……」
元貴族のメローと二人の間に壁が見える。身を食べる側と仕える側の差とも言うべきかね。
とはいえここで時間を潰すのも勿体無いので、パンッ!と手を叩き、意識をこちらに向けさせる。
「それじゃ行くか。慣れるまで慎重にな」
『『『はい』』』
数が手に入ったら蛤のペペロンチーノでも作るかね。
◇
迷宮を探索する上で欠かせないのは地図を描く技術だ。原作だと主人公はセリーに任せていたが、その役目は俺がやっている。
とは言っても、そこまで難しい事はやってない。
パピルスに定規で線を細かく引き、十歩ごとに塗り潰してるだけだ。
イメージとしては
「敵です」
サギニの報告と共にグロリア達が走る。敵は貝、貝、貝、豚。サンドストームとアクアストームを交互に放てば良いか。
「グロリアさんッ!」
「大丈夫です」
クラムシェルの殻が開き、グロリアを挟もうとする。その動きに悲惨な未来を想像したのか、メローが悲鳴に近い声をあげた。
それに対してグロリアは冷静に左手の鉄の剣を真横に構えて防ぎ、右手のダマスカス鋼の剣を中身に突き刺す。
「さっきも言いましたが、よく狩っていたので慣れてるんですよね」
「す、凄い……」
豚の攻撃を躱しながらサギニが感嘆の声を上げる。考えてみれば、原作と違って奴隷達にも相応の経験があるのか。それがあの緩さに繋がったのかも知れん。
それからは特に語る事も無く戦闘終了。蛤は無し、カードも無し。豚バラとシェルパウダー三つをグロリア達が拾い、こちらに持ってくる──
「待った。そこに黒魔結晶が落ちてるぞ」
「えっ?……あ、本当だ」
通路の隅の方に落ちていた結晶をグロリアが拾い上げ、こちらに持ってくる。
「良く気付きましたね。私は全く気付きませんでした」
「たまたまだ」
鑑定したら枠が五つ出ただけだし。
「そういえば遺品の魔結晶はどうなさったのですか?」
「一つに纏めたぞ?──ほら」
鞄から取り出したのは
「黄魔結晶……初めて見ました」
「纏める前から黄色だったんだが白魔結晶にはならなかったわ」
「ほ、本来なら探索者として引退する時になるかどうかという品ですよ……?」
「そこは他言無用って奴だ」
最大で六十四倍に出来るが、予想外の場所でサギニを手に入れたからなぁ……。今は奴隷を優先するより装備を優先したいし、日々の稼ぎも上がっている。
だから無理をしてまで白魔結晶にする理由が無いんだよな。
「……えっ」
「どうした?」
「えっと、私達以外の匂いが途切れたので、たぶんボス部屋です」
「早いですね」
「まぁ、そんな日もあるだろう」
この階層ではあまり戦っていないが、属性的には上の階層の方が戦いやすい。
レベル上げ目的なら弱点属性が揃う十五層が最高だ。サンドストームを脳死連打するだけで終わる。
「主様。どうなさいますか?」
「行くぞ。何時でも戻ってこれるしな」
という訳で、サギニに先導を任せてボス部屋へ向かう。俺達の前には十二人。二パーティか。
「おいおい、随分な別嬪さんが来たじゃねぇか」
「人数が足りてないみたいだし、俺達が手伝ってやろうか?お礼は夜の相手で良いぞ?」
原作でもそうだったがむさ苦しい。男ばっかりで目の保養にもなりゃしねぇ。
「おい、聞いてんのかッ!?」
「静かにしてくれないか?気が散るのだが?」
「ああんッ!?」
真ん中の一団が今度は前のパーティに絡む。お互いに武器の柄には手を掛けず、睨み合うだけで済ませているのは理性なのか、それとも盗賊落ちを恐れているのか。
どちらにせよ口だけだな。十二から二十三層は
それから暫くして扉が開き、イケメン率いるパーティがボス部屋に消える。残った山賊っぽい男達はイライラしながら扉が開くのを待っている。
奴隷達は無言のまま待機。相手にしない事で意見が一致してる様だ。
それから二十分ほどで扉が開いた。ボスは居ないので無事に倒せたらしい。
それに対して舌打ちした山賊っぽい男達が肩で風を切り、扉の奥へ消えていく。それを見届けると奴隷達から大きな溜め息が。
「何というか探索者という方々でしたね」
「胸を凝視し過ぎです。少しは視線を隠してほしいものです」
「ご、御主人様の下に来てから見られる事が増えた気がします。昔はここまで衆目を集める事は無かったのですが……」
「俺が毎日石鹸で磨いてるし、身体作りの為に食事もちゃんと与えてるんだから当然だろ?この階層の稼ぎで抱ける女なんて安い娼婦だろうしな」
一回の狩りでどれくらい滋養丸を使うのか知らんが、あれは買うと一個六十ナールだった筈だ。
サラセニアのドロップから作っているとしてもMP的にそんな量産出来ないだろう。薬草採取士は知力こそ上がるがMP自体は増えない。
僧侶や巫女で節約したとしても、今度は強壮丸の代金が嵩む。さらに稼ぎは総取りでは無く、人数で山分けだ。
「そんな生活の中で丁寧に磨かれてる奴隷を見たら、そりゃ猿の様に発情するだろうよ」
「そんなものですか」
「男なんてそんなもんだ」
道を歩いてる時、前方からシャツを盛り上げてる女性が歩いてくれば、間違いなく男の視線はそこへ行く。これを否定出来るのはロリコンぐらいだろう。後、貧乳好き。
俺は普通の巨乳好きなので、チラ見して二度見は余裕だ。三回目は視線を外す様に努力するが。
それから十分が経ち、三十分過ぎた。それでも未だボス部屋は頑なに挑戦者を拒んでいる。……うん。
「長い」
「前のパーティには狼人族がいなかったですし、火力不足なのではないでしょうか」
「そうかも知れませんね。先程の話を聞く限り、属性剣なんて持ってなさそうですし」
「あ、あの。普通はこれぐらい時間が掛かるものでは……?」
「俺達は例外としても、二つ前のパーティが二十分前後で討伐してるからな。パーティ構成も実力の内だし、そういう意味でもアイツらは口ほどの実力が無かったみたいだ──っと、開いたか」
体感的に何時もの夕飯の時間を大幅に超過している。つまり、急がないと柔らかいパンが食えなくなる。
──宜しい。ならば見せてやろう。俺の本気を。
「三人は雑魚を頼む。俺がボスを引き受ける」
宣言だけしてオーバーホエルミングを使い、メテオクラッシュ、サンドストーム、サンドストームと順に放つ。
二発目のサンドストームのタイミングでオーバーホエルミングが切れた。だが気にせずラッシュとスラッシュを叩き込み、クールタイム明けまでにMP補給。
そして止めのメテオクラッシュ。
「す、凄い……!」
「な、なんですかあの魔法……!?」
「他言無用ですよ」
ドロップはボレーだった。戦闘時間は約二分。
「ボレーはグロリアが持っておけ」
「よろしいのですか?」
「体調を崩される方が困る」
「では、有り難く頂きます」
ボレーを仕舞うのを待った後、四人で十四層に続く黒い靄を通り抜ける。
そして即座にワープを使って帰宅。柔らかいパンが売り切れてないと良いんだが。