人間は永遠の幸せを手に入れる事が出来ない。何故なら人の頭は不幸を記憶する事に優れているが、幸せに対しては慣れる様に作られているから。
なるほど。一理ある。
事実、今でも疲れている時に過去の辛い記憶を思い出す事がある。
だが地球で
なるほど。確かに俺は手に入れた筈の幸せに
うん、何一つ否定出来ない。正にその通りだ。
だが、一人の人間として一つだけ反論しておこう。人間は確かに幸せに慣れる生き物だが、何度も
証拠?──これだ。
「おめでとうございます。主様」
グロリアから差し出されたカードを受け取り、ゆっくり目の前まで動かす。
三度鑑定しても結果は変わらない。つまり、本物だ。
やばいな。グロリアを買った時ぐらい感動してる。今ならMP全解放しても余裕で生きられる気がするぞ。やらないが。
「おめでとうございます。やっと一枚目ですね」
「お、おめでとうごさいます」
「ありがとう。やっぱ根気と回数が正義だわ」
換金アイテム入れに使っている場所から遠く離れた箇所にカードを入れ、アイテムボックスを閉じる。
ヤギのカードを仕入れてひもろぎのスタッフにしても良いし、サンゴのカードを仕入れて石化添加を付けても良い。
スライムのカードとセットで物理ダメージ削減を付けても良いし、
一枚あるだけで
「えっと、狩りは続行でよろしいでしょうか?それとも上の階層に進みますか?」
「もうちょいでサギニが転職出来るから続行で。今日中に辿り着いておきたい」
「かしこまりました。……とは言ってもサギニさん頼りですが」
「あ、はい。それでは案内しますね」
サギニの案内に従って歩くこと三分ほど。本日二組目の魔物が現れた。敵の編成はコボルト三匹にヤギ。何のカードが落ちても美味しい組み合わせだ。
まぁ、落ちないんだが。
「そうそう上手く行く訳も無いか」
「上位種の方が落としやすいと聞きますし、戦力を整えて上に行った方が良いかも知れませんね」
「ひもろぎにさえ出来ればな」
現状だと火力不足に悩まされるだろう。毎回メテオクラッシュを撃つ訳にも行かんし。
「帝都のオークションは物が集まる場所だけあってギャンブル要素が高いですし、中規模の街の市の方が売られているかも知れません」
「一層でエスケープゴートが湧いて、探索があまり活発では無く、さらに帝都から遠い場所か。帰ったら調べてみるか」
クーラタルが使えないだけで、ここまでカードを手に入れづらいとは。そりゃスキルが付くだけで高額買取になる訳だ。
レイピアに火炎剣付けるだけで売値一万八千ナール*1、買値に至っては七万二千ナールだからなぁ。
グロリアの剣とか価値としては白金貨数枚だぞ、たぶん。メローの槍はコボルトの代金を抜いても金貨五十枚、含めるなら八十枚とか行くんじゃないか?本人より高けぇ。
そらスキル合成を売りにした鍛冶師が一代で御殿を建てられるわ──
(……いや、違うな)
原作だと商人すら気軽に白金貨を用意出来る様な描写は無かった。という事は計算が間違っている。
可能性があるのは主人公が予想した通り、スキル付与の成功率を十分の一と想定して、武器の買値にカードの枚数を加算が正解か?
銅の剣にウサギのカードを単品で使った剣の価値は一万五千ナール。たぶん買値が四倍の法則は変わらないから売値は一本三千七百五十ナール。
銅の剣は買値千ナールで売値二百五十ナールだから──買値にカード十四枚を足した値段がスキル付きの価値か。成功率は十四分の一計算だな。
レイピアにトカゲのカードを合成したほむらのレイピアが一万八千ナール。カード十四枚にレイピアの代金を合わせると──計算が合わない。
レイピアは鋼鉄の剣と同レベル帯だし、最低でも金貨一枚以上は確実にする。十四枚使う計算を前提にすると、二万四千ナール前後で売れないと計算が合わない。
まさか人気次第で値上げや値下げが発生するのか?原作でもトカゲのカードは武器より防具に使った方が高く売れるみたいな話してたし。
(……これ、原作の考えが正解か?)
基本は買値+カード十枚の値段。そこに人気度で値上げ、値下がりが発生する。
妨害の銅の剣の基本価値は一万千ナール。騎士の訓練や低層の冒険者に人気という事で、プラス四千ナールの価値が生まれ、売値が一万五千ナールになる。六本セットなら追加で一万ナールの値上がりが起こり、十万ナールで売れる訳だ。
そして問題児、ほむらのレイピアの基本価値は取り敢えずレイピア一万、カード代一万の計二万ナールとしておこう。ただ火炎剣は人気の無いスキルなので二千ナール分の値下がりが発生し、売値が一万八千ナールになった。そう考えれば辻褄は合うか。
原作で聖槍と交換した吸精のスタッフは、この世界だと一本十万*2のスタッフにカード二十枚の値段を足した合計の十二万ナール。
聖槍の値段は十五万で安いと言われていたので、大体二十から二十五万辺りだろう。金策に困っていたバラダム家が高望みをする訳も無く、かと言って安価な値段を最低落札価格にするとは思えないので、そこらへんが妥当な数字だと思う。
だとすると吸精のスタッフは十八万から二十三万ぐらいの価値があるのか。六万から十一万ナールの値上りだ。流石、魔法使いの武器だな。
実際はオークションで上振れするだろうが、原価で計算すると聖槍にスキルを付けてもロクサーヌは買えない。三十万のサギニが丁度買えるかどうかというレベルだ。
◇
午後の探索を終えて帰宅。稼ぎの方は朝に比べて少ないが、それでも三千ナール前後にはなっている。
やはり迷宮探索に狼人族は大切だ。ビーストアタックの火力もそうだが、嗅覚で索敵出来るのが強すぎる。
「えっと、御主人様?」
「気にするな」
何となくサギニの頭を撫でてから石鹸で両手を洗い、夕飯の支度に移る。
本日作るのは白身のバター魚醤焼きだ。
まずは白身を四切れ取り出し、皮に沿って包丁を入れて塩を振る。そして十分放置。
十分経ったらキッチンペーパーで水気を拭き取る。もちろん異世界には無いので諦めよう。
拭き取ったら両面にコショウを振り、薄力粉を両面に薄くまぶす。市販の小麦粉では無く、少々高いがコボルトフラワーを使うのがオススメだ。
迷宮産のアイテムは基本的にファンタジーアイテムだから安心してくれ。何故か上手く行くからな。
フライパンにオリーブオイルを垂らして熱し、
バターが溶けてきたらスプーンで白身に掛け続け、三分から四分ほど焼けば完成だ。
後はレモン?らしき酸味の強い果実を添えれば良い。緑が欲しいなら水菜辺りをオススメする。異世界なら適当な野菜を使え。
「じゃ、冷めない内に食べるか。──頂きます」
『『『頂きます!』』』
お味の方は──サラダ油じゃなくてオリーブオイルを使ったからか何処と無く洋風になったな。バター醤油もどきではこれが限界か。
「やはり主様の作る料理は素晴らしいですね!柔らかな白身を包み込むバターと魚醤の味は暫く忘れられません!」
「酸味の強い果実を搾る事で味をさっぱりとした物に変える事が出来る訳ですか。ううむ、料理は奥が深いですね」
「…………!…………♪」
素直に感動するグロリア、料理から学ぶメロー、無我夢中なサギニ。三者三様の反応だが概ね好評らしい。
米と醤油さえあれば、もっと日本らしい味を出せるんだが。無い物ねだりか。
半分だけバター魚醤焼きを残し、パンとサラダで腹を埋める。そして食後にワインのお摘みとして食べていると、周囲から視線を感じた。
「…………そんなに気に入ったのか?」
「…………はい」
恥ずかしそうに顔を赤く染めながらも、食べたいという意思を否定しないグロリア。残る二人もコクコク頷いている。
「せめて火を落とす前に言ってくれれば追加で作れたのに……ほら」
バター醤油焼きを三人の前に押し出し、代わりの摘まみを棚から取り出す。胡桃の様な味の木の実を塩で炒めただけの簡素な摘まみだが、これはこれで悪くないんだよな。
「うう……奴隷として駄目なのは分かっていますが、やっぱり美味しいです……」
「よ、夜伽のお相手を頑張りますから……!」
「…………!」
「はいはい。食べたら風呂入って寝室行くぞ」
だんだん食い意地を隠さなくなってきたな、コイツら。まぁ、構わないんだが。
サギニは今までの生活が悪すぎた影響か細過ぎるし、グロリアやメローの発育が楽しみだ。