──春の季節 二十九日目
午前の探索は引き続きダルの迷宮を進む。心做し三人のやる気が凄い。そんなに白身のバター魚醤焼きが気に入ったのかね?
たまには肉の事を思い出してほしい。最悪、自作するが。
ミリアが居ないのに魚ばかりな食卓になりそうな雰囲気をヒシヒシ感じていると、尾頭付きが落ちた。
「料理人いないのに良く落ちたな」
「えっ」
「んあ?」
「これも主様のお力では無いのですか?」
「そんな力があったらカード集めに苦労してねぇよ」
期待を込めてボーナスアクセサリーを最大段階まで上げてみた事もあるが、出てきたのはこんなアクセだった。
スキル 腕力五倍 体力五倍 知力五倍 精神五倍 器用五倍 敏捷五倍
うーん、これは勇者のイヤリング*1。付けるだけで超人化余裕です。
「言われてみれば確かにそうですね。とはいえ主様の御力の素晴らしさは何も変わりませんが」
「そ、そうですね。私が初めて十四層に来た時は生きるのに必死な戦いばかりで、会話してる余裕すら無かったですし……」
「個人的にマーブリームは強権武器あれば強い印象は無いな。メインウェポンの水魔法を止めたら隙だらけのカモだろ」
「……御主人様。強権の付いた武器は基本的に家宝になるレベルの装備ですよ。少なくとも奴隷に持たせる武器ではありません」
「あー……」
家宝安いなぁ、この世界。
そんな感想を抱きながら探索を再開。地図の完成度は六割ちょっと。そろそろボス部屋を見付けても可笑しくないのだが──中々当たりは引けず。
結局、ボス部屋を見付けたのは地図を九割ほど完成させた頃だった。
「ボスのブラックダイヤツナは空飛ぶ魚だ。とは言っても剣が届かない位置に居る訳でもなく、地面から少し浮いている程度だから普通に殴れるぞ。攻撃は主に突進と尻尾の振り回し。水魔法も使ってくるだろうが、グロリアが引き受けてる以上、意味は無い」
強権武器はこれが強い。サギニの分のウサギが欲しくなる。
「注意点は浮いてるから転倒等の隙を晒す動きが存在しない事だ。ひっくり返したとしても平気でそのまま突撃してくると思ってくれ」
「分かりました」
「序盤は何時も通りグロリアにボスを任せ、残りで雑魚を処理。その後にボスの順な。それじゃ行くぞ」
四人でボス部屋に入った瞬間、グロリアが大きな靄へ、二人が小さな靄へ走る。
湧いた雑魚は──ロートルトロールか。灰色の毛を持つ、毛むくじゃらの浮浪者の様な印象を受ける猿人だ。
まずは遊び人枠でサンドストームを放ち、魔法使い枠でファイヤーストームを放つ。
ブラックダイヤツナが土、ロートルトロールの弱点が火の為だ。
「ふっ!」
何かのスキルを発動しようとしたロートルトロールにメローの突きが当たり、スキルを強制中断。その隙にサギニがレイピアでザクザク突いていく。
クールタイムを終えたサンドストームとファイヤーストームを再び発動。するとブラックダイヤツナが尻尾でグロリアに対処を迫り、その隙を突いてこちらへ突撃してきた。──まぁ、
「すみませんッ!」
「気にすんな。それより前を向け。敵はまだ生きてるぞ」
「はいっ!」
再びグロリアの背後に陣取り、魔法を発動。それが止めとなり、ロートルトロールが落ちた。
「お待たせしました」
「私は左側に回りますね」
グロリアが正面、サギニが遠い左側、メローが右側に立ち、攻撃を開始。その後は特に見せ場も無く、ブラックダイヤツナが沈んで戦闘終了。ドロップは赤身と
「錫か。これで食器でも作るかね?」
「作れるのですか?」
「ああ。錫は融点が低い。しかも錆びにくいし、金属食器特有の毒性も殆ど無い。使い続けると黒ずんでくるが、それも重曹を水に溶かせて擦れば落ちる。食器に使うなら悪くない金属だぞ」
ちなみに銀と錫で作った合金は端子やコネクタのメッキに向いている。スマホの充電器とか身近な物に使われているので興味があれば調べてみると良い。
「さて、十五層拝んで帰るか。尾頭付きと赤身はメローのアイテムボックスに入れておいてくれ」
「私でよろしいのですか?」
「俺のアイテムボックスに入れてたら売っちまうからな」
「かしこまりました」
拾ったばかりの赤身と尾頭付きをメローに手渡すと、メローはすぐに呪文を唱えてアイテムボックスを開いた。そして入れ終わってからポツリと呟く。
「鍛冶師なのに食材しか入れてませんね、私のアイテムボックス」
「ダマスカス鋼や竜革辺りじゃないと入れる価値がな。今更皮装備なんて作っても邪魔になるだけだろう」
「普通の鍛冶師に聞かれたら憤死しそうです」
「一応、順番に作っていく必要があるのか調べる意味もあるぞ?」
「と言いますと?」
「熟練の鍛冶師が深い階層で戦える鍛冶師を指すのか、それとも無数の製作を行った鍛冶師を指すのかによって貴族になった後の方針が変わるんだよ。俺の力でお前らのジョブにもレベルがある事は分かっているからな」
「……成る程。つまり熟練の鍛冶師が高レベルの鍛冶師を指す言葉だった場合、生産を行うより戦った方が良いわけですね」
「そうだ。だから今はスキル合成しかやらせていないし、アイテムボックスを食材保管庫に使ってるんだ」
次の階層に続く扉を潜り抜け、十五層に到着。明日からは現れる敵全てが土弱点の魔物だけ。狩りは凄く楽になるだろう──と言いたいところだが、暫くお預けか。
戦士Lv30
装備 レイピア 鉄の盾 硬革の帽子 硬革のジャケット 硬革のグローブ 硬革の靴
暫くはコボルトで暗殺者のレベル上げだな。
◇
「って訳で、サギニは今日から暗殺者だ。これが証拠な」
昼食を終えた食休み。その時間を使って軽く説明した後、サギニの左手を手に取ってインテリジェンスカードを生やす。
暗殺者Lv1
装備 レイピア 鉄の盾 硬革の帽子 硬革のジャケット 硬革のグローブ 硬革の靴
「「おめでとうございます」」
「ありがとうございます……?」
現実を受け入れられないサギニと、慣れたグロリア達の姿が対照的で笑える。
ちなみに暗殺者の能力はこんな感じだ。
効果 知力小上昇 精神小上昇
スキル 状態異常確率アップ
状態異常耐性アップ
知力上昇は嬉しい。精神も嬉しい。まぁ、状態異常武器は無いんだが。
「午後のコボルト狩りは俺が許可を出すまでサギニは待機。二人には苦労を掛けるが頑張ってくれ」
「「かしこまりました」」
「後は──ああ、そうだ。明日は休日にするつもりだ。一人銀貨十枚やるから帝都で買い物でもして楽しんでこい」
「奴隷にそんな大金を渡してもよろしいのですか?」
「帝都で飲み食いするならそれぐらい掛かるしな」
午前の稼ぎを考えると、それでも尚二千ナールぐらい黒字なのだから恐ろしい。
「分かりました。それなら存分に羽を伸ばさせてもらいます。……ところで私達が帝都に居る間、主様はどうなさるのですか?」
「俺はオークションに参加した後、各地の市を巡ってくる。いい加減ヤギのカードを手に入れたいし、サギニが暗殺者になったからな。サンゴや灌木のカードを探すつもりだ」
「私達もその時に合流すればよろしいでしょうか?」
「いや、人数が増えるとワープの消費が重くなるんだ。だから迎えに行くまで遊んでても大丈夫だぞ」
「それなら遊び終えたら冒険者ギルドで待つ形が良さそうですね。パーティーを組んでますから居場所は何となく把握出来ますし」
「そうですね。そうしましょうか。サギニさんもそれで良いですか?」
「は、はいっ。大丈夫ですっ」
竜人族のグロリアやドワーフの貴族だったメローとは違い、一般的な奴隷の扱いを受けてきたであろうサギニは未だ現状に慣れていないらしい。
まぁ、時間が解決する問題か。下手に口を出しても悪化するだけだろうし、いずれ慣れるだろ。たぶん。