「どうだった?この街の迷宮は」
「率直に言ってクソだな」
「ハッハッハッ!」
推定エマーロ族*1の宿屋の主人が大口を開けて笑う。どうやら俺の反応はありふれた物らしい。
「お陰様で若い奴等は別の街へ向かうし、宿屋は閑古鳥が鳴いているよ。迷宮のすぐ近くという立地でここまで暇なのも珍しい」
「だろうな」
世間話を適当に済ませ、お湯を貰って自室に戻る。昨日は忘れていた装備の手入れを軽く行ってアイテムボックスへ投げ込み、別の布で身体を拭いて一息つく。
「さて、改めて現状の確認だ」
探索者Lv15
装備
所持職業 |
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村人Lv5 探索者Lv15 盗賊Lv3 戦士Lv10
商人Lv1 剣士Lv10 英雄Lv8
キャラクター再設定 | 探索者 Lv15 |
|---|
| 基礎BP | 113 | 使用中BP | 7 | 使用可能BP | 106 |
パラメーター設定 | 消費BP- |
|---|
ボーナス装備設定 | 消費BP- |
|---|
ボーナス呪文 | 消費BP1 |
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ワープ 1
ボーナススキル設定 | 消費BP6 |
|---|
鑑定 1 ジョブ設定 1
詠唱短縮 1 詠唱省略 2
キャラクター再設定 1
所持金は今日の戦利品を売って十五万ナールと少し。
金貨と銀貨はアイテムボックスへ。無数にある銅貨は小袋に入れてある。正直、日本の貨幣に慣れていると銅貨の増え方に戸惑うと思う。
何せ日本で言う一円、百円、一万円、百万円の価値の硬貨しか無いのだ。支払う度に増える銅貨はアイテムボックスの仕様上の問題*2で突っ込めないのにもかかわらず、日常の支払いは殆ど銅貨がメインであり、金貨や銀貨は迷宮で使う装備や高級品を買う時にしか出番が無い。
つまり、意識してこまめに消化しないと財布に使ってる小袋がブラックジャック*3になるのだ。……暇が出来たら銅貨ケースでも作るかね?俺と同じ様に苦しんでる奴も多いだろ、絶対。
「ま、今は未来の話よりこれからの事か」
面白い作品を読んで、自分ならこうするああするという妄想は誰もがすると思う。その例に漏れず、俺も『異世界迷宮で奴隷ハーレムを』を読んで様々な妄想をした。
ジョブ構成や装備に付けるスキル、集めるハーレムの種族。
キャラクター再設定の割り振りは幾らでも悩めるし、迷宮を攻略して貴族になるという分かり易いゴールもある。──そして。
「目的の為にわざわざ
一人の読者として原作に関わるなら、絶対にやりたい
帝国解放会に入り、原作主人公の先輩になりたい。
ただ、それだけだ。ついでに奴隷自慢を行い、ロクサーヌを嫉妬させたい。その場面が見れるなら本望だ。
そんな事の為に現世の地位を捨てたのか?と思う人間も居るかも知れない。だが考えてもみてくれ。
何もかも思い通りになる人生なんて、敷かれたレールの上をただ歩いてるだけだ。そんな人生を残りの寿命の分だけ楽しめるか?俺は無理だ。無理だった。
「MP減ってないんだけどな」
素でネガティブに成りかけた気持ちを何とか立て直し、これからの目標を定める。
大目標は決まっている。残るは中期と短期の目標だ。
「中期目標は自由に使える自宅の確保で良いとして、短期目標は──」
さて、どうするか。
原作に登場するぶっ壊れジョブとして有名な『遊び人』を目指す。後の装備の為にモンスターカード又はモンスター結晶を集める。
原作主人公が嫉妬する様な奴隷も欲しいし、その為の金策も行わなければならない。
あ、『鍛冶師』の為にドワーフも探さないと駄目か。じゃないと『スキル合成』が出来ないし。
「くくっ。楽しいなぁ。思い通りにならない人生万歳。やっぱ人生はこうじゃないと」
地球で生きていた頃より何もかも不便な事は否定しない。だが、それが逆に心地良い。
親からの期待も、世界からの期待も、俺を導く様な
ここには何一つとして存在しない。ここでの俺はちょっと不思議な事が出来る探索者に過ぎず、それ以上でも、それ以下でも無い一般人に過ぎない。
だから俺は目的まで一直線に進んでも良いし、途中で諦めても良いし、脇道に逸れても良い。常に選択権は自分にあるのだから。
「ま、諦めるつもりだけは無いが」
異世界転移なんて現象に恵まれたのだ。楽しまないと損だろ。
という訳で、改めて短期目標を決めようと思う。
『遊び人』を目指すなら、村人、村長、種族固有ジョブ、英雄を抜いた18種の取得が目標になる。
現在の持ちジョブで条件に当て嵌まっているのは、戦士、剣士、商人、盗賊、探索者の五つだけ。
残り13種の内、今の俺でも狙えそうなのは、僧侶、魔法使い、薬草採取士、農夫、錬金術師の五つ。
レベル的には神官も狙えると思うが、精神統一出来そうな滝まで辿り着けないんだよな。帝都に向かい、原作知識を使って無理矢理『ハーフェン*4』に行こうと思えば行けると思うが……果たして銀貨が何枚飛ぶやら。
残るジョブは戦士、商人、盗賊、探索者のレベルが30になれば解放される筈だ。
戦士30で騎士、賞金稼ぎ、暗殺者。商人30で奴隷商人。それにプラスして探索者30で武器商人、防具商人、料理人。最後に盗賊30の博徒でキッチリ18種となる。
とはいえ、レベルを満たしただけでは取得出来無いのが悩みの種か。
例えば暗殺者。このジョブを得る為にはモンスターを毒ダメージで殺す必要がある。先に上げた僧侶は素手によるトドメの経験が必要だ。
奴隷商人は奴隷を所持する必要があると考察されていたし、薬草採取士は迷宮で薬に出来るドロップ品を拾う必要があったりする。
ここらへんの取得条件の解読が個人的に原作の魅力の一つだと思う。主人公である加賀道夫が色んな考察を行い、ジョブの取得条件を明かしていくワクワク感が堪らないのだ。
続いて、目標をモンスターカード又はモンスター結晶、奴隷に定めるルートだ。
こちらでやるべき事は至極単純、ひたすら金策になる。
原作主人公のお眼鏡に適うレベルの奴隷は基本的に六十万ナール以上、金貨で言えば60枚必要になる。
モンスターカード又は結晶の価格は大体一つ五千から五千五百ナール。銀貨53枚前後と言ったところだ。
カードと結晶の違いはWeb版と書籍版で名前が違うから。俺のボーナス魔法が『MP全解放』だからWeb版だと思うんだが……確かめてみないと、どっちなのか分からない。
個人的にはカードの方が好きなんだが。書籍版で変わってしまったのは残念だった。
金策の手段は二通りある。一つ目はボーナススキルの一つ『結晶化六十四倍』を付け、ひたすら魔物を狩るパターン。
利点はカード又は結晶を同時に狙う事が出来る事だ。欠点は時間が掛かる。これに尽きる。
何せボーナススキルを付けても一匹六十四ナールにしかならない。ドロップ品があるとはいえ十万稼ぐのに1563体狩る必要がある訳だ。尤も、スキル無しなら10万匹狩らないと『黄魔結晶』にならないんだが。
もう一つはお金を使って無数の街へのワープを解放し、各地のスラム街で盗賊狩りを行う事だ。時間効率で言えば、結晶作りと比べて圧倒的大差で金を稼げると思う。
欠点は当然死ぬ危険性が迷宮とは比べ物にならないぐらい高い事だ。原作主人公は盗賊の逆恨みも警戒していたが、拠点を好き勝手移動出来る俺には余り関係無い。まだ自宅も得てないし。
「……よし、決めた」
数瞬だけ悩み、結論を出す。
全部やる。どれか一つなんてケチ臭い。
失敗したなら失敗したで良いのだ。それもまた人生よ。
「そうと決まれば──さっさと動きますかね」
まずは僧侶から。ついでに暗殺者の条件を満たすとしますか。