──春の季節 四十七日目
ケトルマーメイドの階層は六割ぐらい地図を埋めて終了。午後のコボルトは何時もと変わらず、カードは一枚も出なかった。
稼ぎを三割増しを付けて売り払い、翌日に再びダルの十五層を探索。コボルトのカードが出たらタルノヴォの迷宮も探索するべきかね。あそこ、人気無くて上層まで開いてないし。
「ここの角を曲がったら敵がいます。匂いは貝、魚、人魚の三体ですね」
「MP減ってきたし、俺もデュランダルに切り替えて前に出るわ。お前らは何時も通り戦ってくれ」
「「「かしこまりました」」」
三人が同時に曲がり角へ飛び出し、そのまま敵へ向かって走る。スキルの発動兆候は一体。人魚だけだった。
確かこの階層は単発魔法しか撃たない筈だ。もし食らったとしても、今のグロリアのレベルを考えれば致命傷にはならない。
気を抜きすぎは良くないが、切羽詰まらないのは良いことだ。
「貝と魚は私が止めます。二人は人魚からお願いします」
「了解です──石化しましたね。サギニさん、魚へ行きましょう」
「かしこまりました」
石化が本当に便利過ぎる。そんな事を頭で考えながら、貝の背後に回ってデュランダルを振り下ろす。
防御無視の効果は絶大だ。手首や腕への負担はほぼ無い。切ったのに敵が死んでない違和感がヤバイが。
「主様が強権に拘る理由がよく分かります。魔法を使われないだけで、こんなにも戦闘が楽になるのですね」
「んー……それもあるが、楽になってる理由は少し違うぞ」
「と言いますと?」
会話しながらデュランダルを振るうと、貝が魚より先に落ちた。グロリアはそのまま魚へ向かい、俺は人魚からMPを回収する。
「お前が戦闘を楽に感じるのは役割分担がしっかりしてるからなんだよ。グロリアは敵を倒すことでは無く、後衛へ敵を通さない事を考えれば良い。メローとサギニは敵のスキルを止める事と、グロリアが抜かれた時のサポートだけを意識しておけば良い。そして俺は攻撃だけを考えていれば良い」
口を動かしながら剣を振るい、流れ弾を警戒して魚にも意識を割いておく。
文字にすると大変そうだが、これを
友達と喋りながらスマホを弄り、車に気を付けながら横断歩道を渡る。
音楽を聞きながら今日の仕事の段取りを組み立て、電車に乗って職場近くの駅で降りる。
出来ない人間の方が少ないだろう?これを誰が見ても可笑しいレベルまで昇華すると『マルチタスク』持ちとか呼ばれ始め、
「つまり、主様は普通の探索者はそれが出来ていないと仰りたいのですか?」
「そうだ。お前らに分かりやすく言えば、アイツらはパーティーを組んでるのにソロで戦ってるんだよ。全員で殴って全員で守る。だから僧侶じゃ回復が追い付かなくなる」
単体回復だけで自分も含めて六人分を管理しろとか俺ならキレる自信があるぞ。せめて神官か巫女を連れてこい。
「なるほど。それをするぐらいならばグロリアさんの様にパーティーのダメージを一身に受ける盾役を用意して、僧侶がその人を重点的に回復、他は薬で何とかした方が良いわけですね」
「ああ。ついでに言えば、それが出来ているから騎士団は強いんだ」
騎士一人か二人、探索者、僧侶辺りは鉄板だろう。火力が欲しいなら戦士を加え、安定性が欲しいなら巫女を入れる。
騎士、騎士、探索者、戦士、僧侶、巫女。この構成なら余程馬鹿な挑戦をしなければ崩れようが無い。
「……私の前の主もその前の主も、御主人様が悪い例として例えた方でした」
「サギニさんもですか?私もそうでした」
石化していた魚が沈むと同時に人魚も煙に変わった。ドロップはシェルパウダー、白身、真鍮。カードは無し。何時も通りだ。
「ま、そうじゃなきゃ奴隷を手放す様な事態にならんだろ。盗賊に関しては情報収集不足だしな」
俺がサギニを助けた迷宮では遮蔽セメントは使われていなかった。つまり、探索者はダンジョンウォークが使えたのだ。
何時からあの盗賊が住み着いたのか知らないが、一人か二人ぐらい逃げるのに成功してギルドに報告していても不思議では無いだろう。
もし最初の犠牲者だったとしても、盗賊が住み着けないクーラタルでは無く、辺境の迷宮に潜った自分達が悪いで終わる話だ。
「さて、話はこれぐらいにして先へ進むぞ。出来れば今日中にボス部屋に辿り着きたい」
「少し前の小部屋に魔物の匂いが現れましたが、どうしますか?」
手元の地図を見る。んー……これぐらいなら許容範囲だな。
「寄ってから進むか」
「では、私が先頭に立ちますね」
サギニと入れ替わる様にグロリアが前に立つ。その僅かな時間でデュランダルを消して経験値二十倍に割り振り直し、背中に背負っていた杖を右手に持った。
昔はデュランダルを抜いた方が早かったが、今では杖の方が戦闘時間が短くなる。やはり攻撃範囲は正義だ。
◇
午後の探索時間ギリギリでボス部屋が見付かった。幸いな事に待機してる人間はおらず、軽く作戦会議した後に突入する事にした。
「ボスはボトルマーメイド。水魔法を三種全部使ってくる*1らしいが、使わせなきゃ強い魔物ではないそうだ。前回に引き続き、雑魚はメローとサギニに任せる。グロリアは俺とボスだ。何か質問は?」
「「「ありません」」」
「よし、それじゃ行くか」
グロリアの右手にはデュランダルと強権のダマスカス鋼の剣。俺は薬草採取士を博徒に変えた。
石化してくれると楽なんだけどな。
何時も通りグロリア達が走り、ボスのスキルを潰す。俺はサンドストームを連打した後、雑魚に状態異常耐性ダウンを掛ける。
流石にこれだけでは石化してくれなかったが、原作でも暴れていた組み合わせだ。何時か石化するだろう。
二巡目に入り、サンドストームを撃った後に今度はボスへ状態異常耐性ダウンを使う。
すると全く意識していなかったクリティカルが発生していたらしく、雑魚があっさり沈んだ。
魔法はクリティカルが分かりづらいのが欠点だな。
「幾らなんでも早くないですか……?」
「二人とも。ぼさっとしてないで早くボスへ行け」
「「は、はいっ!すいません!」」
呆けていた二人に軽く指示を飛ばしながら三巡目に突入。──だが勝負は一瞬で決まった。
『『『あっ』』』
サギニが切りかかった瞬間、ボスが石化したのだ。これがあるから石化武器は強い。
「他言無用ですよ。二人とも」
「それはもちろん理解しております。誰かに語ったところで信じてもらえる気がしませんし。ただ、ボスには状態異常が通りづらいと聞いていたのですが……」
こちらに視線を寄越したサギニに首を振る。
「ま、そこらへんは秘密だ。それよりとっとと帰って昼食にするぞ」
グロリアからデュランダルを受け取り、硬直したボトルマーメイドに振り下ろす。全回復したらグロリアに渡し、グロリアも回復し終えたらメロー、最後にサギニの順にデュランダルを回していく。
「流石にこの階層まで来るとボスも耐えるか」
「どうしますか?」
「魔結晶の為に俺が仕留めるわ」
という訳で戻ってきたデュランダルを振り下ろして止めを刺す。うーん、作業感が凄い。
ドロップ品は保存食作りにも使えそうなボトル型のガラス瓶*2だった。メローの話ではこのまま使われる事も多いが、窓ガラス*3等に加工されて使われているらしい。
着実に鏡の材料が見付かる現状に笑う。これ、コウモリは硝石で確定だろ。