「サギニ。どんな感じだ?」
「匂いが
「よし。それじゃ俺達は左側に行くぞ」
今回の方針はこうだ。十一層まで俺がひたすらソロで戦い、グロリア達は俺が状態異常になるまで待機。以上。
魔結晶促進六十四倍とデュランダルを抜いているので、手を出されると逆に稼ぎが下がってしまうのだ。もちろん、この方針にグロリアが最後まで反対していたのは言うまでも無い。
最初の分岐を左に曲がると、コラーゲンコーラルが見えた。その数──通路にみっちり。
お互いがお互いの邪魔をして身動き出来ない姿は哀愁を誘う。だがその滑稽な見た目に反して、普通の探索者なら即座に逃げないと死ぬだけなのが恐ろしい。
「それじゃ行ってくる。改めて言っておくが、邪魔すんなよ」
それだけ言い残してサンゴに突撃。縦横無尽にデュランダルを振り回す。
一度剣を振ればサンゴがゼラチンに変わり、返す刃でもう一体をゼラチンに変える。
その合間合間にコラーゲンコーラルが掲げた大岩を振り下ろすが、それごと叩き切ってアイテムに変えていく。──正直に言おう。
超気持ち良い。
まるで自分が三國志の英雄になった気分だ。敵の攻撃は全てレベル差に防がれ、肉体的な疲労はHP吸収が軽減してくれる。
こちらの攻撃は緩く振っても一撃必殺。むしろ迷宮の壁に当てないように気を付ける必要があるぐらいだ。
とはいえ敵の数が有限な以上、ずっと無双状態は続かない。残念ながら十分ほどで全ての敵を狩り尽くしてしまい、戦闘終了となった。
「魔結晶は変化なしか。サギニ、次は何処だ?」
「えっと、この先の壁の中から濃い匂いが漂ってきてます」
「………壁の中?」
なんでそんな所から?
「御主人様。初期探索の時には入り口が開いていない小部屋が無数に見付かると聞いた事があります。*1たぶん、そこから漂ってきているのでは?」
「私も聞いた事がありますね。人によっては『隠し部屋』と呼ぶとか」
「なるほど。ま、行ってみれば分かるか」
グロリア達が拾った戦利品をアイテムボックスに突っ込み、匂いを追って迷宮を進む。
残念ながら道中で敵を見掛ける事は無かった。一層毎にリポップ上限でも定まってるのかね?
「ここですね。匂いはこの壁から漏れています」
「んー……確かに壊せそうだ」
注意深く見て漸く気付ける程度の壁に走る微かな亀裂。軽く叩いてみれば、ポロリと破片が落ちた。
逆を言えば、気付けない程度には普通の壁に偽装されている。原作主人公がモンスターハウスに迷い込む訳だ。普通は気付けんわ、これ。
「どうしますか?私が先行しますか?」
「いや、良いこと思い付いた」
デュランダルを腰に差し、代わりにスタッフをアイテムボックスから取り出す。
全体魔法を撃つつもりは無い。メンタル的にたぶん耐えられないしな。その代わりに──こうする。
「ッラァッ!!」
壁に蹴りを叩き込み、小部屋への道を開く。その動きに反応してこちらを目指し始めるサンゴ。
後は入り口にファイヤーウォールを展開すれば、全自動魔物狩りシステムの完成だ。
「……なるほど。確かにこれは楽ですね」
「たぶん、これが正規の方法なんだろう。俺の様に一撃で仕留められる装備があるなら突っ込んだ方が早いが、こんなもんはそうそう無いしな」
というか、そうじゃないとサンドウォール以外の壁魔法が要らない子過ぎる。詠唱が必要な咄嗟に使えない壁に何の意味があるのかって話になるし。
「確かにそうかも知れません。何度か騎士団の方をお見掛けした事はありますが、ダマスカス鋼ですら無かったですし」
「買うと高いからなぁ」
油断せず剣を構えるグロリアの剣には一本十万ナールの値が付いている。とてもじゃないが、騎士団全員に持たせられる武器じゃない。
何処かの公爵はオリハルコンの剣を部下に貸し出せるほど持ってるが。それでも貸し出されるのは聖騎士になれたエリートだけだろう。そもそも持てないだろうし。*2
値段と流通量を考えると、騎士の装備は鋼鉄一式辺りだと思う。ダマスカス鋼は聖騎士になったエリート、オリハルコンは団長や次期団長候補に与えられる装備だな。
例外があるとしたらパラーの様な鍛冶師を大量に確保している場所だけだろう。……いや、それでも基本は鋼鉄か。素材の配給量が貧弱過ぎるし。
「あの、御主人様」
「ん?なんだサギニ」
「そ、そろそろ御主人様が止めを刺す方が早いかも知れません。えっと、サンゴの匂いが大分薄まっています」
「了解。それじゃ行ってくるわ」
辿々しく自分の意見を告げたサギニを信じ、ファイヤーウォールが消えたタイミングで部屋に突っ込む。……残り六体か。確かにサギニの言う通り俺が切った方が早いな。
取り敢えず近くに居た一体を切り捨て、そのまま数の少ない方へ飛んで二体目に斬り掛かる。
今宵のデュランダルは血に餓えている。ついでに俺も無双に餓えている。男はオレツエーを求めるのだ。
それから五分もしない内に殲滅終了。残念ながら今回も魔結晶に変化は無かった。早く変わってくれると助かるんだが。
「貴族が自爆玉を求めるのも無理はありませんね。この方法が出来なければ、迷宮が開かれる度に死者が出てしまいます」
アイテムを拾いながらメローがポツリと呟く。その後ろではグロリア達が同意する様に頷いている。
「そのせいで自爆玉が市場に出回らず、魔法使いの総数が増えないせいで迷宮攻略が滞ってるけどな」
「国の安定や管理する領地の事を考えれば仕方無いと思いますが……御主人様にとっても他人事ではありませんか」
「自爆玉が製造品なのかドロップなのかさえ分かれば、俺も動きやすいんだが」
ドロップなら乱獲すれば良い。製造品なら対応するジョブを育てる必要があるのが悩ましい。
個人的には錬金術師の先だと思ってる。ただ、自爆玉を使ったジョブの取得方法自体が正規じゃない可能性も大いにあるから困る。
英雄はまだ分かるのだ。初陣で悪人を相手にして活躍すれば良いだけだから。事実、初代皇帝はそうして取得したという伝説が残っている。
だが魔法使いは別だ。どう考えても
もし仮に世界で初めて魔法使いを取得したのが俺の様な転移者だったとしても、HP全解放を使ったなら死んでるだろうし、MP全解放だとしても死んでるだろう。
基本的にこの世界に来る奴は
書籍版の等量交換を使った可能性も無くは無いが、加賀道夫ほどの慎重さを誰しもが持ち合わせてるとは思えない。
軽い気持ちで使えばやっぱり極度のネガティブから自殺するだろうし、慎重ならそもそもそんなギャンブルには挑まず、ボーナス武器で戦う事を選ぶだろう。
それ以前にキャラクター再設定にチェックマークを入れられるかどうかの話になるが。
話を戻そう。
そんな訳で、正規の魔法使いの取得方法を考えた場合、一番可能性があるのは──
「あっ」
思わず出てしまった、といった感じのグロリアの声に惹かれ、考えるのを止めてそちらへ視線を向ける。
「どうした?」
「おめでとうございます。サンゴのカードですよ!」
手渡されたカードを即座に鑑定。
「間違いない。確かにサンゴのカードだ」
「「おめでとうございます」」
「おう、ありがとな」
メローとサギニの二人に返事を返しつつ、アイテムボックスへ受け取ったばかりのカードを丁寧に仕舞う。
これだけ狩ってれば一枚ぐらい落ちると思っていたが、こうして目に出来ると思わず頬が緩む。
やっぱり何度見てもカードは良いもんだ。
◇